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 今日は12月25日、クリスマスだ。
恋人たちや親子連れが、イルミネーションで彩られた街を楽しそうに歩いている。
街中から幸せそうな気持ちが伝わってくる。

 もちろん、その気持ちは765プロも例外ではない。
クリスマス・イヴである12月24日は、765プロの所属アイドルの一人、萩原さんの誕生日でもある。
だから、765プロ総力を挙げてのパーティを行う予定になっている。

 本当は昨日祝えればよかったのだけれど、萩原さんの家の方でパーティがある、というのと
みんな歌番組の収録などでほとんど集まれない、ということで今日になった。
それでも、何人かは途中で抜けたり入ったりして、全員が同時に集まる、ということはできないのだけれど。

 一応、萩原さんの意見を尊重して誕生日がメインのパーティになっているようだ。
小鳥さん曰く、「最初からクリスマスなんてないんだから、雪歩ちゃんのお誕生日を全力で祝うのは当り前じゃない!」ということらしい。
と、いうことで事務所では誕生日パーティ、家に帰ってからは、その、こ、恋人とささやかなクリスマスパーティをする。
というつもりだったのだけれど・・・・・・。



「なんで私、ここにいるのかしら・・・・・・」
いま私の目の前にあるのは、よく見なれた天井。
私が横たわっているのは、私の最近買い換えたばかりのベッドの上。
そして、私がいるのは私以外にはだれもいない、私の家だ。
私以外には物音をたてない中で、無機質な電子音が響いた。

「・・・38度4分」

 よりにもよって、こんなに大事な日に、私はあろうことか、風邪をひいてしまった。
幸いにも、テレビの収録などは既に先日済ませてしまっていたので、スケジュールに支障はなかったのだが。

 (体調管理もできないようじゃ、プロ失格ね・・・)そんな事を思いながら、時計を見る。
時刻は夜の7時を少し回ったくらいだった。
(もうパーティ始まってるわよね・・・)
今頃、萩原さんはみんなからのプレゼントをもらって嬉しがっているだろう。
美希に連絡して、自分のプレゼントは持って行ってもらったのだが、やはりこういうものは自分で渡したいものである。

 (萩原さんにも申し訳ないけど・・・)
誕生日パーティに出席できなかったのも残念だが、
(美希にも申し訳ないことしたわね・・・)
それ以上に美希とクリスマスパーティができなかったのが残念でならない。

 最近、年末ということもあって仕事が忙しく、オフが取れない日が続いた。
そんな中でプロデューサーがクリスマスくらいは、と気を利かせて今日をオフにしてくれたのだった。
美希も私も、久々に二人でいられる時間がとれて、とても嬉しかった。
私と美希が付き合い始めて(もちろん公表はしていない)、初めてのクリスマスだから、というのもあった。

 だからこそ、風邪をひいたと連絡したときの美希の驚きようはとても申し訳なく、心が痛んだ。
萩原さんへのプレゼントを受け取りに来た時も、だいぶ落ち込んでいた。
美希は「ミキ、パーティ行かないで千早さんの看病する!」としきりに言っていたが、
うつすのも悪いし、萩原さんも美希が来なくてがっかりするから、と言って断った。

 (美希にはああ言ったけど・・・)
やっぱり看病してもらった方が良かったかな、と思う。
一人でいる部屋はとても広く、静かだ。風邪で横になっているときはなおさらそう思う。
(寂しいのかしら・・・)
誰かにそばにいてほしい。
(美希・・・)
美希がそばにいれば、こんな気持ち、吹き飛ぶのに。
そう思いながら、意識を手放した。




 お腹がすいて、目が覚めた。
時計を見ると、9時半を回っていた。
(結構寝てたのね・・・あら?)
台所の明かりが点いている。消しておいたはずだけど・・・。
不思議に思っていると、台所から物音が聞こえた。
(・・・誰かいる?)
誰だろう、ぼんやりした頭でベッドから出る。
台所をのぞくと、そこには

「あ、起きた?」

ここにはいないはずの金髪がいた。

「え?み、美希っ!?」
「もう起きても大丈夫なの?」
「え?えぇ、まだ少しふらつくけど大丈夫・・・って、なんでここに・・・!」
「なんでって、合鍵くれたの、千早さんだよ?」
「いや、それじゃなくってあなた、事務所のパーティに行ったはずじゃ・・・」
「パーティ行ったよ?ちゃんと最後までいて、雪歩に千早さんの分もプレゼント渡したの。パーティ終わってから、こっちに来たの。
春香とか、真クンに二次会やろーって誘われたけど、断っちゃった。
あ、それと、今は食べれないと思うけど、みんなからお見舞いでケーキ貰ったの。風邪が治ったら食べてね」
そう言ってタッパーに詰められたケーキを取り出した。
多少つぶれてはいるが、おいしそうだ。今は食べたいとは思わないけど。
「あら、そうなの。ありがとう・・・。じゃなくって、風邪うつっちゃうから帰った方が・・・」
「あ、うつんないように、マスク2重でつけてきたから大丈夫!」
そう言う美希の顔には確かにマスクが2重でつけられていた。
とても「未完のビジュアルクイーン」には見えない。

「・・・そんな妙なかっこで来てくれたのは嬉しいけど、クリスマスパーティなんてできないわよ?」
できないものはできないのだ。体がだるくて、動くのもやっとなのだから。

「ちーがーうーの!ミキは千早さんを看病するために来たのっ!それと、これつけたの千早さんの家に入る直前だからね?」

「え・・・私を看病しに?」
わざわざ私のために来てくれたのか。

「あったり前なの!さすがのミキでも、寝込んでる千早さんを無理矢理、なんてことはしないよ?」
服を着替えさせるんで脱がせはしたけど。
という美希の言葉で自分の服を見ると、なるほど、確かにパジャマが変わっている。

「わざわざありがとう・・・。でも、いいの?家に帰らなくて・・・。もう、大分遅いわよ?ご家族の方でもパーティあるんじゃない?」
「大丈夫!遅くなる、とは言ってあるの。それに家でのパーティは昨日やっちゃったし。
遅くなったら、プロデューサーに家まで送ってもらうから安心して?」
「で、でも・・・・・・」
「ミキがやるって決めたらやるの!・・・それとも、ミキが看病するの、迷惑?」
「う・・・・・・」
・・・正直、ミキにこんな顔されて断れる人間はいないと思う。
出来るとしたら、よっぽど酷い人間だ。上目づかい+涙目は卑怯だと思う。捨てられた子犬みたいな顔をするのはやめてほしい。

「迷惑、なわけないでしょ?仕方ないわね。いいわよ。気が済むまで看病して」
「やったー!!あ、お腹すいてるよね?もうすぐおかゆ出来るから、もう少しだけ待ってて。おいしいの作ってあげるからねっ」

(本当に来てくれるなんて・・・)
さっきは「仕方ないから」と言ったが、内心とても嬉しかった。正直にいえない自分が恨めしい。可愛くないやつだ、と自分でも思う。
来てくれた美希に感謝すると同時に、それを正直にいえない自分に苛立ちを感じながら、再び布団にもぐりこんだ。


 ミキがおかゆを運んでくるのにそんなに時間はかからなかった。
「じゃじゃーん!ミキ特製のおかゆなの!」
美希がおかゆを入れた皿をお盆に載せて持ってきた。
おかゆは白い湯気が上っていて、おいしそうだ。

「ミキってあまり料理しないイメージだったけど、ちゃんと作れるのね」
思わず感心してしまった。
「む〜。千早さん、それ失礼なの。ミキだって大好きな人の為だったらちゃんと料理するの」

「な・・・・・・」
なんでこう、「大好き」とか、さらっと恥ずかしいことが言えるのだろう。私には無理だ。
真もそういうことをさらっと言うタイプだが、美希も負けていない気がする。

「?千早さん、どうかした?」
そう言って美希が思わず下を向いた私の顔をのぞきこんでくる。

 至近距離で目が合った。
「っ!」
心臓が跳ねる。
顔が赤くなるのがわかる。

「なっ、何でもないわ!とりあえず、おかゆもらってもいいかしら?」
顔のほてりをごまかすように、ベッドのサイドテーブルに置かれていたおかゆに手を伸ばした。

 が、
「あ〜、ダメなの、千早さん。千早さん病人なんだから、危ないの」
美希の手に阻まれてしまった。

 代わりに差し出されたのは、
「だから、ハイ。あ〜ん」

「え?」
「だ〜か〜ら〜。ミキが食べさせてあげるの。ほら、あ〜ん」
白い湯気を立ち上らせたレンゲ。

「・・・って、えええええええ!!?」
思わず、大声を出してしまった。
「千早さん、うるさいの」

「えっ、でも、そ、そんな子供じゃないんだしっ、恥ずかしいわ・・・」
自分で食べれるわよ、と続けようとしたが、
美希の「でも千早さん、体動かすのダルイでしょ?」
という一言に遮られてしまった。

「うっ・・・まぁ、確かにそうだけど・・・」
正直、腕を動かすのも億劫だ。
「じゃあ、問題ないの。早く食べなきゃ冷めちゃうの。ハイ、あ〜ん」

「・・・・・・」
納得しきれないけれど仕方ない。1回やれば美希も飽きるだろう。口をあける。

 パク。

「・・・・・・どう?」
「ん・・・・」
口の中におかゆの味が広がる。
少し塩が聞いててとてもおいしい。
「おいしい・・・」

「ホント!?良かった〜ちょっと不安だったんだけど、おいしいって言ってもらえて嬉しいの!」
そう言って彼女は顔をほころばせた。
私もつられて笑う。

「さっ!まだまだあるからいっぱい食べてね!はい、二口目♪」
「えっ、ま、まだやるの?」
1度で終わりだと思ったのに。
「当たり前なの。ほらー早く早く!」
「うぅ・・・」
差し出されたレンゲを口にくわえる。ひどく恥かしい。顔が熱いのは、決して風邪のせいだけではないだろう。
そんなことを考えていたら、ふと、美希と目が合った。
が、そらされてしまった。
心なしか美希の顔も赤くなっている気がする。
「「・・・・・・・・・」」
少し気まずい空気が流れる中、黙々と差し出されたレンゲを口に含む。
(なんで美希まで顔を赤くするの・・・・・・)

 あらかじめ量を少なく作っていたのだろう。おかゆはすぐに食べ終わってしまった。
「あっ、も、もうなくなっちゃったの。千早さん、おかわりする?」
「い、いえ、もうお腹いっぱい・・・おいしかったわ。ありがとう、ご馳走様」
美希の声につられて、私の声も上ずってしまった。

「そ、そっか。なら、良かったの。あ、じゃあこの薬、飲んどいて」
ミキは、これ片づけてくるから。そう言って食器を持って台所に向かった。
動きがどこかぎこちないように見えたのは、気のせいだろうか。


 薬を飲んでしばらくすると、美希が台所から戻ってきた。
2重のマスクは既に外していた。
「食器、片づけてくれてありがとう。美希」
「あ、いいのいいの。気にしないで」
時計は10時をとっくに回っていた。もうそろそろ帰らなければいけない時間だ。

「今日は、本当にありがとう、美希。・・・何か、お礼をしたいのだけれど。せっかくのクリスマスパーティ、ダメにしてしまったし」
「いいよ、お礼なんて!確かにクリスマスのパーティができなかったのは残念だったけど、
別にミキが看病に来たのは、千早さんが苦しんでたらヤダなって思って見に来ただけだから。
大したことしてないし、別に気にしないでほしいの」

「でも・・・」
お礼をしたい気持ちと、申し訳ない気持ちで一杯になっている私を見て、美希が言った。

「じゃあ、キスして」

 ・・・今、何て言ったのかしら?
「き、キス?」
「うん。キス。ミキもしてもらって嬉しいし、お礼にもなるから丁度いいと思うな」
「で、でも・・・・・・・」
「あ、どこでもいいよ?なんなら唇でも」
「く、唇なんかにキスしたら、私の風邪うつっちゃうじゃない!?」
「大丈夫!ミキ、帰ったらちゃんとカバさんのうがい薬でうがいするから。それに千早さんの風邪だったらうつってもいいかなって」
「だ、ダメよ!そんなの!」
「え〜、ミキ的には千早さんとおそろいって感じでいいと思うんだけどな〜」
「こういうのはおそろいって呼ばないわよ!」
こんな感じのやり取りをしばらく繰り返した後、

「も〜、千早さん、メンドくさいの」
業を煮やしたのか、今までベッドサイドに立ってた美希が、ベッドの上に移動してきた。
「じゃあミキ、目つぶるから。千早さん、どこでもいいけどちゃんとキスしてね」
顔の高さを合わせてきた。

「え、そ、そんな・・・」
まだ、心の準備が・・・・・・
「お礼、なんでしょ?1回くらい、千早さんの方から・・・・・・してもらいたいの」

その言葉を聞いて、思わず息をのんだ。
キスはいつも美希の方からしている。キスだけでなく、行為の誘いも、抱きついたりといったスキンシップも。
私はいつも受け手に回っていた。

 キスしたいなと思うこともあった。したくなったときもあった。触れたいと思うときもあった。
それでも自分から積極的にしなかったのは、恥ずかしいと思うのと、美希に受け入れてもらえるか不安だったからだ。
もし、美希に変な風に思われたらどうしよう。すごいいやらしい人だって思われたら、嫌われたらどうしよう。
それしか考えてなかった。だから自分から求めることはしなかった。美希がしたいと思った時にさせる。それで、美希も自分も幸せだ。
そう思い込んでいた。

「あのー、千早さん?」
私がずっと黙っているのが気になったのか、不安そうに眉を寄せている。
「や、やっぱりいいの。い、いきなり変なこと言ってごめんね。ごめんね、困らせるつもりはなかったの・・・」
沈黙を拒否と受け取ったのだろう、そう言って私の上から退こうとしたので、慌てて腕と顎を掴み、こちらを向かせた。

 え――
驚いた美希の声が一瞬聞こえたが、すぐに唇に飲み込まれていった。

 するのとされるのは全然違うのね、とぼんやり思いながら、ずっと唇を美希のそれに押し当てていた。
どれくらいそうしていただろう。どちらからともなく、唇を離した。
美希は軽く放心したままだ。
(やっぱり変に思われたのかしら。それとも、下手すぎて呆れられたのかしら・・・)
技術も何もない。あれじゃ、子供のキスだ。
顔が羞恥に染まる。風邪なんてどこかに吹き飛んでいた。
お互い黙ったままで、少し気まずい空気が流れる。
「えっと、その・・・ご、ごm「千早さん!!!」

 いきなり抱きつかれた。
14歳とは思えないバストに顔がうずめられる。息が苦しい。
「ミキね、なんかすっごく嬉しかった!千早さんの方からキスとかしてくれたことなかったから、
ホントはイヤなのかな、とか思ったけど、千早さんからキスしてくれてホントに嬉しいの!
最高のクリスマスプレゼントなの!ありがとう、千早さん!大好き!!」

 やっぱり美希も不安だったのだ。
私と同じように。これからは、今までより積極的になろう。
「今までごめんなさい。それと、ありがとう。私も大好きよ、美希」


「じゃあミキ帰るけど、ちゃんと暖かくして寝なきゃ駄目だよ?」
いつ連絡したのか、マンションの外にはプロデューサーがもう迎えに来ているらしい。
「分かってるわよ。美希も帰ったら、ちゃんとうがいするのよ?」
はーい、と元気よく返事をすると、美希は帰ろうと玄関に向かおうとした。
が、すぐにベッドのそばまで引き返してきた。
「何か忘れ物?」
「うん。そう」
「一体何を――」

 ちゅ。

 額の方で音がした。
「早く風邪が治るようにおまじないなの♪」
そしてお大事にねー、と言って帰って行った。


 顔が熱い。美希がいたこの数時間で何回顔が熱くなったことか。
「・・・そんなことされたら、逆に熱上がるじゃない・・・」
こちらがいくら積極的になっても、あの金髪娘の方がこういうことに関しては一枚上手だ。
でも、おかげで今日はよく眠れそうな気がする。




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