当wikiは年齢制限のあるページです。未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。

「律子…さん、ミキ、そろそろお仕事切り上げてもいいんじゃないかなって思うな」

ソファーにごろりと寝転んでいる金髪毛虫の声に、ふと我に返る。パソコンの時計を見ると時刻は13時を回ろうとしていた。
今日は久々のオフだという美希が、『律子と買い物に行くの〜!』と事務所まで押し掛けてきたのが11時、
『律子”さん”でしょ!今やってる仕事が片付くにはしばらく時間かかるけど、それからで良ければ良いわよ』というやりとりからすでに2時間は経っている事になる。
静かに待っていてくれていた美希には悪いけれど、仕事が完全に片付くにはもう少し時間がかかりそうだった。

「うーん、そうは言ってもね…もうしばらく終わりそうもないわよ」
「小鳥が今日は律子…さんも午後はオフって言ってたのに……もう1時だよ?この前のオフも休日出勤してたし、律子…さんは働きすぎなの!」
「急な仕事が増えちゃったんだから仕方ないじゃない……アンタも買い物ならプロデューサーが付き合ってくれるんじゃないの?」

ただでさえ時間が無いであろうアイドルの休日を潰してしまっているという罪悪感から苦し紛れに続けてしまった言葉に、美希の顔があからさまに曇る。

「む〜、ベツにプロデューサーのことは嫌いじゃないけど、好きでもない男の人と買い物に行くなんて、ヤ!ミキは律子…さんとお出かけしたいの!」

一刀両断。今のセリフ、プロデューサーが聞いたらどんな顔するかしら…
こういうところ、意外と美希は頑固なのだ。
折角の休日なのだから家族と過ごすなり友達と遊ぶなりしても良さそうなものなのに、やたらと私の側に居たがる。
今も、事務所の皆は昼休みで出払っているのに昼御飯も食べずに私を待ってくれている。
 私だって、ここまで好意を持ってくれる相手に対して何も勘ぐらないほど鈍感な性格じゃない。
ただ、美希は決定的な一言は決して口にしなかったし、あくまで『ただ律子…さんと一緒に居たいだけなの!』という姿勢を貫いていた。
彼女なりに思うところがあるのか、それとも本当にただ一緒に居たいだけなのか。
この関係を壊してしまうのも勿体無い気がして、私のほうからも特に踏み入ったことは聞かずにいた。
そして、確かに美希と過ごす時間は私にとって大切なものになりつつあるけれど、美希に対する私の気持ちがどんな方向にゆこうとしているのかは予測がつかなかった。
また、美希が私にどのような関係を求めているのかも。

「……あんまり期待しないでよ」

美希に向けてというよりも、自分に言い聞かせるための言葉が口からこぼれた。
それを知ってか知らずか、美希は平気な顔をして

「期待なんてしてないの。暇なだけなの」

なんてうそぶいている。

――Sランクアイドルのやっと取れた休日が暇な訳無いじゃないの。

強情っぱりもここまでくると大したものね……
気持ちの予測がつかないのも嫌いじゃないけど、やっぱり落ち着かないし、それなら自分で状況を動かしたほうがよっぽど気楽だわ。
幸いな事に今日やるべき最低限の仕事は片付いている。そっとパソコンの電源を落としてソファに向かい、目の前に寝転ぶ金髪毛虫を覗き込んだ。

「待たせちゃってごめんね、ダーリン。お昼奢るわ」

期待はしていたにしても流石にここまで予測はできなかったようで、ぼんやりしていた美希の目が途端に丸く開かれる。
”鳩が豆鉄砲を食ったような顔”とはまさにこういう顔を言うのだろう、頬に赤みが差していくのもなんとも愛らしい。
言っている当の本人の頬も熱くなってしまっているけれど、先手を打てたことには違いない。
優位の笑みをなんとか堪えながらさらに続けた。

「あのね、今気づいたの。私は美希と過ごす時間を、自分で思うよりもずっと大切に思ってるって。……本当に、待たせちゃったわね。」

言い終わって3秒ほどして、顔を紅潮させて聞いていた美希がゆっくりとソファから身を起こす。
ややポカンとした表情を見て、目が合ったと思った次の瞬間、視界が金色に染まった。

「……ううん、急いでないから大丈夫。ミキも律子のこと大好きで、一緒に居る今の時間が一番大事だから!」

しっかりと抱きしめられたまま満面の笑みでこんなことを言われたんじゃどうしようもない。
さっきまで優位に立っていたと思ったのに、あっさりと形勢逆転。しかめ面を作って一言返すのがやっとだった。

「律子”さん”、でしょ」
「えぇ〜、律子…さんのケチぃ〜!じゃあこれからはハニーって呼ぶね!」
「は、はにぃ!?」
「ハニー、お腹空いたの♪」

……全く本当に、彼女には敵わない。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます

メンバー募集!