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「真クン」
「う、うん」
「話があるの、いいよね」
さっきまでの眠たそうな声とはまるで違い、シンと冷えた静かな声音にみっともないけど、ビビって返事が遅れてしまった。
「わ、分かったよ」
「雪歩、あっち行ってよ」
「わ、私だって、真ちゃんとお話が、」
「後にして」
反論しかけたが、雪歩も美希のそれまでとはあまりに違う様子に呑まれたらしい。
「……わかりました」
「律子……さんも。二人だけで話がしたいの。襲ったりしないから」
「……しょうがないか。二人とも朝のミーティングには出れないって伝えとくわね」
「ごめん」
「はい、行きましょう。雪歩」
「……」
「ごめん、雪歩」
雪歩は無言で目を逸らした。結局、ボクはするはずの返事ができなかった。
無言で去って行く二人の背中。それが、事務所の中へ消えるのを待って美希が口を開いた。
「真クン」
「う、うん」
「ミキね。真クンとは冷却期間のつもりでいたの」
「……」
美希は何かを思い浮かべるように目を閉じる。
「その期間はミキ達の気持ちが本物かどうかを考え直す期間だったの。
ほら、アレだよ、『恋人ごっこ』がどうこうっていうアレ。真クンも覚えてるでしょ?」
美希が近づいて来る。少し踏み出せばキスしてしまいそうなくらいに、近い。
開いた目から感じ取れるのは、覚悟、だろうか。
「でね、いくら考えてもミキは真クンのことが大好きで、心の底から大好きで、
むしろ生まれる前から好き好き大好き超大好きなんだっていう答えしか見つからなかったの」
一拍、ほんの一拍だけ置いて、美希はまた言葉を紡ぎだす。
「でも、真クンがミキのことをどう思っているかは分からなかったし、真クン自身が迷ってるようにも見えたから待つことにしたの。
その間は辛かったよ、ウソじゃないよ、本当に辛くて死にそうだったの。
真クンのことを想って寝る夜は、いつも枕を涙で濡らしてたの。
ガマンしきれなくてひとりえっちで自分を慰めて、終わった後は余計切なくて、悲しくて、
もっと激しくしちゃうくらいに辛かったんだよ。そのこと理解してくれてる?
もちろん、ミキはちょっと独占欲が強すぎて真クンのことを束縛しちゃうけれど、それだって知ってくれているはずで、
そういうところもひっくるめて、あの日あの時あの場所で互いの気持ちを確認しあって初めて愛しあったんだよね、そうだよね!?
ミキは真クンが好きだから、他の女の子のことなんか一瞬たりとも考えて欲しくないの!むしろ目を向けるのも嫌なの。
おはようからおやすみまで朝昼晩一年三百六十五日、死んで生まれ変わってそして次の世でも恋人どうしになって、
ミキのことだけ考えててくれればいいの。
それ以外は許さない、許すわけにはいかないの。
けれど、そういうわがままな想いが真クンを苦しめていたんだとしたら、これからどうやって愛すればいいの!?
愛し方が分からないの!
ずっとずっとずっーと愛し続けてるだけじゃ駄目なの?どこかで愛の形を間違えちゃったのかな?
だったら、その間違いを真クンが正してくれると嬉しいの。そうだよ、ミキは叱って欲しかったの。そして抱きしめて欲しかったの。
今からでも遅くないと思うの。ううん、むしろここから本当のミキ達が始まるんだよ。
そうに違いないもん。そうだって言ってよ、認めてよ! そしてもう一度あの言葉を言って、『美希、好きだよ』って。
ううんミキが先に言うよ。ミキはミキは、家族より友達よりハニーよりミキ自身より天よりも地よりもこの世界よりも!!」
気持ちを伝えるためには、残る息では足りないと言わんばかりに、ブレスを入れ、叫ぶような言葉が紡がれた。

「真君のことが、大好きなのっっっ!!!!」

迸る言葉の洪水がようやく途切れた。ボクは文字通り圧倒されていた。
もう勘弁して下さいと言いそうになった。
「ミキはそれくらい真クンのことが好きなの。分かってくれた?」
言葉がボクの中に遅れて染み込んでくるように感じる。
わずか一拍置くだけで言葉が違って聞こえる。襲いかかるような叫びに似た言葉とは違い、ボクにも理解できるように。
言葉として形なすように。
「だから、やり直そ? もう一度、ミキを好きになって?」
美希の想いには圧倒された。そこまで想われればいっそ幸せだって考え方もある。
だけど、安易に流されちゃいけない。流されるわけにはいかないんだ。
だから、ボクは伝えなければならない。
「ボクは、」
告げようとした、その瞬間。美希がくるりと背を向けた。
「み、美希?」
「いいよ、分かったから」
「美希、聞いて欲しい」
「嫌!」
悲鳴みたいな声だった。
もう一度振り向いた美希の目には、涙が溜まっていた。
「ミキ、絶対、もう一度真クンを振り向かせてみせるの」
「……」
「覚悟しててね。絶対雪歩になんか負けないの!」
たたた……と走って行く。
ボクは呆然と、その背を見送るしかなかった。

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