あ な た と 融 合 し た い ・ ・ ・


 そいつは宙に浮かび、妖しげな笑みで俺を見下ろしている。
 腰を抜かし、驚きと恐怖のあまり声も出ずに、ただ体を震わせている俺を。

 「──助けたいんでしょう?」

 艶かしい唇が開き、声を紡ぐ。
 静かで、透き通った声。

 「この子を、助けたいのでしょう?」

 空中の見えない椅子に腰掛けたように、長く白い脚を組んでいるそいつの下には、
 時折苦しそうに顔をしかめ、白いパイプベッドの上で──

 難病に命を削り取られながら、寝息を立てている妹が居た。

 「貴方が、決めるのよ」

 微笑を絶やさないそいつは、俺を値踏みするような目で見ている。その赤い瞳は、
月光だけが差し込む病室の中で、輝いているようだった。

 「この子の命の終わりを、見届けるか。それとも──」

 

 そして俺は、悪魔の手を取った。


 ==============================================


 「いいなーあこがれちゃうなー」

 ハーフパンツにTシャツというラフな寝巻き姿で、俺はベッドに寝転びながら雑誌を捲っていた。
 その雑誌には、見開き2ページで堂々とコーナーを駆け抜ける、ライムグリーンのフルカウルの写真。

 フルカウルと聞いてミニ四駆を思い浮かべた人は、俺と同世代……かもしれない。
 まあ勘違いする人間は居ないと思うが、ミニ四駆ではなくて大型バイクのことだ。
 新型NINJA大特集!とばーんと名打たれたそのページから、俺の熱いライダー魂を悶絶とさせる現代の忍の姿が、
以後6ページに渡って載っているのだ。

 「くうううう!!欲しい!欲しすぎるうううううううううう!!!」

 雑誌を胸に抱き、ベッドの上で悶絶ながらごろごろ転がっている20代後半の男。傍から見ればさぞかし不気味に見えるであろう。
というかキモい。

 しかしそれは仕方のないことなのである。不可抗力なのである。
 熱く滾るライダーの血が、諸事情により今は原付、しかも軽い安い遅いと一部で大人気!坂道だとチャリにすら抜かれると話題の粋なヤツ、
チョ○ノリである俺をここまで駆り立てるのだ。
 かくして、もう一往復ぐらいベッドで転がろうとした俺の耳に、部屋の扉を控えめにノックする音が飛び込んできた。

 「お兄ちゃん……?」

 ドアを開け、おずおずと部屋を覗き込むのは、妹の美紗(みさ)だ。
 肩口で切りそろえられた栗色の髪に、くりっとした瞳。ああもうなんでこんなブサメンの兄貴と同じ両親から生まれたはずのお前は、
そんなに可愛いんですかね!?目に入れても痛くないですよね!大泉○朗の気持ちが分かりますよね!!……本当に同じ両親から、生まれたんだよね俺?
 そんな疑念を抱かせるくらいに俺に似ていない可憐な妹に対し、俺はきりっとキモ度二割増しの素敵な笑顔で、妹に優しく微笑みかけた。

 「やあ美紗。いったいどうしたんだい?」
 「お部屋で宿題してたら、お兄ちゃんが何か叫んでたみたいだから、どうしたのかなって……」

 OOPS!!妹の邪魔をしてしまったか。これは俺の熱く滾る以下略を鎮めて、自重せねばっ!
 とりあえず俺はブサイク度三割増しの微笑で、妹に遺憾の意を伝える事にした。

 「いや、邪魔をしてしまったか。すまなかったね」
 「ち、違うの!邪魔とかじゃなくて、ちょっと気になって……」

 あたふたとしながらすまなそうな美紗。ああなんていじらしい。こんな兄に気を使ってくれているんだね……
 それに比べて兄の愚かさといったら!ああ神様、生まれてきてごめんなさい……

 「?お兄ちゃん、何言ってるの?」
 
 おっと、思わず口に出してしまったようだ。

 「なんでもないよ。すまないね。静かにするよ」

 残念度四割増しの笑みで、なんとか取り繕う俺。

 「う、うん……」

 一方の美紗は、そのまま顔を少しうつむかせて、何かもじもじとしている。 これは何か言いたくて、でも言えなくて困っている妹のサインだ。
 どうしたんだい?と聞こうとした俺より少し早く、妹は少し頬を染めて、ぽつりと漏らした。

 「お兄ちゃん、そっち行っても、いい?」

 HAHAHAそんなことで悩んでいたのかい妹よ。お兄ちゃんの隣はいつでも美紗の指定席だよっ☆

 と口には出さなかった俺は褒められるべきだろう。



 そして妹は、俺の隣、ベッドの縁に腰掛けている。そのままかれこれ、無言の時間が5分は続いていた。
 妹の可憐な顔は先ほどと同じ、困ったようなすまなそうなもので、そんな痛々しい表情を見ると俺のマイハートも張り裂けそうになる。ああ妹よ、
お前は一体どんな悩みを抱えているというのだい?お兄ちゃんに出来ることなら例え火の中水の──

 「……ごめん、なさい」

 そしてやっと紡ぎだされた言葉は、あきらかな謝罪だった。
 
 「どうしたんだ急に?何かしたのか?」

 突然のごめんなさいに面食らった俺。妹が一体、何をしたというのであろうか。
 しかし妹よ案ずるな!お兄ちゃんはお前が何をやらかそうが大抵のことは許せる自信があるぞ!人様に迷惑かけるのは駄目だが!

 「お兄ちゃん、私が病気したせいで、好きなバイクまで、売って……」

 妹は俺の傍らに置かれたバイク雑誌をちらりと見ながら、最後の方の声は少し震えていた。
 おお妹よ!またそんなことで悩んでいたというのかい!?確かにかつての相棒ザ○ザスを手放した時はちょっとだけ、本当にちょっとだけ惜しかったが
(本当にちょっとだけだぞ!本当だぞ!)、お前を失うことに比べればどうということはないのだ!
 そもそも妹が病気で長期の入院生活を余儀なくされても、保険や助成制度もあるから売らなくてもそこまでお金に苦労しなかったのだと、
後になって気付いた兄が愚かだっただけなのだから。というようなことをかいつまんで妹に言い聞かせ、優しくなだめると、少しは気が楽になったのか、
 
 「お兄ちゃん……」

 とすこし泣きそうになりながらもホッとした様子で、でもやっぱり申し訳なさそうな顔で俺を見上げていた。
 そんな美紗が(家族愛的な意味で)たまらなく愛しくなって、思わず抱きしめてしまう。初めは驚いていた美紗だったが、やがておずおずと抱き返してくるのを感じ、
ああもう頬ずりしたくなってくるよお兄ちゃんは。
 
 しかし、同じ話をしたのはかれこれ何回目であろうか。四回目?五回目あたりか?その度に心の底からお前のせいじゃないんだよ、気にしなくていいんだよと、
全身全霊をもって言い聞かせているのだが、妹の心は今だ晴れないようであった。幼い頃に母を無くし、男手一つで俺達を育て上げた親父にも同じ負い目を持っているようで、
今は出稼ぎに出ており不在な親父も「美紗が悪いわけじゃないんだがなぁ」と時折こぼしている。
 
 つまり美紗は、かつて自身が一年も大病を患って入院し、そのせいで俺達家族に迷惑をかけたと思い込み、それを今も引き摺っているのだ。

 どうすればその負い目を歩いて2分、近所のゴミ集積所に棄ててくる事ができるか考え始めた俺。
 すると妹は俺の腕の中でもそもそと動いて顔を上げ、俺の耳元に口を寄せ──

 「……だから、その埋め合わせをしてあげる」

 瞬間、俺は妹を突き飛ばすようにして飛びずさる。

 今のは、妹の声なんかじゃなかった。
 あれは、あれは……っ

 「あ、ああ……」

 美紗は半笑いを貼り付けたままの顔でこちらを見ながら、薄く開いた唇から声をもらす。

 「あ、お、に、いちゃ……」

 妹の目じりから流れる、一粒の涙。逃げるようにその身を放したことを強く後悔する俺の前で、その瞳から少しずつ、光が消えていった。

 やっぱり、間違いない。
 これは……

 そして美紗は不意にバランスを崩し、どさりと床に倒れこんだ。

 「み、美紗っ!!」

 慌てて支えようとした俺を制止するように、妹は一際大きな声で、啼いた。

 「ああああああああああああああっ!!!」

 淡いピンクのパジャマに包まれた、小柄で華奢な体が床で悶え、もがいている。それと同時に響き始める、みしりみしりという、何かが軋むような音。

 「んあ!ひゃ、くううううっ!はぁ、ぅぁ、くひっ」

 妹の声に粘つきと艶が混じり始める。
 少しずつ、少しずつ伸びていく妹の体。

 伸びる背丈にパジャマが押し上げられて、白い素肌の腰とお腹が見え始める。
 その腰も少しずつ膨らみ始めているのか、パジャマのズボンと、その下に見えるショーツが一緒にずり下がっていく。
 
 その艶かしさに一瞬、息を呑んだ。

 肩を抱き、胸をかきむしり、床に爪を立てて、美紗の息はさらに荒くなっていく。パジャマも徐々に丈が合わなくなっていき、生地が段々と、
成長する体に押され、パンパンに張り詰めていくのが分かる。

 「うんっ、ふぅぅ……っ」

 足首から先が、成長を続ける脚全体に合わせ、伸びていく。
 脹脛や太腿も、ふっくらと肉付いて魅惑的になっていく。まるで早回しをみているかのようだった。
 床をかきむしる両手も、指がスラリと伸びていく。

 「く、ふぅぅぅっ、あ、はぁぁ……」

 美紗のパジャマが、内側から少しずつ押し上げられていく。胸の二つの膨らみが、はっきりと形を作っていくのが分かる。同じように、
半分以上露出したお尻も、どんどん体積を増しながらつん、と張りをたたえていく。

 その年代の女の子が身近にいないのでよく分からないのだが、小学校3年生だった美紗は、すでに中学生?くらいに成長しているように見える。
 いや、中学生にしては胸もお尻も大きく、背も高いように見える。もしかしたらすでに高校生くらいになっているのかもしれない。

 全身をくねらせ、震わせながら苦しそうにする美紗。
 俺はただ何もできず、時折名前を呼びながら妹の変貌を見ていることしかできなかった。

 その妹は、体をくるりと仰向けにして、背中を仰け反らせて苦しそうに息を吐く。
 ずりさがったズボンと下着のせいで、妹の「女」の部分が、否が応でも露わになり、俺の心臓は一瞬、そのあられもない姿に鼓動を強く打った。

 「う、う、うう……」

 そんな痴態を隠す事もしない、いや、できない美紗。全身を弓なりにさせながら、その部分も「成長」していく過程が見える。
 隙間、切れ込みがぐっと深くなり、周囲を産毛が生え始め、幼い蕾が歳相応に花開く準備を始めていた。

 もちろんその顔も、変化からは逃れられないようだった。
 薄かった唇も適度に肉付き、目元は妹の面影を残しながらも切れ長に、妖艶になる。小さかった鼻も、引っ張られるようにつん、と高く。
 可憐で可愛い美紗は少しずつ失われて、艶っぽい美人に塗り替えられていく。

 「ん、あはぁ…あ、ああ、はあんっ」

 一瞬で声が変わり、か細い綺麗な声から、少し低いハスキーボイスの、大人なものへ。
 それと同時に、苦痛の色が濃かった吐息に、快楽が混ざり始めた。

 「あ、ああんっ、ふう、あは……」

 腰はむっちりと肉付きながら、お腹へ上がるところはきゅっと引き締まり、綺麗な括れを形作る。肌はきめ細かく、瑞々しく張っていく。
 細い肩は幅が少し広がって、パジャマの上は完全にもうサイズが合っていない。膨張が止まらない、両手から零れそうな胸が窮屈に押さえつけられ──

 「あんっ!」

 ついに耐え切れなくなったパジャマのボタンがはじけ飛ぶ。白いキャミソールの上からでも分かるほど、乳首がツン、と上向いていた。

 「あ、は、もう、ちょっと……あんんっ!!」

 苦しそうに歪められていた顔も、今は快楽に悦んでいた。仰向けから四つんばいになると、一際大きく喘ぎだした。

 「は、あ、う、と、とぶ、とんじゃう!あ、ああああああ!!!」

 露わになった後ろ腰、お尻の割れ目の上辺りがもぞもぞと盛り上がる。それに遅れて、背中の上のほう、肩甲骨の辺りのパジャマが盛り上がりはじめた。
 髪は色素を薄くしながらはっきりと栗色から茶色に変色し始め、肩口を越えて背中へ、垂れ下がって床へ伸びていく。その合間を縫うように、
 めきり、めきりと軋みながら、紫の尖った先端が伸びていく。おそらく角だ。その角に合わせるように、両耳が尖りながら、ぐぐっと伸びていく。

 「ああああ!!んああああ!!ああああああああっっっ!!!!」

 最後に大きく啼くと、パジャマを突き破って広がった大きな黒い翼。腰も皮膚を破り、一気に伸びた黒く細い尾がしなる。
 側頭の角は伸びながらヤギのように捻じ曲がる。

 そして、妹の美紗は完全に、消え去った。

 「あ、あ……」

 すくっと立ち上がった、俺よりも頭半分ほど高い長身。快楽の余韻に浸っているらしい顔はとても妹のものとは思えないほどにかけ離れ、
そして妖艶で、美しかった。
 胸元でぷるりと揺れる豊満な二つの膨らみは俺の手では確実に余るだろう。それでいて垂れ下がらずきちっと前を向いている。その頂は桜色で、
ぴんと立っているのが分かる。
 すらりと滑らかなお腹周りは、臍のくぼみが綺麗に伸びていた。そこからきゅっと膨らむ腰も尻も魅惑的で、思わず飛びつきそうになる。
もちろん強力な兄としての自制心のおかげで、実際にそんなことはしなかったが。
 綺麗に体毛が生え揃った妹のそこは少し濡れて、むっちりと成長した太腿の内側を、一筋の液体が滑り落ちていった。

 「み、美紗……」

 あっけに取られながら美紗、だったものを見上げる俺に対し、美紗、だったものはつつ、と涙をこぼしながら俺に微笑んだ。

 「お、にい、ちゃん……」

 光を失っていた妹の瞳が、赤く紅く変わりながら再び意思を取り戻した。しかしそれは妹の、美紗のものではなかった。

 「ふう……こうして出てくるのも久しぶりね」
 
 成長に耐え切れなかったパジャマや下着類を手で掴んで破り捨てながら、美紗だったものは一人ごちた。

 「お前……!」
 「お前、じゃないわ。ちゃんとキルリラって名前があるの」

 言いながら髪をかきあげる美紗、いや、キルリラ。

 「お久しぶりね、ジロウ。この姿で最後に会ったのは半年前かしら?」
 「三ヶ月前だこのやろう」
 「あら、そうだったかしら?普段ずっとミサちゃんの中で眠ってるから忘れちゃった」
 
 てへ、と舌を出すキルリラにちょっとだけときめいたのは内緒だ。

 「つーか、何しにでてきやがったんだよ」

 聞きながら、それでもだいたい分かっている。こいつがこうして出てくるってことは……

 「何って……もう分かってるくせに〜」

 にやにや笑いながら、一歩近づくキルリラ。一歩下がる俺。
 一歩近づくキルリラ。一歩下がる俺。
 一歩近づくキルリラ。一歩下がる俺。
 一歩近づくキルリラ。一歩下がるお──

 「つかまえた」

 気付いた時には、俺は豊かな胸を押し付けられて、両腕で包まれていた。くそ、いつの間に──

 「貴方の精を、貰いにね。それが契約、でしょう?」

 耳元で妖しく囁かれて、俺の全身をぞくりとした何かが走った。

 「剥がれかけていたミサちゃんの魂を私が補う代わりに、貴方から精をもらう。そう契約したわよね?」

 あの月夜の病室での光景がフラッシュバックする。
 
 白いパイプベッド。
 苦しそうに寝息を立てている妹。
 妖しげな笑みで俺を見下ろしている、こいつ──

 「じゃあ、いただきます」
 「ちょ、ちょっと待てむぐっ」

 静止しようとした俺の唇を、キルリラの唇が塞ぐ。そのまま歯茎を嘗めらて驚いた俺の歯の間を潜り抜け、こいつの舌が俺の口の中を嬲る。

 「ふっ、くっ、むちゅ、んち……」

 それだけのことなのに、俺の頭の中がとろけそうなほどになる。容赦ない責めに、俺の体から力が抜けていく。

 「っちゅ、ふ、、ふちゅ、むう」

 俺の舌で押し返すこともできず、むしろ絡め取られて、成すすべもない。腕に力が入らなくなった俺を、キルリラはぎゅっと抱きとめた。
そのまま、俺の口に自分の唾液の流し込む。

 ──甘い。
 まるで蜂蜜を直に飲んでいるかのように、甘い。
 あまりに甘美で、俺の意識さえ揺さぶられるような錯覚に陥る。

 そして、熱い。
 喉を通り過ぎた側から、焼ける様な熱さが全身を包んでいく。
 心臓がどくどくと暴れて、血液が激しく全身を回って、俺のへ集められていくようで──

 「うふふ、準備できたようね」

 満足げに呟くキルリラの声を、ぼやけ始めた意識で俺は聞いていた──
 
 

管理人/副管理人のみ編集できます