あ な た と 融 合 し た い ・ ・ ・

 
 彼らも、彼女らも、親友の突然の変貌に、ただ目を奪われていた。

 「にげ、テ、ハ、やく」

 赤黒く蠢く肉腫に首まで飲み込まれた彼女は、涙を流しながら口をパクパクと動かして、
必死でこの場を離れるように、ただただ唖然と自分を見呆ける6人に伝えようとしていた。

 学校の課外授業。仲の良い男女が寄り集まった7人は、森林公園の奥で偶然見つけた洞窟に入り込み。
明かりもなく、制服に運動靴という格好ではこれ以上奥には進めない、というリーダー格の少年、リクの
言葉に従って洞窟を後にした、その後の出来事だった。

 「マ、マナ、が…」

 恐怖に顔を歪ませて、地面に座り込むのは、変貌していく彼女──マナと親しい、ナツミ。背中を突き破って
うねる触手に、気色悪い肉の塊に変わっていく親友を、ただただ震えたか細い声で見ているしかなかった。

 「う、うそ、だろ…」
 「な、なにが…」

 グループ一の悪戯好きな少年コウスケと、柔道部員でグループ一の体格を持つショウタも、半ば何が起きているのか
分からないといった風に、ただ悪夢のような光景の前に立ちすくんでいた。

 「に、げ…」

 その間にも、肉腫は彼女を飲み込んで行き、ついには最後まで残っていたマナの顔も、引き込まれてしまい。

 「マナああああああああああああっ!!」

 長身の女子剣道部員で、長い髪をポニーテールでまとめているシノブが、彼女の名を叫んだ時、それは起きた。

 「う、うわああああああっ」
 「きゃあああああああ!」

 肉腫が勢い良く、爆発的に膨らむと、その触手が勢い良く、彼らに、彼女たちに伸びて絡め取る。

 「いやあ、放してぇ!!」
 「や、やめろっ!!」

 抵抗する度に、新しく生えた触手が巻きついて、自由を奪っていく。、その表面は生暖かい透明な粘液で覆われていて
それが制服の上を通るたびに繊維を溶かし、素肌を晒していく。

  しかし、それだけではなかった。

 「ひゃああっ!!あ、ああ、ああああああああああああ!!!」

 嬌声のような悲鳴を上げたのは、コウスケとは大の遊び仲間である、ボーイッシュな少女アキであった。
 セーラー服も下着もすべて溶かされて、ようやく膨らみかけた乳房やまだ幼い秘裂を霰もなく晒している彼女に巻きついている
触手が、彼女を侵蝕し始めた。
 秘所に、菊座にあっさり入り込んだそれは、体内に根を張り、直腸や膣の内壁と同化──いや、自身と同じものに作り変えていった。

 「うあ、あんっ、ひぃああ!うく、ひう、なあああああ!!!」
 
 体の中を奔る様に伸びていく触手の根に、それと繋がって、新しく繋ぎ直されていく血管と神経に、内臓や骨格が取り込まれ、筋肉や
細胞が作り変えられて行くすべての感覚が、凄まじい快楽となって、彼女の思考を壊していく。破壊されたその思考に、何者かが入り込み
自分の境界を曖昧にしていく。 皮膚が変色し始めて、巻きつく触手と同じグロテスクな赤紫に変わると、触手と皮膚の境目がなくなって、足を含めた下半身は完全に触手と同化した。
 そしてアキは、友達、マナのなれの果て、ぶよぶよと蠢く肉腫本体へ引き込まれる。それはまだ侵蝕が進んでいない上半身との境目、臍の辺りで止まり、
肉腫に突き刺さるような形になった。
 
 そしてそれは、他の少年少女も同じだった。
 
 「うー、あ、あー…」

 理性的で怜悧な普段のリクは、もう存在していなかった。最早全てが快楽でしか感じられない彼に反応して怒張する彼自身に巻きついた触手はまるで
射精を促すように蠢き、彼は何度も中空に精を放つ。そのたびに触手は巻きつきを強め、ついには彼の男根を飲み込んで、同化してしまった。睾丸も精嚢も
触手に吸い付かれて同化し、そこから体内へ急速に根が伸びていく。その度に強い快楽が彼の脳を激しく揺さぶって、ついに彼は意識を手放してしまった。
瞳からは理性の光が消え、記憶が何者かに塗り替えられていく。自分が薄まって、何もかも分からなくなる感覚に、彼らは、彼女らは溺れていった。

 そうして同じように、6人は肉腫に引き込まれる。そこに最早、自分の意思を残しているものはいない。残っていたとしてもすでに腰から下は肉腫そのものになり、
まだかろうじて人間らしさが残る上半身にも2,3本の触手が絡み付いて、逃げる事は叶わない。

 それからの変化はさらに加速した。

 「んあああああああああああ!!!!」
 「うおっ、おおおおおおおおおおっ!!」

 アキとコウスケが快感に叫ぶ。上半身に巻きついていた触手がついに同化を始め、さらに半分飲み込まれた腰からぼこぼこと肉腫がせり上がり、背中を、腹を
腕を、胸を飲み込んでいく。膨らみながらそれはさらに形を変えながら、最早意味を成さない音が漏れ出る口を、顔を、頭を飲み込んでいく。二人の腕は最早
必要ないと言わんばかりに肉腫に取り込まれていった。

 一方、ショウタの変貌はさらに早く進んでいた。触手によって無理矢理腕を伸ばされた状態で同化され始めた彼はいち早く完全に赤黒い肉に覆われると、急速に
その長さを伸ばしていく。

 「っかはっ…あ、がっ」
 「ぐげえっ、げぼ、ぐぼっ」

 リクとナツミの変容は、さらに異様だった。
 何度も咳き込み、奥底に詰まったものを吐き出そうとする二人の唇を割って姿を見せたのは、黒い硬質の鍵爪をもった一本の指だった。人の何倍かはあるだろうその
巨大な指は、首元まで盛り上がった肉腫に飲み込まれた二人の口から、さらに一本、もう一本と姿を見せる。そのたびに口は裂け、ついに二人の顔がべろりと裏返る
ように、五本の指を吐き出して、肉腫に飲み込まれていった。

 
 「はあ、うああ、ひゃああああああああああああああ!!」

 そしてシノブにも変化が訪れる。
 触手で巻かれた上半身に肉腫が根元から取り付いて、少しづつその長さが増していく。それに合わせるように、快楽に意思を失い、呆けていた顔が前に伸びていく。
正確には鼻から下顎までが伸びていき、見開かれた目が一度ゆっくり瞬くと、その瞳は爬虫類のように縦に長くなっていた。自慢の長い髪がはらはらと抜け落ちて、
変わりに頭部には一対の角が伸びていく。形作られるマズルに合わせて歯も尖り、すべてを噛み千切りそうな牙状に変化していく。シノブを首元まで飲み込んだ
赤黒い肉腫は、伸びた角と目、牙を残してぐちゅぐちゅと顔を覆っていく。

  変化は最終段階を迎えた。

 (僕は…我は…)
 (わたし、は…竜…)
 (俺、は、黒き、竜…)
 (あ、あたしは…我は…)
 (私は、我は、今…)
 (ぼ、ボク、は…目覚め…)
 (俺は…我は今、目覚めん!)

 七人の意識が、記憶が、魂そのものが、パズルのように一つ一つ組み合わさって、強大な力に上書きされ、融合して一つになる。
それに合わせて、肉腫は、彼らは急速に形を整えていく。
 
 アキとコウスケだった肉腫から爪が生え、足を形作り。
 リクとナツミだった部分は、完全に一対の腕に。
 ショウタは左右に振れながら長く伸びた尾に。
 シノブだったものは、恐ろしさ中に神々しさをたたえた頭部に。
 背中にばさりと羽が広がって、赤黒い全身にいくつもの境目が瞬時に奔って、黒光りする鱗になり。

 「グおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 目覚めた喜びの咆哮を上げ、黒い巨大な竜が誕生した。

 (待っていた、この時を…)

 満足そうに、全身のあちこちを見回す黒い竜。先程の洞窟で、魂だけの存在として復活の時を待っていた彼は、洞窟の中に入った
人間の子からマナを選び、マナの体を器に復活を試みた。
 しかしそれは破綻し、彼の強大な力に彼女は耐え切れず形が崩れ、彼女と自身の復活のために他の人間を取り込んで、
そしてそれは今、成されたのだった。

 (さて、数百年ぶりの世を見てみるとするか。手始めに、前の住処を見てみるのも悪くない。変わっておらぬならよし、変わっているならそれもよしだ)

 羽を一振りすると、周囲の木々がざわめいた。飛び方を忘れていなかった自分に少し驚いて、彼はわずかな木々の間から、一気に空へ駆け上がる。

 (我の血肉となりし人間の子らよ。我は主らで、主らは我となった。もう人としての短い一生は歩めぬが、せめてもの詫びに、我は永久に、主らと共に在ろう)

 (…さて、行くぞ)
                              はし
 そうして彼、いや、彼らは蒼穹を一路、南へ飛び疾った。



 だがまたしてもそうは問屋が卸さない。
 長きに渡る歴史の中で、彼の住処は陸上自衛隊の演習場になっていた。
 彼はふざけ半分で、ここは我の住処ぞ、人間は立ち去れと軽く火を吐いて脅したのが悪かった。
 それは武器使用基準に合致してしまう行動で、突如上空に現れた彼を襲う、たまたま演習中だった87式自走高射機関砲の冷酷無比な恐るべき精密射撃、
 そして狼のように乱れぬ連携で襲い掛かるAH64D対戦車ヘリ、仕舞いには最新鋭の03式中距離地対空誘導弾にまで狙われた彼は、
 へとへとになって命からがら森に逃げ帰り、 もう人間をからかうことはやめようと心に決めて、7人に戻った。
 目が覚めた7人は、異常に疲れていたそうな。

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