あ な た と 融 合 し た い ・ ・ ・

 「初めまして、網羅 啓太さん」

 あの春と夏の境目の、異様に蒸し暑かった昼下がり。
 網羅 啓太は衝撃的な出会いを経験した。
 テスト期間中で昼過ぎに放課となり、まだ慣れぬアパートへの帰路の途中、遥か東北へ続く鉄路の踏切がけたたましく鳴り出し、黄黒の遮断管が下りて行く手を塞いだ、その向こう側で。
 可憐な少女が、啓太をじっと見つめていた。

 「隅田さんの、想い人。そして、私の憎き恋敵。」

 そんな恐ろしげな言葉と共に。

 それが、網羅 啓太と浮島 華蓮の出会いであり、啓太の幼馴染で華蓮のクラスメイトであるもう一人を含めた複雑かつ単純、不幸にして幸せな関係の始まりだった。

     
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 「あっ、あんっ!ひゃう!け、いた、さぁんっ!」

 夜は部屋の内外を区別することなく等しく闇を塗りたくるが、部屋は天井からぶら下がる蛍光灯の白い光でそれを押し返すことが出来る。人類の叡智の光の下で、二人の女と一人の男が生まれたままの姿で、本能のままに求め合っていた。

 「いくっ、ま、たぁっ!い、きますぅぅぅっ!!」

 綺麗な絹糸のロングヘアに、清楚で麗美な童顔は少女のそれではなく、女の悦びに満ち溢れ、それを全身で表すかのように、すらりと長い手足で男の体に縋り付き、叫ぶ声は快楽に染まりきっていた。

 「あ、あ、っああああああああああああああああ!!!」

 少女──浮島 華蓮はこうして、8度目の絶頂を迎えた。

 網羅 啓太、隅田、南、浮島 華蓮。
 高校生の少年一人と、少女二人は線路沿いのこのアパートで、共に暮らしている。
 啓太は学校の宿題を済ませようとしていたところ、同居する少女二人に求められ、今18回目の射精を正常位と呼ばれる姿勢で、華蓮の中に直接注いでいたところであった。

 「ああ……啓太さんが……溢れて……」

 今だ硬い啓太自身が引き抜かれると、ぬちゃりといういやらしい水音と共に、彼を奥まで深々とくわえ込んでいた少女のまだ熟れ切っていない少女の秘裂から、とろりと一筋の白い雫が垂れた。
 それを感じ、少し息を切らせながらも幸せそうに笑みを浮かべる華蓮を別の影が覆う。

 「啓太、気持ちよかった?」
 「はい、南さん……んちゅ、ちゅっ、くちゅっ」

 その影は華蓮の上で朗らかに笑うと、華蓮と口付けを交わし、それはすぐに深いものとなった。華蓮が交わるその前に啓太と後背位で深く愛されて、二人が続いて愛し合っていた間、傍らで一人寝転んで余韻に浸っていた、隅田 南であった。
 元々は南が啓太に好意を持ち、その南に同性ながらも恋心を抱いてしまった華蓮という修羅場的三角関係であったが、今では三人が三人を愛するという、幸せな三角関係を築いていた。

 「んちゅ、ふあ、ふちゅ……」
 「ん、んん、っちゅっ、」

 男女から女同士へ。
 お互いにきつく抱き合い、舌を絡ませ合う少女二人の横で息を切らしながら、啓太は一人仰向けに寝そべって、まだ足りぬ、足りぬとそり立つ己に違和感を感じていた。

 (うう……なんだ今日は……出しても出しても治まらない……そんなに溜まってたのか?)

 事実、彼はここ一週間ほど、二人のどちらかとも行為に至っていなかった。別に二人への愛情が薄れたというわけではなく、学校が違うことによる生活リズムの不一致によるものである。だからこそ、二人の求めに体が疼いたのは歴然とした事実である。しかしいくら健全な男子高校生のリビドーが高まったとはいえ、突然自身が20回近くも放出してまだ萎えぬ超絶倫人になってしまったのだから、戸惑うのも無理からぬことであった。

 (だ、出したい……出したいっ)

 しかしその戸惑いもすぐ、股間からせり上がる性欲に押し流されて、彼は悶える。そしてついに我慢の限界が訪れ、啓太は突然、自身で自身の肉棒をしごき始めた。
 そんな彼の悶絶など知らぬというように、華蓮と南は一心不乱にただただ、深いキスを交し合う。

 (もっと、もっと、もットォォ…)
 (足りない、タりなイヨゥ…)

 二人の意識は目の前の恋人を求める、それしか考えることが出来なくなっていた。だから耐え切れずもう一人の愛しい恋人の我慢の糸がぶちりと切れたことも、自身の体に起きた異変も、把握することが出来なかった。

 「くちゅ……ん、あんっ」
 「ぬふ…ひゃあ!」

 絡み合う脚と脚、その素肌がむずむずと蠢き、触れ合う境目の線が薄くなっていた。まるで私達は元から一つであったとでもいうように、境界はぼやけ、薄くなっていく。脚は癒着を始めながら、まるで骨格を無視してねじれ、うねりながら、少しずつその長さを増していく。

 「ちゅっ、んはぁ…」
 「ふうっ、んふ!」

 密着しながらお互いを愛液で濡らす腰も、脚の癒着を待っていたかのように溶け合い始める。すると今度は二人の滑らかな腹が、胴が伸びはじめ、二人のはさらに長くなっていく。その頃にはすでに脚はその面影を留めていなかった。腰から先へ少しずつ細くなっていくその姿は、まるで蛇のようであった。

 「にゅち、んちゅ…」
 「ちゅっ、ちゅ…」

 南の小ぶりな引き締まった、華蓮の少し肉付きのよいお尻の柔肉が割れ目を失っていっても、二人は口付けをやめない。瞳からは理性の光が消え、意識はぼやけ、混ざり合い始めた。

 (わたしは、みなみ……わタシハ…か、レン…?)
 (みなみ、チャン……は、ワタし、なノ……?)

 ぐんぐん伸びていく胴も、ぴったりとくっついたお腹から皮膚同士が接着し、ひとつにまとまっていく。臓物は蠢いて同じように融合し、血管はするすると絡み合い、再構成されていく。神経も繋がったことにより、二人の自我までが曖昧になる。融合はついに胸に及び始め、押しつぶされた華蓮の豊かな乳房と、南の小ぶりな乳房の頂同士が接着して、溶けていく。

 「ちゅ、くちっ……」
 「んぬ、むふっ……」

 背中を抱くそれぞれの手もずぶずぶと飲み込まれていたが、それでもなお、二人はキスを交わすことはやめない。まるで二人は元々一つであったのだと高らかに詠うかのように、その舌の絡み合いは妖艶であった。
 そのうちに肩の融合が終わると、ついに頭が、最後と言わんばかりに頭蓋ごと接着し、変形を始めていく。

 「んん!んんんんんんんんっ……」

 二人が一際強く、互いの口に吸い付くと、もう離れることはできなくなった。首がくっついて太くなり、胴と同じ直径に形成されていく中で、二人の顔はお互いの中へ埋没していく。華蓮の長い髪も南の切りそろえられた短髪も、蠢いて形を変えていく頭部に引き込まれていく。そうして頭が完全に同化すると、今度はそれが少し横に平たくなりながら、先端に水平な切れ込みが生まれる。それは埋もれていった耳があった所にまで広がると、その少し上に、小さく短い直線的な亀裂が出来る。その亀裂は反対側にも生まれると同時に、カッと開かれた。
 それは眼だった。黄色く濁る眼に縦に細長い瞳が、ぎょろぎょろとあちこちを見回して。
 かつての耳の部位まで広がった切れ込みが大きく開くと、桃色の内側が見え、その奥からちろちろと細く長い、真紅の舌が伸び。

 シャアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 二人は融合を果たした。
 手も足も飲み込まれた、細く長い胴と尾。切れ長の瞳に、先端が分かれた舌。
 それは一匹の大蛇であった。表面にうろこもなく、色素の薄い綺麗な肌色のままであったが、その姿は大きな蛇そのものである。二人の少女は互いを強く求め過ぎたせいか、本当にひとつになってしまったのである。

 「う、うああ……」

 しかしそんな恋人達の変容に、啓太は驚き恐れることも逃げることもせず、ただ己の陰茎を擦り上げていた。一度しごくたびに、精がぶしゅりと噴きだす。その度に全身を襲い駆け巡る強烈な快感に、彼もまた理性を失い、狂っていたのだった。
 その様子を、横から鎌首を持ち上げてじっと見ていた彼女達──肌色の大蛇は、不意に逆を向いて、するするとベッドから降りて行った。彼と比べても倍か三倍はあろうかという長い長い体を器用に曲げて、この6畳の部屋の床をぐるりと進み、辿り着いたのは再び、彼が理性を失って自慰にふけ続けるベッドだった。
 床からぬっと頭を上げた大蛇の視界に、啓太の両足の裏と、蛇が移動したことにさえ気づいていない彼が入る。
 蛇はその口を大きく開けてそのまま進み、啓太の両足をぱくりと飲み込んだ。

 「あ、あお。おお…」

 しかしそれでも、啓太は自慰をやめない。大蛇に飲み込まれる恐怖さえも、今の彼には認識できないのだ。
 足から足首、すね、膝と、大蛇はゆっくりと丸呑みしていく。それでも陰茎をしごく手は止まらず、結局それは蛇がついに男根ごと腰を飲み込むまで続いた。

 「う、うあああ……はあああ……」

 足から腰までを完全に蛇に呑まれ、自由に動くこともままならなくなった啓太。その顔は先程と変わらぬ、快楽に理性を失った笑みのままで、このまま飲み込まれてしまうのかと思われた矢先、また変化が始まった。

 「あ、あ、あああ……っ」

 丸々と腰を咥えた蛇の口が、無くなっていく。口元が蠢いて、啓太の足との境界を薄めながら、埋まっていくのだ。
 そしてそれは口だけではなく、蛇の眼、頭、さらに飲み込まれている彼自身にも、変化を及ぼしていく。

 「う、うう……っ!」

 細身で肉付きの薄い彼の胸板が、乳首を頂点として盛り上がり始める。
 短い髪がざわめいて、少しずつ伸び始める。

 「う、あ、ああ…っ」

 それに反比例して、大蛇の頭は形を失っていく。
 頭は潰れ、眼は閉じられるとその切れ目は埋もれていく。尾の先端から肌色の表面にぴしりと細かい模様が生まれ、続いて色が濃く、深くなり、落ち着いた緑色へ変わっていく。

 「おおっ!おあ、ああああんっ!!」

 喉仏はなだらかに消失して、首と、それに合わせるように肩が少し細くなる。喘ぎ声は一瞬で高くなり、透き通る女性の声に変化した。

 「ああ!!んああああ!!」

 乳房は内側から、風船のようにその体積を増していく。肌は白く細やかになり、顔の形が変わっていく。男のどこか角ばった顔つきは、繊細で端正な少女のそれに作り直されていく。
 それが気持ちいいのか、彼、いや、彼女は時折上半身を海老反りにして悶えながら、細くなった手でぎゅっとシーツを掴んでいる。髪は伸びて肩を超えるまでになり、頭の方から緑に染まっていく。もう一方、尾の方の緑は、完全に融合を果たして形を無くした大蛇の頭、人間部分の臍の下まで覆いつくし、綺麗な青緑色の鱗を作った。
 最後にわき腹から腰にかけてのラインが美しく凹み、くびれをつくり、彼女は生まれ変わった絶頂を迎えた。

 「んああああああああああああ……!!」

 くたり、と上半身を横たえて、一人の少年と二人の少女だったものは、激しく息を切らせている。
 滑らかなセミロングの緑髪に、儚い美しさとどこか人懐っこい可愛さ、そしてわずかな男性的凛々しさが奇跡のような割合で混ざる小顔。線の細さは少女でありながら、その胸の果実は少女と呼ぶにはいささか大きく、また整ってハリがある。腰は一度優雅に括れたところで、その皮膚の質が変わり始め、下腹部に達したところで、完全につるりとした鱗に変わる。両足は存在せず、その代わり太く長い蛇の尾が、ベッドから部屋の中心で、とぐろを巻いていた。その尾も髪のように美しい、青が若干混じった緑色。
 人間の上半身に、蛇の下半身。ラミアと呼ばれる魔物へ、三人は溶け合って融合したのだった。

 「ふう、やっと復活できたぁ…」

 息を大きく吐くと、ラミアは上半身をゆっくりと起こした。

 「魂を三つに分けて、三人に潜り込ませたから時間かかったけど、正解だったよぅ…」

 そうしないと魔力に耐え切れず、人間の形を保てなくなるからねぇ、と一人でうんうん頷いたあと、彼女ははっ気づく。

 「……ところで私、なんで復活しようとしてたんだっけ?」

 うーんと唸りながら、頭を抱えるラミア。木魚を叩く音が聞こえて来そうである。そして結局、彼女は考えることをやめた。

 「まあいっか。とりあえずゲームしよ、ゲームっ♪」

 三人がやってるの見てて、私もあの戦争ゲームやりたかったんだよねー、とるんるん気分で、彼女は居間に向かっていった。


 その日。
 仮想空間に作られたアラスカの戦場を妙に身のこなしがうまい軽機関銃を抱えた衛生兵攻撃に守備にと駆け巡り、世界中のネット掲示板で話題になっていたそうな。

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