「……う、うう、なにが……」
意識を取り戻し、頭を二度、三度振って、上半身を起こした彼が、まず見たものは、一面の闇だった。
「……真っ暗だ」
意識を失う直前まで、夕闇が辺りを覆い始めた公園にいたはずなのに。ここまで闇が辺りを覆うということは、それなりの時間が経っているかもしれない。
そう思った彼は、夏服の白いYシャツ、その胸ポケットから携帯電話を取り出して、画面の時刻表示を確認した。
「あれ?一分も経ってない……」
公園の時計を見上げたから、間違いない。気を失ってから、それほどの時間は経っていなかった。いや、そもそも──
「なんでこんなに、真っ暗なんだ?」
この公園は、住宅街に囲まれた街中である。夜になっていたとしても、明かり一つ見えないこんな漆黒に包まれることはないはずだ。
第一暗闇の中にも関わらず、自分の姿だけがまるで光に照らされているかのように、はっきりと見える。
「……なんなんだよ、一体」
辺りを見回しても、この漆黒に終わりは見えない。それどころか、広さも、高さも、全く分からなくなるほどに、目に飛び込むもの全てが黒だった。
「やっとお目覚めだね」
突然、高い少女の声が、耳に飛び込んだ。その声に振り向くと、闇の中に、声の主であろう、背格好が小学校低学年くらいの女の子が、
彼を悪戯っぽい微笑みで見つめていた。
日本人はおろか、普通の人間ではありえないような、ウィッグと思われる鮮やかな桃色の髪。その顔は幼い中に妖艶さが色濃く入り混じる、端正なもので、
最早水着といっても差し支えない、胸と腰だけを覆う、黒い光沢のあるエナメル質のビキニとパンツを纏った少女は、闇一色とは対照的な、病的に白い肌を
惜しげもなくさらし、彼に歩み寄った。
「き、君は……」
何者かを問いかけた少年のつぶやきには答えず、彼をあちこち、品定めするように視線を移した後、彼女は腕組みしながら、感心したように口を開いた。
「やっぱり何度見ても女の子みたいだね、うん」
「ほっとけ!」
見ず知らずの女の子に、少しムキになって答える彼。しかし彼女の言葉にも無理はない。
その顔は同年代の男の子よりもだいぶ中性的で、少女といっても十分に通じる。それも頭に「美」がつくような、それほどに性別を惑わせるような作りだった。
小柄で細い体つきと、短髪とは呼べない長さの、女の子の髪型で言えばショートカットとベリーショートの中間のような、少し色素の薄い髪と相まって、
市内にある市立中学校の男子夏服──純白のシャツに黒いズボンでなければ、女の子と見間違えられても不思議ではなかった。
「人が気にしてるのに、失礼なヤツだな……」
といいながら、諦めの混じった息を吐く少年。事実この容姿が、年頃の男子である彼にとっては、それなりのコンプレックスになっていた。せめて声変わりでもすれば、
と期待しているのだが、いまだその時期は訪れないようで、その声は少し高めの、思春期前のものである。
「えへへ、ごめんごめん」
ちろっと舌を出しながら、無邪気な様子の少女に怒る気力も失って、少年はズボンを軽くはたいて立ち上がった。
「ところで、ここはどこ?僕は公園にいたはず──」
すると女の子は、驚くべきことをさらっと口にした。
「ここはね、私が作った空間。外からは見ることも入ることもできない、私の場所なの」
「は?何を言って──」
「嘘は言ってないよ?悪魔はこれくらい出来てあたりまえだもん」
えっへん、と全くない胸を張る少女。そんな少女を、面食らったような顔で見ていた彼の表情は、まるで何かを憐れむような、生暖かさを含んだ優しいものになった。
「そうなんだ、すごいね〜。ところでおうちのひとはどこかな?つれていってあげるからここからでよう?」
「何よそのかわいそうなものを見るような目つきは!信じてないでしょ!?」
突然そんなことを言われて、信じる方が稀だろう。少年はどこまでも生暖かい顔で、少女に笑いかけた。
「そんなことないよ?だからおうちのひとのところへいこう?」
「こらあ!佐九場 香月(さきゅうば かづき)!この大悪魔リアムを馬鹿にしていいと思ってるのっ!?」
彼女に名乗った覚えは少年──香月にはなかったが、きっと財布の学生証でも見たのだろう。そう考えて、彼はおそらく本名ではなく、
アニメか何かの登場人物になりきっているのだろうが、本名を知らないのでとりあえずそう呼ぶことにした──少女リアムに手を差し伸べようとして、
「あ、あれ……体が」
体がまるで、何かでガチガチに縛り付けられたかのように動かないことに気付いた。自由になるのは首から上だけで、後は全く動かない。筋肉がぴくぴくするだけで、
それが動作に繋がらない。
突然の事態に混乱する香月の耳に、リアムの得意げな声が飛び込んだ。
「へへっ。どう?体が動かないでしょ?」
つかつかと香月の前に歩み寄り、腰に手を当てて見上げながら、にやにや笑う彼女。
「ここは私が作った空間だもん。みんな私の思い通りになるんだよ?もちろん、この中にいる香月もね」
見上げる赤い瞳の中に、得体の知らない何かを感じ取り、香月にここで始めて恐怖が生まれた。それが表情に表れるまで、さして時間はかからなかった。
「ま、まさか、本当に、悪魔、なのか?」
「にしし。やっと信じてくれた?」
傍から見れば、あどけない少女が朗らかに笑みを浮かべているように見える。しかし恐怖に支配されつつある香月の目には、それが獲物を前に卑しく嗤う獣のように映り、
数ミリさえも動けない体が、ガクガクと震え始める。だかしかし、彼も見た目は女の子のようだが中身はしっかり男の子。意外と意思の強い性分もあって、
香月は得体の知れない恐ろしさにほとんど吹き飛ばされて欠片しか残っていなかった、勇気とか蛮勇とか意地とか、そういうものを必死でかき集め、
リアムを涙目で睨みつけた。
「ぼっ、僕を食べる気か!た、ただじゃ食べられてやんないぞっ!!」
半分泣きべそをかきながら、必死で叫ぶ少年に、少女は思わず噴き出した。
「ふふっ。大丈夫。そんなことしないよ」
しかし香月は、それが気に入らなかったようで、
「わ、笑うなよっ!!だいたい、あ、悪魔の言う事なんて信じられるわけ無いだろ!!」
と、体が自由であれば噛み付いてきそうな勢いで、叫んだ。
「だから、そんなことしないってば。するつもりなら最初からしてるし、私は人間を殺したりしないし、食べたりもしないよ」
私はそういう種族じゃないしね、と付け足して、彼女は腕を組み、うんうんと一人で頷く。
「じゃ、じゃあなんでこんなところに僕を連れて来たんだよっ」
「よっくぞ聞いてくれましたぁっ!」
彼の叫びに近い疑問を聞いた途端、満面の笑みを浮かべて香月に向き直るリアム。そんな彼女の感情豊かな仕草に、少しずつ恐怖が薄れていくのが香月にも分かった。
「実はね、パートナーを探してたの!」
「ぱ、パートナー?」
うん!と大きく頷いて、彼女は語り始めた。
要約すると、リアムの話はこうである。
彼女は魔界と呼ばれる世界から、香月達人間が暮らす世界に、人間の「精」を集めにやってきた。
言うなれば、彼女はサキュバスなのである。
しかしこの世界では、「マナ」と呼ばれる、彼女達魔界の住人が生きるのに必要なエネルギーがごくわずかしかなく、この世界に長く留まることができない。
だから、彼女は香月の力を借りたい。そういうことらしい。
「……で、僕に手を貸して欲しいって訳?」
「そう!正確には体を貸して欲しいの!」
彼女の答えに、怪訝な顔を浮かべる香月。
「ど、どういうこと?体を貸せって……」
「ふふ。それはね……」
ふと、リアムが、彼の目の前から消える。比喩では無く、一瞬にして掻き消えた。それに驚いている香月の耳元に、妖艶な呟きが、粘ついた吐息と共に吹きかけられた。
「私と一つになって、完全なサキュバスになってほしいの」
脇から白くか細い手が伸びて、ぎゅっと彼の体を抱きしめる。程なくして、後ろから抱きしめられているんだと、香月は理解した。
でも、理解できない事もある。
「ひ、ひとつって、どういう意味だよっ!?」
後ろから抱きしめる左手は、彼の薄い胸をシャツ越しに撫で始め、右手は彼の股間を、黒いズボン越しに撫で始める。
「そのままの意味。私とあなたは合体して、サキュバスになるの」
「な、なんだよ、それっ!っあ、そ、そんなとこ触るなっ!」
彼の言葉を無視して、生地越しの微妙な刺激で膨らみ始めた彼自身を絡みつくような動作で撫で付けると、また不意に背中の感触が消える。次の瞬間には、香月の顔のすぐ目の前に、
リアムのそれがあった。
「心配しないで?すぐに終わるし、とっても気持ちいいことだから。ね?」
彼の肩を両腕で抱きとめる彼女は、幼さと妖艶さという、背反する二つの要素が合わさったひどく淫らな笑みを浮かべ、少しずつ近づいていく。足元は地に着いておらず、宙に浮いたまま、
リアムはその唇を、突然の事にただ見惚れていた彼のそれに合わせ、そして。
「っ!!んん、くちゅ、んちゅ……」
彼の僅かに開いていた唇を割って、彼女の舌が彼の口腔へ入り込む。それで中を舐りながら、リアムは自らの唾液を、口の端からわずかに零れるのも気にせず、香月へ送り込み始めた。
突然の彼女の行為に驚いた香月は、思わずそれを少し飲み込んでしまい──
「ん、んううっ!!?……んく、ふちゅ」
脳が蕩けるほどに甘いそれは、彼の体に熱と抗い難い衝動を植えつけた。
(な、なんだろ、これ……からだ、あつく、なって……ほしい、もっと、ほしい……)
されるがままだった彼の舌が、リアムのそれを求めてたどたどしく動き出す。それを察知した彼女は、香月の舌と絡ませあいながら、自ら啜り始めた彼へ、唾液をさらに送り始める。
それを嚥下する度に、彼はさらなる熱と衝動と疼きに悩まされ、もっとそれを求め、という終わりのない悪循環に陥っていた。
(ああ、からだ、あつい、あつい、ああついいい!!!)
そして彼を苛む熱と衝動と疼きは、ついに発情という欲望に纏まった。香月の心臓は激しく血液を送り出し、送り出された血液は彼の股間を大きく膨らませ、ズボンの下で窮屈そうに怒張する。
(ふふっ。もういいわね)
彼女がそっと唇を離すと、香月との間に、銀のアーチが繋がった。しかしそれはわずかな間だけで、すぐに切れて消えてしまった。
「……体が熱くて、疼いてしょうがないでしょ?サキュバスの体液を人間が口にすると、そうなっちゃうんだよ」
上目遣いで妖しく哂うリアム。そんな彼女の言葉もほとんど届かず、香月は熱に浮かされた表情で、頬を赤くしている。
「うふふ。本当に女の子みたいな、エッチな顔するんだね〜?」
彼のコンプレックスを口にしても、反論や反発は香月の口からは出てこなかった。出てくるのは荒い吐息だけで、その瞳も虚ろであった。理性や意思といったものは、
彼女の唾液を飲んだことで相当弱められ、性的な本能が代わりに、香月の体を支配しはじめていた。
「……じゃあ、一緒にサキュバスに、なろう?」
リアムの言葉と同時に、香月の制服が瞬く間に漆黒に染まると、溶岩が流れ落ちるように、どろどろと溶け落ちていく。彼女ほどではないが白く細い肩口が、綺麗な胸板やお腹が、
闇の中に際立って映える。そして僅かの間に、彼が見につけているものはすべて無くなった。
「ここはしっかり男の子、なんだね……」
肉付きの薄い、本当に少女のような裸身の中で、ようやく体毛に守られ始めた彼自身は、大きくも小さくも無い、年齢相応といったサイズを最大限に拡張し、その先端にはぷくりと、
先走りの雫が光った。そんな痴態を晒しているにも関わらず、香月は羞恥も抵抗も見せる事はなかった。ただ息を荒げながら、
「うう、はぁ、あつい、あつい、よぉ」
と、意思を失った瞳で、うわごとのように繰り返すだけだった。
「苦しそうだね。すぐに気持ちよくしてあげるから。……じゃあ、四つんばいになって」
「う……あ……」
リアムが命じたとおり、香月はゆらりとその場に膝をつき、次に肘をついた。その動きには香月の意思を感じ取ることはできない。香月は悪魔の体液を摂取したことによって、
極度の発情を起こしているだけでなく、体の制御も彼女に奪われていたのだった。今の彼はリアムのマリオネットである。
「じゃあ、いくよ……?」
そしてリアムも、同じように欲情しているらしく、上気した顔で呟くと、彼女もまた地に手足をつけると、彼の尻に顔を近づけ──
「っあ……あ、ああ!」
そのまま顔を埋め、香月の菊門を犬のようにぺろぺろと舐め始めたのである。その感覚に彼は思わず身を震わせて甲高く啼いてしまう。さらに次の瞬間には、さらなる快楽が、
全身を駆け巡った。
「うあっ!ひあ……んああ!!」
リアムの右手が彼の亀頭を掴み、やわやわと揉み解すように刺激を始めたのだ。その度に、自分でするよりも何倍も大きい快楽が、あっさりと限界を突破させた。
「ああああ!!うくぅぅぅぅぅぅぅっ!」
彼女の小さい右手の指の間から、白い粘りがポタポタと溢れ出す。それに気をよくしたリアムは、さらに攻め手を激しくさせた。
「あっ!あっ!とまら、ないぃ!とまらないよぅぅぅぅ!!」
快楽に啼き悦ぶ少女のように、溶けきった表情でよがる香月。一度の射精では留まらず、二回、三回と迸る。彼女との深い口付けで送り込まれた彼女の唾液を摂取した事により、
彼の肉体は限界を超えた速度で精を作り続け、吐き出し続けているのだ。さらに何倍も増幅された快感が、彼の理性と意思をごりごりと削り取っていく。
(わ、私、も、我慢、できないっ!)
右手と舌で香月を愛撫し続けるリアムも、ついに訪れた体の変調に悦び、その舌を彼の窄まりの奥へ押し込んだ。
「!!!っっああああああああああああ!!!」
それがさらなる絶頂となって香月に襲い掛かり、彼女の右手から最早噴き出す、といっていい勢いで、白濁がさらに漏れ出す。
そして、同調するように。
「んん、んんんんんんんんんん!!!」
リアムの体が、突然爆ぜた。背中が、腕が、足が、お腹が瞬く間に赤紫色に変わりながら膨らむと、ついに耐え切れず破裂し──
「ひああ!ふあ、ああああぅっ!!」
──したわけではなかった。
赤黒く、何本、いや何十本も蠢く、長い管状の肉腫。表面は何かの粘液でぬめり、気味悪さをたたえたそれは、彼の足や、尻や、腕や、頭や、胴や、性器に我先にと巻きつく。
リアムの体は一瞬でほどけ、触手となって彼に絡み付いているのだった。
先ほどまでの少女の面影は全く無い。彼女は髪の毛の一本に至るまで、すべて触手になったのだ。そしてそれは、
「あうっ、あおっ、うごっ」
彼の口に、
「おおお、おごおおおおおおっ!!」
彼の窄まりに。
「おふ、おう、もごっ」
何本も、何本も、殺到しては入り込み、香月の中に身を沈めていく。
「おご、ぐほ、げえっ、げほっ、げほっ」
程なくして、すべての触手が彼の体に消えた。結構な本数、長さ、太さであったはずなのだが、彼の喉や腹は膨れておらず、ただ触手が蠢いた後である透明な粘液の跡だけが、
所々彼の肌に航跡を残している他は、外見的に目立つ変化は無かった。
「はあ、はあ、かはっ、けほっ」
膝から、足から、肘から、腕から力が抜け、香月はその裸身を横たえた。深く息をしながら、体に入り込んだ異物を取り除こうとする体の反応なのか、時折咳き込みながら、
朦朧とする意識で、何が起こったのかを確かめようとして──
「ふう、はあ、あ……あが……あああああああああああああ!!!」
射精の際よりもさらに大きな甘い痺れが、全身を駆け巡った。
「あがぁ!ひうっ!ひき、うわああああああああああああっ!!」
悶え、いやのたうち回りながら、気を違えそうになるほどの快楽に、なんとか耐えようとする香月。
これが、体を作り変えられる感覚だということを、この時の彼は知る由も無かった。
「ああ!やめ、やめて!いや、ひあああ!!」
萎えかけていた男根が、再びいきり立ち、精を放つ。それに合せるように彼の手足が少し、その長さを増した。手の指も少し細くなりながら長く、女性のようなか細さを纏い始める。
「うくっ、ひあ、ひゃあああっ!」
声変わりがまだ訪れていないボーイソプラノが、さらに高くなり始め、三回ほど喘いだ頃には、透き通った少女の声音になる。
「あん!ああ、ふわああ!!」
腰周りの肉付きが変わり、寸胴にわずかななだらかさと括れが生まれる。
「ひゃうっ、ひいぃ、んああっ」
胸の二つの頂はぴん、と自己主張を始め、その周囲が内側から押し出されるように僅かに盛り上がり、なだらかな膨らみを形成する。少女のような男の子は、本当に少女になっていく。
「ひいあっ!あ、たま、おかし、くぅ……っ!なりゅううう!!」
そしてついに、男の象徴にそれは訪れた。
「!!っああーーーっ、あああ゛あ゛!!」
なおも精子を吐き出し続ける男根が、ずぶり、ずぶりと根元から引き込まれ、体に埋もれていく。その度に、香月は何度も何度も絶頂を迎える。
「んひゃああ!!きへぇ、わああああ!!」
二つの睾丸が、合わせて体の中に引き込まれ始めた頃には、彼自身はすでに半分以上の長さが失われていた。それでもみるみる短くなっていき、亀頭の先端、鈴口の部分を残して、全て
体の中へ埋没した。最後に鈴口の切れ込みがすっと縦に長くなると、それは花開く前の幼い秘裂と化して。
「はあああああ……っ」
香月は、少女になった。
「はあ、はあ、な、んだよぉ……いった、い……」
快楽が、熱が体から急速に引いていく。瞳が理性の光を取り戻し、少しずつはっきりしてきた意識で、彼は自身の体に起きた信じられない変化を知る。
「……え、あ、何、う、嘘……」
わずかにくびれる腰。控えめな膨らみ。あるべきものが無く、スリットが見えるだけの股間。体をあちこち見回した彼──いや、彼女の顔が、驚きと絶望の入り混じった色に染まっていく。
「な、なんで、女に……」
(それはねー、私が香月を作り変えたからだよ)
突然聞こえる、あの悪魔の声。香月は声の方を振り向こうとするも、視界に入るのは漆黒の空間だけだった。
「な、なんだよ、それっ!ていうかどこにいるんだよっ!出て来い!」
(私はここにいるよ?君の中に、ね)
「ぼ、僕の中!?」
リアムの言葉通り、それは耳から入るというものではなく、頭蓋の中に直接響くような、そんな感覚だった。触手になって香月に入り込んだリアムは、彼女の肉体の内部で同化し、
香月そのものになっていたのだ。
「な、なんで僕の中にいるんだよ!?出て行けよ!!」
(なんでって、言ったじゃない。君と私は合体して、サキュバスになるって。そのためにまずは、君を女の子にしたの)
「わ、訳分かんないよ!いいから戻してっ!」
(だからー、終わったら戻れるから。それにもうすぐ、融合がはじま──っ!!あはぁっ!き、きたぁ……)
「っっああっ!!!!」
射精の時とは違う、別の気持ちよさが、彼女の体を駆け巡った。ぺたりと座り込んだ格好で、香月は両手で自らの肩を抱き、震える。
その疼きは蜜となって、幼い花弁を、内股を濡らす。
「ひゃあっ!はあぁぁ……うふぅっ!!」
(はう、ひあ、ひあ、ひくうっ!)
その抱きしめる両肩が、少しづつ広がっていく。両肩だけではなく、腕も、足も、少しずつ伸び始めた。
「んああっ、あん、ああん!!」
(ひあ!うは、きふぅっ……)
二人の意識が、混ざり合っていく。どこからが自分で、どこからが相手なのか、分からなくなっていく感覚。
「はあ、はあああ!!ふあ、うひゃあ、ひいっ!」
(あん、ああっ!うあ、ふひゃあ、ひいっ!)
尻の柔肉が、胸の膨らみが、さらに内側から膨れていく。その頂も成長し、子供の控えめなそれが、一回り大きくなった。
「あっ、はあ、んあ、あ、あ、あんっ」
(あっ、はあ、んあ、あ、あ、あんっ)
そして、お互いの自我が、完全に崩壊した。しかしそれはすぐに一つにまとまって、新しい人格、理性、意識へ形を変えていく。
「あああああああああああああ!!……んはあぁ……」
快楽に喘いでいた表情に、妖艶は笑みが加わる。その顔も造形し直され、男を淫らに誘惑する、妖しげな美しさを持った女の顔へ、変わっていく。
「あはぁぁ……きもち、いい……」
高い少女の声は少し低くなって、艶のあるハスキー・ヴォイスへ。髪もその長さを増して、今は肩口を越え、背中に届いていた。
同時に根元から、鮮やかな桃色に染め直されていく。
「っはぁ、はぁ、もっと、もっとぉぉぉっ」
変化を拒絶していた香月の意識は、リアムのそれと完全に融合し、新しい魔性の者へと変貌を遂げていた。それに呼応するように、変化は終わりを迎えた。
肩甲骨が膨らんで、背中の皮膚を突き破る。ばさりと大きく広がったそれは、蝙蝠を思わせる巨大な羽。尾てい骨も体の中で変貌し、
よくしなる細く黒い尾が、勢い良くその身を晒した。
「あん!あん!あああ!、もう、ちょ、っとぉぉ!!」
絞られる腰周りと、膨らむ臀部のギャップは、大抵の男が簡単に堕ちてしまいそうな淫靡さをかもし出す。両手から溢れる豊かな果実も、
透き通るように白く瑞々しい肌も、淫らな雰囲気を纏い、男を誘惑するために生まれてきた種族であることを感じさせるのには充分だった。
そして秘所がいやらしく花開き、そこを髪と同じ桃色の茂りが覆い、香月は完全に人外へ成り果てた。
「はぁ……あはぁ……最高の気分ね……」
粘ついた吐息を吐き、ゆらりと立ち上がる香月だったものに、以前の彼を思い起こさせるものは無かった。頭二つ分以上伸びた長身も、
揺れる二つの膨らみも、きゅっと締まった腰も、いやらしく嗤う顔も、全てが香月のものでも、リアムのものでもない。唯一腰まで伸びた長い髪の桃色が、
リアムのそれと同じ色、それだけであった。
「ふふっ、じゃあ、行きましょうか……人間の精を、欲情をこの身に浴びて、我が力とするために……」
そして、彼女は朝日が昇り、再び二人に分かれるまで、幾多の男から存分に精を搾り取るのであった。
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