当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

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 まあフリについては基本的に前の頁で説明した以上でも以下でもないので、あまり新たに説明することはありません。例を見てみましょう。

例3:フリ


例4:ツッコミ


例5:フリとツッコミの併用


例6:何もなし(=シュール)


 いずれも説明タイプのフリです。見れば分かる通り、ツッコミとフリは互いに排斥するものではなく、併用するという選択肢もあり得ます。いずれの例でもXがボケているわけですが、例4はこれまで説明してきたツッコミのみを使うというものです。ツッコミは、さまぁ〜ず三村さん風の、敢えてたとえ等を用いずそのままの言葉を使うというものにしてみました。
 例3は、フリを用いるものです。ここでは、Aの質問に対して普通に答えているBCDが、「普通に部活動を答える」という基準状態を明らかにすることで、Xのボケによって作出される「普通に部活動を答えていない」というズレが強調されるわけです。これで、ツッコミがなくてもボケによるズレが受け手に理解されやすくなります。
 例5は、ツッコミとフリを併用するもので、例6は、ツッコミもフリもないという「シュール」に分類されるものです。この2つは見ての通りです。
 なお、冒頭で説明したように、「フリ」はボケに対する合図という意味で用いられることがあります。Aの「部活は何やってるの?」という発言は、この意味での「フリ」であると考えることもできます。これはまあ余談なのであまり気にしないでください。
 このように基準状態の説明あるいは設定によってボケの成功を助けるのがフリの役割ですが、ボケの成功を妨げるマイナスのフリというものも観念できます。このフリをやるには、「これから○○さんがすごくおもしろいギャグを見せてくれます」などと言ったり、事前に質の高いボケを見せたりして、受け手の基準状態をせり上げてやればいいのです。こうすると、普段であればズレを提供する「並のボケがされている」という状態が基準状態となり、より高度のズレでなければ笑いを生むことができなくなります。世に「ハードルが上がった」と言われる状態です。これは、わざとボケをすべらせてすべり芸を行う場合等に有効です。
 さて、フリの利点は、「ツッコミ」という技術ほど人口に膾炙していないという点にあると思います。このことは、ツッコミによる笑いは、フリによる笑いよりも多く行われており、そうである以上、飽きられやすいということを意味しています。また、そのために、ツッコミに対応するボケとしても質の高いものが求められることになります。
 ツッコミという手法については、受け手が多く触れている可能性が高く、「このぐらいのボケなら普通だろう」と考えて基準状態がせり上がってしまうからです。フリによる笑いは、まだあまり受け手に浸透していないので、ツッコミによる笑いに織り交ぜていくことで、基準状態の上昇や、お客さんの倦怠といった問題を防ぐことができます。
 とはいえ、フリによる笑いがあまり多く行われないのにもちゃんと理由があります。フリによる笑いは、ツッコミによる笑いにはない制約があるのです。
 すなわち、フリは、ボケに先行するものである以上、ボケに先立ってどのようなフリを設けておくかを考える必要があり、アドリブで行われるボケには対応できないという難点を抱えています。これは、事後的な手段であるツッコミが、技量さえあれば場当たり的に行われたボケをも回収できるのと比べると、極めて大きな違いです。
 だからといって、フリによる笑いには前述のような利点もあるため、全面的に諦めるべきだという話にはなりません。事前に内容を考えておく余裕がある場合には、フリによる笑いは積極的に盛り込むべきです。
 ちなみに、ツッコミによる笑いは基本的に2人(ボケとツッコミ)いればできるのに対して、フリにはそれ以上の人数が必要ではないかと以前の筆者は考えていましたが、そんなことはありません。冒頭で記した例2のように、2人でもフリは可能です。ボケかツッコミがフリもやってしまえばいいのです。例3のような例を見ると、フリにはボケやツッコミとは異なる第三の登場人物がいた方がいいのではないかという錯覚に陥りますが、それは文字通り錯覚に過ぎません。また、たとえ2人でフリができるとしても、人数が多い方が表現のパターンが豊富にできるという議論もあり得ますが、それはツッコミを用いる手法にも言えることです。
 冒頭の例2はボケがフリを兼ねる例でしたが、ツッコミがフリを兼ねる例も記しておきます。Aの第二発言がツッコミAによるフリになっています。この例では、Aの第二発言を「うん」と肯定しているXの第二発言も、フリの役割を果たしていると評価できるでしょう。ちなみに、例2と同じで基準状態設定タイプです。

例7


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