『クイーンに首ったけ』奥様はランゴスタ2(上)
スレ番号 | タイトル | カップリング | 作者名 | 備考 | レス |
---|---|---|---|---|---|
8 | 『クイーンに首ったけ 番外編』 奥様はランゴスタ2(上) | 男ハンター×擬人化ランゴスタ | クイーンの人 | 擬人化(ランゴスタ)・否エロ | 227〜230 |
『クイーンに首ったけ 番外編』 奥様はランゴスタ2(上)
「ホレホレ、こっちだこっち!」
ゼェハァゼェハァと耳ざわりな呼気を吐きながら首を振る紫色の怪鳥は、巧みに足下に潜り込んでフレイムサイフォスで斬りつける我が君に気を取られているのか、妾の方には殆ど注意を向けていないようじゃな。
沼地の汚泥に足を取られながらも、妾は手にしたジェイドテンペストをリロードして、手持ちの麻痺弾をありったけ詰め込んだ。
ほとんど狙いをつけることもせずに、そのまま銃口を怪鳥に向け、銃爪を連続して引き絞る。狩人になった最初のころは、いちいちスコープを覗かねばロクに当たらなんだが、最近では手慣れて、さすがにこの程度の距離では的を外すことものぅなったわ。
ガウンガウンという補助弾特有の微妙な反動を残しつつ、麻痺弾は3発とも命中し、かの紫毒鳥の動きを止める。
「我が君、いまじゃ!」
「ナイスだ、ラン!」
夫婦ならではの阿吽の呼吸で、互いに猛攻を開始する。
我が君は、実戦ではめったに最後まで出せない連続斬りを最後の回転斬りに至るまでキッチリ連発し、妾はすぐさま通常弾2に換装してリロード、そのまま連射し続ける。
しばしの後、麻痺弾の効果が抜けて動きだした毒怪鳥は、ボロボロになりながらも怒りに我を忘れておるようじゃ。
しきりに荒い息を吐き、カチカチと頭上の鶏冠を光らせようと試みる。
しかし、その物騒な発光器官は、対峙して早々に妾がありったけの散弾で破壊してある。我が君のように盾を持っている場合はまだよいが、生憎妾は軽弩使い。閃光で目眩しされてはたまらぬからのぅ。
無駄な動作をくり返す阿呆は、絶好の的じゃ。怒りに囚われそのようなことも分からぬとは……哀れな。
とは言え、妾たちは、その阿呆を狩るのが務め。無論、手心を加えたりはせぬ。
クエスト開始より10分あまりで、無事に紫毒怪鳥めの討伐を終えることができたのじゃ。
* * *
――のっけからの戦闘場面で驚かれた方もおられようが、ご安心なされよ。これは、間違いなく『クイーンに首ったけ』番外編じゃ。
「今日も御身が無事なままお仕事が終わって何よりでございますな、我が君」
「そいつは俺の台詞だ。お前さんがいてくれるからこそ、あれだけ迅速に仕事を済ませるんだしな。ラン、感謝してるぜ」
「未熟なこの身に過分なお誉めの言葉、有り難うございまする」
「HAHAHA、水臭いこと言うなよ。俺達は二世を誓った伴侶だろ?」
「ええ、故に我が背の君たる貴方様の背中を守るのは、妾の務め」
「だったら、奥方であるお前を護るのがオレの使命ってこった」
ギルドの確認も終わり、村まで帰る途上のアイルーの送迎荷車の上で、互いの健闘を讃えあう我が君と妾。……はて? 荷車を引くアイルー連中が、揃いも揃って砂を吐きそうな―アイルー故判別はしづらいが―表情をしておるのは、何故かのぅ?
「それにしても、ラン、今日のお前さんは、いつもより激しかったみたいだが」
「おや、お気づきになられましたかえ。左様、あの毒怪鳥と言う輩には、いささか含む所もあります故」
あのゲリョスとか呼ばれておる鳥竜種は、二通りの理由でランゴスタであったころの妾にとっては厄介で不快な存在じゃった。
ひとつは、その身に備わった発光機能。狩人からの自衛のためとは言え、あの閃光はランゴスタを始めとする小型モンスターにとっては閃光玉を直視したのと同様、直視しただけで目を回して無様に地に落ちることとなる。
二つめは、そのクチバシより吐き散らす毒液。虫類共通の弱点である毒を無造作に振りまかれては、ランゴスタやカンタロスにとってはよい迷惑よ。妾も一度吐きかけられて半死半生の目に遭うたことがある。
ところで、狩人稼業を続けるうちに気づいたのじゃが、元ランゴスタであった妾は、やはり通常の人にはない特質を備えておるらしい。
あの元の妾の甲殻から作られた下着を着ておるだけで、防御力が多少上乗せされるのは、ガンナーの妾には有り難い利点じゃ。また、本来は、アイルー料理によって発動する"ネコの胆力"が常時付加されているような状態も、元モンスターならではかの。
ただし、長所ばかりではない。たとえば、素の状態でも妾はいわゆる毒倍加のマイナススキルが発動しておるらしい。
その意味では、その異名の通り毒攻撃を仕掛けるゲリョスめは相性の悪い相手ではあったが、前述のような理由から、是非とも一度、妾の手で鼻を明かしてやりたかったのじゃ。
心配性の我が君は、持てるだけの漢方薬と解毒剤、それにとっときの秘薬まで妾に持たせてくださったが、幸いにしてそれを使うこともなく、無事にこうして狩りを終えることができた。これも、我が君と妾の、あ、愛の絆(ポッ)あっての勝利よ。
「では、我が君。妾は先に家に戻って昼餉の支度をしておきますゆえ」
仕事のあと、村の集会所兼酒場で勝利の杯を傾けられる我が君と別れ、妾はひと足先に自宅に戻ることにした。
「おぅ、いつもすまんが、頼んだぜ。俺もそう遅くはならないようにするから」
「心得ておりまする。それでは……」
事情を知らぬ者が見れば、我が君の態度は横柄に思えるかもしれぬが、酒場における"こむにけーしょん”は、情報収集なども含めて狩人としては極めて重要じゃ。仕事後の疲れた身でそれを引き受けて下さる我が君には、むしろ感謝しておる。
それに……やはり、内儀(おかみ)としては亭主を家で出迎えるのが筋と言うものじゃろうからのぅ。
「あ、奥さん、お帰りにゃさい」
家に入ると、アイルーのシズカが出迎えが迎えてくれた。
彼女は、かつて妾と友誼を結んでいたトモエの孫に当たるアイルーで、1週間ほど前、はるばる東方からこの地までトモエの訃報と遺品(使い込まれた包丁じゃった)を届けてくれたのじゃ。
シズカの話によれば、妾が人となって我が君の元に嫁いだことは、ネコニュースネットワーク(何でも大陸全土をカバーしておるとか)を通じて、ふた月ほど前にトモエも知ったらしい。
そのときはまだトモエも存命で、妾の幸せを喜んでいてくれたそうじゃが、寄る年波には勝てず、ついには死の床につき、ひと月ほど前に帰らぬ人、いやネコとなったらしい。
そのとき、彼女の孫の中でいちばん元気で好奇心旺盛なシズカが、伝言と遺品を言づかったとのこと。
妾にとって最初の、そしてかけがえのない友が、20年の時を経ても妾のことを忘れずにいてくれたことへの喜びと、同時に彼女が亡くなったことへの悲しみに、妾はひと晩中涙にくれて明かした。
そんな時も、我が君は余計なことは言わず、ただ黙ってそばにいてくださった。それがとれだけ心強かったことか……。
「ニャ? どうかしましたか、奥さん?」
「ああ、済まぬ。つい追憶にふけってしまっただけじゃ。留守中変わったことはなかったかえ?」
シズカは、せっかくこちら(大陸中部)まで来たので、観光とがてらしばらく滞在するつもりらしい。妾たちが狩りに出て家を空ける時に留守番する代わりに、宿と食事を提供することを約束したのじゃ。
「それが……ヘンにゃ女の人が来ました。だんにゃさんを訪ねて来たみたいでした」
むむ、我が君に女の影? 浮気?? 新婚家庭崩壊の危機!?
……などと言うことは、妾はちぃとも思わぬ。
己で言うのもなんじゃが、我が背の君は、愛妻たる妾に首ったけ。よそのおなごに目を移すことなど、現状ではあり得ぬわ! ……まぁ、実のところ、同じだけ妾も我が君にメロメロ(死語)ではあるが。
それに、多少回数が減ったとはいえ、毎晩限界近くまで"旦那様"の子種は絞り取っておるからのぅ。妾の目を盗んで浮気なぞしとるだけの精気も甲斐性もないはずじゃ!
となると、大方狩人仲間の誰ぞが、我が君の手を借りとぅて訪ねて来た、と言うオチじゃろう。
最近でこそ妾の訓練に付き合って戴いておるが、そもそも我が君はこの村でも稀少な上位の狩人。難敵相手とあらば、その技量を必要とする輩がいても不思議ではない。
――と、着替えながらそこまで考えたとき、玄関口の方から声が聞こえた。
我が君なら、「ただいま」の一言とともに入って来られるはずなので、これがそのお客なのじゃろうて。
「はい、ただいま参りますゆえ、しばしお待ちくだされ」
帯の位置を整えながら玄関へ向かう。
「遅ーーーーい! わたくしをこんなあばら屋の入り口に待たせるとは、まったくどういう了見ですの?」
そこには、豪奢な純白のロングドレスに身を包んだ、歳若い女子が、従者らしき男女を従えて、プリプリ怒りながら立っておった。
<つづきます>
2010年08月15日(日) 09:22:36 Modified by gubaguba