『クイーンに首ったけ』完結編3
スレ番号 | タイトル | カップリング | 作者名 | 備考 | レス |
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10 | 『クイーンに首ったけ』完結編その3 | 男ハンター×擬人化ランゴスタ | クイーンの人 | 擬人化(ランゴスタ、カンタロス)・否エロ | 220〜224 |
『クイーンに首ったけ』完結編その3
「――たべちゃうぞーたべちゃうぞー♪」
いや、キダフさん。それギリギリだから勘弁。
「♪ご〜はんだ、ごはん〜だ〜」
ああ、カンティくらいの子が歌うのは微笑ましいやね。
「♪おべんとおべんと(←小声で)……な、何でもありませんわ!」
……もはや、何も言うまい。
年少組3人(含む成人1名)の浮かれっぷりを、(生)暖かい目で見つめる、我々年長者3人。
改めて説明する必要もないかもしれないが、ひと風呂浴びて(カシムが湯桶によるKOから回復して)落ち着いたところで、いよいよ残りの"うきうきグルメゾーン"に揃って来ているのだ。
グルメゾーンは、ギルド直営酒場に匹敵するその床面積の大半がバイキングコーナーになっていた。
入り口でひとり50ゼニー払うだけで、何をどれだけ食べてもOKと言う、育ち盛りや食いしん坊には夢のような空間だろう。制限時間は2時間だが、それだけあれば酒飲みながら話に花を咲かせててもお釣りが来る。
バイキングという形態上、立食が基本のようだが、一応申し訳程度にテーブルと椅子もあるので、その一画を俺達で占拠することにする。
しかし、カンティやキダフはともかく、貴族の令嬢としてそれなりの美食に慣れ親しんでいるはずのヒルダが浮かれているのはどうかとも思うが……まぁ、わからんでもない。
10を越える円卓に並べられた山海の珍味の数々!
ザッと目についたものだけでも……
・紅蓮鯛尾頭つきの岩塩焼き
・ローストギガントミートの東方風ソース
・キングトリュフ&千年蟹&ピンクキャビアの3大珍味のテリーヌ
・7種類の野菜(シモフリトマト、オニマツタケ、五香セロリ、レアオニオン、砲丸レタス、銀シャリ草、激辛ニンジン)のサラダwithシュレイド風ドレッシング
・たてがみマグロとカジキマグロの大トロの握り
・フライド龍頭&龍足の串焼き
・ココット米と古代豆のリゾット 幻獣チーズ味
・エメラルドリアンのソルベ
……などなど。正直、素材を聞いただけで、「これ、絶対予算オーバーしてるだろ!?」と言いたくなるような名産品のオンパレード。伯爵と言う地位の割に質実剛健な暮しを営むウチの実家では、年に何回もお目にかかれないご馳走だ。
垣間見えるキッチンで働いているのは、アイルーコック4匹に司厨長らしき人間のシェフ1名という豪華スタッフだ。まぁ、さすがにオープン記念のサービスだろうとは思うが……。
年少組は歓声混じりに円卓に突貫しているものの、ここまでご馳走を目の前に積み上げられると、俺としては正直胸膨れがしてくる。
仕方がないので、俺やカシムは適当な2、3品をツマミ用に皿に盛って、氷結晶のクーラーで冷やされたポッケ村特産地ビールを煽ることにした。
「おや、お召し上がりにならないのですか、我が君?」
「うーん、腹が減ってないはずはないんだが、ここまで大量に出されると、見ただけでお腹がいっぱいと言うか……。」
「いるか?」とビールの瓶を掲げて見せたが、ランは微笑って辞退した。
「妾もいまひとつ食欲が湧きませぬでな。少々湯冷めしたのやもしれませぬ」
「そりゃいかん。待ってろ。何か羽織るもの借りてくる!」
後ろでランが何か言いかけていたが、俺は気にせず入り口にいる係員の方へと走り出していた。
* * *
<カシム視点>
マックのバカが席を離れた瞬間、目の前のランさんはテーブルに肘をつき、そっと溜め息を漏らす。
「奥さん、もしかして、かなり体調悪いんじゃねーか?」
グラスを置いたオレが問いかけると、彼女はオレの存在に初めて気づいたように、驚いた表情を見せる。
「……カシム殿。いつから?」
いや、普段あれほど凛として気を張っているこの女性が、プライベートな空間でもないのに、崩れた様子を見せていると言うだけで、その調子の悪さは推し量れる。気配に聡いはずなのに、オレのことに気づいてなかったみたいだしなー。
「――痛いのはお腹?」
唐突にオレの背後から聞き慣れた声が問いかけたが、オレとて付き合いは長いから、今更驚かん(いや、ホントはちょっと驚いたけど)。
「やれやれ、お二方には敵いませぬなぁ……」
ほんの少しだけ倦怠の色を瞳ににじませて、ランさんが苦笑する。
「たいしたことはありませぬ。ただちょっと下腹が痛く、頭が重くて、体中がダルいだけであります故」
いやいや、それって十分たいしたことだと思うぞ!? 聞いた限りでは、風邪の初期症状かとも思えるが……。
「――ひとつ不躾なことを聞く。前の生理はいつ?」
ちょ……キダフ、親しき仲にも礼儀ありと言ってだな。……いや、女同士ならこういう会話もごく普通のことなのかもしれんが。
ところが、ランさんは彼女には似合わぬキョトンとした顔でキダフの顔を見つめている。
「生理……ああ、月経のことですかえ? いえ、妾はまだ知りませぬので……」
ヲイヲイ、ウソだろう!? 20代半ばで、しかもキダフのような幼児体型(ギロリ)……コホン、少女のような体型の持ち主ならいざ知らず(と言うか、キダフにだって毎月、しっかり"ある"し)、こんな成熟した肢体の持ち主に、"来てない"なんてことが……。
と、そこまで考えて、この女性が普通の人生を歩んで来てはいないことを、オレは思い出した。
「―下腹はシクシク痛む感じ?」
「うむ、言われてみればそんな感じですのぅ」
つぎつぎ問いかけるキダフへのランさんの回答を聞いていると、ますますその疑いは強まった。
「おい、キダフ、もしかしてこれって……」
「―おめでとう、ラン。今日から貴方は"女の子"」
「は? へ? えーと……え? え?」
やがて、キダフの言いたいことを理解したのか、ランの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「エエエエーーーーーーーーーッ!?」
* * *
ランの(滅多に……と言うか一度も聞いたことがない)絶叫を聞きつけて、俺が席に戻ったとき、俺は一瞬己れの目を疑ったね。
あれだけ常日ごろから、凛と気高く、落ち着いた、あの師匠との試練の時でさえも最後まで取り乱すことのなかったウチの嫁さんが、まるで年若い(い、いや、ランさんは今でも十分お若いですヨ?)、年端もいかない女の子のように顔を赤らめて目を回していたのだ。
「おいっ、カシム、こりゃいったどうなって……」
「おめでとうございます、お姉様! この部分に関してなら、わたくしにも色々とご忠告してさしあげることができますわ!!」
「私も同じ。頼りにしてくれてよい」
あのぅ、状況が見えないんですけど、ボク。
いろんな意味で興奮している4人に聞くのはあきらめて、俺はニコニコしているカンティの方に目をやった。
「あー、何か知ってるか、カンティ?」
「えーと、何でも、姉君様が"女の子"になられたんだとか。変ですよね? 姉君様はもうリッパな大人の方で、女の子と言うより大人の女性って感じなのに」
……
…………
…………………
…………………………
「なにーーーーっ!?」
カンティの答えの意味を俺が理解するまで30秒ほどの空白が生じたのだった。
* * *
結局、ロロパエ・トロピカル・センターでの晩餐は、あのあと、「ヒルダさん、お赤飯おめでとう!」の乾杯とともにお開きとなり、俺達は余韻もそこそこにセンターをあとにした。
キダフはわざわざ家にまで来て、ランにいろいろ言い含めてくれた。
ヒルダ達も本来は我が家に泊まるはずが、気を使ったのか酒場の2階に宿をとったみたいだ。
部屋着に着替えて居間に戻り、ひと心地ついたところで、ふとランの顔を見つめる。
「……ああ、申し訳ありませぬ。気が利きませんでしたな。いまお茶を淹れます故」
「あ〜、違う違う。いいからそのまま楽にしてろって」
「されど……」
「いいから! 妻の体調が悪いときくらい、旦那に気を使わせてくれよ」
強引に肩に手をかけて引き戻したところで、俺はランの体が小刻みに震えていることに気がついた。
「! どうした、ラン? もしかして寒いのか!? 悪寒がするとか、痛くてたまらないとかか??」
「いいえ、違います、我が君。妾は……」
ランはいったん口ごもると、躊躇いがちに言葉を続けた。
「妾は……恐いのです」
「何がだ? その…生理が来たことがか? いや、しかし、男の俺が言うのもナンだが、大人の女性なら誰でも毎月経験しているって……」
「違います」
気がつけばランの体の震えは止まっていた。
「生理そのものが恐いのではありませぬ。我が君の子を受胎可能になったと言う事実が恐ろしいのです。妾は……このまま我が君に抱かれていてもよいのでしょうか?」
「は? 何を馬鹿なことを。そんなのいいに決まって……」
「妾は人間ではありませぬ!!」
あえて笑い飛ばそうとした俺の言葉を、思いがけぬほど強い口調で遮る。
「少なくとも、たかだか1年ほど前までは、密林に舞う一匹の羽虫でしかありませぬ。20と5年も生き、そのままならほどなく天寿を全うしていたであろう歳経たランゴスタ。……それが妾でした」
今まで見たこともないような昏い目をして、自らの下腹部を見つめる。
「羽虫時代に出産経験もあります……"卵を産むこと"をそう呼べるのならば、ですが。
妾は恐ろしい……もし、我が君との間に子を成したとして、それがかつてのような卵でないと断言できるでしょうか?」
真剣なランの表情に、俺は即答できなかった。
「い、いや、その……お向かいのラミさんとこ。あそこはふつうに可愛い娘さんが生まれてるじゃねぇか」
古龍から人になった女性とハンターの男性との夫婦を例に反論する。
「ええ、確かに、人の子が生まれるかもしれませぬ。いえ、むしろその可能性の方が高いのでしょうな。しかし……仮に"人"の範疇に入るとしても、体の何処かに異相を帯びていたら、如何致すおつもりですかえ?」
……また、ランの奴も痛いところを突いてくる。
あれから俺も色々調べてみたのだが、人以外の生き物が人化するケースは、調べた限りでも年に数件はあるみたいなのだ。
その場合、多くはウチのランと同様、人と何ら変わらぬ姿形、体生理機能や精神性を持つようになるが、ごく一部には元の生物としての形を留めて"異相"を持つ者もいるらしい。
たとえばヒレのような耳、たとえば額の角、あるいは猿のような尾などなど。
アイルーや竜人などとも共存している関係上、大概の場合、多少の異相もこの地の人々は受け入れるが、全ての人がまったく偏見を持たないか、と言えばそうではないだろう。
(では、俺はどうなんだ?)
心の中で自問する。
――蜂の複眼を持った子、あるいは4枚の羽を、毒針を持った子が生まれたとして、我が子として愛せるのか……。
――その子が周囲の好奇や偏見の目にさらされたとして、全力で守ってやれるのか?
――そのような苦労を強いる子や、その母親であるランに、変わらぬ愛情を注げるのか?
答えは……YESだ!
精気に欠けるランの体をきつく抱きしめる。
「! 我が君…離してたもれ……」
「バカなことを言うな! お前が俺のことを"我が君"―夫だと認識しているように、俺にとってもランが唯一無二の妻なんだ。その俺達のあいだに生まれる子供を祝福できないなんてことがあるもんか!!」
拙い言葉だったが、そこに込められた俺の本気さ加減は伝わったのか、ランの体からこわばりが抜け……やがて、おずおずと俺に身を任せてきた。
「我が君……いえ、旦那様……妾は、妾は……」
「いいんだ。何も言わなくても。わかってくれたのなら、それで」
「う……うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
抱きしめる俺の腕の中で、童女のように泣き叫ぶラン。その姿は、いつもの優雅で上品な"理想の奥様"像とはかけ離れていたかもしれないが……それでも、その心の奥底を全部さらけだしてくれたようで、俺は嬉しかった。
いつしか、俺の両目からも熱いものがこぼれ落ち始め……俺達は、涙でグシャグシャになった顔のまま口づけを交わし、互いの体をしっかり抱きしめ合ったまま、眠りについた。
〜エピローグへ〜
2010年08月17日(火) 09:10:12 Modified by gubaguba