『ランゴスタ奥様劇場』その3
スレ番号 | タイトル | カップリング | 作者名 | 備考 | レス |
---|---|---|---|---|---|
9 | 『ランゴスタ奥様劇場』その7〜9 | 男ハンター×擬人化ランゴスタ | クイーンの人 | 擬人化(ランゴスタ、カンタロス) | 10〜12、44〜48、62〜64 |
『ランゴスタ奥様劇場』その7〜9
『ランゴスタ奥様劇場』その7
5人で鍋を囲んだ日の次の夜の話。
「じゃあ、いくぜ……」
重ねた唇をいったん離したマックは、ランの頬に手を沿えながら囁く。
「あ………だ、旦那様…早う、来て……」
ランは、マックの手をそっと握り返し、熱く潤んだ目で見つめたまま、ゆっくりと自らの両足を開いていく。
手探りで、ランの割れ目を探り当てると、マックは己れの息子を一気に突き入れた。
「…く、ふっ……」
「あっ…あぁぁぁ、あっ……」
その途端、ふたりの口から歓喜の声が漏れ出す。
「……ああ、ラン…いいぜ…相変わらず、お前の膣内(なか)は最高だ……」
「はっ、あ…あっ、よ、喜んでいただけて、幸い、です……ああっ…あんっ、わ、妾も……ああ、ああんっ!」
すでに軽く3ケタを越える交わりを経験してきたふたりは、互いの感じるツボなど手に取るようにわかっている。
マックが、円を描くように腰をうごめかせながら、ランの豊かな乳房をまさぐれば、ランも、口からあられもない喘ぎ声が漏らしながら、巧みにその内部を蠢かせ、締めつける。
「ラン……ラン、ラン……好きだっ……愛してる」
「あっ、あああっ……うれしゅう、ございます……旦那さま………妾も……んんっっ!!」
肉体のつながりだけでなく、このように愛情を確かめ合う囁きでも、快感と悦楽が倍増することも、すでに学習済みだ。
ランは、あまりの快感に、無意識のうちに涙をこぼしているようだ。
そんな妻の目尻を伝う涙をやさしく舌で拭いながら、マックはランをしっかりと抱きしめ、さらに激しく腰を前後に動かす。
「はぁ…はぁ、ラン……ランっ!!」
「あ、ああっ……だ、旦那様…だんなさまっ……!」
徐々に、お互いを呼び合う声も甲高くなり、切迫した響きが混じるようになる。
「くっ……イ…イクぞ………!」
「ああっ、来て、来てたもれ……あっ、あっ、あっ……ああぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
ほどなく、ふたりは共に絶頂を迎えることとなった。
* * *
抱き合ったまま荒い昂ぶりが収まるのを待ち、ようやく呼吸と心拍が平静に近づいたところで、名残惜しげに抱擁を解き、布団の中に並んで横たわる。
「のぅ、旦那様……」
ランが、うつ伏せになった状態でマックの胸に擦り寄り、ふと思いついた疑問を投げかける。
「昨夜の晩餐での旦那様の字名の話じゃが……もしかして、あれは嘘ではないかえ?」
「……はぁ? えらく唐突だな。何か気になることでもあったか?」
「最初、カシム殿が理由とやらを話そうとされた時、旦那様はエラく慌てていらした。それなのに、いざカシム殿が話し始めると、それほど嫌な顔をされていなかったからのぅ」
己れの腕の中で上目使いに見上げてくる妻の顔をしげしげと眺めたのち、マックは溜め息を漏らした。
「……ふぅ〜、言葉にしなくても表情でわかる仲ってのも、良し悪しだな」
「されば……?」
「しゃあねぇ。話してやるけど、ほかの奴らには内緒だぞ?」
とくにヒルダにはな、と念を押してからマックは真相を語り始めた。
「って言っても、アレはアレで嘘ってわけじゃない。ただ、それ以外にも理由があるってこった。俺が元貴族のボンボンで、半ば家出したような状態でハンターになったってことは、知ってるよな?」
「うむ、ヒルダより、聞き及んでおりまする」
「実家にいたころから、剣の腕には多少自信はあったんだ。親父が、その辺りはけっこう厳しい人でな。貴族の次男坊とあっては、学業か武術のいずれかが優れていなければ、この先身を立てていくのは難しかろう、ってな」
勉強嫌いの落ちこぼれは、必然的に剣の鍛錬にのめり込んだのだ、と自嘲する。
「とは言え、所詮は実戦も知らないお坊ちゃん剣技だ。右も左もわからぬハンター稼業に足を踏み入れたら、剣以外にも覚えないといけないことは沢山あるしな」
かつての自分は、例の年上の美人と結婚した後輩ハンター以上の勘違い野郎だったなぁ〜と、遠い目をする。
「ハンターになって1月ぐらいしたころは、クエストの成功率が半分を切っててな。さすがに自信喪失して王都に帰ることも頭を横切るようになったさ」
そんな時、マックにこの稼業のイロハを叩き込んでくれた年配の狩人がいたのだと言う。
すでに老人と言っても差し支えない年齢にも関わらず、ウォーバッシュと呼ばれる巨大な鉄槌を豪快に振り回すベテランハンターだった。
「その人と組むようになって以来、当然っちゃあ当然だが、請ける仕事はことごとく成功でな」
彼にとっては有り難い話であるはずなのに、マックは徐々に引け目を感じるようになってしまった。
「まぁ、それほどの古強者にとっちゃ、俺のような下位ハンターの受けられる仕事なんて、朝飯前だったんだろうが」
身に着けた装備の質は、もちろん違う。
しかしそれ以上に、狩りを積み重ねた経験と、そこから得られた知識が段違いだ。
「でも、その時の俺には、そんなことがわからなくてな」
その人がいともたやすく数々のモンスターを屠れるのは、手にした武器が強いからだとだけ思いこんだ。
ようやくドスバイトダガー改を作ったばかりの彼は、酒場でそのことを愚痴ってしまったのだと言う。
彼の戯言を耳にした老ハンターは、黙ってマックを鍛冶屋に連れていき、彼の目の前でアサシンカリンガを作らせた。その場で買ったハンターシリーズを身に着け、そのアサシンカリンガを手に、彼を連れ、怪鳥狩りのクエストに挑んだのだ。
「単身用ならともかく、集団狩り用のイャンクックだぜ? それを俺には何もさせずに、制限時間いっぱいどころか半分も残してひとりで倒しちまいやがった」
回復薬を使い切り、ボロボロになりながらも、倒した怪鳥を背に、ニカッと笑った老狩人の笑顔は、強烈な印象をマックに残した。
「『敵を知り、己れ知れば百戦危うからず』」
「東方の軍略家ソンシの教えですな?」
「らしいな。『全てのハンターの基本は、己れの武器の特性と、モンスターの特性を知ることよ。さらに狩り場の地形を利用し、適切な戦法で挑めば、必ず勝てるもんじゃ』って一喝された」
それ以来、"狩魂王"と呼ばれた老狩人のせめて"片腕"分くらいの働きはできるようになりたいと、彼に熱心に師事するようになった。そこから、ついた呼び名が"かたうでマック"の起源らしい。
「まぁ、そうと知って呼ぶ奴も、今では少なくなっちまったがな」
と、照れ臭そうにマックは締めくくる。
「なるほど。"人に歴史あり"とは申しますが……よい出会いをなされたのですな」
優しい色を瞳に浮かべて、自らの夫を両腕できつく抱き締めるラン。
「おいおい。いつになく甘えん坊だな」
「申し訳ありませぬ。なぜだか旦那様をギュッとしたくなってしまいました故……」
彼の顔に僅かに浮かんだ郷愁の色を見て、胸が締めつけられたのだ、とは口にしない。 しかし、言葉にしなくても気持ちは伝わったのだろう。彼女の夫も抱き返してくれる。
しとねに暖かな空気が流れ、そのほのかな温もりに包まれたまま、ふたりは眠りについたのだった。
〜やはり今回もオチなく終わり〜
- 爺さん万歳。若者を叱咤激励する老将って感じのキャラは大好きです。
<オマケ>
「ところで我が君。そのお師匠様は、未だご健勝なのですかえ?」
翌朝、朝食をとりながら、ランはマックに聞いてみた。口にしてしまってから、昨晩の夫の様子からすると、すでに引退しているか、あるいは最悪亡くなっているのではと言う懸念も浮かんだのだが……。
「おぅ、ピンピンしてるぜ」
どうやら、嫌な予感は外れたらしい。
「こないだも、単独でラージャン2頭狩りなんて無茶なクエストを軽々とこなしてたな。すでに70歳を越えてるってのに、化けモンだな、ありゃ」
「……本当にその御方は、人間なのですかえ? 黒龍や覇竜の化身と聞いても、妾は驚きませぬぞ」
「いや、違うんじゃないか? ミラもアカムも、ひとりで倒したことあるみたいだし」
――この世界でいちばん恐いのは人間かもしれない。
そう改めて考える元ランゴスタな奥様でした。
『ランゴスタ奥様劇場』その8
その馬車は、王都からおよそ半日あまりの場所にあるロロパエの村へと向かっていた。
車窓から見える光景が、徐々に人手の入らないごく自然なものに変化していく。
「わぁ♪」
本来は見慣れたはずの光景だが、改めてこの高さの視点から見下ろすと、非常に新鮮に感じられた。
「あまり身を乗り出すと、落ちてしまいますわよ?」
言われて、自分が頭……どころか両手両肩に至るまで、馬車の窓から乗り出していたことに気づいた。忠告に従って、素直に席に戻る。
「もうすぐ着きますから、少しだけ我慢しなさい」
「は〜い♪」
* * *
「ロロパエよ、わたくしは帰って来た!」
「……馬車を降りた第一声が、それと言うのは、正直どうかと思うぞ」
背後から突っ込む声が聞こえて来たので、ヒルダは振り返った。
「あら、カシムさん……でしたかしら? その節はどうも」
「ああ、妹さんもお久しぶり。マックのヤツなら、今日はちょうど家にいるはずだぜ」
「本当ですか? それは好都合ですわ。早速訪ねてみます」
挨拶もそこそこに、浮き浮きとした足取りで歩き出すヒルダ。
「ったく、兄妹仲がよろしくて結構なことだ。いや、妹さんのお目当ては義姉上なのかもしれんがな」
顎を撫でながらおもしろそうに彼女の背中を見送ったカシムだが、ふと眉を潜める。
「それにしても、妹さん、付き人を変えたのか? またえらくちっさい子だったが……」
そんなカシムの呟きも知らず、ヒルダは兄と義姉が住む家の扉を叩いた。
「こんにちはーー! お姉様、お兄様、いらっしゃいますか?」
「はーい」と言う声が聞こえ、ほどなく彼女の義姉であるランが玄関へと出迎えに現われた。
「おお、ヒルダか。久方ぶりじゃのぅ。息災だったかえ?」
「はい。お姉様もお変わりなくて何よりですわ」
などと女性陣が手を取り合っているところに、この家の主人も姿を見せる。
「いらっしゃい、ヒルダ。どうしたんだ、最近お見限りだっだじゃねーか?」
「もうっ、お兄様、ヘンな言い方をしないでくださいまし」
「ハハハ、わりぃわりぃ。でも、ここ数週間姿を見せなかったから、ちょっと心配してたんだぜ?」
「うむ。ケイン義兄上からは、妙な手紙も届いたことだしのぅ」
ランの言葉を聞いて、ピクリと身を震わせるヒルダ。
「手紙?」
「ああ、何でも、お前さんに子供ができたとか何とか……」
見るか? と差し出された手紙を、ひったくるようにして目を通す。
――前略。
元気でいるか? ……それだけが取り柄だよな。
村には慣れたか? ……すでに5年もそこに住んでる男に言う台詞じゃないけど。
嫁さん出来たか? ……って、確か新婚さんだったよな。
寂しくないか? ……同上。
お金はあるか? ……まぁ、貧乏性のお前だから、無駄使いとは無縁か。
今度いつ会える? ……いや、俺は特に用事はないんだが。
「こ、これは……本当に、ケインお兄様からの手紙なのですか?」
「おう、その筆跡には、ヒルダも見覚えあるだろう?」
確かに、言われて見れば、その手紙に綴られた文字は、彼女もよく知る長兄のものにほかならなかった。
――この町を綿菓子に染め抜いた雪が消えれば
お前が家を出てから5回目の春
手紙が嫌なら贈り物でも金でもいい
お前の笑顔を待ちわびる、お袋に届けてやってくれ
「い、いつも、ケイン兄様のお手紙ってこんなにポエミーですの?」
「ん? ああ、最初の書き出しは、毎回無駄にそんな感じだな。面倒くさいから、俺は読み飛ばしてるけど」
ヒルダの中で、伯爵たる父の片腕として、実直にして有能に振る舞う長兄ケインのイメージがガラガラと崩れていく。
(……そう、そうですわよね。よく考えてみれば、このマクドゥガル兄様と気が合うのですから、ケイン兄様も只者であるはずがないのでしたわ……)
実の兄ふたりに対して、随分と随分な言い草だ。朱に交われば何とやらか、あるいはその二人の兄の妹だけに血は争えない、と言うべきか。
「問題の部分は文末近くだ。ホレ、ここに」
「えーと……」
――追伸。我らが麗しの妹ヒルダが、先週お前の家から戻って来たとき、被扶養者を連れて帰って来たぞ。連れて来た子は、ヒルダを「ママ〜」と呼んで懐いている様子。
ビリッ!!
思わず力の入ったヒルダの手の中で、ケインからの手紙が破ける。
「これ、ヒルダ。手紙に当たるのはよしなされ」
「も、申し訳ございません、お姉様」
しかし、納得がいった。これでは兄夫婦が誤解するのも無理はない。
一刻も早く、誤解を解くべきだろう。
「……で、このシングルマザー事件の真相は?」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべている兄を鋭く一瞥すると、ヒルダは玄関の外へと声をかけた。
「こちらへいらっしゃい、カンティ」
「……はい、お嬢さま」
戸口からおずおずと姿を見せたのは、フィーン家お仕着せのメイド服を着た、11、2歳くらいの幼い小間使いの娘だった。
メイド服といっても、先日キダフが披露していたギルド制式のメイドシリーズではなく、むしろプライベートシリーズに近い。
黒のワンピースをベースに、白いエプロンやカチューシャ、黒いストッキングと編み上げショートブーツといったパーツで構成されたごくトラッドなものだ。スカートの裾は若干長めのようだが、大人しそうなこの子には、そちらのほうが似合っている。
「ホラ、ご挨拶しなさい、カンティ」
「はい……カンタータ・ローズと申します。先日、まま……じゃなくてお嬢さまに拾っていただき、お傍に置いていただいてます」
ふむ……と、首を捻るラン。
「要するに、ここから王都に戻る途中で、身寄りのないこの子を見つけて、自分の近侍にするべく家に連れ帰った、というわけかえ?」
「ええ。おおよそそんな感じです。ですから……」
「付け加えると、その娘はお前に懐いていて、人目がないところでは、ママと呼んでいる。お前もそれを黙認している……ってところじゃねーか?」
マックの鋭い指摘に沈黙するヒルダ。
「ま、気持ちはわからんでもないがの」
「これだけ可愛い娘じゃなぁ」
訳知り顔に頷く兄夫婦の姿に、ヒルダが逆ギレする。
「ええ、ええ、その通りですとも。わたくしだって、最初は、その子をウチの執事かメイド長に任せようと思いましたわ。でも、意外に人見知りで、わたくし以外の者には、最初懐かなかったんです!」
仕方なくヒルダ自ら相手しているうちにますます懐かれ、彼女自身もほだされてしまったらしい。
「それからお兄様、ひとつ考えちがいをされているようですけれど……この子は、男の子ですわよ?」
…………。
「なんだってーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
ビクッ!
「これ、我が君、大きな声を出されますな。この子が怯えておりまする」
「い、いや、だってなぁ……」
しげしげと、マックは、カンティの顔を眺める。
珍しそうな表情でキョロキョロしていた少女……にしか見えない少年だが、彼の視線に気がつくと、おずおずとした微笑を浮かべて見つめ返してきた。
(萌え〜〜〜……じゃない! お、俺はロリコンやない、ロリコンやないんやぁーーーーー!」
ガンガンガンと柱に頭を打ちつけるマック。
「我が君、途中から口に出されておりまするぞ」
「ついでに言うと、ロリコンではなくて、ショタ萌えではありません?」
妻と妹のダブルツッコミに撃沈する男一匹。
「うぅ〜、俺はロリでもショタでもない。俺は、俺は……」
「よしよし」
ガックリとうなだれる良人(おっと)の頭を、よく出来た細君(つま)が優しく抱きしめる。
「ああ……柔らかいな暖かいな〜。やっぱりオッパイは正義だよなぁ。貧乳に希少価値があっても、俺はやっぱりランの巨乳がいいなぁ」
「悪ぅございましたね、ひんぬーで」とむくれる妹を尻目に、ひしっと抱きしめ合うバカっぷる夫妻。その光景をもの珍しそうに眺めるメイド少年の姿がありましたとさ。
〜つづく〜
- シングルマザーの真相発覚&マックさんご乱心の回。
カンティ(カンタータ)の外見は、「イケてる2人」の桜井兼人の10歳のころを想像してください。「ときどきパクッちゃお!」の早川ミユキでも可。どっちにしてもゴトゥーザ様ボイスですが。
『ランゴスタ奥様劇場』その9
「どうぞ、楽にしてたもれ」
いつまでも玄関先で家族漫才やってるのも何なので……と、ランはヒルダたち主従を奥の居間へと誘った。
「ありがとうございます。お邪魔致しますわ」
「お、お邪魔します」
何度かこの座敷に通され、ここでの寛ぎ方を知っているヒルダはともかく、生まれて初めて畳座敷なんてものを目にしたであろうカンティの方は、少々緊張気味だ。
いざ中央のコタツ(ドンドルマのフリマで10000zで売っていた。中古品とはいえ格安だろう)についても、どのようにして座ればよいのか、わからないようだった。
「フフ、本来はこういうタタミのお座敷では、"正座"と言ってこのように足を折って座るのが東方の正式な作法なのですけれど……」
「ホホホ……身内だけの席で気張ることはないぞえ。せっかくコタツを出したのじゃから、足を伸ばして楽にしてたもれ」
主とその義姉から勧められ、おそるおそるスカートを撫で付けてちょこんと正座し、そのあとコタツの中にストッキングに包まれた脚を伸ばしてみる。
「あ! あったか〜い♪」
まだ寒期に入ったばかりとはいえ、今日はかなり冷え込んでいる。下半身に温もりを得られて、たちまちメイド少女……もとい少年は笑顔になった。
「スカート姿での立ち居振る舞いにも、相応に慣れているようじゃの。もしかして、我が君の実家でも、この格好なのかえ?」
「ええ、まぁ……か、勘違いしないでください! 別にわたくしが強制しているわけではありませんのよ? この子が、こういう女の子の格好の方が好きだって言うものですから」
「ふむ……ところで」
ランは、彼女の淹れたお茶の入った湯呑みを両手で抱え、ふぅふぅと息を吹き掛け冷ましているカンティを横目で見やりながら、ヒルダに問うた。
「何故、カンタロスが人化した子をお主が連れて歩いておるのかの?」
ピキッ! と凍りついたようにヒルダは動きを止める。
「な、なぜそれを……」
「うーむ、論理的な理由はないのじゃが、強いて言えば元人外だった者同士の勘、かの。妾も、人になったばかりのころはわからなんだが、同じように人化した奥様方から教えていただいて、何とはなしに感じられるようになったのじゃ」
こう、こめかみの辺りにピキューンとくるのじゃ、と笑って説明する。
……ニュ○タイプ?
「しかも、その子は妾と同じく元甲虫種であろ? いつもよりハッキリわかるようじゃしの」
「ご慧眼、おみそれ致しましたわ。あの、ところで……」
チラチラとランの背後の壁の辺りに目をやるヒルダ。
「お兄様はあのままでよろしいんですの?」
……今の今まで発言してなかったマックだが、じつは居間の壁にもたれ、体操座りをしながら膝を抱えてブツブツ言っている。どうやら先程の「ロリショタ疑惑」の傷痕は、案外深かったらしい。
「放っておいても夕餉のころには回復していようが……そうもいくまいか。これ、我が君、ヒルダから重要な話があるみたいですから、早ぅこっちに来なされ」
「――くそぅ、放置プレイなんて高度な技術、いつの間に身に着けたんだよ、おまいら」
文句を言いながらもすぐにこっちへやって来るところを見ると、どうやら半分はネタで、ツッコミ待ちだったらしい。
「で、だ。こいつを人間にした経緯をキリキリ吐いてもらおうか、ヒルダ」
「お兄様、そういう言い方は人聞きが悪いですわ」
文句を言いながらも、前回この家を訪れた帰路での出来事を話す。
「……と言うわけで、幼児をそのまま放置していくわけにもいきませんし、馬車に同乗させてお家に連れて帰ったんですけれど……」
まだほんの子供とはいえ、ほとんど裸同然の格好の子を連れ歩くわけにもいかず、さりとて途中で衣服を調達する適切な方法もなかったため、仕方なく、あの時一緒に来ていたお付きの娘の着替えを着せたのだと言う。
もちろん、その子も15歳とカンティよりは年上だったが、幸い比較的小柄な子であり、服も頭から被るタイプのワンピースだったので、多少大きくても何とかなったらしい。
「問題は……着替えさせたその娘が、ちょっと変わったシュミを持っていて、悪ノリしてしまったことでしょうね」
ヒルダは口を濁しているが、大体の事情はマックにも推測できた。
大方、その子は"女装ショタっ娘萌え"とか言う特殊な嗜好を密かに持っていたのだろう。
それが、妄想だけでなくリアルでも己れの手で実現する機会に恵まれ、つい若さに任せて暴走してしまったに違いない。
確かに、そういった観点から見れば、この元カンタロス少年は極上の素材だ。とくに化粧などをしているわけでもないのに、女好きの助平魔人(結婚して以来、制御されているとはいえ)なマックでさえ、美少女と見誤ったほどなのだ。
「さらに、この子のワンピース姿を見て、お母さまやメイド長まで、暴走してしまいまして……」
フィーン伯爵家の末っ子にして唯一の女子であるヒルダだが、彼女は少女の頃から、どちらかと言うと艶麗で優美な、大人っぽい服装を好んだ。
意志や知性も早くから発達していたので、母や侍女長は彼女に無理に"可愛らしい服装"を強要することを比較的幼い頃に断念せざるを得なかった。
そのことに密かに残念に思っていたのか、娘が"恰好の獲物"を土産に帰宅したと知るや否や、伯爵家の2大女傑は長年のフラストレーションを一気に爆発させたのだ。
「カンティを連れ帰った翌日からは、一日中大騒ぎでしたわ」
ランと異なり、ロクに人間の世界のことなぞ知らないカンティを、奥様&メイド長が筆頭に立ってメイド達総出で弄くり回したらしい。
ヒルダのお下がりのほかに、どこで買って来たのか彼女が袖を通したこともないような可愛らしい女児子供服数十着を、数時間にわたって着替えさせ、さらにその格好にふさわしい立ち居振る舞いや言葉使いを教えこむ。
人見知りでまだ怯え気味なカンティのために、その場にはヒルダも立ち合っていたのだが、とても口を挟める雰囲気ではなかったのだと言う。
そうこうしている間に1週間ほどが過ぎ、ようやく"愛らしい幼女キターー!!"(実は男だが)騒ぎが一段落するころには、この元カンタロス少年は、リッパ(?)に"人間の女の子"としてのメンタリティーと仕草をインプリンティングされていたのだとか。
いろいろ話し合った結果、伯爵家でヒルダ付きの小間使い見習いう形で働かせることになったのだが、彼女?自身の希望で侍女として遇することになったらしい。
「お前さんも災難だったなぁ……」
涙を堪えつつ、マックはコタツの向かいに座ったメイド少年の頭を無骨な手で撫でる。
その言葉に、きょとんとした顔でカンティは彼を見上げる。
「わたくしも最初はどうかと思ったのですけれど、この子はこれで喜んでいるみたいですし……」
そりゃあ、周囲の人間が「可愛い!」「似合うよ」とチヤホヤしてくれれば、無垢な幼子はうれしいだろう。
「それに、エプロンドレスを翻すこの子を見て感じたんです。
可愛いは正義、男の娘万歳と!」
「お前も腐女子化しとるやないか〜〜!!!」 スパーーーン!
素早くランが取り出したハリセンを受け取り、妹に見事なツッコミ入れるマックだった。
〜つづく〜
・百合からショタ趣味へ。ヒルダさん自重自重!!
2010年08月16日(月) 03:55:00 Modified by gubaguba