『ランゴスタ奥様劇場』その4
スレ番号 | タイトル | カップリング | 作者名 | 備考 | レス |
---|---|---|---|---|---|
9 | 『ランゴスタ奥様劇場』その10〜12 | 男ハンター×擬人化ランゴスタ | クイーンの人 | 擬人化(ランゴスタ、カンタロス)・否エロ | 86〜90、110〜113、144〜145 |
『ランゴスタ奥様劇場』その10〜12
『ランゴスタ奥様劇場』その10
「そうそう、左手はアイルーの手のように丸めて、こう添えるようにするのじゃ」
「こ、こうですか、姉君様?」
「うむ。お主、なかなか筋がよいのぅ。よい嫁になれるぞえ」
「はにゃ、そうですか? お嫁さん……えへへへ」
台所では、いつも通りランと、彼女の手伝いを申し出たカンティが、今日の夕飯を作ろうと奮闘している。もっとも、カンティの方は今日が料理初体験なので、手伝うと言うより教わっていると言った方が正しいが……。
和気藹々とした雰囲気のふたりを居間から眺めているのは悪くない。本来の性別を考えると何やら不穏当な発言もあったようだが、そこは敢えてスルーする方針で。
心温まる光景を横目で見つつ、マックはやや表情を改めると、改めてヒルダに向かって問いかけた。
「それで? 何か俺に相談したいことがあるんじゃないか?」
一瞬ビクッと身を震わせ、諦めたように兄の方に向き直るヒルダ。
「……どうしておわかりになったんですの?」
「まぁ、お前さんの態度が微妙に不自然だったしな。それに、本来ならお前も喜んで台所のふたりに合流して手伝ってるだろ?」
「まったく……お兄様ときたら、普段はあれほど鈍チンで、オタンチンで、わからんちんですのに……大事な場面では妙に鋭いんですから、狡いですわ」
「誉めてるのか、それ?」
妹のあんまりな言い様に苦笑する。
「あの子のこと……だよな?」
「ええ。こんなことをお願いするのは筋違いかとは思うのですが……」
語尾を濁したヒルダの言葉をマックが引き継ぐ。
「俺たちに引き取って育ててもらえないか、だろ?」
「! ……はい」
うなだれながら、ヒルダは言葉を紡ぐ。
「わたくしの身勝手な好奇心で、あの子を人の姿にしてしまいました。そのうえ、結果的に生まれ故郷から引き離して、自然とは無縁の大都会へ拉致するような形になって……」
先刻の楽しげな笑顔が嘘のような、苦しげな表情を見せるヒルダ。
「……今日、ここへ来る時、馬車から窓の外を見ていて、あの子、うれしそうでしたわ。元の姿に戻せなくても、せめて密林に近いここで暮らさせてあげられたら」
「なるほど。素晴らしい偽善じゃのぅ」
「! お姉様!?」
出来上がった料理を運んで来たらしいランが、手にした皿を卓袱台に置きながら、静かに断言した。
「――我が君、カンティが少々汁物を被ってしまったので、風呂場で顔を洗わせておる。大丈夫だとは思うが、手伝ってやってはもらえぬかえ?」
「――了解だ。……あとは任せたぞ、ラン」
妻の顔を見て何かを悟ったのであろう。マックは立ち上がり、席をランに譲った。
「ああ、それから……あの子に悪戯してはなりませぬぞ?」
「しねーよ!!」
ズッコケながら風呂場に消えるマック。
「ふむ。イマイチ信用しきれぬが……まぁ、我が君の良心に期待するかの」
そう言うと、ランはヒルダの隣に腰を下ろし、キチンと正座してみせた。
「……お姉様、偽善とはどういうことでしょう?」
「どうもこうもあるかえ。自分では幸せにできぬからと、可愛がってくれそうな他者に我が子を引き渡そうとすることを、そう呼ばずして何と呼ぶ?」
「わ、わたくしはあの子の親では……」
「同じことよ。それにあの子の名前を付けた命名親(ゴッドマザー)は、お主じゃろ?」
「…………!」
真っ直ぐなランの視線に覗き込まれて、ヒルダは彼女らしくもなく気弱げに目を逸らした。
「カンタータ・ローズ(薔薇色の声楽曲)、か。よい名ではないか。それだけでもお主はあの子の名付け親として行く末を見守る義務がある。それにのぅ、自分でも言ぅておったじゃろう。あの子が一番慕っているのは、お主だと」
「ですけれど、あの子の環境のことを考えると……」
いまだ言い訳しようとする義妹の様子に、ランは溜め息をついた。
「人であれ人外であれ、あるいは元人外の者であれ、大切なのは、"今"何をしたいか、誰とともに在りたいか、じゃと妾は思ぅておる。どこで暮らすかなぞ、些細な問題じゃ」
たとえば、妾は元は熱帯を本拠とする巨大蜂じゃが、もし我が君が雪深いポッケ村に引っ越されるなら、喜んで共に参る積もりじゃしの、と続ける。
「もちろん、未来や将来に対する不安と言うものもあろうが、そんなモノは誰しも抱えておる。本当にお主があの子に責任を感じておるのなら、傍で見守ってやるがよかろう」
やー、参った参った……と、風呂場から出て来たマック達を見て、ついとランは立ち上がる。
「ま、難しい話はまたあとじゃ。そろそろ煮物もできた故、夕餉にしようかの?」
* * *
「そうか、ランがそんなことを」
「……わたくしが間違っているのでしょうか?」
夕食のあと、ランとカンティが仲良く洗い物をしている様を眺めながら、ヒルダはまだふんぎりがつかない様子だった。
「まぁ、少なくとも、俺達夫婦に預けて、あの子が幸せになるとは思えんね。忘れてるかもしれないか、俺達はハンターなんだぜ?」
「それがどう……」
「あー、つまりだ。俺達はあの子の元同族を自分の手で殺す可能性が大だってこった。……と言うか、俺もランも、カンタロスは無数に屠ってきたし、装備箱開けたら、カンタロス素材の武器や防具はゴロゴロしてる」
「!!」
「自分の育ての親が、元の自分の同族の羽や殻を持ち帰って来るのを見て、優しそうなあの子に耐えられるかね?」
「そ、それは……でも、お姉様は、その点どうですの?」
何とか反論しようとするヒルダだが、マックはさらに衝撃的な言葉を告げる。
「ああ、あいつは元の同族を嫌っている……もしかしたら憎んでいるからな」
「な、なんでそんな……」
「夫婦なんだぞ? はっきりとあいつの口から聞いたことはないが、それくらいわかる。それに、人間になりたいと願うモンスターの場合、同族になじめないとか人に憧れたとか、それ相応の理由があるらしい。
不思議とモドリ玉で人化するのも、そういうヤツらが多いみたいだしな」
少なくとも、狩り場でランゴスタを殺すことに、ヒルダは躊躇しない、とマックは告げる。
「恐い女だと思うかもしれないが、俺は狩人としてはそれは正しいと思う。そして、俺はそんなあいつに惚れてるんでな」
納得できないといった表情のヒルダを見て、同じ人間同士で戦う兵隊さんなら、俺の言ってる言葉がわかるかもな〜、と歎息する。
「まぁ、少々話が逸れたが、結局あの子はお前のそばにいたいと望んでるんだ。だったら、せめてあの子が一人前になるまでは、保護者としてお前が面倒見てやるのが筋だろう」
となると、王都のフィーン家で育ててやるのが、ベストではなくとも少なくともベターな選択ってヤツだと俺は思うぜ……マックは、そう締めくくった。
* * *
「いつもいつもご迷惑おかけしてすみません」
翌朝、王都に戻るまえに、ヒルダは深々と頭を下げた。
「なに、気にしておらぬよ。妹の面倒を見るのは、姉の義務であり権利じゃからの」
「!」
(義務にして権利……そう、そうですわね。わたくしは難しく考え過ぎていたのかもしれません)
「また……また来ますわ。望むならこの子も連れて」
そう言って、自らにつき従うメイドにヒルダは視線を向けた。
「えーと……兄君様も姉君様も、とってもいい御方ですけど……ごめんなさい、私、やっぱり都のお屋敷にいる方が、性に合ってるみたいです」
時々なら楽しそうですけど。申し訳ありません、お嬢様……とペコリと頭を下げるカンティを、ヒルダはきつく抱きしめた。
「――いいえ、いいえ、わたくしこそ、先走ってしまってごめんなさい」
唐突に主兼保護者に謝られて、カンティは「?」といった表情をしている。
「それから……この村にいる時は、わたくしのことを"ママ"と呼んでもよろしいんですのよ?」
「えっ、本当ですか!」
カンティは顔を輝かせる。
「やれやれ、一件落着かの?」
「みたいだな」
ま、ママ〜! カンティ〜! と、ヒシッと抱き合って盛り上がっている疑似親娘(二重の意味で)を見て、バカップル状態の自分達に対する普段のみんなも、こーいう気持ちなのかなー……と何となくやるせない気分になった、マックとランだった。
〜今回もオチなくfin〜
- 結局シリアスになりきれませんでした。反省。
さらに父の跡をついで執事となった若者と恋仲になる……か、どうかは神のみぞ知るところ。
<オマケ>
ランとヒルダの密談中、風呂場にて。
「おーい、カンティ、顔に何かこぼしたんだって?」
「あ、兄君様ぁ」
「どれどれ……ってウォッ!?」
ランが心配したのもむべなるかな。果たして、そこには、”白くてドロドロしたものを顔にかぶって涙目になっている”メイド姿のロリ少女(にしか見えない少年)がいたのだ。
(な、なんてエロい……ば、馬鹿、この子は男だぞ! 静まれ我が愚息!!)
「やーーん、ネバネバしますぅ……(チュパッ)ん、でも美味し……」
どうやらトロロイモの類いを擦っていたのをひっくり返したらしい。
(くっ、その顔とその表情で言うんじゃねぇ! は、破壊力が……)
本人に乞われて、手ぬぐいで彼女?の顔を拭ってやるのに、マックが多大な自制心を必要としたことは、言うまでもない。
『ランゴスタ奥様劇場』その11
我が輩は猫(アイルー)である。にゃまえはシズカ。
……えっ? なぜ女(メス)にゃのに一人称が"我が輩"にゃのかって?
そんにゃの知らにゃいです。トモエお婆ちゃんが、「猫の日記の書き出しは、こう始めるものだ」って教えてくれたんですから。
いまはお婆ちゃんの古いお友達のランさんのお家でお世話ににゃって、悠々自適の生活(だって、家事の大半はランさんがやってしまわれるんですもん!)を満喫している私ですが、この村に来るまでは、にゃかにゃか苦労したんですよ?
折角ですから、ちょっと昔の日記を読み返してみましょうか。
* * *
○月×日 快晴
今日はトモエお婆ちゃんの機嫌がとてもよかった。
お婆ちゃんは、この森にあるアイルーの集落で、長老と言うかまとめ役のようにゃことをしている。
そのせいか、いろいろ苦労が絶えにゃくて、いつも夜ににゃるころには疲れた顔をしているのに、今日はとてもニコニコしていた。
「どうしたの?」って聞いたら、ずっとずっと昔に知り合ったお友達の消息が、偶然わかったらしい。
○月○日 曇りのち雨
雨で巣穴から出るのが、ちょっと億劫。
仕方にゃいのでお婆ちゃんに昨日の"お友達"のはにゃしを聞かせてもらった。
若いころのお婆ちゃんは、ここよりずっとずっと西の方にあると農場で"お手伝いアイルー"として出稼ぎしていたらしい。
そこで、そのお友達と知り合ったそうだけど……にゃんと、そのお友達と言うのが、あの"ランゴスタ"だったらしい。
にゃんでも"女王種"とか言うランゴスタのエリートで、とっても頭がよくて、人間やアイルーの言葉をわかったんだとか。
正直、嘘臭いとも思ったけど、お婆ちゃんは絶対嘘はつかにゃい猫にゃので、信用しよう。
○月△日 晴れ
今日のモス狩りは、とっても上手くいった。
私が投げた小タル爆弾がモスに命中したおかげで、モスはこんがり丸焼きに。
集落のみんにゃで宴会をして食べた。とてもおいしかった。
夜ににゃって、お婆ちゃんの話の続きを聞かせてもらう。
お婆ちゃんのお友達は、お婆ちゃんの勤めていた農場が潰れたときに別れたらしい。
かにゃらずまた会おうと約束はしたものの、それから20年近く経った今でも、結局会えてにゃいんだって。
で、そのお友達の現状が偶然わかったのは、にゃんと最近人間ににゃったからだとか。
人間の若者に恋した古龍が、おんにゃの人に化けて会いに行くと言う御伽話は、私も聞いたことがあるけど(他にゃらぬトモエ婆ちゃんが小さい頃の私にしてくれたのだ)、蜂が人に?
でも、御伽話みたいに、その元ランゴスタのおんにゃの人は人間の男性と結婚したらしい。
まだまだおとにゃとは言えにゃい私だけど、結婚って言葉にはちょっと憧れるかも。
…
……
………
…………
△月□日 雷雨
随分寒くにゃって来た。
トモエお婆ちゃんはこのところ寝たきりににゃっている。
どうやら風邪をこじらせたらしい。
もう猫(アイルー)としてはいい歳にゃんだから、自分の身体は労って欲しい。
でも、"全大陸白猫親善協会"から地図を取り寄せて、にゃにやら計画しているみたい。
…
……
…………
△月×日 曇り
トモエお婆ちゃんが……死んだ。
とっても賢くて優しくて、すごく頼りににゃる猫だった。
孫のにゃかで一番年下の私もずっと可愛がってもらっていたので、とても悲しい。
お婆ちゃんは、にゃくなる直前、私を枕元に読んで、ひとつの包みを手渡した。
「これはにゃにか?」と聞くと、「大切なお友達への贈り物だ」と言っていた。
「すまにゃいけど、お前にお使いを頼んでよいかえ、静?」
もちろん、私はふたつ返事で引き受けた。
これは……大好きだったお婆ちゃんの遺言。
にゃんとしてでもかにゃえてあげたい!
△月△日 晴れ
今日は私の旅立ちの日。
トモエお婆ちゃんの遺言は、再会を約して果たせにゃかったお友達に、形見の包丁と伝言を届けること。
そのお友達――ランさんが住んでいるのは、大陸中央部にあるロロパエ村と言うところに住んでいるらしい。
にゃが旅ににゃるので両親は心配そうだけど、私だってそろそろ2歳。
アイルーはだいたい3歳で成猫するけど、私くらいの年代でひとり立ちして働き始める猫もいる。
大丈夫、にゃんとかにゃる!!
…
……
…………
□月○日 雪
旅に出て半月ちょっと。
ちょっと道に迷って、北のポッケ村ってところまで来てしまった。
ほとんど年中雪に覆われているらしく、とても寒い。
道端で行き倒れている私を拾ってくれた、ポポ車のおじさんには感謝。
おじさんの家でモス汁をごちそうににゃって、ようやく生き返った感じ。
ポポ車の定期便が、王都との間に出ているらしいので、それに乗せてもらうことに。
運賃は、旅の間の雑用をすることで交渉成立。
□月△日 晴れのち曇り
最悪だ!
乗っていた定期便がドスギアノスに率いられたギアノスの群れに襲われた。
私は飛び降りて逃げたのでにゃんとか無事だったけど、にゃん人かケガした人もいるらしい。
いったん村に引き返すというポポ車と別れて、ひとりで王都に向かうことにする。
正直、冬場のこの土地を猫の身で旅するのはキツいが、私ひとりならモンスターに襲われることも滅多ににゃい。
にゃいと思う。にゃいといいなぁ。
ちょっと心細くなってきた。
…
……
………
…………
□月?日
かゆ……うま……
…
……
………
…………
×月△日 快晴
1ヵ月近くの放浪の末、ようやく王都に辿り着いた。
ほんっとーーーーーーーに、にゃがかった。
正直、死ぬこともにゃん度か覚悟したくらいだ。
ロロパエ村は、ここから馬車で半日ほどの場所らしい。
いままでのことを思えば目と鼻の先だ。
×月□日 晴れ
定期便に便乗させてもらい、ロロパエ村に到着。
幸い、今回はにゃに事もにゃく無事に着いた。
お婆ちゃんの旧友のランさんのお宅を捜すと、すぐに見つかった。
玄関で「御免くださーい!」と声をかけると、当のランさんが出て来た。
すごく綺麗にゃ人でびっくりした。
私がトモエお婆ちゃんの孫であることを告げると、驚いたみたいだけど、とてもうれしそうだった。
……だから、お婆ちゃんの死を告げるのは、すごく辛かった。
形見の包丁と手紙を渡すと、ランさんはにゃいていた。
今日は遅いので、ここに泊めてもらうことににゃった。
ランさんのだんにゃさんのマックさんは、ちょっとノリの軽いひょうきんにゃ人みたい。
だけど、ランさんの様子に、さすがにその明るさも影を潜めているみたいだ。
×月*日 晴れ
一晩経ったら、ようやくランさんも立ちにゃおったみたい。
「ありがとう、よくぞここまで来て下さった」と改めてお礼を言われた。
それからしばらくふたりで、トモエお婆ちゃんの話をした。
ランさんとマックさんは、しばらくこの家にいていいと言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。
* * *
「おや、シズカ、何をしているのかえ?」
あ、奥さん。
「いえ、私がこの村に来たころのことを思い出していました」
「おお、そうか。あれからもう3ヵ月近く経つのかのぅ……」
結局私は、この家のお留守番猫として雇われる形で居候させてもらっている。
ふつう雇われアイルーは、家の外に自分で寝床を作るか、あるいはせいぜい台所の片隅でザコ寝するくらいにゃのに、わざわざ台所の横に専用の個室まで作ってくれた。
食べる物も、ここのご夫妻とほとんど変わらにゃいものを頂いている。
それだけの好待遇に、正直私は十分なお返しを出来ているとは思えにゃいので、心苦しいときもある。
お料理もお掃除も、たまにお手伝いするくらいで、全然奥さんにはかにゃわない。
そちらも精進しようと思うが、私はいまこっそりご近所の奥様方に、あることをにゃらっている。
これは、この先、きっとご夫婦の間で必要ににゃるはずだから。
その時こそ、大いに役立って差し上げるために……。
〜意味ありげにfin〜
- 猫日記。読みたい人がいるとは思いませんが、ちょっと目先を変えてみました。
- 「奥様日記・裏」の方は、大方の人が予想つくと思いますが、ラン×ヒルダ & マック×カンティ です。
『ランゴスタ奥様劇場』その12
カンティの教育のため(と本人は言い訳。実際甘やかしていた)、しばらく村に顔を見せなかったヒルダだが、久々に兄夫婦の家を訪ねた彼女は、そこで奇妙なモノを目にすることとなった。
「俺はリーダー、マクドゥガル・ホレイショ・フィーン。通称マック。片手剣と隠密の名人。俺のような一流作戦家でなければ、百戦錬磨のベテランハンターのリーダーは務まらん!」
「オレはカシム。通称、情報屋。自慢の情報網で、モンスターの弱点なんざ筒抜けさ。コネを伝って、アオキノコから滅龍弾まで、何でも揃えてみせるぜ!」
「ラン・B・F。通称クイーン。狙撃の天才じゃ。シェンガオレンだとて撃ち抜いてみせるわ。でも、毒煙玉だけは堪忍してたもれ」
「――お待たせ。わたしがキダフ。通称デーモンスクリーム。ガンナーとしての腕は天下一品。アヤナミ? ルリルリ? 何それ?」
「……お兄様達、何をしておられるのですか?」
「「「「俺たちは、道理の通らぬモンスターに、あえて挑戦する頼りになる神出鬼没の”特狩野郎Aチーム”!!」」」」
ババーーーーーン!!!
……とりあえず、ヒルダの疑問はスルーされたらしい。
「えーと……もしかして、宴会芸の練習でしょうか?」
心底呆れ果てたようなヒルダの口調に、鉄壁の心理障壁が脆くも崩れさる。
「だ、だから、止めておこうと申したのじゃ、我が君!」
「何言ってんだ、結構ランだってノリノリだったじゃねーか」
「いやぁ、素に返ると死ぬほど恥ずかしいな、やっぱ」
「――そう?」 ←けっこう気に入ったらしい
いきなり和気あいあいと――ヒルダのいる方をあえて見ないようにして――談笑し始めた兄夫婦とその友人を見て、いっそう混乱するヒルダ。
「お、お兄様がご乱心なされた〜〜」
「ああ、ハイハイ。今説明するから、泣かない泣かない」
苦笑しながらマックが語ったところによると、先日この村に来た旅芸人の一座が上演した演目で、そういう荒唐無稽なハンターチームの活躍ぶりを描いたお芝居があったらしい。
「まったくもうっ、子供じゃないんですから……」
「いやぁ、別にそれだけならあんな恥ずかしいコトはやらんのだが、4人揃って防具を新調したんで、つい悪ノリしちまってな」
なるほど、言われて見れば、マックとカシムは男性剣士用の"暁丸"装備を、ランとキダフは女性ガンナー用の"艶"装備を身に着けているようだ。共通するのは、どちらも回復速度+1のスキルが発動する点だろうか。
「今度、テオ狩りに行くつもりなんでな。いやぁ素材を揃えるのに少々苦労したぜ」
つまりようやく新しい防具が出来、試着してはしゃいでいたらしい。
それではますます子供と同じではないか……と溜め息をつくヒルデガルドであった。
〜すごく短いけどfin〜
- ほんとに小ネタ。特攻野郎○チームネタ……って、マニアック過ぎたかも。
<オマケ>
「あ、ヒルダは"エンジェル"の役な」
「何ですの、それは?」
「『わたしは伯爵令嬢者のヒルデガルド・ライオネット・フィーン。通称"エンジェル"。チームの紅一点。(王都の)情報収集は、美貌と家柄の良さでお手の物ですわ』って、トコか」
「ですから、ワケがわかりません!」
2010年08月16日(月) 04:00:59 Modified by gubaguba