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そば湯

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
20そば湯ハンター♂×擬人化リオレイア希少種♀ 擬人化(金火竜)261〜269、271〜278

そば湯


 ポッケ村は人口こそ、街に比べると少ないが、発達した情報網とクエスト依頼数の多さで、モンスターハンター達の聖地として有名である。
 今日も、集会所には屈強なハンター達が集い、クエストを受注し、仲間を集め、狩りに行き、時には酒や料理を楽しんでいる。みんな、自らの英雄伝や、失敗談を、豪快な笑い声と共に語り合っている。
とても活気溢れる良い雰囲気の集会所だ。
 駆け出しハンターのリーフも、ポッケ村を拠点にするハンターのひとりである。ブルファンゴ相手にまだまだギリギリの戦いを強いられてしまう未熟なハンターではあるが、その穏やかな人柄と聞き上手な性格が幸いしてか、人望は無くは無い。
 もともと、闘争心があまり無い彼が得意とするクエストは、採集。
キノコや珍しい草や虫等、モンスターとあまり関わりの無いクエストを好んで選び、生計を立てている。決して豪勢な生活とは言えないが、細く長くがモットーのリーフ。いずれはフルフルやティガレックスにも挑みたい気持ちはあるが、やはり採集クエストを好んで選んでやっている。20代もそろそろ半ばに差し掛かる年齢だが正直ベテランハンターというにはまだまだである。
 友人のハンター達は彼を、親しみを込めて飛脚と呼ぶ。
「こんばんわーっ。」
 からんからん、と集会所のトビラが鳴り、いつものギアノス装備に着いた雪を払いながら、リーフが帰ってきた。
「あらーリーフ君おかえりなさい。」
「あ、どーもですっ。ドンドルマのゲサムさんちに雪山草50束届けてきましたー。」
 そういって、リーフはハンコの押された受注用紙を受付嬢に渡す。
「はーい、いつもごくろうさまー。50束大丈夫だった?」
「ハハ。いつもより量が多いってだけで大丈夫ですょ。合計100束集めたんで、ポッケポイント還元御願いしますー。」
 そういうと、リーフはどさっと道具袋をギルドの倉庫に預ける。
「す、すごいわね…。雪山がハゲ山になっちゃうのも時間の問題かも。」
「いやー。昨日今日、天気が良くて採集日和でしたよ。」
「オラー!!リーフ帰ってきたならあいさつせんかい!」
 瞬間、後ろから怒声が聞こえて来て、リーフは飛び上がった。
「あ、ガンさん!帰ってきてたんですね!いきなりバインドボイスしないでくださいよー。怖いっす。」
「うっせー!まぁたお前は、ちまちまちまちま草取りなんかしてんのかよ!」
 ガンと呼ばれたその男は、浅黒い肌に、筋骨隆々な体躯、短髪に豪快な声と、剣士過ぎるほど剣士な男である。
 リーフは無理やりガンに腕をつかまれて、隣に座らせられる。
「おーいねーちゃんビール追加だー!」
「はいはい。あんまり飲み過ぎないでね。」
「うるへー!こちとらラオシャンロン倒して打ち上げ中でいっ。」
「凄い!やっぱり倒してきたんですね!!いやー多分達成するだろうとは思ってましたが本当に達成したんですね。」
 ぱっと、明るい顔になってリーフが言うと、ガンも悪い気はしない。ビールの大ジョッキを掲げながら笑う。
「あたぼうよ!今回は撃退じゃなく、討伐してきたからな。早速今ガオレンズトゥーカを生産中だ。ガハハ!」
「ちょっと待ってよ!あんたがひとりで倒したような言い方しないで。私のプロミネンスがなかったら絶対倒せなかったわ。」
「レンカさんも、これで龍弓が作れるんじゃないですか?」
「そうねー。ちょっと今どうしようか検討中♪この筋肉バカみたいに無計画で加工屋に行ったりしないからさ。」
 レンカはそういうと長い黒髪をなびかせてクリッとした目をリーフに向けた。

「おまえなんか、ラオの尻尾に吹っ飛ばされてたじゃねぇか。よくそんな事がいえるな。俺様に言わせたらまだまだだっつの!」
「なんですってぇ!」
 ふたりがガタッと立ち上がりそうだったので、リーフがあわてて制する。
「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いてください!…あれ?ハリーさんも一緒に行ったんじゃなかったでしたっけ?」
「ハリーはラオに踏み潰されて今頃家でうんうん唸ってやがるよ。」
「ええ!?まじですか!?」
「運が無かったのねー。ま、命には別状無いからだいじょぶよ。」
 レンカの言葉を聴いて、リーフはホッと胸を撫で下ろした。
「つーかお前も早くフルフルくらいは倒しに行けよ。割とセンスはあるんだからさあ。」
「そうそう、腰のヴァイパーバイトが泣いてるよ。」
「いやー。別にフルフルは最近被害ないですからねー。」
「なぁにあまっちょろいこと言ってんだよ!こっちから迎え打たなきゃ、いつ何されるかわかんねぇぜ?」
「そうよー。この前、私たちとティガ倒した時は凄く良い働きしてたんだから、自信持って大丈夫よ。」
「なんなら、デスパライズの素材集めてやろうか。」
「いいい、いやぁ、だ、大丈夫ですよー。ティガん時は、たまたま自分の剣でティガが麻痺っただけですから。」
「ふーん。まぁね、リーフのそういう優しいとこはいいとこだから、私は何も言わないけどさっ。」
「いいや!俺様はさっさとG級に上がって欲しい!考えてもみろ。毎日こんなアホ顔と狩りに行かなきゃいけないんだぜ!?おめぇが早く上がってこないとつまんねーんだよ。」
「ちょっと待ちなさいよ!アホ顔って誰のこと!?」
「あ!?お前以外に誰がいんだよ。」
「キーッ!あんたに言われたらおしまいよ!」
「どういうことだそりゃ!」
 リーフはいつもの痴話喧嘩が激化する前に、そろそろと集会所を抜け出したのであった。
 外は既にとっぷりと日は暮れており、輝く星と月が積もった雪を優しく照らしていた。リーフとて、屈強なモンスター達をバッタバッタとなぎ倒す勇姿に憧れていないわけじゃない。ただ、彼はモン
スターハンターと名乗るには優しく、純粋にモンスターを狩る理由が無かった。
 その変わりに、以前起きたティガレックスのポッケ村襲撃等にはむしろ最前戦で戦ったくらいである。片手剣を操る彼は、大剣や、ランス等にくらべたら脆弱な、小さな盾を駆使し、ティガの攻撃を
受け流しきり、麻痺属性の武器で立派な足止め役として活躍していたのだった。
 日々の採集で蓄積したポッケポイントで鎧玉に還元し、薄っぺらかったギアノス防具も堅牢な面持ちになっている。
 家に戻ると、先に帰っていたオトモアイルーのトモエと、キッチンアイルーのナツとロッキーの3匹が迎えてくれた。
「ご主人様おかえりなさいニャ!」
「おおーただいまー。」
「今日はどうするニャー?」
「そうだね。野菜を中心とした穀物系で御願いします!」
「了解ニャ!!」
 ナツとロッキーはビッと敬礼したかと思うと、早速料理にとりかかる。トモエも、ご飯を研ぎだした。
「いやぁいつもありがとうね。もっと、俺がバンバン稼ぐハンターだったらみんなにも、もうちょい楽させてあげられるんだけどね。」
「何言ってるんニャ。主人はあんまり肉を頼まないからお金もかからないし、遠慮しすぎニャ!もっとでーんと構えて欲しいニャ!」
 ロッキーに激励されて、思わず頭をかいてしまう。

「風呂沸かしてくるから、みんなで入ろーねー。」
「やったニャ!今日もあったかく寝れるニャ!」
 わいわいガヤガヤと、小さいながらも楽しい我が家と言った感じである。
 ナツが野菜炒めを慣れた手つきで料理しながら聞く。
「ご主人様明日はどこに行くですニャ?」
「明日は、森丘だねー。なぞの頭骨と、棒状の骨…あと飛竜のフンを取ってくるよ。加工屋の主人が欲しいんだってさ。」
「ニャニャ!また採集クエストニャ。」
「でもご主人が飛竜と激戦してるのも見てみたいニャ!」
「ハハハ。そうだねーもうちょっと経験を積んでからだねぇ。」
「主人は闘争本能が無さ過ぎるニャ〜。でもそこが好きニャ〜。」
「ありがと。ま、一口にハンターって言ってもいろんな種類があるからね。俺は俺らしくやるだけさ。」
 ニャハハハハ…!と、リーフの家はいつもどおりの平穏だった。



「さぁて、トモエ行こうか!」
「はいニャッ!」
 朝になり、昨日のあまりでご飯を食べ、早速リーフはトモエと森丘へと向った。
 馬車にゆられて半日。馬車から降りた一人と一匹は早速ベースキャンプを設営し、地図で場所を確認する。
「ええと、ギルドの話しによると、この5番エリアに採取場所があるって言ってたな。」
「ニャー…。」
 すると、トモエの耳が若干垂れ下がった。
「ん?どしたの?」
「ニャー…このエリアは今リオレイアがいるかもしれないニャ。」
 臆病な性格のトモエ。すでに腰が引けている感じだ。
「そっかぁ。確かにここは巣だけど…。でも、飛竜なら戦意の無いものを相手にしないんじゃないかなぁ?…甘い?」
「甘いニャ!向こうは恐ろしい飛竜ニャ!見つかったが最後、目玉をくりぬかれ、内臓は引き出され、体中の毛をひんむかれて――」
 トモエはブルブル震えだし、オーマイガッと地中に潜ろうとする。
「ハハ、おいおい。大丈夫だよ。まだ居るとは決まってないんだからさ。ちょっと覗いてみてだめそうなら帰るし、いけそうなら遂行するかんね。」
「わ、わかったニャ〜。」
 早朝に出た事もあり、日時計はまだ14時を示している。腹ごしらえをすませると、さっそくリーフ達は目的の5番エリアに向った。
「おっ。」
 途中で、ランポスを発見。こそこそと、見つからないようにやり過ごそうと思ったのだが、向こうに気づかれてしまい臨戦状態に。
 リーフは、腰から愛刀のヴァイパーバイトを抜刀し、じりじりと近寄っていく。
「ギャーッ!」
 ランポスは一喝すると、伸びやかな跳躍力でリーフめがけてダイブしてきた。鋭くとがった爪が降りかかる。
 ガキン!!
 リーフはうまくランポスの強襲を盾で受け流し、受身を取れていない相手の首めがけて剣を突き刺した。
「ギャ…!ギャッ。」
 ぱりぱりっと音がして、ランポスは地にひれ伏したまま動かなくなった。ちょうど上手い具合に麻痺の効果が発動したようだ。
「よし!トモエ今だ!」
「ニャーッ!!!」

 トモエは、自分の体と同じくらいはあろうかと思われるタル爆弾を、ランポスになげつけた。
 瞬間、爆発音と焦げた匂いが辺りに広がり、ランポスはその生涯を終えた。
「よっしゃああ!」
「やったニャー!」
 リーフとトモエはハイタッチを交わして喜ぶ。ランポスの皮と鱗を剥ぎ取って、あたりを見回すと、モスがじーっとこちらの様子を伺っている。
「お前も毎日キノコじゃあきるだろ!」
 リーフはそういうと、モスの方へランポスを投げてやった。トモエの爆弾のおかげで良い具合に肉が焼けており、こんがりな匂いが良い感じだ。
 モスは思ったとおり、がつがつとランポスを食べはじめたので、リーフは先を急ぐ。
「ニャー…。」
 トモエの声が弱弱しくなる。それもそのはずで、目的の第5エリア目前まで来たからだ。
「大丈夫だって。ほら、行くよ。」
 そこは洞窟の中で、かなり大きな空洞のようになっており、ひんやりとした空気が頬を撫でていく。ちょうど中心のあたりには人骨や獣骨とおぼしきものが見え隠れする地帯があり、リーフはおそる
おそる入っていく。
「よし、今は誰もいないみたいだ。トモエ、今のうちだよ。」
「了解ニャ。」
 トモエは、早くここから出たい一心でザクザクと地面を掘り出す。
「よしよし。骨はもうOKだ。」
 トモエの協力もあって、5分程度で骨は見つかった。さっと、道具袋に入れると、次は飛竜のフンを探す。
「主人、向こうの奥の方で何か聞こえるニャ!」
「ん?よし、行ってみよう。」
 リーフが歩きだすと、トモエはそこに立ち止まったままだ。
「トモエは待っててくれ。」
 明るい笑顔をトモエに向けると、トモエはホッと息をついてその場に座り込んだ。
「さーてと…ん。確かになんか聞こえるな。泣き声か。」
 足音を立てずに歩を進めると、奥の方から確かに何かの鳴き声がする。勇気を振り絞って近寄ると、こじんまりとした巣があった。
「リオレイアの巣だ…はじめて見たな…。」
 リーフは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。ここはあのリオレイアの巣。そして、割れたての卵の中で元気に子供が鳴いている。
 このふたつの符号が意味するものは一つ…!
「レイアさんが帰ってくるまでに見つけないと死ぬな…。」
 ゴクッ…とリーフは喉を鳴らした。のんびりはしていられない。
早急にフンを見つけて退散しなければ!
 ぴー!ぴぎゃー!
「ご、ごめんね。お前たちの母さんじゃないんだ。ちょっと失礼するよ…。」
 赤ん坊とはいえ、あのレイアの子供。そう思うとか弱い鳴き声も迫力あるものに思えてくるから不思議だ。
 がさがさ…と、巣をなるべく揺らさないように歩くのだが、どうしても揺れてしまい、レイアの子供の声がだんだんと大きくなってきた気がする。普通であれば、3、4匹いそうなものだが、今は幸
か不幸か一匹しかいない。
「ううー…あ!あった!よし…。」
 飛竜のフンを発見。新しい袋を取り出し、とりあえず手に持って袋に入れていく。リオレイアは自分のフンを使い、子供を守るという。その強烈な自分の分身を巣に残す事によって、自らがそこにい
るという証を残して外敵を寄せ付けないようにし、同時に子供もその母親の匂いで安心するようだ。
 しかし、静寂をつきやぶっていきなり人間が来たのだ。子供が驚かないわけがない。しきりに、その未成熟なくちばしでリーフを突付いてくる。
「ごめんっ…!ごめんよ!もうちょっとで終るからっ…!許してっ。」
 ここで、リーフはあることに気づく。このレイアの子供、先ほどからしきりにリーフの道具袋をつついている。
「ん…?まさか…。」
 リーフは手を叩いて、先ほど剥ぎ取った、ランポスの皮を子供の頭上に掲げてみた。すると…
 ぴぴぃっ!!ガブッ!
「おー。そうか、お腹減ってたんだねー。」
 子供とはいえ、体はアイルーであるトモエよりも一回り大きい。
レイアの子は、はぐはぐと美味しそうにランポスの皮を食べている。
「そのままあげちゃったけど、お腹壊さないかな…。」
 ちょっと心配になったリーフだが、目を細めて一心不乱に食べるこの子を見ていると、若干安心した。
「…かわいいなあ。」
 リーフは食事中のレイアの子の背中をさすってみた。噛まれるの覚悟だったが、案外おとなしい。それどころか、気持ちよさそうに手によりかかってくるではないか。
 世界広しと言えども、駆け出しのハンターがレイアの子にエサを与え、あやしている話しなど聞いたことがない。リーフはちょっと嬉しくなった。
「おっと、こんな事してる場合じゃないや。」
 リーフはさっさと最後のフンを袋に入れると、そっと巣を離れる。
すると、レイアの子がこちらの振り返り、鳴いた。
「ぴいい!ぴいぃっ!」
「ハハ。また機会があったら会おうな。」
 と、その時――!
「ニャー!!!」
 トモエの絶叫が聞こえてきた。リーフがビクッとして振り返ると、どこからあらわれたのか知らないが、ドスランポスがこちらに走って来る(!)。
「ご主人!早く逃げるニャ!」
「お、おう!」
 と、駆け出そうとしてリーフは踏みとどまった。
「貴様…。」
 ドスランポスは、赤いトサカをよりいっそう高潮させて、リーフではなく、まずレイアの子を確認したようだ。
 リオレイアの子とはいえ、まだ赤ん坊。確かに外敵にしてみたらこれ以上ない栄養源である。ここで、リーフがきびすを返して逃げることはきっとたやすいだろう。
 しかし、リーフはその後を想像してしまった。100%、このドスランポスはこの赤ん坊を食べてしまうだろう…。
 純粋に、その光景を見るのが嫌だと感じた。それに、トモエと協力してこいつをやっつければいいだけの話しだ。
 エサをやり、わずかな時間ながら触れ合った時間を捨てるわけにはいかない。レイアが帰ってくるまでに、こいつを倒す!

「トモエ!やるぞ!」
「ニャッ!?正気かニャ!」
「ああ!こんなヤツ俺たちにかかれば――!」
 ガキーン!
 リーフの盾に重い感触が乗っかる。
「くっ…。上等だ!受けてやるよ!」
 ドスランポスも命がけだ。ここがレイアの巣であることは百も承知のはず。それをかえりみずにここに来たという、そのこと自体が勇敢さを物語っている。
 油断すると、ヤツの爪やキバに切り裂かれそうだ。一発が重い。
「やるな!だが、ティガレックスに比べたらお前の攻撃なんて綿飴より軽いぞ!」
 我ながらへんちくりんな例えだったが、別に向こうに言葉が通じるわけではない。
「はっ!!」
 愛刀が空を切り、ランポスの胴体にめり込んだ。ランポスは体を仰け反らせて、一瞬後退する。そこに…
「ニ"ャアア!!」
 ガコッ!と鈍い音がして、さらにランポスは体を揺らす。トモエの石斧が炸裂したのだ。
「よし!いいぞ!……ん?」
 リーフの視界のすみっこに、何かよちよちと動く物が入った。
「お前…!!」
 見ると、レイアの子がリーフの足元によろめきながら歩いてきている(!)。
「だめだよ!戻ってなきゃ!!」
 リーフの言葉に、一瞬ビクッと身をこわばらさせた子だったが、すぐまたよろよろと歩きだす。
「ご主人――!!!」
 トモエの叫びに、「ハッ!?」と振り返る。すると、ランポスの体は地上になく、上空からのフライングアタックがリーフではなくレイアの子にむけられているのがわかった。
 コンマ何秒かの世界。リーフはその瞬間、全てがスローモーションの様に感じた。
 ランポスの爪が、レイアの子にせまる。リーフは全ての瞬発力を駆使して子をかばう。子が驚きの声を上げる。リーフは子を包む様に体を丸めた。
 その刹那の後、リーフは自分の背中が、ぎちいぃっ!と嫌な音を立てたのを感じた――。
「ご主人ーーーーーーーーー!!!」
 ごろごろごろごろ…!とリーフは派手に吹っ飛んだ。
 吹っ飛びながらも、丸まった体は強固でレイアの子にダメージを一切あたえていなかった。かわりにリーフの背中にはおびただしい量の鮮血が飛び散っている。
 レイアの子は、倒れたリーフの陰からぴょこっと顔を出し、天井に向けて声を荒げた。
「ぐ…あ…。」
 背中から、力が抜けていくのがわかる。しかし、ここで負けるわけにはいかない。自分が負けたら、トモエも、レイアの子もただではすまない。
 ランポスはこちらの様子をうかがうように、じりじりと距離をつめてくる。
 リーフはよろよろと立ち上がった。ずきいぃっと、背中に衝撃が走ったが、かまっちゃいられない。再度、剣を握りなおし、盾を向けて、構えた。
 冷や汗が全身から噴出し、脳震盪を起こした頭が体を揺らす。
「ギャーッ!!」
 ランポスの突進をまともにガードすることができない。今度は、その鋭い爪が胸元に突き刺さった。
 鎧を着ていたものの、無防備な状態で受けた攻撃はいとも簡単に人間の体を吹っ飛ばした。
「しゅ、しゅ、主人!」
 トモエが猛然ダッシュしてきて、倒れているリーフをかばう様にランポスの前に立ちはだかった。
 トモエの足はガクガクと震え、握った石斧もカタカタと音を立てていた。
「トモエ、逃げろ…!」
「い、い、イヤだニャ!こ、ここで逃げたら…!い、嫌ニャ!」
「ぴいーっ。ぴ…ぴ…ぴぎゃああああ!!!」
 その時、耳をつんざく咆哮が聞こえた。レイアの子が、口を目いっぱいにひろげ、バインドボイスを放ったのだ(!)。
「おまえ…。すごいね…。」
 と、その時…!!
 あたりを、すさまじい気配が支配した。悠然とした羽ばたきの音が聞こえる。
 ランポスも、その気配を感じたのか、しきりに顔を左右に振り、一言も発さずに洞窟の出口へ向っていった。
 リーフはその様子をぼーっと眺めながら、ぐぐっ、と体を起こしはじめた。
 トモエはすでに地中に隠れたようで、ちょっと安心した。
 どっかーん!!!
 出口付近ですさまじい轟音が鳴り響いた。その音の後、どちゃっというなんとも不快な音が耳に飛び込んできた。
 なんとなくわかっていたが、目を向けると、そこには腹を引き裂かれて黒コゲになったドスランポスの凄惨な死体があった。
「あ…あ…。」
 声が出せない。恐怖と、焦燥と諦め。強烈な感情が身を支配し、リーフはその場から動けなかった。
 ざふうっ…ざふうっ…
 羽ばたきの音が洞窟内に響き渡る。
 そして、桜色の飛竜が舞い降りた。
 口からは火炎の息を吐き、目は憤怒の真紅色に染まっていた。
「リオ…レイ…ア……亜種…。」
 リオレイアがリーフをぎろりとにらみつけると、リーフはその威圧感の塊のような眼力に体がすくんで動けなくなってしまった。
 ズシン…ズシン…とリオレイアはこちらへ歩いてくる。そのプレッシャーは途方も無く、リーフは吐き気さえも感じていた。
「グガアアアアアア!!」
 凄まじい咆哮が大地と空気を震わせる。
「な…!!」
 リーフは息を飲んだ。なんと、徐々にリオレイアの桜色の体が、
金色へと変色していく(!)。
「き……希少種………!?」
 リオレイアは息をいっぱいに吸うと、口内に火球を作り出した。
 気がついたときには、その巨大な火球がリーフの体を大きくはじき飛ばしていた。盾で防ごうともその威力、規模は防げない。
 再度、地面に叩きつけられて転がっていくリーフの体に、大きく固いリオレイアの足がめり込んでいく。押さえつけられたリーフはもうどうすることもできない。背中の傷からは絶え間なく血が流れ
出している。
 全身の力が抜けたリーフはふっ…と暗黒の世界へ落ちていった…。




「う…。」
「あ…!お、起きたニャ!!みんな!主人が目を覚ましたニャ!」
 トモエの声に、アイルー達がとてとてとてっ、と集まってきた。
「わあああ〜!ご主人〜!」
 ナツは、その目に大粒の涙を溜め込んでひしっとリーフに抱きついた。それを見て、ロッキーも耐え切れず泣き出した。
「もう起きないかと思ったニャアアア〜!うわーん!」
 ぼやけた頭が徐々に明瞭になっていく。そこは、いつもの自分の部屋であった。
「帰って来れてたのか…。生きててよかったあぁ…。」
 ぽそっ、とリーフがつぶやくと、みんながまた泣き出す。
「ご主人が死んじゃったらボク達行くとこないニャ〜!」
「優しいご主人がいなくなったら…私…私…ニャ〜!」
「ハハハ、トモエ…。お前俺をここまで運んでくれたの?ありがとうね。大変だったろう。治療もしてくれたの?」
「いや、私もよくわからないニャ〜…。」
 トモエは腕を組むと、首をかしげてそう言った。
「よくわからないって?」
「リオレイアが現れた瞬間、どうしても怖くて地中に潜ったニャ。で、第5エリアの外で地上に出て、こっそり覗いたんニャけど…。もうその時にはもぬけのカラになっていたんニャ!」
 またトモエは涙を流して、ごしごしと目をこすりながら続ける。
「で、私は仕方なくトボトボとベースキャンプに戻ったんニャ…。なんと、ベースキャンプの寝床にご主人が居たんニャ!」
「なんだって?」
 首を横に振りながら、トモエは続ける。
「わからないニャ…。私がベースキャンプに着いたときには、ほぼ完璧に治療がしてあって…。クエスト自体はクリアしてたから、私は完遂の狼煙をあげて、馬車の到着を待ってただけニャ。」
「誰かが、治療してベースキャンプまで俺を運んでくれたってことかぁ…。」
「そうとしか考えられないニャ。」
 うーむ…、と考え込むリーフとトモエ。そんなふたりに割って、ロッキーが手を上げる。
「ご主人!お腹減ってないかニャ!?」
「ん…そういえば、ちょっと減ってるかも。」
「そりゃそうですニャ。まる2日寝てたんニャから。ナツも、料理手伝うですニャ!」
「OKニャ!寝起きに優しいコーンスープをご馳走するニャアア!」
 リーフが目を覚ましてよっぽど嬉しかったのだろう。ナツとロッキーはぴょんぴょんと、飛び跳ねながら厨房へ向っていった。
 リーフは一応体が動くか確かめた。――なんとか、普通に動く分には問題なさそうである。ただ、背中の傷とほっぺたの火傷がちょっとまだ痛む。まぁ、死ななかっただけでもめっけもんだ。
「トモエ、今何時?」
「夕方5時ニャ。レンカさんとガンあにきも心配してたニャ〜。」

「そっかぁ。後で集会所に顔出さないとな…。つっ…!」
 リーフはそっと立ち上がろうとしたのだが、背中に鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめた。
「まだ安静にしてなきゃだめニャ〜!治療されていたとはいえ、大ケガには変わりはないんニャから。」
「うん。鎧玉で防具強化してなかったらランポスにやられてたね。」
「あそこでレイアの子供をかばうなんて…ご主人らしいけど、もっと自分の体も大切にして欲しいニャ!ハンターは常に生き残る事を考えニャいと!」
 トモエがびしっとポーズを決めて言うと、リーフはプッと吹き出して言う。
「ハハハ。そうだね。まぁでもあそこでああしなかったら、ずっと後悔してただろうからね〜。」
「いつもの『勝つにしろ、負けるにしろ、リーフとして勝ち、負けたいんだ…』ニャ?」
「あははは、そうそう。まぁしかしホント、死んじゃうとおもったけどよかったなぁ生きて帰れて。しかも、リオレイア、最初亜種か
と思ったんだけど…体が金色に変わっていってさぁ。いやー相当怖かったなあ。」
「え!?希少種だったんニャ!?」
「うん。多分そうじゃないかな。いつもは桜色で亜種として暮らしてるんじゃないかなあ。」
「森丘で希少種が現れるなんて凄く珍しいニャ〜。」
 と、その時家のドアがばんっと開けられて、ガンとレンカが入ってきた。
「たのもー!おっ!!!リーフ起きたんかああああ!!」
 どどどどど…!とガンが巨体を揺らしながらかけてくる。
「ガンさん!レンカさん!」
「リーフ目ぇ醒めたんだね…よかった。」
 レンカがちょっと目を潤ませて言葉をかけた。
「すみませんご心配おかけしまして。」
「まったくだぜ。森丘で、リオレイア亜種に遭遇するなんて、運がいいんだか悪いんだかわかりゃしない。」
「あ、いや、希少種だったんですよ。」
「何?なんだって?希少種!?」
「そうなんですよ。最初は桜色だったんで、亜種かと思ったんですけど…。自分の子供が襲われてるって思ったんでしょうね。怒って金色になった感じでした。」
「本当に?私森丘で希少種なんて見たことないわ。」
「運が良かったって事にしようぜ!ガハハ!おっ、そうだ、ほい!生肉と、黄金芋酒!」
「あっ、ありがとうございます!ちょうど、ロッキーとナツが料理
作ってるんで一緒に食べて行きません?」
「いいの?まだ体痛まない?」
 レンカが言うと、
「大丈夫大丈夫!この調子なら明日にゃあ完全回復だな!」
 と、なぜかガンが答える。
「なんでアンタが答えるんだよ。」
「ハハハ。大丈夫ですよ。気にしないでください。あ、すみませんなんか見舞い品とか、気をつかってもらっちゃって。」
「リーフ、こいつ自分で食べたくて持ってきただけだから気にしなくて全然大丈夫よ。」
「おいてめー人の好意にイチャモンつけてんじゃねーぞ。」
「まあまあ。あ、トモエ肉と酒も持って行ってあげて。」
「了解ニャ!」
「で、どうだったの?希少種と戦ってみて。」
「いやぁ戦ったとかそんなんじゃないんですよ。その前にドスラン
ポスにボコボコにされてて、レイアと戦う暇なんてなかったです。」

「トモエから話しは聞いたぜ。レイアの子供をかばったんだろ?まったくまぁマヌケというか甘いというか…。」
「いいじゃない。リーフらしくて良いと思うよ。」
「いやーめっちゃ可愛かったんですよ!エサあげたら、喜んでぴいぴい鳴いちゃって。…お母さんはめっさ怖かったです。」
「そりゃそうだろ。希少種って言ったら昔、俺様も苦労した記憶があるからな。」
「もう、あの赤い瞳ににらまれただけで俺、体が動かなくなって。」
「ダメよそんなんじゃ。さっと行動できるようにしないと。」
「そうですね。やっぱりこれからも採集に精を出そうかと…。」
「バカ!はやく討伐依頼をこなして早く上がってこいっつーの!」
「ハハハ。そうですね。って、ガンさんその武器!」
「おお!よくぞ気づいてくれた!完成したぜ。」
 ガンは自慢げに出来立てホヤホヤのガオレンズトゥーカを見せて豪快に笑った。
「料理できたニャー!」
「よっ!待ってました!!」
 今日のリーフ家は賑やかだ。こうして、リーフはいつもの穏やかな生活に戻る…かと思っていたのだが…。



 ポッケ村の夜は静かである。しかも今日は雪がしんしんと降っており、よりいっそう静寂を増している。月明かりに輝く雪。幻想的な風景は、この辺り一帯の名物でもある。
 こん、こん……。
「…?」
 リーフは何か物音がしたような気がして目を開けた。
 なんだろう…?
 すると、また「こん、こん…」と音がする。
「誰か来たのかな…。扉を叩く音だな…。」
 リーフはベッドから降りると、スリッパを履いて玄関に向かう。
「さむっ…。」
 ポッケ村の夜は寒い。リーフは思わず首をすぼめてしまった。
 この寒さで、寝ぼけている頭もだいぶスッキリしてくる。
 こんこん…。
「はいっ、今開けますね。」
 リーフはおそるおそる扉を開けた。すると…
「夜分遅くに申し訳ない。リーフ…という人間の家はここか?」
「あ、はい。僕がリーフです。」
「ちょっと、話しがある。入っていいか?」
「え…?あ、は、はい。どうぞ。」
 女性だ。それも、一目でとびきりの美人だということがわかる。
髪の毛は茶色というよりかは、赤みがかかった色合いで短め。肌は透き通るように白く、深緑の防寒服に身を包んでいるその佇まいはどことなく威厳があり、凛とした雰囲気を醸し出していた。
 寝室は暖炉がついているので、ちょっと気がひけたがリーフは、
その女性を寝室に案内した。
 寝室は、暖炉もあり、ほのかな明るさを保っている。炎の明かりを受けて、聡明な女性の顔がはっきりと見える。
 女は、深緑の防寒服の上着を脱いだ。上着の下は、ゆったりとした長袖厚手の布の服だ。
「こんな時間に、さむかったでしょう。今、あたたかいものを淹れますね。」
「ありがとう。」

 暖炉の側に置いたヤカンを持ち、紅茶を淹れて運ぶ。
「…なるほど。」
「えっ?」
「いや、こんな時間にすまない。単調直入に言おう。私は先日森丘に居た飛竜だ。」
「はぇ?」
 リーフは思わず素っ頓狂な声を出してしまい、あわてて手で口を塞いだ。
 女性は、静かに紅茶を口に運ぶ。
「ど、ど、どういうことです?」
「察してはいるだろうが、お前が森丘で対峙した飛竜――人間は、リオレイアと呼んでいるらしいが――あれは普通の飛竜ではない。」
「リオレイア希少種…。」
「そうだ。飛竜属ではあるのだが、どちらかというと古竜と性質が近くてな。人間と竜の姿、自在に変態することができる。」
「そ、そ、そうなんですか…。」
 リーフはこの突拍子も無い話しを、受け入れがたくも信用はしていた。この人が、そんなデタラメを言っているようには思えなかったからである。
「今日は、お前に謝罪しに来た。」
「え…?」
「私は森丘で、子を待たせていた。エサと、次の寝床を探していたのだ。ちょっと時間がかかってしまってな。戻ってみると鳥竜種が巣から出てくるところだった。私は瞬時に誤解した。」
「…。」
「こいつが私の子を食し、出てきたのだろうか、と。」
 女の目が、茶色から赤く変色していく(!)。それは、紛れも無く先日、リーフが対峙したリオレイアのあの真紅に輝く瞳だった。
 リーフは思わず冷や汗を流した。自然と身が強張る。
「鳥竜を蹴散らし、巣に戻ると一人の人間が居た。怒り狂っていた私は、子の無事も確かめずにその人間を踏み潰そうとした。」
 リーフは脳裏に、あの時の衝撃、恐怖、焦燥、絶望が蘇ってきて思わず拳を握り締めてしまう。 
「しかし、子はそこにいた。無傷だ。しかも、何かを訴えている。よくよく聞くと、この人間は子にエサを与え、襲ってきた鳥竜から子を助けてくれたという。」
 女はこれまでの鬼気迫る表情から一変して、穏やかな笑みを浮かべた。
「愚かな人間達の愚行は散々目にしてきている。あわれな狩人達を私は幾度となく葬ってきた。この人間もその一味だろうとは思う。しかし、子を助けてくれたのは事実。」
「…。」
 リーフはまっすぐに女を見て話しを聞いていた。
「誤解でお前にケガを負わせてしまった。すまなかった。」
 女がペコリと頭を下げた。
「そ、そ、そ、そんな!俺は別にそんな気にしてないです!むしろ助けてくれてありがとうございました。貴女が治療してくれなかったら、ランポス――鳥竜に殺されちゃってるとこでしたから。」
 たはは…と、リーフは頭をかいた。
「そんなわざわざ謝りに来ていただく程の事じゃないのに…なんかすみません。」
「フフ…。いや、いいんだ。子が心を許した人間だ。一度、会って見たかった、というのもある。狩人には到底向かない、良い甘さを持った人間だということがよくわかった。」
「え…。」

「見ず知らずの者を家に上げ、紅茶まで淹れてもらえるとは思わなかったな。」
「あ…。いや、なんか別に悪い人に見えなかったんで、いいかなあって思っちゃって…。」
 赤面するリーフを見て、女は暖かな笑みをこぼしていた。
「失礼ですが、お名前は…?」
「人間の姿でいる時は、レオナと名乗っている。」
「ありがとうございますっ。レオナさん、ですね。」
「そうだ。ふふふ…。」
 心なしか、レオナの顔が赤くなっているような気がする。
「さあ、寝床に戻るがいい。まだ傷が癒えていないのだろう。」
「あ、いえ、だ、大丈夫ですっ。レオナさんが治療してくれたお陰で、もうなんともないです!」
 力こぶを作ろうとして「つ…!」と、背中の痛みに顔をしかめるリーフ。すると、レオナがつかつかとリーフに歩み寄り、ひょいっとお嬢様だっこをいきなりした。
「え!?な…ちょっ…!」
 突然の出来事に、リーフは恥ずかしいやら驚くやらでまた赤面してしまう。
「無理はするな。今寝かせてやる…。」
 レオナはそっ…とリーフをベッドの上に寝かせてあげた。見かけは女性とはいえ、元はリオレイア希少種。力は人間とは比べ物にならない。
「す、す、すみません…。」
 リーフは弱弱しく目をそらしてお礼を言った。
「フフ…。」
 すると、寝かされたリーフにレオナが四つんばいになって近づいていく。
「え…?どうかしましたか?」
「いや…本来ならば、すぐ帰ろうと思ったのだが…。」
 レオナの瞳が再度真紅に輝く。姿は違っても、その眼力、迫力は竜の姿であるときと寸分も違わない。
 リーフはその迫力に気おされて、びくっと体を震わせた。
「お前、つがいは居るのか?」
「え?ええ?つがいって…。」
「人間でいうと、恋人や結婚相手だ。」
「そ、そんなのいないですよっ…!」
「そうか…。今の人間どもは見る目が無いのだな。」
 そう言いながらレオナはゆっくりと、確実にリーフに顔を寄せていく。
「お前を見ていたら我慢できなくなった。」
「え?」
「いただくぞ…。」
「え?ちょ――ま――!ん――!!」
 突然の出来事。レオナの唇が、言いかけたリーフの唇を塞いだ。
「フフ…くちゅ…。」
「ん…!んっ…!」
 この突然の事件に、リーフの頭は速攻でパンクし、意識は朦朧としている様子。
「ぷあっ…!と、と、と、突然何をっ…!」
 ぼうっ!と顔を真っ赤に染めて、リーフが抗議する。
「見ればわかるだろう…?じっとしていろ。すぐに気持ちよくしてやる……。」
「や…!ちょっと…!」
 再度、レオナが四つんばいになって近寄ってきたので、リーフは仰向けのまま後ずさりする。
「フフ…。どうした…?」
「いきなり…!そんな…!どうして?」
「お前が欲しくなった。お前と居ると心地良い。もっとお前を感じたい。それだけだ。」
「そっ、そんなっ…!」
 どんっ!とベッドの端にぶつかって、もう逃げ場がないリーフ。
「フフ…フフフフ…どうした…。もう逃げないのか…?」
 切れ長の端正な瞳が妖しく細められ、そこから覗く真紅の輝きがリーフをどうしようもなく圧迫する。まさに、獲物をしとめんとする、獣の形相である。
「やっ、やめてくださいっ…!」
「フフフ…我は伝説の飛竜…リオレイア。その我とのまぐわいを、拒否すると…?」
「だ、だって、今会ったばかりでっ…!そんな…。こ、恋人ってわけでもないじゃないですかっ。」
「分かった…。」
 レオナはそういうと、するするっ…と自分の腕を、体をリーフに絡め、手はリーフの顔に添えた。
「我はお前と添い遂げよう…。それで文句あるまい…?」
「え…?ええっ…?」
「もはや文句は言わせん…。フフ…そのかわいらしい顔を見せてくれ…かわいらしい声をもっと聞かせておくれ…。そら…。」
「え…?やぁっ…!」
 レオナの白く細い指が、リーフの胸板をさわさわ…とうごめく。
 びくっ…!とリーフの体が跳ね、レオナは妖しい笑みを浮かべた。
「お前…。経験が無いのか…?ふふ…。」
「だ、ダメです…!自分なんか…こんなダメ人間ですっ…!」
「愚かな…。それを決めるのはお前ではない。相手である私だ。」
「う…!はぁ…!」
 優しくも力強すぎるレオナの言葉に、反論できないリーフ。
 レオナの手と指が、絶妙にリーフの体を刺激して、未経験のリーフはびくん、びくんとどうしても反応してしまう。
「と、とにかく離れてくださいっ…!」
 リーフはどうにかして、レオナの体を押しのけようとするのだが、まったくもってびくともしない。
「リーフ!」
「は、はいっ…!」
 若干荒げて放たれた言葉に、リーフはドキッと身を強張らせた。
 レオナは両手をリーフの顔に添えると、再度顔を近づけていく。
「何も、痛い事をしようというのではない…。ただ、ご所望ならば、痛みを伴わせてもいいのだぞ…?」
「えっ…。」
 リーフはその言葉を聞いて、押しのけようとしていた手を思わず引っ込めた。迫り来るレオナにどうすることもできず、目を潤ませてふるふる…と身を震わせるリーフ。
「ふふふふ…。いい子だ…。安心して私に身を預けるがいい…。」
 なんとも言えないリーフの表情を見て、レオナは舌なめずりをせざるを得ない。
 レオナは、震えるリーフを包み込むように優しく、キスをした。
 柔らかで暖かく、すべてを迎え入れるような感触。
「ん――!んんっ…!」
「ちゅ…くちゅ…。はぁ…フフ・・・。」
 ぎゅっ…と閉じたリーフの瞳から涙がこぼれた。レオナは優しく何度も唇を触れ合わせる。
 だんだんと、強張っていたリーフの体に柔かさが広がっていく。
「んぁ…!ん――!」
 レオナの舌が、するり、とリーフの口内に侵入した。
 はじめは戸惑っていたリーフの舌も、レオナの呼びかけに徐々に答えるようになり、絡みあう舌が静かな寝室に淫猥な音を響かせるようになる。

「フフ…リーフ、美味しい…。」
 舌を伝い、レオナの唾液がリーフの食道へ少しずつ流れていく。
 こくん…こくん…とリーフは喉を鳴らす。
「ふぁ…。どうだ…美味しいだろう…?」
「は…はぁ…。」
 顔を離し、レオナは顔を覗きこむと、リーフはたっぷりと目に涙を浮かべて、惚けた表情でレオナを見つめていた。
「フフ…可愛いやつめ…。」
 そのリーフの表情を見て、レオナはぞくぞく…と体の芯から欲情するのを感じた。
「フフフ…。」
「!!ひぁっ!そ、そこは――!」
「カタイ…。」
 レオナは既に怒張しているリーフのそれに服の上から手を乗せた。
 途端に、びくっとリーフは体を硬直させて、両手でレオナの腕をどけようとする。
「苦しそうに…びくびくしているぞ…。ふふふ…。」
「ひっ…!や…!やめてくださいっ…!」
 顔をしかめて懇願するリーフを見て、レオナは妖艶な笑みを止める事ができない。
「やめる…?何をだ?言ってみろ…。」
「え――。あぅっ!」
 服越しにレオナの指が自分のそれに絡むと、腰が溶けるような感覚に、リーフは体を跳ねさせてしまう。
「邪魔な手だな…。」
 レオナはそう言うと、桜色の毛に覆われた尻尾をリーフの手に絡めさせ、リーフの両手を頭の上で交差させて押さえつけた。
「は…!や…やめてくださいっ…。」
 無防備な状態になったリーフは弱弱しく言葉を投げかけた。
「だから…何をだ…?言ってくれなきゃわからん…。」
 レオナはだんだんと手を動きを強め、悪戯心に溢れた表情でリーフを責めた。
「気持ちいいだろう…?無理することはない…。私の前では、その欲情に溺れて構わない…。」
「うう…う…!ん――。」
 二人の唇が重なる。先ほどのキスとはうって変わって激しい。
 レオナはリーフのズボンの紐をゆるめると、するっ…と隙間から手を差し込み、じかにリーフのそれに触れる。
「ん――!んんんっ…!」
 瞬間、リーフの目が見開いて、レオナにそれを止めるように訴えたようだが、レオナは当然のように無視しあたたかいリーフのものを握り、絶妙な快楽を与えていく。
 両手を尻尾で押さえつけられたリーフは、どうすることも出来ずされるがままになっていた。
 レオナの白く細い指が、優しく強くそれを包みこみ、上下に動く。
リーフは絶えず腰に流れる快楽の電流に飲み込まれていく。
「ふぅ…。リーフ…気持ちいいか…?」
 レオナの問いに、リーフは思わず顔を背けた。
「ふふっ…。お前というやつは、どこまで可愛いのだ…。私は何もされていないのに、もう…。」
 レオナはすっ…と下着を脱ぎ捨てると、リーフの下着もあっという間に脱がしてしまう。
「は…!あううっ…!」
「リーフも…こんなに濡らして…。私で感じてくれているのか…?」
 そういうと、レオナはあらためてリーフにまたがった。レオナの太ももには既に愛液の流れた跡があり、淫靡な光を放っている。
「レオ…ナ…さん……。」
 さんざん自分のそれをしごかれて、リーフの目は虚ろになり拒否の意思もだいぶ薄くなっている様子である。
 レオナは自分の秘部にリーフのそれをあてがう。
「あ…!」
 リーフは一瞬我に返り、はっと言葉を飲み込む。
「だ、だめで――。」
 言いかけたリーフの唇に、レオナはそっ…と人差し指を添えた。
すると、リーフはびくっ!と身を震わせた。
 赤みを帯びたレオナの髪の毛が、だんだんと金色に変わってゆく。リーフは潤ませた瞳で、その様子を見つめていた。
「リーフ…。先ほど言った私の言葉に偽りは無い。私はお前と添い遂げよう…。だが……。」
 はあ…はあ…と、レオナは肩で息をしながらリーフの頬を手で撫でる。
「もう…我慢の限界だ…。リーフ…お前を…この手でめちゃくちゃにしてやりたい…。ただ…それは相手がお前だからだ…。」
 レオナはリーフの瞳を見つめた。
「リーフ…。」
 彼は、うつろな瞳で、しかし、しっかりとした眼光を瞳に宿し、レオナの言葉を受け止めていた。
 ――――。
 しばらくの静寂があった。静かな部屋に二人の吐息と心臓の鼓動が響き渡る。
 レオナはゆっくりと、腰を下ろした。
「は――あ――。」
 ぴん…とレオナは背中を伸ばしてリーフを迎え入れた。
「や…やあぁっ……。」
 リーフは包み込まれていく自分を感じながら、それ以上に、この飛竜のあたたかさに感極まって涙を流した。
 奥底で。深いところでの肉の感触。二人がつながっているという実感。快楽などという若干下卑た感覚とは違う。もっと、根本的な暖かさを二人は感じていた。
 そこから二人は互いの名前を呼びあうだけで、余計な言葉は必要がなかった。
 リーフの胸板に手をついて激しく踊るレオナ。だらしなく開いた口から、唾液に塗れた舌を妖しく伸ばしている。
「リーフ…!リーフぅぅぅっ…!!」
 ――外の雪は既にやんでいた。月と星達が顔を見せ雪をキラキラと輝かせている。凍える風があたりを静かに取り巻き、木々はそよそよと音を鳴らしている。
 冷たいポッケ村の夜。一人の人間と一人の飛竜は、その寒さなど微塵も感じさせない、あたたかな夜を過ごしていた――。



「ニャニャニャニャ〜〜〜〜!ニャッハッハッハ!」
 昼食時、トモエの笑いが響き渡る。続いてナツが言う。
「いや〜ご主人様もスミに置けないニャ!」
「昨日のご主人、可愛かったニャ〜!――ニ"ャッ!」
 ゴツン!とゲンコツを食らったのはロッキー。
 なんとこの3匹、昨日のレオナとリーフの情事をどうしても気になって覗いていたらしい(!)。
「まったく趣味が悪いよなあ!あんな…ところを覗くなんてッ!」
 ぶつぶつ言いながらも、リーフは顔を真っ赤に染めている。それを見て、トモエがまたニャッハッハと笑う。
「また思い出してるニャ〜!」
「うっさい!」
 今日は、朝からずっとこんな調子である。
「いや〜でも今日はこれから楽しみですニャ。」
 ナツが嬉しそうにほっこりと言った。
「そう…だね。」
 リーフはなんとも複雑な、それでいて暖かい笑みをこぼして答えたのであった。
 今日、リーフが朝起きるとすでにレオナの姿は無く、置き手紙が机の上にあった。
 手紙には、お礼の言葉と、今日中に用意してこの家に向かうとの報告。有無を言わさずリーフ家に来るという。
 強引にも思えたが、リーフは全く不快な思いがしなかった。昨日交わしたレオナとの言葉。彼女はリーフの全てを受け入れてくれる。そう言った。
"だ、ダメです…!自分なんか…こんなダメ人間ですっ…!"
"愚かな…。それを決めるのはお前ではない。相手である私だ。"
 ああ言ったレオナの表情はとても優しく、また心強かった。こんな素晴らしい人にこんな風に言ってもらえるというだけで、リーフは本当に嬉しかった。
「やっとご主人にも春が来たニャ〜!ボクは嬉しいニャ!」
 ロッキーは涙ぐんで言った。
「でも、なんで俺なんかと…?」
 リーフが首をかしげて言うと、あの凛とした表情の声が聞こえてきた。
「一目ぼれとでも言えば、わかってくれる…信じてもらえるかな?」
「レオナさん!!」
 みんなでいっせいに扉の方を向くと、レオナが昨日と同じ深緑の防寒服を着てそこに立っていた。
「約束どおり、今日からお世話になる。よろしく頼む。」
「わーーーっ!!おにいちゃあああんっ!」
「わああっ!」
 レオナの影から、青い服にカッパの様な防寒服に身をつつんだ子供が飛び出してきて、リーフに飛びついた。
「会いたかったよぅ!お兄ちゃん!」
「え?え!?まさか…。」
 リーフが視線を子供とレオナにキョロキョロと移すと、
「そうだ。私の息子、リュウだ。息子が世話になったな。」
 と、レオナが言った。
「おにいちゃん、リュウを助けてくれてありがとう!」
「えっ…い、いやいや、そんな。ど、どういたしまして。」
 戸惑いつつも言葉を交わして、リーフはリュウの頭をそっと撫でてあげた。
「てへへ…。」
 リュウは嬉しそうに、目を閉じている。
「そこのネコちゃん達もよろしくな。」
 レオナが頭を下げると、3匹はいっせいに敬礼をする。
「こちらこそニャ!私が特攻隊長トモエニャ!」
「ボクは料理長ロッキーニャ!」
「コックと医者兼任のナツですニャ!」
 レオナは3匹をじっと見ると、こう言い放った。
「昨日は見逃してあげたが、今度覗いたらバラバラにしてフルフルのエサにしてしまうぞ。」
 キラッと悪戯心に溢れた目をしたレオナ。3匹は心底震え上がって最敬礼した。
「了解ニャ!」
「さーてと、私もハンター登録でもしてくるとするか。」
「えっ?」
 リーフがキョトンとしていると、レオナは笑顔で言う。
「ふふふ…。前々からハンター、というものに興味があったのだ。」
「はあ。」
「これから登録に行くぞ。」
「えっ?ちょ、ちょ、ちょっと待ってわあああっ。」
 レオナはリーフの腕をとると引きずるようにして家を出ていった。
「あの二人お似合いニャ。」
 トモエがそういうと、残りの2匹もうんうん、と頷いた。
 家を出ていく直前、リーフは顔を真っ赤にしていた。
「さっき、聞こえたニャ。」
 ナツが言うと、ロッキーがもう抑えきれないといった感じで
「『リーフ、愛している』ニャ!」
 と、叫んだ。
 後に、ハンター最強コンビと言われるようになる二人。それは、まだまだ先の話しではあるが、これからどんな難関が待ち受けていようとも、潜り抜けていくことだろう。
「リュウもはんたぁになりたい!」
「まだ早いニャ!まずは私と特訓してからニャ!」
「うん!ネコちゃんよろしくっ。」
「トモエニャ!トモエ師匠と呼ぶニャ!」
 すると、リュウはさっきのアイルー達と同じように敬礼の真似をしてみせた。
「ニャッハッハッハ…。」
 新しい仲間が加わって、なお明るくなったリーフ家にアイルー達と、飛竜の子の笑い声が響き渡った…。

〜続く?〜
2010年09月10日(金) 20:34:46 Modified by gubaguba




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