ギアノス・フェイク8
スレ番号 | タイトル | カップリング | 作者名 | 備考 | レス |
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3 | ギアノス・フェイク8 | 2-332 | 擬人化(ギアノス)・否エロ | 215〜220 |
ギアノス・フェイク8
ちょっと警戒しながらも、敬語の少女宅へ。村の外れにぽつんと立つ家を見つけ、教えてもらった情報と比べてみる。
うん、ここだな。
良い匂いが漂っている。夕食と言うのは間違いないようだが…。
「お邪魔します」
「あ、どうぞ」
カーテン状の布を持ち上げて中に足を踏み入れる。
テーブルに並んでいたのはカットされて焼かれ、ミントソースで味付けされた肉やサラダ、コンソメを取って作られたスープなど。
つまりは、人間の食事だ。この村で今まで出た食事と言えば精々焼いた肉程度だったのだが。
「これは…」
「お口に合うと良いのですけど。…自分以外の人のために料理を作るのはかなり久しぶりでして」
「何故、人間の御飯を…?」
少女は眼を覗き込むように俺を見た。何かを計っているような――。
「あなたが人間だからですよ。そうでしょう?」
…!
やはり、ばれていたのか。どうする?この娘を殺して――いやいや、そんなことしてまでこの村に居続ける必要は――。
「あはは、そんなにかしこまらなくても良いですよ。別に他のギアノスに教えようとも、思っていませんから」
多少怯えた表情で少女は手を振った。そんなに凶悪な顔をしていただろうか。
すまない、と慌てて謝った。
「良いですよ。むしろその位警戒していた方が」
少女は屈託無く笑う。昨日、ティガレックスと戦っていた時はとても緊迫した様子だったのにな。
著しく二面性がある、と言うことか?
「…どうして分かったんだ?俺が人間だと」
「獣は見舞いなんかしませんし。それに、私は幼い頃人間の世界で暮らしていたんですよ。だから人間のことも、料理も分かるんです。でも」
ある事情があって、と少女は目を伏せた。
「この村に逃げてきました。よく本を読んでたので、戦略とかは良く知っています。それでリーダー役を仰せ付かったんですが…」
まあ、とにかく食べてください、と少女は俺を椅子へ案内した。
確かに腹は減っているのだ。それに暫く人間の食事と言うものを食べていない。素直に食べることにした。
「美味しい!」
「本当ですか?良かったぁ」
少女は安心したように自分の料理に手をつける。
町に居た頃も村に居た頃も、こんなに美味しい料理は食べたことが無い。
いや、ここでの食事との相対的な物かも知れないが。
ナイフとフォークでの食事も随分久しぶりだ。…防具をつけていては食べにくいな。
かちゃ、かちゃと静かな音がする。会話は無いが、気まずい訳ではない。しっとりとした気持ちの良い空気だ。
肉の最後の一片を口に運ぶ。…少女が話しかけてきた。
「最近この辺りのギアノスを狩っていたのは、あなたですよね?」
食べ終わった食器を片付けながらの少女の問いは、飲み込んだ食べ物が気管に流れ込む位俺を動揺させた。
み、水なら分かるが…ッ!
当然のことながら激しく咳き込んだ。
「ガハッ!ゲェホゲホゲホッ!」
「あっ!?ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
手を上げて大丈夫だ、と伝える。少女は困ったように笑った。
「でも、これじゃばればれですねぇ…」
何もいえない。まずこの少女はそれを知ってどうしようと言うのだろう。
「あ、大丈夫です。誰にも言いませんよ。ただ聞きたかっただけなんです」
「…何を?」
「あなたの意思を、です。…あなたは昨日、ヒトの形になった竜を斬り殺しました」
少女の俺を見る目は責めるような光を灯していない。
「その時はとても悲しがる、と言うかショックを受けていたようでしたが」
「まあ、人間の形したものが目の前で死んだんだから…」
少女は更に問う。
「人間…ヒトの形はあなたにとって特別なものなのですね?」
「まあ、同族だし」
「じゃああなたは何も殺せなくなってしまいますよ」
「どうして?」
少女は多少表情を曇らせた。
「…この世界に、ヒトの形を有していない動物など居ないからです」
「…え?」
竜が人間になれた理由――その可能性は考えなかった。しかし、事実であるとすれば。俺が殺してきたあの竜にあの猪に。
「最も、人間と共に暮らす動物――アイルーたちやペットなどは、ヒトの姿を忘れてしまったようですが」
ヒトとしての顔が。知恵が。感情が。家族が。
「通常はヒトの姿なんて、他の種族に見せるものではないのです。…昨日の竜はそういう知識に欠けていたのでしょう」
そんな――そんなことが。
「そんなことを信じられると思うか?」
「あなたは人間ですからね――でも、私達やあの竜を見ている。だから」
「なぜそんな――」
「世界に『何故』はありません。『そうなっている』のです。ただ、そう。ひとつ、昔話があります。人間には伝わっていない昔話が」
少女は人懐っこそうな笑みを浮かべた。全ての動物にこんな笑顔ができると言うのか。
「世界には元々、人の姿を持つ獣だけが存在し、『人間』と言う種は無かったそうです」
彼女は「昔話」を俺に話してくれた――
はるか昔の話。
人になれば互いに語り合い、獣になれば互いに殺しあう。
日々殺し、或いは慈しむ。矛盾しているようだが、それがその時代の生物の姿。
その時代の動物は人と獣を行き来する、そういう存在だったのだと言う。
――ある日、一匹の竜が言う。
「僕はもっと清潔なところに住みたい」
彼は家を作り始める。賢い人の頭で考え、器用な人の手で造る。
そうして出来た家は誰も見たことの無いような清潔な場所となった。
やがて一部の獣たちが彼に習い家を作る。
――ある日、一匹の竜が言う。
「僕の家に虫なんて要らない」
彼は虫を殺し始める。食べる以外の目的で。
そうして彼の家から虫は居なくなった。
やがて皆もそれに習う。
――ある日、一匹の竜が言う。
「あの竜どもは僕の家を壊そうとしている」
彼と仲間は狩りを始める。仲間とともに武器をその手に。
そうして彼らの村から竜は遠のいた。
やがてみなの体から鱗がはがれ、服を纏うようになった。
彼らは獣の姿を捨てて、新たにこの地に息づいたのだ。
「人間」として――。
――聞いたことも無い話だった。
「これが人間の発生とされています」
水を手渡しながら少女は言った。受け取って一口飲んでから問う。
「事実だとでも?」
「いえ、そうは思ってません。ですが、これは面白い話だと思うんですよ」
面白い?反芻すると、少女は自分の水をごくごくと飲んでから、こっちに向いて頷いた。
「私たちは人間と同程度に賢いのです。しかし、自分が食べる以上の狩りを行ったりすることはまずありません」
かたん、とテーブルにコップを置く。
「それに武器も持たない。まあ、これはあなたが持ってきた武器で変わるでしょうけれど」
そういえば雪原に放り出していたな。今村にあるのは、きっとこの少女が運んできてくれたのだろう。
「その差が、人間なのではないかと思ったんです。身勝手に振舞う、更なる力を欲しがる、要らぬ親切をする」
それがむしろ人間であると言う定義にも等しいのではないかと思ったんです。
少女はそう言った。
「定義?」
「はい、人間が昔話の通りに生まれたのだとしたら、身勝手な獣が選り分けられるかのように人になったと言うことでしょう?」
だから、と少女は続ける。
「人間と言うものは身勝手なのだ、と考えるのが自然です」
ひどい言われようだな。まあ、間違っては居ないのだろう、多分。
「だから私はあなたを咎めたり、皆にばらしたりはしません」
急に俺に話が振られて間誤付いた。少女がくす、と笑う。
「心の傷はいつか癒えます。私はそんなことよりも、あなたと言う存在が、生きるためには必要だと思ったんです」
「必要って?」
「私が怪我してて寝込んでたので、狩りは彼らに勝手にやらせるしかなかったんです。
そうしてるうちにあなたが次々とオスを狩っていった。
このままでは狩りが出来なくなって飢え死にしてしまう、というところまで行ったのですが」
あの娘があなたを連れてきてくれた。
少女はそういうとちょっと暗い様子になって、話を続ける。
「もしあなたが人間だと知れたら、皆はあなたを殺そうとするはずです。でもあなたを殺すと、私達は飢え死にです」
「ははは…分かったよ。本当はずっと悩んでいたんだ。
この群れの男を殺したのは自分なのに、かわいそうだから助けるなんてことが許されるのか、って」
少女を見る。少し期待したような目。
「でも、そうだ。俺は力を持っていたんだ。使い方は自由だし、誰かに規制されるものでもない。
どこに加担しようと、町に戻ってハンターを続けようと、殺すことに違いは無い。なら、俺はこの村を守るために狩りをしたい」
人の形をしていようと、人の心を持っていようと、そのものが自分にとって大事かどうかには余り関係は無い。
そう考えれば、昨日の戦いもずっと楽に考えられる。俺はこの娘や、太刀を突き立てたあの娘を守ることが出来たのだ。
守りたいものを守る、邪魔なものを狩る。横暴かも知れない。けれど、それが彼らの――獣たちの思考なのだろう。
気付かせてくれた彼女に礼を言った。これで俺は後ろめたいことも無くこの村を守れる。
少女は満面の笑みを浮かべ、どういたしまして、と言った。
2010年07月19日(月) 11:02:08 Modified by sayuri2219