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クック先生 後編

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
クック先生 後編男ハンター×擬人化イャンクッククック先生の人擬人化(怪鳥)290〜299

クック先生 後編


 少年は、不満げに口を尖らせる。
「なんだよ、みっともないなあ。こうすれば、キミも踏ん切りがつくと思ったのに」
「ふざけるな……! おまえ、おまえっ!」
「怒らなくたっていいじゃん。よく考えてみなよ。こいつら、大人になったら、人を襲うんだよ。害獣なんだよ。今のうちに殺しておいて、なにが悪いの?」
 マルコは反論しようとした。が、はっとして、できなかった。
 それは、自分の考えではなかったのか。
 正義の英雄として、悪の飛竜を倒す。それがおのれの望みではなかったのか。
 モンスターどもなら、いくら死んでもいいと思っていたのではなかったのか。
 絶望して動こうとしないマルコのことを、少年はしばらく見つめていた。
「アキラっていうんだ」
「……え?」
「ボクの名前。アキラって呼んでよ」
 アキラはにっこりとほほ笑んだ。高台から飛び降りると、放り捨てていた自分の鎧を手にとり、着用する。
「こっちは、レティシア。ほら、挨拶して」
 レティシアはそれなりに回復したのか、緩慢な手つきで鎧を着ている最中だった。
 マルコの視線を受けると、先ほどのことを思い出したのだろう。気恥ずかしげに頬を赤く染め、顔を背ける。
「レティシア・レッドフィールドだ」
「大事なところが抜けてるよ」
「……ッ、貴様、ふざけるな……!」
 眼光には、少し力がない。彼女とて、この魔少年には逆らえないということを、本能では理解しているのだろう。わずかな理性が、無駄な抵抗を続けているだけだ。
 だから、あっというまに屈服して、恥知らずな言葉を並べ始めた。
「私は、アキラさまの……忠実な、性欲処理用、めっ、メス奴隷の、レティシア・レッドフィールドですっ……! このい、いんら、淫乱……な体をお気に召しましたら、どうか、おっ、お好きな、ように……うああああっ……」
 台詞を最後まで言い終えることなく、レティシアは泣き崩れてしまった。彼女の誇り高い魂は、無慈悲に踏みにじられることに耐えきれなかったのだ。
「駄目だなあ。街に帰ったらお仕置きして、しつけなくちゃね。今日はその大きな胸を、たっぷりと拷問してあげる。いつもみたく喜ぶだけかもしれないけどさあ」
「うえ、うえええっ、ふぐええええっ……いやっ、いやだっ、許してえっ……」
 ぼろぼろと涙を零すレティシアの姿は哀れだったが、彼女の股が新たな愛液で濡れ始めていると知ったなら、誰もが軽蔑の視線を向けることだろう。
 アキラは呆れたように肩をすくめた。
「騎士の娘のくせに、だらしがないよねえ。お父さんが見たら、なんて言うかなあ」
「いっ、いわ、言わないでぇっ、えぐううっ」
「はいはい。――ねえ。キミの名前は、なんていうの?」
「マルコ・イーノ」
 と、呟いた声は、アキラの耳に届かないほど、か細かった。
「聞こえないよ。まあ、いいや。次に会ったら、聞かせてよ」
 きびすを返し、ひらひらと手を振る。この洞穴から出た瞬間に、マルコのことを忘れていそうな様子だった。
 涙を手で拭いながら、レティシアが続く。
 そうして、ふたりが去っていくと、マルコだけが残った。
 いや、リオレウスとリオレイア、そしてまだ産まれてもいない卵の中身の赤子たちがいたが、彼らはもうなにも言えないし、なにもできないのだ。
 なにかができるはずのマルコとて、なにもしないでぼんやりと天井を見ているありさまだった。
 ――モンスターハンターとは、いったい、なんなのだろう。
 正義の英雄ではなかったのだろうか。
 強くて、かっこいい、正義の英雄ではなかったのだろうか。
 ならば、あのアキラというモンスターハンターは、まさに強くてかっこいい、理想のモンスターハンターではないのか。
 ……だが、その強くてかっこいい英雄が、仲のいい夫婦を殺し、卵を壊し、悲劇を作り出した。悲劇を生むのは悪の仕業だ。アキラは悪なのだろうか。そうなのだろう。
 だがアキラがやったことは、モンスターハンターなら誰でもやっているようなことだ。依頼を受けてモンスターを狩るのだから。ただの仕事だ。
 すべてのモンスターハンターが悪なのか。そうでもないはずだ。マルコの親を殺した飛竜のように、人に害をなすモンスターを狩り、多くの人々から喜ばれているはずだ。それは正義だろう。
 ……正義? なにが?
 ……正義とは、悪とは……モンスターハンターとは、いったい?

 近づいてくる規則的な足音が聞こえていたが、マルコは動こうとしなかった。
「クック先生……正義って、あるんですか」
 ぼそりと、呟く。
「あなたは、正義を信じていたのではないのですか?」
 クックの声は、静かだった。
「……もう、分かりません。ハンターが正義で、モンスターが悪だと思ってた。けど、あれは、あいつは、正義なんかじゃなかった。強かったのに、かっこよかったのに。ハンターは、正義じゃないのかなあ……」
 気を抜けば泣いてしまいそうだった。失望が、マルコの心身から力を奪っていた。
「本質的に、なにが正義で、なにが悪なのか……我々の手の内に、その答えはありません。おそらくは、造物主ミラルーツの――あなたたちがいうところの、神のみぞ知るものなのでしょう」
 クックは座ると、マルコの頭を太ももの上に乗せてやった。
 マルコが見上げたクックの表情は、どこまでも優しく、膝枕の感触は柔らかい。
「我々の次元での正義や悪というものは、主観によって変わるものなのです。あなたたちから見れば、私たちこそ悪なのでしょう。ですが、私たちから見ると、あなたたちが悪に見える。一方的な決めつけなのですよ」
「そんな」
 今まで信じていたものが壊されるような気分だった。
 そんなころころと変わるようなものが正義だとは。正義はひとつの絶対不変のものではないのか。
 では、それでは、
「正義は……まぼろしなんですか?」
 クックは困ったように、どこか寂しげに、首を横に振った。
「分かりません。それはきっと、あなたが自分で答えを見つけなければいけないのです。……不出来な先生でごめんなさい」
「いや、先生は悪くないです。……きっと、悪いのは俺だったんだ」
 ものごとを深く考えようとせず、ただ闇雲に突っ走って、まわりを見ようともしなかったおのれこそが。英雄だと正義だと、おのれの不幸を着飾るように、外見ばかりを求めていた愚かさこそが。
 なにも考えようとしていなかった。
 それが悔しくて悔しくて、涙が溢れそうだったが、堪えた。唇を、血が出るほど噛み締めた。
「……マルコ。彼らの死体がどうなるか、考えたことはありますか」
「レウスとレイアの?」
「ええ。そして、それだけではなく、すべての我々の死体です」
 そんなこと、マルコは考えたこともない。素直に首を振った。
「彼らの死体はやがて腐り、土に還ります。それが肥料となって多くの草木を生やし、それを餌にする草食の者たちが集まれば、さらに彼らを食べる肉食の者たちが集まる。彼らの糞が土を豊かにして、また草木を生やす。――分かりますか?」
「えっと……堂々巡りしてるってこと?」
 クックは、満足げにうなずき、ほほ笑んだ。
「そう。すべては循環しているのです。まるでひとつの大きな輪のように」
「……でも、だとしたら、ハンターはそれを壊してるんじゃないですか。飛竜や他のモンスターを殺して、輪を崩してる」
「その心配は無用です。あなたたちを管理してる――そう、たしか、ギルドとかいいましたか。彼らとて、生態系を崩して我々がいなくなることは望みませんから。各地の状況をつねに監視して、管理しているのですよ」
 マルコは、そんなことも知らなかった。ただ依頼があればモンスターを殺しに出かけるのがハンターで、ギルドはその依頼を斡旋しているだけだと思っていた。
「ハンターが殺す飛竜の数は厳しく管理されていますから、全体的に見ればたいした影響はありません。なにより、あなたたちは無意味に飛竜を殺すのではなく、生活のためのことなのですから、そこに文句を言う資格は誰にもないのです」
 それは、たしかにそうだ。食べていくために殺す。結局、生き物とはそうして生きていくしかない。だから、ハンターの活動が間違っているということはない。
「そして、あなたたちが殺した飛竜は、ほかの種族の糧となる。……あなたたちもまた、世界という大きな輪に加わっている仲間なのです」
「仲間……」
「ええ」
 悔しさからではない涙が流れた。
 ハンターも、世界の一員だと知って、嬉しかった。
 英雄だと信じていたハンターになったときも、これほど嬉しくはなかったのに。
 急に、自分がモンスターハンターだということが誇らしくなってきて、マルコは泣いた。
 まったくよく泣くもんだ、情けないもんだと自覚しながら、どうしても止められない涙だった。

 そうして、しばらく時間が過ぎた。
「先生、ありがとうございました。俺、ちょっとだけど、ものを知ったような気がします」
 しっかりと立って、マルコは言った。
「そうですか。少しはお役に立てたようですね」
「少しじゃないです。すごく助かりました」
 ニカッと笑う。
 が、クックのほうは、どこか表情が沈んでいる。
「どうしたんですか、先生?」
「……マルコ。最後に教えなければいけないことがあります」
「最後って……」
「はい。最後なのです。――マルコ。あなたはどうして、ここにやってきたのですか」
 マルコは、答えようとして、できなかった。
 ここにやってきたのは、ハンターとして、モンスターを狩るためだ。
 イャンクックを――すなわち、目の前のクックを殺すためにやってきた。
 だが。
「俺が受けた依頼は、このあたりに住みついたイャンクックを殺すことだった。けど、そんなこと、できるわけがない」
 短い時間だったが、クックからはさまざまなことを教わった。ハンターとして生きていくためには必要な智恵を、心構えを……そして、甘い快楽も。
「もういいんだ。失敗したことにして、俺は帰ります。笑われたってかまわない」
「ありがとう……ですが、それでは駄目なのですよ、マルコ。あなたは私を狩らねばなりません」
「先生!? そんなことを言うのはやめてください!」
「あなたが帰れば他のハンターがやってくるというだけのこと。どのみち、同じことなのです」
 そうだ。依頼主がいる限りは、何人のハンターが失敗しようとも、依頼がある。次のハンターがやってくる。それだけのことだ。結果は変わらない。イャンクックが狩られるという結果には、なんの変わりもないことだ。 
「そんな。……いや、そうだよ、先生は人間に化けられる。逃げるのは簡単じゃないですか」 
 名案のように思えた。
 しかしクックは首を横に振った。柔らかな微笑が、寂しげに見えた。
「私はここで生まれました。子育てのために他の地で暮らしていましたが、やはり生地が恋しくなって、戻ってきたのです。もうここから動きたくはありません。それが死を招くというのなら、それも運命なのでしょう」
 あまりにも、悲痛な決意。死をも受け入れるという、悲しく硬い意思。
 マルコは、やめてくれ、そんなことを言わないでくれ、と言おうとした。
「勘違いしないでください、マルコ。私とて死を望んでいるわけではありません。……ただ、疲れました。子供はみんな死んでしまって、大切なあのひとも死んでしまって、私だけがどうして生きているんだろう、って、悲しく、なって」
 一筋の涙が零れる。泣くことなど知らぬ気丈な女性だと思っていたマルコは、驚いた。胸が痛くなった。
 子供と、誰だかは知らないが、あのひとというのは、このイャンクックにとって本当に、自分の半身のように大切な存在だったのだろう。
「……だから、マルコ。私は抵抗はしますが、死んでもかまわないと思っています。そして、できるなら、あなたに殺されてしまいたいとも」
「無理だ! できるわけないだろ!」
「いいえ、できます。できなければいけません。仕事を引き受けたのなら、きちんと最後までやり遂げなさい。男の子でしょう」
 涙はすでに跡もない。瞳に力強い光を宿し、クックは凛とした態度で言う。
 その全身が、まばゆい赤光に包まれる。
「先に言った通り、これが最後の授業です。本当の戦いというものを、教えましょう」
 大怪鳥イャンクックが、三たび、マルコの眼前に姿を現した。
 もはや人の言葉は語らない。それどころか、威嚇の咆哮さえ上げない。
 ――口で語るな、力で語れ。
 イャンクックは、そう言っているかのようだった。
「くっ……!」
 アサシンカリンガを抜き放って、マルコは泣いた。いや、吼えた。
「くっそおおおおおっ!」
 地面を勢いよく蹴り飛ばす。
 イャンクックが吐き出す火の塊を、左右に跳んでかわしていく。
 ようやく懐に入り込めるかというときに、イャンクックがその場で回転した。
 鞭のようにしなった尻尾が、マルコに襲いかかる。
 マルコは後退も防御もせず、前方に跳びこむことによってこれを避けた。

 一閃。
 アサシンカリンガの鋭利な刀身が、イャンクックの翼膜を切り裂く。が、薄い。不安定な体勢からの一撃だったからだ。
 マルコは慌てず、イャンクックの胴体の下に潜り込むと、腹部を縦に斬った。頑丈な甲殻や鱗によって守られていない、柔らかな腹部は、多くのモンスターに共通する弱点だ。
 真っ赤な血が噴き出て、さすがのイャンクックの口からも悲鳴が上がる。
 足で踏み潰そうとしたときには、マルコはイャンクックの背後へと移動していた。
 飛竜の攻撃は、ちっぽけな人間にとってはどれもが危険な痛打となる。だからけっして無茶はせず、つねに安全を確かめながらの一撃離脱の戦法が基本。
 すべて、クックから教わったことだった。
 尻尾を斬りつけるマルコの顔には、最初から変わらない怒りの表情が貼りついている。
 なにに対しての怒りなのか、マルコ自身にも分からなかった。
 それはクックの決意を変えられないおのれに対しての怒りでもあったし、勝手に死を受け入れてしまったクックに対しての怒りでもあり、この世界自体への怒りでもあった。
 とにかくマルコは怒っていた。とてつもなく怒っていた。
 怒って怒って怒って、それでも怒り足りないほど怒っていた。
 ふたりは、戦い続けた。十分、二十分、三十分と。
 熟練のハンターが見ていれば、なんともみっともない戦いだと評価しただろう。マルコの戦いぶりは、少しはマシになっていたとはいえ、まだまだ未熟だ。
 が、この戦いをあざ笑うハンターは、すでに過去の熱き日々を忘れてしまっている。
 必死になってイャンクックと激戦を繰り広げたことが、どんな一流ハンターにもあるのだから。
 イャンクックは、一瞬たりとも油断をせず、完全に相手を殺すつもりで戦っていた。だからマルコも本気にならざるをえない。
 殺すか殺されるか、それが戦いだ。どちらかが死ぬことによってでしか終わらない。それこそが彼女の教えたいことだった。
「うおおおっ!」
 激烈の斬撃が、上から下に振り下ろされる。イャンクックの翼に、新たな傷が刻まれる。
 マルコも、軽くはない傷を負っている。腕からは血が流れ、酷使し続けている足にはもうあまり力が入らない。消耗していた。だがそれは相手とて同じことだと、勇気を振り絞って体を動かす。
 旋回した巨体が、真正面から突撃してきた。圧迫感が恐ろしかったが、冷静に動きを見極めれば、こういう単調な動きの攻撃は避けやすい。軽く横に動いてかわした。
 相手の動きをよく見て、特徴を観察し、弱点を見つけ出す。それが飛竜との戦いでは必要となってくる。
 マルコはポーチから拳大の玉を取り出し、体勢を崩したイャンクックめがけて放り投げた。
 耳をつんざく、甲高い破裂音。音爆弾が発生させた、強烈な高音だ。

 マルコは耳を塞いでいたので問題ない。だがイャンクックのほうは全身を限界まで伸ばし、異様に驚いたようだった。
 イャンクックの長所、あの抜群の聴力は、そのまま最大の弱点ともなる。よく聞こえすぎるのだ。自然界ではありえないほどの轟音、爆音こそが、大怪鳥のもっとも苦手とするものだった。
 ――イャンクックは、しばらくすべてを忘れるほどの衝撃を受けたが、頭をふらつかせながらも振りかえった。双眸が、真正面の人間の姿をとらえる。
 クチバシから火を溢れさせ、怒り狂っていた。そして猛烈な勢いで駆け抜け、体当たりを食らわせようとした。
 もし、イャンクックの思考が怒りに支配されておらず、冷静であったなら、どうして先ほどの致命的な隙の最中に攻撃されなかったのか、怪訝に思ったことだろう。
 イャンクックは、最初、なにかに躓いたと思った。だからといって焦る必要などないが、どうやらこれは違うようだった。
 痺れる。地を踏んだ足から伝った痺れが全身に通い、巨躯の動きを封じ込める。
 シビレ罠。マルコがポーチに詰め込んでいた支給品のひとつだった。
 マルコは赤い玉を手にとると、イャンクックに投げつける。
 玉が体に当たって破裂すると、怪しげな煙が噴き出て、思わず吸いこんでしまった。同時に、急激な睡魔に襲われる。これも支給品のひとつ。モンスターを捕獲するための睡眠玉だ。
 一個目をなんとか堪え、意識を保とうと懸命に努力していたイャンクックだが、二個目を投げつけられると、ついに眠気に屈服し、安らかな寝息を立て始めた。
 マルコはしばらく様子を見守っていたが、完全に捕獲に成功したと確認すると、ようやく安堵のため息をついて、その場に力なくへたりこんだ。

 
 
 目が覚めたクックが最初に見たのは、見知らぬ天井だった。
「――ここは」
 はっとして半身を起こすと、自分は人間用のベッドに寝かされているのだと気付く。見れば、かたわらの椅子に座ったマルコが、ベッドに突っ伏して眠っていた。
 眠っている自分を見守っているうちに、いつのまにか眠ってしまったのだろう。なんともほほえましい。
 ……しかし、なぜ自分は人間の姿をしているのだろうか。記憶がたしかなら、最後の瞬間まで怪鳥の姿でいたはずだが。
「あっ。目が覚めたんですか、先生」
「ええ。……マルコ。よだれが垂れていますよ」
「うわ」
 慌てて口元を拭う。
 クックは、そんなマルコの様子を見ながら、小さく言った。
「私は、負けたのですね」
 マルコは、ややためらいがちにうなずく。
「先生は強かった。……変な話だけど、勝てたのは、先生のおかげです。先生がいろいろと教えてくれていなかったら、絶対、何百年かかっても勝てていなかった」
「……そうですか。私は、いい生徒を持ったようです」
 そう言って、あたりを見まわす。小さく、質素な部屋だった。このベッドとて、とても上等な代物だとはいえない。それでも精一杯の努力をして掃除したような形跡はあったが。
「ここは?」
「ギルドで借りてる、俺の部屋です。ごめんなさい、こんな部屋で」
「いえ、気にすることはありません。――しかし、マルコ。どうして私を連れて帰ったりしたのですか」
 マルコに対して怒りを感じていたり、咎めるようではなかったが、真面目な返答しか許さないという雰囲気があった。
「こうするのが一番だと思ったから」
 向けられた視線を真っ直ぐに見つめ返しながら、マルコはしっかりと言った。
「先生を殺すことなんてできるわけがない。したくない。けど、俺が逃げ帰っても、先生は誰かに狩られる。だから戦った。戦って、眠らせて、連れて帰るのが一番だと思ったんです」
「……あそこで死にたいという、私の意思を無視してでも?」
「はい。先生には、死んでほしくない」
「我が侭な……」
「先生こそ」
 ふたりは、長い間にらみ合っていた。
 が、やがてクックが諦めたように微笑した。
「やはり、優しいのですね、あなたは。生徒にしてほしいと言ってきたときから、そう感じていました。……ただ甘いだけなのと、優しいのとは違う。あなたは優しく、強い。だから私は、あなたにあの人の面影を見たのでしょう」
「先生?」
「……分かりました、マルコ。もう、あんなことは言いません。あなたの言う通りに生きましょう」
「やった!」
 マルコは喝采を上げ、小さな子供のように飛び上がって喜んだ。
 そんな様子を見守っていたクックだが、ふと思い出して首をかしげる。
「そういえば、私はどうして人間の姿でいるのですか?」
「ああ、それは、先生にこれを食べさせたからです」
 と言ってマルコが懐から取り出したのは、なんとも怪しく毒々しい赤色のキノコ。臭いも怪しげだ。すべてが怪しげだ。クックの顔も引きつった。
「うっ……ま、マルコ、それはっ……!?」
「ドキドキノコ。知らないかな。食べるとなにが起こるか分からない不思議なキノコ。先生を本当の姿のまま連れて帰ったら、いろいろと厄介な問題があるから、どうにかして人間の姿にしようと思って」
「それで……それを、わ、私に?」
「はい。口の中に放りこんで。いやあ、いろいろと考えてみたんだけどみんな駄目で、最後に試してみたこれが大当たりで本当によかった。狩り場で助けた人だって説明すれば、ここまで先生を運ぶのも簡単だったし」
「そっ、そうですか」
 口に手を当て、思わず胃の中身を戻しそうになってしまうところを堪えるクック。
 マルコが持っているドキドキノコは、尋常のドキドキノコではない。行商人の老婆が格安で売っていた、通常の三倍の威力があるとされるドキドキノコだ。着色料は水性なので洗えば落ちる。
「ま、まあ、よしといたしましょう」
 当分はキノコを見たくもなくなったクックは、咳払いをひとつした。
 急に真面目な顔つきになる。
「マルコ。あなたは我が侭を通したのですから、私の我が侭も聞いていただきますよ」
「なんだって聞きます」
「よろしい。――では、私をしばらくここに置いていただけますか」
 ちょっと無理なことも予想していたマルコは、拍子抜けしてしまった。

「なんだ、そんなことですか。こんなところでよかったら、いつまででもいてください」
「よかった。……それでは、もうひとつ」
 なんですか、と言おうとして、マルコは目を剥いた。
 いきなりクックが服を脱いで、裸体をあらわにしようとしたからだ。
「マルコ。勝者の特権です。私を好きなようにしなさい」
「ちょっ、先生!?」
「嫌ですか? 私の体は、気に入りませんか?」
 そんなわけはない。白く輝くような極上の女体だ。見ているだけで頭がどうにかなりそうなほどだ。そもそも、マルコはクックに好意を抱いている。
「そうじゃなくて……その、なんていうか、いきなりすぎて」
「あのですね、マルコ」
 ずいっ、と迫ったクックは、眉間にかわいらしくしわを寄せていた。
「私はあなたの猛りを静めてあげていたのですよ?」
「あ、はい。ありがとうございました」
「どういたしまして。ところがあなたは私になにもしていないのです」
 そういえば、そうだ。マルコが勃起するとクックが射精させてやる。それだけだった。一方的な行為だったので、マルコがクックに快楽を与えたことはない。
 クックはそれが不満のようだった。
「世の中はギブアンドテイクです。持ちつ持たれつです。分かりますか?」
「はっ、はい、なんとか」
「もう私は我慢できません。欲求不満です。濡れ濡れです。ぜったいに犯してもらいます」
「ええーっ!?」
 抗議の悲鳴は、聞き届けられなかった。
 素早く伸びてきた腕に頭を掴まれ、マルコは柔らかな乳房に顔面を押し付けられる。
 赤熱する思考。
 理性など砕け散って、マルコは本能のままに生きる獣となった。
 豊満なバストの先端を執拗に舐め、味わい、手に余る大きさのそれを好き放題に揉んだ。
「んっ……」
 小さな喘ぎ。技巧もなにもないその愛撫に、クックは快感を覚えていた。
 満足するまで続けてから、顔を上げてみれば、視線が間近で合う。
 ふたりは自然と口付けを交わしていた。甘く、熱烈な、貪るようなキス。
「先生、俺、もう……」
 口を離して、荒い息を吐くマルコが言った。クックはなにも言わずに、ただうなずく。その瞳は欲情に蕩けていた。
 衣服を脱ぎ捨てたマルコのペニスは、すでに雄々しくいきり立っている。クックの秘所も、たっぷりと濡れている。すでに準備は整っていた。
 仰向けになって股を開いているクックに、マルコは重なるようにして覆い被さり――そして、繋がった。
「あはっ、どうですか、マルコ。んんっ、私の、中はっ」
「凄いですっ……、くうっ、ヌルヌルしてて、温かくてっ、お、俺、もうっ」
 性行為は今回が初めての少年にしては、ここまでは上手くやったといえるだろう。が、童貞を失ったばかりの少年が、クックの膣の素晴らしさに耐えられるのかといえば、そんなはずはなかった。
「うっ!」
 満足に腰を振ることすらできず、たちまち射精してしまう。ビクンビクンと脈動して、精液を吐き散らす。
「あ……」
 体内に白いマグマの熱を感じて、わずかに悲しげに、クックがそんな声を漏らした。
 もう終わってしまった。射精して興奮が静まれば、ペニスは萎え、それでセックスは終わる。昂ぶった女だけが残されて。
 マルコは、悔しかった。こんなに情けないことはないと思った。が、すぐに気付いた。おのれの股間は、まだ硬いのだということに。いや、それどころか、先ほどよりもますます熱と硬度を増し、女の中で鋼鉄のような肉棒に成長している。
「ああ、すごい……マルコ……」
 うっとりとしたクックが言った。発情した女の顔だった。
 気をとりなおして、マルコは今度こそ力強く腰を振った。犬のように浅ましく。やはり技術などありはしない単純な攻めだったが、今のクックはそれこそを求めていた。
「ふあっ……あ、あんっ! いいですよ、その調子っ!」
 一度、先に欲望を放出しておいたおかげで、すぐに達する気配はない。しかも、精液と愛液が滑りをよくして、行為を助けている。これならクックを満足させられるかも、と、クックは思った。
 しかし、クックの膣の内壁のヒダが、締め付けが、容赦なく少年のペニスを絶頂へと導いていく。

「くうっ」
 先ほど射精したばかりだというのに、このままでは二度目も時間の問題だ。かといって動くことをためらっていては、クックを気持ちよくさせることなどできない。
 どうにかして、ペニス以外のものを使って、クックに快楽を与えなければ。
 だが、どうすればいいのだろう? 汗だくになりながらマルコは考える。
 そして、ひらめいた。この人間の姿と、あの飛竜の姿――どちらも同じ人物であることに変わりがないならば、あそこを責めればいいはずだ。
「んっ、マルコ?」
 訝しげに、クックはマルコの名を呼んだ。顔を寄せてきたので、キスをされるのかと思えば、マルコはそのままクックの顔の横に――
「んひいいいいっ!?」
 耳に強烈な電流を流されたように感じて、クックは正真正銘の悲鳴を上げた。
「まっ、マルコっ。なにを……」
「やっぱり、先生は耳が弱いんですね」
 イャンクックの最大の弱点は、耳だ。マルコはそこを甘噛みしたのだ。たったそれだけのことで、あの悲鳴だ。
 最大の弱点を見抜かれて、クックはあからさまに狼狽した。目に涙まで浮かべている。
「やっ、やめっ、そこ、ほんとに駄目っ」
「……かわいいですよ、先生。今からたっぷり耳を苛めてあげますから」
 にやり。マルコの笑みは悪魔のようだった。クックの顔が、さっと青ざめる。
「いっ、いやっだめだめ、うああああ――ッ!?」
 今度は少し強く噛まれて、あられもなく絶叫した。赤い髪が振り乱れる。
 マルコの歯の先が耳の肉にたやすく食い込み、クックの性感を痛打していた。
「んぎっ、んっ、ひう、あふうっ、やだっ、ふぐうううっ!」
 舐められるだけで体が跳ね、千切れそうなほど噛まれると、意識がどこかに飛びそうだ。
 年下の少年に完全に翻弄され、涙とよだれを撒き散らしながら、はしたなく泣き叫んだ。
「うぁうっ」
 ぷしゃあっ、と、秘所から黄色い水が噴出して、結合部を濡らす。
「先生、漏らしたんですね」
「ごっ、ごめんなさい、マルコ……」
「いいんですよ、べつに」
 と言いながら、耳の穴の奥に舌を突き刺す。
「……ッ、かはっ……」
 声もなく、クックは舌を突き出して悶絶した。また尿が漏れる。

「うわ、すごっ。先生、漏らすクセでもあるんじゃ?」
「っ……! そんなのありません! きっ、きらいですっ。意地悪する子は嫌い!」
 真っ赤になってそっぽを向くが、マルコにはすべてお見通しだった。
「先生。俺のこと、嫌いになったんですか?」
「そうですっ」
「……本当に?」
 赤子をあやすように頬を撫でられ、クックは泣きそうな顔になった。
「ひどい。ひどすぎます。……分かっているくせに……」
 もはやクックの心は完全にマルコのものになっていたのだ。
 そうやっている間にも、ずっと腰は振られ続けている。じゅぷじゅぷと水音が鳴って、淫靡な空気が部屋を埋め尽くしていた。
 マルコにも、限界が訪れようとしていた。
「先生、俺、もうそろそろ、またっ」
「は、はひ、出してっ。また出してください、おねがい、マルコっ」
 肉と肉が打ち合い、そして――
「あ、いっ、イきます、私またイくっ」
 敏感な耳を責められ、すでに何度も何度も果てていたクックが、叫ぶ。両足は浅ましくマルコの腰に回り、しっかりと捕らえて離さない。
「あ、あっ、イくいくいくイク、ひっ、イっくうううう――ッ!」
「ぅううっ!」
 マルコはクックの腰をしっかりと掴み、精を放った。背中に回されたクックの腕が、爪で肉を引っかいたが、それを気にする余裕もないほどの圧倒的な快感だった。
 二度目の放出は、一度目よりもむしろ勢いよく、クックの膣を蹂躙していく。
 力を使い果たしたマルコは、そのままクックの胸に倒れた。
 しばらく、時間が止まったように静かになる。
「先生……」
「ん、マルコ……」
 白い指先が、黒髪を撫でる。
 ふたりは心地いい疲労感に包まれながら、くすりと笑った。
 クックの目に映る少年は、今までよりもずっと逞しいように思われた。
 イャンクックを倒したことで、ハンターとしての実力を確かめられたからだろうか。初体験をすませ、女を屈服させたことから、自信がついたのだろうか。
 そのどちらもが、今のマルコを強くしているのだろう。
「ねえ、マルコ」
「はい」
「愛していますよ」
 少年のことがたまらなく愛しくなって、身も心もささげたくなって、クックは言った。
 マルコの返事は、もちろん、決まっていた。




 マルコが酒場を訪れてみると、入り口の前に、あの隻眼の老ハンターが立っていた。
「……イャンクックを倒したか」
「ああ」
「強かったか?」
「そりゃあもう」
 なぜか、胸を張って、そう答えることができた。
 老人は、寡黙な男だった。多くは語らず、ただ愚直にモンスターハンターとして生きてきた男だった。ひとりのときも、仲間がいるときも、モンスターハンターだった。
 だから、こういうときになんと言えばいいのか、誰よりも知っていた。
 男が仕事を無事に果たして帰ってきたとき、かける言葉はたったひとつだ。
「よくやった」
 ぽん、とマルコの肩に手を乗せる。
「さあ、腹がへったろう。メシを食おう。ここのステーキは絶品だ」
 マルコは、胸の奥からこみあげてくるものを感じて、瞳が潤んだが、どうにか涙を堪えることに成功した。
 大きくうなずき、ステーキを腹いっぱいになるまで食べようと決意した。
2010年07月20日(火) 22:18:48 Modified by gubaguba




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