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金色の飛竜 3

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
金色の飛竜 3男ハンター×擬人化リオレイア希少種240擬人化(金火竜)482-495

金色の飛竜 3


 古塔の頂上から湖に落ちた俺は、ベースキャンプまで川を流れてきたらしい。
 そして偶然にも、他の仕事のため付近に滞在していたハンターに助けられたのである。
 彼らによると、釣りをしていたら上流から俺が流れてきたらしい。
 さすがにただ事ではないと思い、陸に引き上げネコタクでポッケ村まで送ってくれたのだ。
 というのが、俺が目覚めてから聞かされた事の顛末であった。ちなみに現在自宅のベットで療養中。
 俺を診てくれたハンター御用達の医者に言わせると、
 飛竜と戦って傷ついた体で古塔の頂上から落下するハンターなんて今まで誰もいないのだそうだ。
 死んでもおかしくない中で、命が助かったのが奇跡みたいなものなのだそうだ。
「さすが旦那さんだニャ〜。ゴキブリ並みの生命力ニャ〜」
「やかましいぞネコ。あまり五月蠅くしているとクビにするぞ」

 俺はギルドから送られてきた報告書を読みながら、アイルー達の相手をしていた。
 報告書にはこの依頼がキャンセルされた依頼であると注意書きされた上で、事の顛末が書かれていた。
 こういう場合、本来なら報告書は作成されないが今回は特例として作成された。
 理由の一つがあの場にいた依頼人の代理である黒服達が、突如現れた彼女によって全員殺されてしまったためである。
 本来狩猟エリアにはハンター以外の人間が入ることは無い。それが暗黙の了解となっているからだ。
 常識的に考えるなら、命が惜しければ入ってくるはずは無い。それで死んだなら自分の勝手である。
 しかしながら、ハンターではない民間人が狩猟エリア内で飛竜に殺されたわけで、
 さすがにギルド側としても放置しておく事はできないと考えたのだろう。

 そしてもう一つが、あの依頼主が問題を起こしていたという事だった。
 出発する時には知らなかった話であるが、今回の依頼人の貴族と商人はどうやら裏の世界の人間だったようなのだ。
 人身売買、賭博行為、禁止されている薬物の横流し等々、相当手広く行っていたらしい。
 しかも怨まれる事が多かったのか、あの依頼の最中に何者かに暗殺されてしまったのだそうだ。
 ギルドでは基本的にどのような依頼主からの依頼でも受注していし、ハンターと依頼人はその依頼限りの関係である。
 しかし、依頼主が問題を起こした場合、ハンターにまで責任が及ぶ事があるのだ。最悪、ハンターも同罪になる事もある。
 ハンター自身の注意を喚起する意図もギルド側には有るのだろう。

「結局今回の依頼で得たものは何も無い……ってことか」
 溜息混じりに呟く。今回の依頼での収入はゼロ。
 得たものどころか、愛刀は折られてしまったし、大怪我の代償は高い治療代と来たものだ。
「やっぱり正式な依頼で地道に稼ぐべきだったな〜」
 今更ながら後悔してしまう。
「とりあえず………寝よ」
 俺は読んでいた報告書を投げ捨てると布団に包まった。
 せめて夢の中では嫌な現実を忘れる事が出来ますように。
 アイルー達の鳴き声を聞きながら俺は眠りの世界へ落ちていった。

 さて、あの依頼から二週間。
 顔馴染みのハンター仲間が、冷やかし次いでに見舞いに来る事もほとんど無くなったある日の夜のことである。
 俺が唸りながら我が家の台所事情を考えていた時の事である。
「そろそろ五桁を切るのか……本気でどうしよう」
 いっその事、アイルーをリストラさせようか。いや、あいつらにも仕事をさせたらどうだろうか。
 そんな事を本気で思っていた時、ドアを叩く音が聞こえた。
「? こんな時間に一体誰なんだ?」
 知り合い達ならドアを叩くなんて事はせず、いきなり「今夜も飲むぞ!!」とか言って乱入してくるからだ。
 不思議に思いながらも、俺は突然の訪問客を確かめるためにドアを開けた。
「はい、どちら様で………」
 ドアを開けた俺はそのまま止まってしまった。


 その夜は光り輝く満月の夜だった。
 俺の目の前には月の光に照らされた、一人の女性が立っていたのである。
 美しさと可愛らしさが同時に存在する整った顔立ちと、思わず抱きしめたくなるような体。
 そして何より俺が目を奪われたのは、その月光に輝く彼女の髪であった。
 光輝いているが何時までも見ていたいと思える、どこか暖かさを秘めた優しい金色。
 それは正に金色の月の神秘的な輝きそのものであった。
 俺が彼女を見て固まってしまってからどのぐらいの時間が過ぎたのだろうか?
 ほんの数秒の事かもしれないが、俺にはかなりの時間が過ぎ去ったように感じた。


 俺とその神秘的な女性との間に静寂が停滞し続ける中、おずおずと彼女が口を開いた。
「………あの………こちらはラウル様のお宅でしょうか?」
 鈴のように澄んだ声が俺に問いかける。
「っ……ああ、そうだけど?」
 思わずぶっきらぼうに答えてしまう。別に機嫌が悪かったわけではない。
 気の利いた答えが返せないほど、俺は彼女に見とれていたのである。
「そうですか……逢えて良かった……」
 嬉しそうに微笑して小さな声で彼女が何かを呟いた。
 何か言ったのかと俺が聞き返そうとすると、彼女は目をつぶり深呼吸を幾度か行う。
 そして、よし、と呟いて拳を握ると目を開けて
「ごめんなさいっ!!」
 と、いきなり俺に謝ったのである。

 俺は困惑の真っ只中にいた。
 全く面識の無い神秘的な女性が夜に尋ねて来たかと思うと、いきなり謝りだしたのである。
 そんな時間の止まってしまった俺を他所に、彼女はひたすら謝り続けていた。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!! 本当にごめんなさいっ!!! 
 わたしったら子供達の命の恩人と知らず貴方に攻撃を加えてしまいました!!
 それどころか貴方の大切な武器まで壊してしまって!! 
 っ、お身体は大丈夫ですか!? どこか痛い所がありませんか!?
 貴方がわたしを憎んでいるのでしたらどのようなばつ”っ!!………」
 どうやら謝っている最中に、思いっきり舌を噛んでしまったらしい。
 あれは確かに痛そうだな〜とか、どこか遠くに飛んでいった思考でそんなことを考えていた。
「う〜……いひゃいでふ」
 目に涙をためて彼女は訴えている。
 先程まで身にまとっていた神秘的な雰囲気が一気に消え去って、逆に親近感が沸いて来た。
 どうにか思考を手繰り寄せて取り戻した俺は、彼女が落ち着いてから疑問をぶつける事にした。

「あ〜、一つ聞きたいことがあるんだが、良いか?」
「はい? 何でしょうか?」
 ちょこん、と首をかしげる彼女に対して、俺は最大の問い掛けをした。
「君は一体誰なんだ? 俺達初対面だよな?」
「ええっ!? 違いますよ、わたしたちは以前にも逢ってるじゃないですか」
 逆に俺の疑問は深まってしまった。とりあえず記憶を探り直す。
 こんな目を引く女性と逢っているなら絶対に忘れるはずが無い。しかし、全く思い当たる記憶がない。
「………ごめん、思い当たらないんで次の疑問。子供達の命の恩人ってのは?」
「わたしの子供達を助け出してくれたのですから命の恩人です」
 うれしそうに胸を反らして答えてくれる。いや、全く答えになっていないのですが。

 と、その時、背中に軽い衝撃が走った。
「お兄ちゃんだ〜!! 逢いたかったよ〜!!」
 その衝撃の原因を見るために振り返ると、うれしそうな声を挙げる少女が背中に抱きついていたのである。
 天真爛漫、元気いっぱいという感じが体中から溢れている女の子である。
 何より淡い桜色の髪が華やかさを引き立たせていた。
「え〜っと………?」
 何か言おうと思っていたら、くいくいと腰の辺りの服の裾が引っ張られた。
 視線を下に向けると、背中の女の子と顔立ちが良く似た女の子がいた。
「……にーさま〜、逢いたかったです……」
 嬉しそうに目を細める彼女からは、物静かで優しげな雰囲気が感じられた。
 背中の女の子と違い、この子は新緑の若葉を連想させる緑色の髪であった。

「あらあら、お兄さんに逢えて嬉しそうね」
 目の前の彼女は、そんな様子を見ながら嬉しそうに言う。
「………本当に初対面じゃないんですか?」
「そうですよ、だって二週間前に逢っていますもの」
 俺の疑問に微笑みを浮かべながら彼女は答える。
「二週間前ですか………二週間前?」
 その時俺は何をしていた? あの依頼で古塔に行ったぐらいだ。
「でも俺はその時依頼で古塔に行っていたのですが」
「そうですよ、だからそこで逢ったじゃないですか」
「そこで?……だってあの時にあの場で遭遇したのはリオレイアぐらいしか」
「良かった。ちゃんと覚えてるじゃないですか」

 はい?

「わたし達が貴方と出逢ったのは、二週間前の古塔の頂上です」
 俺がその時遭遇したのは三頭のリオレイア達だった。
 そう、金色の希少種、桜色の亜種と翠色の普通種の子竜…………まさか………
 余りにも現実離れした事態に空いた口が塞がらない。
 何度目かも分からないが、またもや俺は硬直してしまった。
「………まさか………」
「はい、その通りです」
 金色の髪を掻き上げて、嬉しそうに彼女は言った。
「私達がその時のリオレイアです。思いだして頂いて光栄です」
 微笑む彼女を見ながら、今度という今度こそ、俺の時間は完全に止まってしまったのであった。

 ある程度ハンター稼業をやっていると、多少の理不尽な出来事に対しては納得出来るようになる。
 例えば、切り落とした飛竜の尻尾が自分達の手の届かない場所に吹っ飛んでいくとか、
 ガノトトスを水中にいる時に討伐してしまうとか、アカムトルムがマグマの中で息絶えるとか。
 俺も多少の理不尽さには動じない自信が最近付き始めた。否、付き始めたはずだった。
 そう、自分の目の前に、命のやり取りをした飛竜が人の姿で現れるまでは。


「………? もしも〜し。聞こえてますか?」
 彼女が俺の目の前で手をひらひらと振っている。
「あはは、お兄ちゃん変な顔〜」
 背中にしがみ付いた女の子は、俺の固まった表情を見て嬉しそうにしている。
「か〜さま、に〜さまが固まってますよ」
 服の裾を握っている女の子が、困ったように彼女に告げる。
 そして三人から注目されている俺は、彼女が楽しそうに教えてくれた真実を理解する事に全てを費やしていた。
 そして全てを費やして、自分なりの一つの答えを導き出した。
「な…………何だよそれぇぇぇぇっっっ!!!???」
 夜のポッケ村に、ある一人のハンターの壮絶な叫びが木霊したのであった。


 さすがに飛竜(?)とはいえ、訪ねてきた客人と長々と立ち話をするのは礼儀に欠けるという事で、
 俺は三人を家の中に入れて話を聞くことにした。
「とりあえずもう一度確認させてもらうけど………本当にあの時のリオレイアなのか?」
「はい、そうです。あの時のリオレイアがわたし達です」
 キッチンのテーブルに向かい合って座っている彼女、いや、本人の言葉を信じるならリオレイア希少種が肯定の返事をする。
「それとも信じていただけませんか?」
「……正直に言うと未だに半信半疑なんだ。というか今まで飛竜が人間になるなんて聞いたこともなかったからな」
 そう答えた俺に対して、彼女は苦笑気味に答える。
「確かに、余程の事が無い限りは人の姿になる事はありませんからね」
「余程の事とは?」
 俺の問いに対して、彼女は紅茶を一口飲んでから、俺の目を見据えて言葉を紡ぎだした。
「竜の姿を捨てる程強い思いです。一つは現世に残した未練のような負の感情。そしてもう一つは……」
 一度言葉を区切り、自分の子ども達を見てから俺に向き直って、信じがたい言葉を告げる。
「限りなく純粋な好意です」
 彼女の口から出た言葉は、余りにも予想外な答えであった。

 その後彼女は、あの古塔での戦いの後に何が起こったのかを話してくれた。
 俺が落下してしばらくしてから、彼女は落ち着きを取り戻したのだそうだ。
 あの時彼女は、生まれたばかりの亜種と普通種が俺の手で狩られると思ったらしく、必死で守ろうとしたらしい。
 それでこども達に聞いたところ、どうやら自分のある意味勘違いだった事が発覚した。
「こども達の命の恩人だった方に失礼を働き、その事を詫びないのは飛竜の道に反します」
 その事を謝るため人の姿になり、俺の所にやって来た。こども達の頭を撫でながら俺に話してくれた。
 ちなみにその助けられたこども達は俺が出したお菓子を美味しそうに食べていた。
 彼女によると、双子の姉妹で、桜色の髪の女の子が亜種で姉、翠色の髪の女の子が普通種で妹なのだそうだ。
「まぁ話は分かったよ。ところで、俺に謝った後どうするつもりだったんだ?」
「………さぁ?」
 何気なく聞いた問いに対して、返って来たのはこれまた予想もしない答えであった。
「もしかして………何も考えていなかったのか」
「恥ずかしながら………その通りです」
 彼女は少し照れたように俯きながら答えてくれた。どうやら本当に俺に謝りに来る事だけで行動したらしい。
 しかも先程彼女に聞いた話だと、人の姿になった飛竜がもう一度竜の姿になる事は、まず無理なのだそうだ。
「それで、この先人としてどうやって暮らしていくんだ?」
「正直言うと分かりません。でも、せめてこの子達は立派に育てて見せます」
 凛とした、決意を秘めた声で彼女は言った。
「そうか………なぁ、キミらはこれからどうしたい?」
 俺は今まで聞き役に徹していた、子供たちに話を振ってみた。
「う〜ん………お母さんと一緒だったらうれしいな。あと、お兄ちゃんも」
「そうですね………か〜さまとね〜さまと一緒が良いです。それと………に〜さまのそばにいたいです」
 二人とも彼女と、そして俺と一緒にいたいと、つぶらな瞳で俺を見ながら言った。
 その意見を聞き、俺は腕組みをして目を瞑った。


 彼女達三人は元々リオレイアだったが、俺と出会ってしまった事でその姿を人へと変える羽目になった。
 もし俺と出会わなければ、彼女達は飛竜として、自然の摂理の中で生きていく筈だったのだろう。
 という事はだ。俺には彼女達の本来あるべき姿では無いようにしてしまった責任があるわけだ。
 自分はどれだけ甘い性格なんだろうと思う。ハンターが飛竜に掛ける情けなんか存在しない。
 それでも俺はこの飛竜達に責任を感じてしまうのだ。全く持って正しいハンターの道を踏み外している。
 目を開けると、そこには不安と期待が入り混じったような三人の眼差しがあった。
 今から彼女達に言う事は、俺のこの先の生活に大きな変化を与えるものである事は重々承知している。
 

 俺は溜息をつくと、意を決して彼女達に告げた。
「一つ聞いておきたい事がある。これから住む場所はあるのか?」
「有りません。けれど、雨風さえ凌げれば……」
 予想通りの答えだった。天井を見上げて、心の中で正しいハンターの道に別れを告げてから、彼女達を見て
「なら……ここに住めばいい。どうせ家を改築したばかりで一人暮らしには広すぎるぐらいだ。
 それに顔見知りになった女性が野宿しているってのも後味が悪いしな。どうだ?」
 なるべくぶっきらぼうに言い切った。

「お兄ちゃんと一緒にいられるの!?」
「に〜さまといっしょ………ほんとうに?」
 こども達は嬉しそうに瞳を輝かせている。本当に俺と一緒にいられる事がうれしいみたいだ。
「本当に良いんですか? ご迷惑ではありませんか?」
「迷惑じゃないさ。それにさっきも言ったけど、顔見知りを野宿させるよりはこちらも良心が痛まなくて済むんでね」
 心配げに呟く彼女に苦笑しながら答える。
 それを聞いても少し迷っているようだったが、嬉しそうなこども達を見て心が決まったのだろう。
「それではラウル様、よろしくお願いします」
 と丁寧に俺に頭を下げたのであった。
「ああ、こちらこそ………」
 よろしくと言いかけたところで、ふと思い出した事がある。
「そういえば今まで聞いてなかったんだけど、なんていう名前なんだ」
 これから一緒に暮らしていく相手の名前を知らないというのはさすがに問題である。
 俺はそう思って聞いたのだが、

「「「リオレイアです(だよ)(なの)」」」

 と、人間と飛竜の間に存在する壁を認識させる答えが、三人から同時に返ってきた。
「いや、まぁ確かにそうなんだけどさ……」
「私達飛竜には、個体をいちいち識別して名づけるという概念がありませんからね」
 頭を悩ませる大人組であるが、
「それじゃあ私達の名前を、お兄ちゃんが付けるってのはどうかな?」
 桜色の髪の子が上目遣いで俺を見ながら提案した。
「そうですね。やはり人間であるラウル様が名付けた方が自然に聞こえますよね」
「に〜さま……お願いします……」
 そう言われると、ものすごい責任感という名の重圧が生じてしまう。しかも三人とも期待に満ちた目で見ているし。
 俺は女性に名前を付けるという未知の作業に、殆ど無い感性と脳みそをフル稼動させていた。
「………それじゃあ、お母さんがルナ、お姉ちゃんがオウカ、君がリア、でどうかな………?」
「ルナ……いい響きの名前ですね」
「オウカってなんだか強そうな名前だね」
「に〜さま、リアは嬉しいです」
 ありがたい事に三人とも気に入ってくれたみたいである。
「そうか、それじゃあ三人とも、これからよろしくな」
「「「はい!!!」」」
 このようにして我が家には、元リオレイアの三人が新しく住み付く事になったのである。
 そしてそれは、半分以上騙され高い金を支払って行われたリフォームが始めて役に立った瞬間でもあった。

「こうして我が家には三人の住人が住むことになりました………か」
 俺は風呂上りの火照った身体をベッドに横たえ、開いた寝室の窓から吹き込む風で冷やしていた。
 その後、オウカとリアがはしゃぎ過ぎて疲れたのか眠り始めたのでその場はお開きとなったのだ。
 ちなみにルナは風呂に入っている。決して覗こうなんて不埒な事を考えなかった理性に乾杯したい。
 というかこの先の生活に関して俺は考えていたから、そんなことは思いつきもしなかったのだ。
 正直な話、不安な事が多い。なんと言っても彼女達は人の姿をしているが飛竜である。
 飛竜と一緒に暮らした事がある人間なんて全く存在しないだろう。不安の種は尽きない。
 特に彼女達の正体が何時かばれてしまうのではないか。というのが最大の不安要素なのだ。
 余り認めたくは無いのだが、世の中にいるのは、俺みたいに正しい道を踏み外したハンターばかりではない。
 健全なハンターというのも多数いる。飛竜によって被害を被った人にとっては憎悪の対象にしかならないだろう。
 答えが導き出されない問い掛けに、悩めば悩むほど頭が痛くなってくる。
「………まぁ、なんとかなるだろ」
 結局の所、考えても解決策なんて出てこないのだからそういう事態が起きてからでなければどうしようもない。
 俺は強引に、出たところ勝負でいこう、という結論を出して目を瞑った。
 元飛竜が現れて同居人になった、という衝撃の体験のせいでやはり精神的に疲れていたのだろう。
 すぐに訪れた睡魔に、抵抗する間もなく夢の世界へ連れて行かれてしまったのだった。



 どのぐらい時間が経ったのだろうか。ふと、自分の名前が呼ばれたような気がした。
 夢か現か、それは鈴の鳴る様な澄んだ声だった。
「………ん。………ルさん」
 どうやら夢ではないようだ。俺はまだ半分以上睡魔に拉致されている状態で、声の元を探していた。
「ラウルさん」
 声の主は俺のいるベッドに腰掛けて、俺の頭を撫でながら名前を呼んでいた。
「………ルナ?」
「はい」
 俺が目を覚ましたのに気が付いたのか、嬉しそうな顔をする。
「………どうしたんだ?」
「ええ、お礼がまだ済んでいなかったので、そのお礼をしに参りました」
「お礼?……ああ、もう済んだから気にしなくていいよ……」
 寝ぼけ眼で彼女を見ながら呟く。
「違います。先程までのお礼はオウカとリアの母親としてのお礼です」
 何か彼女は難しそうな事を言っている、と俺の寝ぼけた思考は判断する。
「そして今からするお礼は………ルナという一人の女性としてするお礼です」
 そう言うと彼女は俺の唇に、自らの唇を合わせてきた。
 ああ、柔らかいな〜いい匂いがするな〜俺もしかしてキスをしている…………?って誰とだ…………!?
 そこでようやく睡魔から思考が完全に解放される。そして今何が起こっていたのかやっと把握出来た。
 俺は、今、ルナと、キスをしていた。
「ルナ!?」
 思わずベッドの上に跳ね起きた俺に対して、ルナは潤んだ瞳で俺を見つめて
「ラウルさん。この身を貴方に捧げに来ました」
 唇を重ね合わせたのだった。

 動けないでいる俺にされたキスは、先程の啄ばむ様なキスとは違っていた。
 ルナは俺の口なかに自らの舌を入れると、自らの舌を俺の舌と絡め、口腔内をなぞり始めた。
 どのくらい時間そうやっていたのだろうか。ルナがゆっくりと顔を俺から離した。
 俺とルナの口の間には亜互いの交じり合った唾液が糸を引いていた。
「ふふ……どうですか?」
「気持ちよかった……ってそうじゃなくて!?」
 そういって妖艶に微笑むルナの肩を掴む。危うく場の雰囲気に流されてしまう所だった。
「いきなりどうしたんだよ」
「ですからわたしからのお礼ですよ」
 あくまで彼女はお礼だと言う。
「それとも気に入りませんでしたか?」
「いや……そんな事はないけど……」
 俺は少しばつが悪そうに横を向いて呟いた。
 新たな同居人といきなり肉体関係をもつ後ろめたさと、美女を抱ける歓びという男の正直な気持ちが葛藤していたのだ。
 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ルナは両手で俺の頬を挟んで自分の方を向けると、またキスをしてきた。
「んっ……ラウルさんは何も気にしなくていいんです。これがわたしの気持ちですから」
「だけど悪いよ………」
 俺はなんとかルナに抵抗を試みていた。
「それに……こちらはとても嬉しそうですよ」
 彼女に言われるまでも無いが、俺の股間は既に熱く滾っていた。なんて節操の無い悪食だろう。
「我慢は身体に毒ですよ? 今すぐ鎮めて差し上げます」
 
 そう言って彼女は俺の一物を取り出すと、その手で摩り出した。
 ひんやりとした手が強く、弱く、緩急をつけて俺の分身を摩る。
 その行為は俺の欲望を静めるどころか、返って増徴させてしまう。
「困りました……余計に熱くなりましたね」
「ルナ、もういいから……」
 懇願するような俺の声を聞いてその行為が中断された。この間に何とか言い訳を考えなければならない。
 そんな事を考えていた一瞬に、彼女は次の行動に出たのであった。
「っ!?」
 先程まで彼女の手によって摩り続けられた俺の物が、突然何か暖かいものに包まれたかと思うと、
 俺の背筋を痺れるような感覚が走り抜けたのだ。
「……これならどうですか?」
 俺の股間にルナが頭をうずめて、嬉しそうに舐めていた。
 舐めるだけではなく、口の中にそれを加えて愛おしそうに刺激し続ける。
 彼女は本気だとようやく悟った。そして最早、俺には彼女を諭す余裕なんて残っていなかった。
 俺に出来る事はその欲望を少しでもいいから我慢し続ける事だった。
 もし我慢する事を止めたら、直ぐにでも彼女の美しい顔に欲望をぶちまけてしまうだろう。
 俺はひたすら今まで狩ってきたランゴスタの数を数えて、気を紛らせようとしていた。

「ラウルさん気持ちいいですか?」
「っ……ああ」
 ランゴスタの数を数えながら我慢し続ける俺に彼女が問いかける。
「良かった。それではもっと気持ちよくなってくださいね」
 しゅるり、と衣擦れのような音がした。そして俺の物が暖かく柔らかいものに挟まれた。
 新しく襲ってきた刺激に、思わず欲望があふれ出しそうになる。
 なんとか我慢して暗がりに目を凝らすと、ルナがその胸で俺の物を挟み込んでいた。
 手とも口とも違った柔らかさが、一物を濡らした彼女の唾液を潤滑液として俺の物を摩りあげる。
 やばい、これ以上は本当に我慢できるかどうか分からない。
 そろそろカウント数も3桁に突入しそうになったその時、彼女が胸と口の両方で刺激した。
 そしてそれが引き金だった。
「ルナっ!! 出る!!」
 俺は彼女の口から一物を引き抜こうとした。しかし、彼女はそれを拒んだ。
 結果として俺の分身が吐き出した欲望は、全て彼女の口腔内に注ぎ込まれたのであった。
「おい大丈夫か!?」
 慌てて俺は彼女から白濁としたそれ吐き出させようとする。
 一応毒ではないため害は無いのだろうが、間違っても飲むものではない。
 
 しかしルナは恍惚とした表情で口の中の物の味を確かめていた。そしてコクリと飲んでしまった。
「ラウルさんの子種……とっても濃くて、美味しかったですよ」
 そう言って微笑む彼女はとても妖艶で、同時にとても清らかなものであるように俺には感じられた。
「わたしばかりが楽しむのは不公平ですよね?」
 彼女は身に纏っていた衣服を全て脱ぎ去った。そしてベッドに横たわる。
「それじゃあ次はラウルさんが食べてください」
 俺に向かって楽しそうに彼女は言う。その時、窓から月明かりが差し込んだ。
 その月光に、横たわるルナの裸身が照らし出された。宵闇の中に、白く整った裸身が良く映える。
 俺は熱病にうなされる患者が水を求めるかのように、仰向けの彼女に手を伸ばす。
 そして彼女に触れる、ぎりぎりの所で、最後の理性の破片を振り絞った。
「なぁ……これ以上いくと止められないんだけど」
 暗に最後までいっても良いのか、というメッセージを込めて尋ねた。
 彼女はまるで、聖母の様に微笑むと両腕で俺の頭を抱きかかえ、
「好きにして下さい」
 と耳もとで囁いたのだった。その言葉によって俺の理性は全て破壊された。

 俺も服を脱ぎ去ると、先程まで俺の一物を挟み込んでいた彼女の柔らかな胸に手を伸ばした。
 俺が胸を弄ぶ度に、俺の手の中でルナの胸は形を変える。俺は心行くまで彼女の胸を揉み続けた。
 彼女も昂ぶっているのだろう、聞いているだけで脳が蕩けてしまいそうな甘い声を出していた。
 その様子は俺の中の雄としての本能をますます刺激する。彼女をもっと昂ぶらせたいと。
 こねくり回すように乳房にしていた愛撫を止めて、感じているのかピンと立った乳首を握ってみた。
「ああっ!?」
 効果は絶大だった。今までよりもひときわ高く甘い声を彼女は出した。
 その声からすると軽く達してしまったのかもしれない。
 荒い息を付いている彼女の上半身から下半身に目を移す。既に下腹部は愛撫をしなくても十分な位湿っていた。
 試しに彼女の秘部に指を入れてみると、くちゅりという音と共にすんなりと受け入れられた。
 指をゆっくりと彼女の中に出し入れする。すると彼女が切なそうな声で鳴く。
「ラウルさん………もっと」
 俺はその言葉を聞くと、彼女の中から愛液を纏った指を引き抜いた。
 引き抜く際に彼女が悩ましげな声を挙げた。
「ルナ……最後までいくけどいいか……?」
 俺は自分の分身を彼女の中に入れる準備をしながら、彼女に聞いた。ルナは潤んだ瞳で俺を俺を見て
「わたしの中をラウルさんでいっぱいにしてくださいっ……!」
 と答えたのだった。その答えを聞いて、彼女の中に一気に突き入れる。
 
 俺が彼女に与えた快感と、彼女が俺に与える快感はどちらがより大きかったのだろうか。
 結合の瞬間、俺とルナ、両方の口から快楽に震える声が上がった。
 彼女の中はとても暖かく、俺を迎え入れた。結合した直後、俺は動く事が出来なかった。
 気を抜いたら一瞬で果ててしまいそうだったからだ。
 彼女の中の感覚に慣れてきた頃、俺はようやく動き始める事が出来た。
「ラウルさん……っ」
 俺とルナは正面を向き合って抱き合っていた。
 神秘的なまでの魅力を持つ女性が、俺が動くたびに俺の下で娼婦のように淫らな声で鳴く。
 その事がますます俺の快楽と本能を刺激させる。彼女をもっと悦ばせたい。
 その考えに支配されるかのように俺は腰を打ち付ける。
 ゆっくりと、そして次第に早く。俺とルナがぶつかり合う音と水音が宵闇の中に響いた。
「ルナ、そろそろいきそうだ!」
「来て下さいラウルさん!!」
 二人とも限界に達そうとしていた。俺はルナを抱きしめると最後の一突きと共に、彼女の中に大量に欲望をぶちまけた。
 彼女が恍惚に打ち震える声を聞きながら、荒い息をついて俺はベッドに倒れ伏した。

 情事の後の気だるさを残しつつ、俺はルナと同じベッドの上で横たわっていた。
 彼女は俺の名前を呼んでは嬉しそうにしている。
「ラウルさん、ラウルさん」
 そういって俺の胸に擦り寄ってくる。
「なぁ……さっきから何してるんだ?」
 先程から彼女がやっている行為に、なんとなく興味を持ったのだ。
「これですか? これはですね………マーキングです」
 ルナの説明によると、飛竜は自分が交尾した相手に対して、自分の匂いを付ける習性があるらしい。
 そうする事で自分のつがいを他の飛竜に取られない様にするのだそうだ。
「だから、ラウルさんはわたしのつがいですし、わたしはラウルさんのつがいなんです」
 嬉しそうに彼女は言った。俺は多少呆れつつ、俺を取る相手なんかいないと苦笑する。しかし彼女の反応は違った。
「何を言ってるんですか。ラウルさんには他の飛竜の匂いが付いていたから、私が新しく付け直しているんですよ?」
 
 意外にも、不機嫌そうな表情をする。その事に内心驚きつつ、彼女の言葉が気になった。
「なぁ、他の飛竜の匂いって何だ?」
「……オウカとリアがラウルさんに最初に出会った時、殆ど敵と認識していませんでしたよね」
 俺はその時の情景を思い出す。
 あの時は確か、リアは驚いたから噛み付いてきたが、オウカは全く警戒心を持っていなかった。
「ああ、そうだったな。でもそれって刷り込みだがらじゃないのか?」
「刷り込みとは?」
 今度は逆に、俺がルナに刷り込みの説明をする。説明後、彼女は何故か面白そうに小さく笑い出した。
「あはは………人間っておもしろい事を考えるんですね」
「違うのか?」
「ええ、確かにそういう事も無いわけではありません。
 オウカとリアがラウルさんを敵と認識しなかったのは、ラウルさんの匂いの為です」
「ああ、さっきもそんなこと言ってたな」
「子竜が最初に認識するのは匂いなんです。自分達と同じ匂いなのかどうかで親か敵を識別するんですよ」
「それじゃあ何で俺は敵と認識されなかったんだ? 飛竜の匂いなんかしないはずなのに」
 
 そう聞くと、彼女は少し答えにくそうにしていたが、
「あの時ラウルさんが使っていた武器ですけど、どれ位使ってましたか?」
「あの武器は……数年位は使い込んでいたと思うけど……」
 と尋ねてきた。俺はあの時ルナに壊された愛刀クイーンレイピアを思い出した。
 あの武器は俺が下位のプリンセスレイピアだったころから使い込んできた武器だった。
「それで匂いがしたんですよ。分かりません? あの武器は何を材料にしていたのですか?」
 あの武器はプリンセスレイピアの上位武器である。そして両方の武器に必要な素材は共通している。
「……リオレイアに関係するものばかりだ!!」
「その通りです。長い間わたし達の素材によって作られた武器を使い込んでいた事で、雌火竜の匂いが染み付いたんです。
 だからオウカもリアも、ラウルさんを兄だと勘違いしたんですよ」
 彼女の話を聞く限り、俺はあの時こども達にリオレウスだと勘違いされていた、ということになるらしい。
「………偶然って凄いな」
 俺は思わず呟いてしまった。
 もしあの時クイーンレイピア以外を装備していったら、オウカやリアに慕われることは無かったかもしれない。
 あのキャンセルした卵運びの依頼を請けなかったら、ルナとも出会わなかっただろう。
 何よりもこの大きな買い物をしなかったら、三人と一緒に生活をするなんて出来なかったに違いない。

「そうですね……でもたとえ偶然だとしても、わたしはわたし達が出会えた事は意味が有ると思いたいです」
 ルナが嬉しそうに言った。そしてまたもや俺に擦り寄ってくる。
「確かに………ところで何時までそれを続けるんだ?」
 彼女が言うマーキング行為に対して、俺は尋ねた。
「………わたしの匂いが付くまでです」
 やはり気まずそうにしていたが、意を決したようにルナは言った。
「もしかして武器に嫉妬したとか?」
 冗談半分に聞いたのだが、ルナから反論は返って来ない。本当なのかと聞くと、彼女は小さく頷いた。
 二人の間に静寂が訪れる。が、俺の笑い声によってそれは破られた。
「もぉ、笑わないでくださいよ! わたしは真剣なんですから!!」
 少し怒った顔で、恥ずかしさを誤魔化しながら言い寄ってくる。
 しかしこちらの笑いは止まらない。
 伝説とまで謳われる金色の飛竜が、単なる武器に嫉妬しているというのだ。
「いや、悪かったって」
「笑いながら言わないでください!」
「本当にすまなかったって思っているから」
「全然思ってそうじゃありません!!」
 顔を赤らめながら怒る彼女を見ていると、この先の生活の不安なんて小さなものに感じられてきた。
 きっと何とかなるさ。そんな事を呑気に考えていたが、
「分かりました……言う事を聞いてくれない悪い人にはお仕置きが必要ですよね?」
 ルナはそう言うと、俺の唇を自らの唇で封じてきた。また部屋には静寂が戻る。
「しっかりと謝ってもらいますよ?」
 彼女は嬉しそうに微笑んだ。どうやら夜はまだまだ続くらしい。
 明日の朝日は見れるのだろうか。というか、普段と違う色の朝日を見る覚悟をした方が良いかも。
 そんな事を考えながら、俺はルナにベッドに押し倒されたのであった。



 窓から入ってくる朝日を浴びて彼女は目を覚ました。覚醒しきっていない頭で考える。
 昨晩自分は何をしていたのだろうか。風呂から出た後、のどが渇いたのでキッチンに行った。
 そこには良い香りがする液体が入ったビンがあったので、そこからコップに移して一杯ほど飲んだ。
 そこから先は記憶が無い。そういえば、と彼女は気付く。心地よい感覚が体中に広がっている。
 今気付いたが、衣服を全く纏っていない。あらわになっている肌艶がいつもより良い。本当に何をしていたのだろう。
 ふと声がしたので何気なく隣を見てみた。そこにはこの家の主が何一つ身に付けていない姿で眠っていた。
 そこで自分が掛けていたシーツの中を見てみると、下腹部から白い液体が零れていた。
 ここまできて、ようやく頭が覚醒した。次々と組み合わせられるパーツから、自分が知らない真実が見えてきた。
 そしてそれを理解した瞬間、彼女は大きく息を吸い込み
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
 叫んだのであった。

 心地よいまどろみは、突然隣から聞こえてきた悲鳴によって破られた。
 思わず飛び起き、何かあったのかと警戒する俺の目に飛び込んできたのは、ベッドの端で盛り上がっているシーツであった。
 そのシーツの中身は、昨夜濃厚な時間を過ごした彼女なんだろう。しかし一体何をやっているんだろうか?
「……ルナ?」
 とりあえず声をかけると、飛び跳ねんばかりにシーツが動いた。あからさまに動揺している仕草である。
 人がシーツを頭から被って見られないように隠れる状況は、恐怖に怯えている時が考えられる。
 しかし、今この部屋の中に彼女を怯えさせるようなものは存在していない。
 もう一つ考えられるのは、極端に何かに対して恥ずかしがっている、という事である。
 そこまで考えた時、ルナがおずおずと話しかけてきた。
「………あの……昨夜の事ですけど………」
 本当に消え入りそうな声である。そして俺は昨夜何があったのか記憶を探る。
「っ!?」
 濃厚な夜が一瞬で脳内に再現された。自分の事とはいえ思わず顔が赤くなってしまう。
 顔だけなら良いが、昨夜何度も使用した一物まで思わず反応してしまいそうになった。
「お、思い出さなくて結構です!っていうかお願いです忘れてください!!本当にご迷惑をお掛けしました!!!」
 そんな俺を見て、彼女が慌てふためき出したのであった。

 いつまでも全裸のままでいるわけにもいかないので、とりあえず脱ぎ散らかした衣服を身に纏う。
 彼女は余程恥ずかしかったのか、まだシーツに包まっている。中からは自己嫌悪に満ちた唸り声が聞こえる。
 しばらく彼女はそうしていたのだが、やがてぽつりぽつりと語り始めた。
「……昨日お風呂からあがったら喉が渇いたのでキッチンに行ったんです……」
 どうやら俺が少し眠っていた時の事らしい。
「そうしたらいい香りがする飲み物があったので、一杯ほど頂きました」
 そういえばアイルー達が料理に使う酒で、黄金芋酒がキッチンに置いてあったことを思い出す。
 俺も時々飲むが、かなり薄めて飲んでいる。酒に弱いわけではない。あの酒が強すぎるのだ。
 あれをそのまま薄めずに飲むと、ぶっ倒れるか、お花畑が見えてくるかのどちらかだと言われている。
「それで何だかものすごく良い気分になって……」
「その話をまとめると、昨日のアレは酒が起こした……って事なのか?」
「そうなんです、お酒のせいなんです!!」
 シーツから恥ずかしさで赤くなった顔だけ出して、涙を浮かべながら釈明する。そしてまた静かになる。

 何となく俺とルナの間に微妙な空気が流れ始めている。さすがに俺がフォローした方が良いのかもしれない。
「え〜っと、ルナ、聞いてくれるか?」
 気の利いた言葉なんか思い浮かばないが、伝える事に意味がある。
「昨日の夜の事なんだけどさ、ルナが悪いんじゃない。だからそんなに気に病む事は無いさ」
「……ラウルさん」
「いや、誰だって酒が入ったら何するか分からないしさ。あと……」
「あと?」
「俺は迷惑だなんて感じてないから。正直嬉しかったし、それに昨日のルナは凄く綺麗で可愛かった……って!?」
「っ!?」
 言い切った瞬間ルナの顔が更に赤くなった。先程とはまた違った空気が二人の間に生まれる。
 何だか自分がものすごい墓穴を掘ってしまった様な気がした。俺まで顔が火照ってきた。
「まぁそういうわけだから朝飯食おうぜ! 俺、オウカとリアを起こしに行ってくるから!!」
 空気に耐え切れなくなって、こども達を起こしに行くという名目で俺はその場から緊急に全力離脱を試みた。
 部屋の中に一人残されたルナは、ラウルが慌しく出て行くのを呆然と見ていたが、
 しばらくしてから、ぱたんと後ろ向きにベッドに倒れこんだ。
「……ラウルさん……」
 恥ずかしそうにその名前を呟く。誰にも聞かれる事無く風に運ばれたその呟きは、どこか嬉しそうであった。
 そして赤く染まったルナの顔には幸せそうな微笑みが浮かんでいた。
2010年07月21日(水) 22:23:27 Modified by gubaguba




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