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猛き獣・浮岳龍ヤマネ 後編

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
20猛き獣・浮岳龍ヤマネ 後編擬人化古龍太刀厨 612〜618

猛き獣・浮岳龍ヤマネ 後編


「……邪魔」
龍木ノ古笛【神歌】を振りかぶった直後に漏らしたのは、ただ一言。
一瞬の間を置いて、目の前の岩が一発で粉々に砕け散る。
それを目の当たりにしたランポス達は、潰れたうめき声を吐き出し、脱兎のごとく逃げ出した。
黒刀【終の型】を構えて連中と対峙したレンは、その逃走を追う事はしない。構えを解き、岩を砕いた張本人――ヤマネを振り返る。
「どうだ、あったか?」
「ある」
対するヤマネの返答は、極めて無味乾燥。
だが彼女の足元に転がっているのは、無味乾燥ぶりを疑うには充分過ぎる代物だった。
両手で抱えなければならない程の大きさ。
そのくせ果肉はぎっしり。
濃厚な甘さだが、後味は不思議と爽やか。
贈り物としては最上級だが、実際には上流貴族ですらなかなか口にできないという、まさに高級品。
その名も、ラオシャンメロン。
二人が一番の目的としていたものである。
「見つかるかどうか心配してたが、あっさり見つかるもんだな」
抜き身の黒刀【終の型】を肩に担ぎ、レンが驚いた調子の声を上げる。それを受けて、ヤマネはラオシャンメロンを見下ろしたまま口を開いた。
「そうなの?」
「ああ、滅多にお目にかかる事ができない」
「……どうして?」
隣に彼が立ったので下がりつつ、僅かに首を傾げて問いかける。するとレンは、ラオシャンメロンの前に腰を下ろしながら口元を笑みの形に歪ませた。
「随分と前に聞いた話だから本当かはわからんがな」
そう前置いて、言葉を次ぐ。
「こいつは基本的に、飛竜の巣の辺りでしか育たないらしい。仮に育ってもここまで大きくはならない上に、味も落ちる。
どうも飛竜の巣って環境に何かあるらしいが……まぁ、その辺りはどうでもいいな。で、大抵は飛竜が産んだ卵に紛れて成長するわけなんだが……」
黒刀【終の型】の刀身に変なものが付いていないかを確かめつつ、ぽんぽんと軽くメロンを叩く。
「こいつは卵じゃなくてメロン。だから熟す頃には雛が孵化して、親に気付かれる。そしたら、栄養たっぷりなこいつは晴れて雛の餌、ってわけだ。
つまり、熟してすぐに食べられてしまう事が多いから、滅多に見る事ができない。……もっとも、竜は基本的に肉食だから、本当に食べるのかが疑問だが」
「それは偏見。肉食だからって、肉だけで生きていけるわけじゃない。それに栄養が豊富なら、充分雛の成長の助けになる」
「……そうか」
肩をすくめ、ため息。


そしてレンは、黒刀【終の型】をラオシャンメロンに押し当てる。
直後、メロンは僅かな音と共に真っ二つに割れた。切り口を上に向けてコロンと倒れ、下がっていたヤマネが片方に歩み寄る。
レンも黒刀【終の型】の刃に付いた果汁を拭き取ると、残った方のメロンを膝に抱える。
「だが何にしても、こいつが貴重なご馳走だって事は変わらない。気が済むまで味わうとしよう」
そう言って懐から取り出したのは、大きめのスプーン。ヤマネも同じものを取り出し、こくりと頷いている。
そして二人は一瞬顔を見合わせ、ほぼ同時にメロンの果肉をすくい取った。
「「いただきます」」


珍味堪能ツアーもといトレジャーハンター。
ヤマネの希望であった贅沢なそれは、密林を舞台に繰り広げられていた。
数ある舞台の中で密林が選ばれたのは、徘徊するのがイャンクックと明らかに討伐しやすいものであり、なおかつ食用のトレジャーが豊富であったからだ。
受注前に聞かされた希望によると、ヤマネは『何でもいいからとにかく沢山食べたい』らしい。
食べるのには時間が必要になる。
また、食べ物を集めるのにも時間がいる。
となれば、選ぶべきは食べ物の種類が豊富で、なおかつ目玉となる竜食材の調達がいともたやすいもの。
そんなわけで、それらの条件を満たす密林が選ばれた、というわけだ。
ちなみに現在、トレジャーは始まったばかり。イャンクックにばかり気を取られると時間が勿体ないので、優先的に食べたいものから先に探している、という状態だ。
なお、食べる順番については何も言わない事になっている。それを言い始めると、ラオシャンメロンを食べられるかが怪しくなるのだ。


「いないの、イャンクック」
大分量が減ってきたラオシャンメロンを抱えて、ヤマネは抑揚のない口調で問いかける。
それに対し、あっという間に平らげたレンはキノコの群棲地帯をまさぐりながらぼやいた。
「そういう台詞はメロンを食べ終わってから言え。肉とメロン、一緒に食べるつもりか」
「アイルーから聞いた。肉と果物は相性がいいって」
「高級メロンと焼き鳥屋の定番の食べ合わせなんざ聞いた事がない」
顔をしかめながら、ふと竜茸を見つけてつかみ取る。既に見つけていたものと同じように脇に置き、まだないかを探してみると、次に見つけたのは何故か通常弾。


「それに俺は、タンにレモン汁しか認めん」
それを適当に放り投げると、ちょうどよく姿を現わしたランポスの頭に命中した。
下っ端鳥竜は、さながら奇面族がこやし玉をくらったような様子でキョロキョロと頭上を見回している。
「そう。別に興味ない」
ヤマネはそのランポスに近付きながら、スプーンを口にくわえた。
直後、唸るような音。
龍木ノ古笛【神歌】がランポスを見事に吹き飛ばし、壁に叩きつける。
身の丈程はあろうかという得物を片手で振り回した彼女は、その後何事もなかったかのように得物を担ぎ直し、再びメロンを食した。
「……自分から振っておいてそれはないだろ」
はっきりとため息をつき、レンが竜茸を抱えようとする。
と、急にはっとした顔で上を見上げた。
「……」
それと共に、ヤマネが最後の一口を食べ終わり、器のようになったメロンを足元に置いて、同じように見上げる。

洞穴にぽっかりと空いた縦穴。
そこから、見慣れた桃色が舞い降りてくる所だった。

「イャンクック」
ヤマネがぼそりと呟く。
「……なんというか、タイミングがいいんだか悪いんだか」
一方、ため息を漏らしながら頭をかくレンだが、その手には既に抜き身の黒刀【終の型】。
止まった虫をも真っ二つにするという斬羽の刃を怪鳥に向け、彼は静かに息を吐く。
そして、接近。
一気に距離を詰めると、彼の存在に気付いた怪鳥がこちらを向くよりも先に、刃を突き刺した。
頭部を狙った一撃は、僅かに狙いを外れて嘴を貫く。
「ちっ」
舌打ちと共にさっと引き抜けば、虚を突かれた怪鳥は痛みに混乱し、暴れ回る。が、レンは構わずもう一撃。
再び頭部を狙った突きは、今度こそ脳を貫いた。
瞬間、暴れていた怪鳥はぴたりと制止。そして刃を引き抜くと、ゆっくりと倒れ込んでいく。
その一部始終を見物していたヤマネは、スプーンを拭きながらぼそりと呟いた。
「……流石『殲滅皇帝』。狙いが正確」
「いちいち相手にするのが面倒なだけだ。……手伝え、目玉食材の剥ぎ取りだ」
対するレンは何事もなかったかのような顔で、剥ぎ取りナイフを取り出す。すると彼女もそれに続かんとばかりに、さっとナイフを取り出した。
二人は分担して、イャンクックの解体作業に取りかかる。
ヤマネは、剥ぎ取りが比較的容易なカワを中心に。
レンは、少々難しい部位のナンコツ、スナギモを。
それぞれ自分の担当部位をせっせと剥ぎ取っていく。


先に終わったのは、剥ぎ取りには慣れているレン。ナンコツとスナギモを抱え、その目はペリペリと音を立ててカワを剥ぐヤマネの方へ。
しばらく様子を窺ったのち、やはり時間がかかりそうだという結論に至ったので、先に食材を焼いておく事を決めた。
彼女に断りを入れ、近くで肉焼きセットを準備する。
まずは食材が汚れないように布を広げ、そこにナンコツとスナギモ、鉄串を置く。
火を起こし、火力を調節。
普段は骨付き肉をかける所はいつもよりも低く。
代わりに鉄串に食材を刺し、一本だけかける。
後はいつもと同じように、焼き加減を見ながらくるくる回すだけ。自然と頭の中に、小気味よいメロディが流れ始める。
それに合わせるように、レンは鼻歌を歌い始める。
「〜♪〜〜♪」
しばらくの間、その状態で串を回し。

「上手に焼けました、っと」

頃合いを見て串を持ち上げると、お決まりの文句が口をついて出てきた。
「……実際、焼けてるな」
次いできちんと焼けている事に何とも言えぬ不可解さを覚えながら、レンは立ち上がる。
さて、ヤマネの剥ぎ取りは終わっただろうか。そんな事を考えながら怪鳥の骸に視線を向けたのだが。
「……?何、これ」
ヤマネが不思議そうな声と共に、何かを持ち上げる。
自ずと視線は両手で抱えたものに向かい、そして釘付けになった。

秘玉。

生成に幾つもの条件を要す、マニア垂涎の逸品。
それがヤマネの手に抱えられているのだ。レンは思わず目を剥く。
「これ、食べられるの?」
だが、その価値を知らない彼女は首を傾げ、とんちんかんの質問を投げてくる。
レンは苦笑すべきか慌てるべきか考えあぐね、かぶりを振りながら答えを返す。
「……いや、食べ物じゃない」
「そう」
「だがそいつは貴重な」

「なら捨てる」

止める間もなかった。
興味を失ったらしいヤマネは、あろう事か秘玉を片手で持ち上げ、後ろ手に放り投げてしまったのだ。
ガシャン、と派手な音を立てて、マニア垂涎の逸品が砕け散る。
「……へ?」
一瞬、時が止まる。
そして、価値をなくした残骸に視線を落とし、更に少しの間を置いて。
「……よりによって投げ捨てるか」
何とも複雑な表情でぽつりと漏らした。




番いの雌達は人間の中で貴重とされるものを、ぞんざいに扱っている事が多い。
ケルピーナッツを一粒拝借しながらそんな事を思ったのは、離れ小島へと繋がる浅瀬を歩いている時だった。
袋詰めにしたケルピーナッツを抱えた彼の目が、怪鳥の焼き串を黙々と消費していくヤマネに向けられる。
彼女は先程、レア物とされる怪鳥の秘玉を見事に投げ捨てた。
また先日の狩りでは、ハンターの憧れである金色・真の鎧をラウナが乱暴に扱う姿を見た。
それ以外にも思い返せば、様々な場面で似たような光景を目の当たりにしてきた覚えがある。
だが、それらは往々にして意識しないままに行われていた。
わざとではなく、人間の間で通じる価値観を知らないだけ。先程の出来事は、それを認識するのに充分だった。
これは、少し教えておかなければいけないかもしれない。
視線を戻しながら、レンは思案に耽る。
今はまだいい。彼女達は一部を除き、基本的に家から出ないからだ。
しかし、だんだんと人間と関わるようになってきた時、その価値観のズレは必ず何らかのトラブルを引き起こす。
そうなった時、困るのは彼女達自身だ。だから、人間側の価値観を最低限度でも教えていかなければならない。
となれば、どのように教えていくのかが問題だ。何せ暇さえあれば子種を――

と、そこまで考えた所で急にはっとなった。

その場で立ち止まる。
振り返れば、焼き串をぺろりと平らげたヤマネ。
「……何?」
突然自分の方を向いたレンを不審に思ったのか、彼女は首を傾げる。
それに対し「いや、なんでもない」と取り繕って再び歩き始めながら、彼はひそかにため息を漏らした。
大事な事を忘れていた。
そもそも雌達は「強い子孫を残す」という目的で番いになった。
そこに、子供さえできれば人間の番いとは別れるという意図がないとは言いきれない。
仮にそういう意図があるとするならば、人間側の価値観を教えようとした所で無意味。
どうせ本来の生活に戻るのだから、時間をかけるだけ無駄だ。
レンは頭をかき、僅かに下唇を突き出した。

ちょうどその時、目的の離れ小島にたどり着いた事に気付く。
レンは思考を中断し、辺りを見回した。
「あそこの岩だ。割れば多分、砲丸どんぐりが出てくる」
そして遠目からでもわかる白い岩を指さす。するとヤマネはこくりと頷き、さっと駆け出していく。
程なくして岩の前に立った彼女は、龍木ノ古笛【神歌】を振りかぶり、力強く叩きつけた。本来なら繰り返し叩かねばならないはずの岩は、その一撃で見事に砕け散る。
その様子を見ながら、レンは彼女を追うように歩を進める。
と、不意にある疑問が頭をよぎった。

――そういえば、彼女は何故『珍味を食べたい』と言って自分を連れてきたのだろうか。

砲丸どんぐりを探してキノコの群棲地を引っ掻き回すヤマネの後ろ姿を見ながら、レンは首を傾げる。
最も考えられるのは、やはり自分を独占する事でより早く子を孕む事。そもそも、それが古龍達の目的である。
だが、彼女の一応の目的であった『珍味堪能』が口実であったかというと、かなりの疑問である。
何せヤマネは密林の珍味を次から次へと平らげていた。情事前の腹ごしらえと言えなくはないが、明らかに量が腹ごしらえのそれではない。
この事から、珍味堪能が口実ではなく本当に目的だったという可能性も充分考えられる。
はたして、正解はどちらなのか。
「……ヤマネ」
彼女の背後に立ったレンの口から、声が漏れる。
「何?」
ヤマネは振り返らぬまま、言葉を返す。
手元には砲丸ドングリ。龍木ノ古笛【神歌】の持ち手で、硬い殻をコンコンと叩いている。
「一つ、聞いていいか」
「構わない。言って」
「……」
一呼吸。そののち、おもむろに切り出した。
「わざわざ連れ出したのは、独り占めでするのが理由か」
威圧するような低い口調は、古龍に対する癖のようなもの。
殻にひびを入れたヤマネの手が止まる。龍木ノ古笛【神歌】を置いて、彼女はゆっくりと振り返った。
しばしの間、視線が交差。
レンは冷めた眼差しで見下ろす。
ヤマネは無表情の目で見上げる。
そのまま、沈黙が続いて。

「ふぅ」

ため息と共に視線を外したのはヤマネ。砲丸どんぐりを抱えて立ち上がると体をレンの方に向け、再び腰を落とす。
そして、彼を見上げながら静かに口を開いた。
「そのつもりだった」
「そうか」
冷めた呟きが漏れる。

レンはヤマネから視線を外そうとした。
「……でも、どうでもよくなった」
だが、続く言葉と共ににわかには信じがたいものを見て、彼の目は釘付けになる。
眉一つでさえ動く事のなかったヤマネが、輝くような微笑みを浮かべていたのだ。
今までただの一度も見せた事のなかった感情を露わにし、彼女は言葉を紡ぐ。
「メロン、カワ、スナギモ、ナンコツ、茸。それにピーナッツとどんぐりも残ってる。こんなに食べられるなんて思ってなかった。
私は食べるのが好き。美味しいものでもいいし、沢山あってもいい。レンはそれを両方とも満たしてくれたから、満足だし幸せ。
だから子種はいらない。私の為に頑張ってくれたレンを休ませたいし、もう少し食べたい」
彼女にしては珍しく長い。しかも初めて見る笑顔でそれを言う。
その様子に、レンは思わず頬を赤らめてしまった。一拍遅れて、予想外の答えに戸惑いながらそっぽを向いた。
「……そ、そうか。だったら、俺は少し休ませてもらうぞ」
いつにも増して雑な物言いは、照れ隠しの表れ。だがそれに気付かないのか、ヤマネはニコニコしながら頷いた。
「構わない。食べ終わったら言う」
「あぁ、そうしてくれ」
ケルピーナッツの袋を置き、自らも腰を下ろす。そして頬杖をつき、遠くに見える水面を眺める事にした。
どんぐりの殻を剥く音が耳に入る。
レンは時折ヤマネを横目に見ながら、先程の彼女の言葉と笑みについて、思案を耽った。
しばらくして、彼はふと口を開く。
「……ヤマネ」
「何?」
いつの間にか、ヤマネはいつもの無愛想に戻っていた。今にもどんぐりにかぶりつきそうな所で顔を上げ、首を傾げる。
それを横目にレンは問いかける。
「……また来たいか」
すると、ヤマネの目がぱっと輝いた。
「今度は砂漠がいい」
「そ、そうか。考えておく」
その様子を見て、彼は少々うろたえながら、ある事を考えていた。

やはり、人間側の価値観については教えておいた方がいいのかもしれない、と。
2010年09月10日(金) 20:43:07 Modified by gubaguba




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