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竜になりたい 1

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
竜になりたい 1  否エロ94〜100

竜になりたい 1


 ほぼ一定のリズムで連続する振動。
 どこまでも広がる砂漠の上においてもしっかりと伝わってくる程に強力なそれに、足のみならず全身が揺さぶられる。
 時とともに強さを増すそれに、心までも揺さぶられぬように振動の発生源を兜越しにしっかりと見据える。
 視線の先、砂地の向こうにひとつの黒点があった。
 黄土色の砂礫がどこまでも続く景色の中、そこだけ空間が削ぎ取られたかのようだった。それほどに濃い黒。
 遠距離に存在したそれは、しかし文字通り瞬く間にこちらに接近し、その姿がはっきりと見えてきた。
 広げられた巨大な黒翼。地を蹴りたて、大量の砂礫を巻き上げながら踏み出される発達した両脚。
 特徴的な襟飾りのある頭部。そしてそこから生えた、最大の特徴たるねじれた双角。
 砂漠にのみ生息する大型飛竜ディアブロス。その亜種の威容だった。

 高速で突進してくる黒き角竜。
 自身の数十倍の質量を持った巨体が、敵意を持って自分の全力疾走速度を優に上回るで迫ってくる光景に、心拍数が跳ね上がるのを感じる。
 防音性に優れる轟竜の素材を使用した兜を被っているためか、耳元で激しく脈打ちはじめた血の音が騒音に感じられた。
 これは畏怖ではなく興奮だと分かっている。
 回避にしくじればまず助からない。よくて瀕死の重傷だろう。
 そんな状況にだけ見出せるものがあると知ってしまったのは、もう随分前のことだ。
 暴発しそうになる心を押さえつけ、右手を背に回す。
 掴んだのは鬼神斬破刀の柄。自らが背負っている武器を再確認することで、心がいくらか落ち着く。
 そのまま神経を目に集中。間合いの把握に全力を注ぐ。
 黒ディアブロスは、既にその身を覆う黒甲殻の凹凸ひとつひとつが確認できるほどに接近していた。

 先程から更に加速された黒巻き角が、俺の胴鎧を貫き胸を串刺しにする寸前。
 その刹那、俺は竜に対して横を向きつつ地面を思い切り蹴り、しかし高度は最低限に抑えつつ後方へ跳躍。
 双角の射程範囲外に逃れ、連動して抜刀し頭上に振り上げていた太刀を両手で掴む。
 そして僅かに浮いた足が再び地に着いたその瞬間、
 思い切り踏み込むとともに、渾身の一太刀を今まさに眼前を過ぎ去ろうとしている黒ディアブロスの右脚に叩き込む!
 放たれた白刃が角竜の脚に接触。その衝撃によって柄に仕込まれた仕掛けが起動し、刀身が紫電を帯びる。
 瞬間的に雷の太刀となった刃は、大腿部表面を覆う甲殻を断ち割り肉を切り裂く。
 だが次の瞬間、トップスピードにあると思われた突進速度が僅かに上昇。
 完璧なタイミングを捉え、肉の奥にある神経や腱をも切断するはずだった刃は、
 その目論見を達することなく走り抜け、再び空気に触れた。
 攻撃の失敗を悟り、急制動をかけて砂地を滑走していくディアブロス。
 その脚から漂ってくる肉が焦げる異臭を嗅ぎながら、俺は薄く驚愕していた。

 あの速度の突進で未だ全速力ではなく、しかも攻撃を受けたその瞬間に加速し、回避とはいかぬまでも重傷を避けたのだ。
 それがたとえ火事場の馬鹿力のようなものであったとしても、それが出来る飛竜というのは滅多にいない。
 いるとすれば、よほど反射神経に長けた奴であるか、または以前にハンターと戦って戦法を学習し、かつ退けた奴か。
 あるいはその両方かだ。
 どちらにせよ、今まで幾度か狩ってきた角竜の中にこんな動きができる奴はいなかった。それほどの相手。
 その事実に俺の口の端が勝手に歪み、笑みを形作るのがわかった。

「そうこなくちゃな」



 短く呟き、俺は太刀を背の鞘に戻して疾走。止まりつつある竜の背に追いすがる。
 黒ディアブロスは俺を叩き潰すべく尾を振りかざし、連続で地に叩きつけてくる。
 交戦開始直後から罠を駆使するなどして既に先端部分の瘤を切断していたため、
 その一撃を回避するのは容易だった。
 しかし巻き上げられた砂塵が視界と進路を塞ぎ、俺は停止を余儀なくされる。
 攻撃は囮。奴の目的は方向転換の時間を稼ぎ、急所たる腹への攻撃を防ぐことだった。
 だが、それこそが俺達の狙い。
 竜の尾が再び振り上げられたその時、砂煙を貫いて飛翔した四本の矢が、
 甲殻に覆われていない尻尾の裏側の肉に深々と突き刺さった!
 痛みにのけぞる角竜。
 その隙に俺は黒ディアブロスの腹下に駆け込み、勢いを殺さず抜刀。
 全力で振り下ろした刃は、今度こそ確実に角竜の腹を深々と切り裂いた。
 同時に刀身から迸った電撃が肉を、そして内臓を焼く。
 角竜の口から零れる悲鳴。
 苦し紛れに振り回された尾は、脚に切り付けつつ後方跳躍する俺を掠めるだけ。

 零れ落ちる血の紗幕の向こう、角竜を挟んだ反対側に、轟弓【虎髯】を携えた仲間のスピカの姿があった。
 狩猟において弓やボウガンといった飛び道具をを使用するガンナーは、
 モンスターの攻撃をほぼ受けず、かつ回避も容易な間合いから狙った部位への的確な射撃が可能である。
 だが、高火力を実現するには矢や弾が最大威力を発揮する間合いを把握することが絶対条件とされ、
 その点から複数人での狩りにおいて、手数を増やしすぎると飛竜の突進を誘発してしまうことがあり、
 結果として他の近接武器を扱う仲間の火力を落としてしまいかねない。
 そんなガンナーの特徴を生かすべく、まず手数で押す武器である太刀を使う俺がモンスターの注意を引き付け、弱点を射抜く機会を作り出す。
 そしてスピカがそのチャンスを逃さず急所を撃ち抜き、更に隙が生まれた時には俺が追撃する。
 という対飛竜、特に二足歩行のそれとの戦闘において有効な戦法を実践してみたが、どうやら正解だったようだ。
 同時に竜の逆鱗に触れたようでもあったが。

 地鳴りのような重低音の唸り声。
 それとともに口から吐き出される黒い吐息は、まるで具象化した角竜の怒りのようだった。
 黒い甲殻のなかで異様に映えている黄味がかった双眸が俺を射抜く。どうやら完全に怒らせてしまったようだ。
 当然のことだが、怒りというものは非常に厄介だ。
 人ならば常に持ち合わせている理性で押さえつけ、それらが蓄積し暴発する前に無害な方法で発散することもできる。
 そうすることが出来るだけの知能と、守るべき秩序。そして失いたくないものへの執着がある。
 もっともアルコールなどで容易く崩壊し、過度の怒りには焼き尽くされる程度のものではあるが。
 だが、竜にそんなものは存在しない。
 自然の中で一生を過ごす奴らにとって、自分とその同類以外は全て敵として認識される。
 ことディアブロスという種においては、自らの縄張りを侵すものは例えそれが同類であっても力ずくで排除する習性がある程だ。
 守るべき社会などほぼ存在しないに等しく、あるのは生と繁殖への執着のみ。
 そしてそれらが全て正当化されるのが、自然という環境である。
 つまり奴らには他のものによってもたらされた怒りを抑える道理などなく、そのつもりもないだろう。
 まぁ、ただ単に道理を理解し、社会性を築くだけの脳味噌が存在しないだけだろうが。
 どちらにせよ、怒りによってもたらされる爆発的な力を、敵の殲滅や捕食に全て遺憾なく発揮できるのだ。



 怒りによって限界以上の攻撃力と俊敏性を得たモンスターを相手にするには、それ相応の技量が要求される。
 ディアブロスやその亜種の狩猟経験はそこそこ積んでいるので、怒れる角竜を相手にしても生き残れる自信はある。
 だが、それはこちらが万全の状態であるならの話だ。
 幾度となく竜の身体に斬りつけた鬼神斬破刀の切れ味は、決していい状態とは言えない。
 加えて、クーラードリンクによって体温はなんとか正常範囲に保たれているものの、
 水分とスタミナが戦闘によって消耗されていくのは止めようがない。
 少人数での戦闘中に飲み食いするのは、妙に凝った自殺志願者か底抜けの愚か者、または真正のマゾくらいだ。
 それらは全て同じようなものだろう。そして当然ながら、俺にそのテの趣味も傾向もない。
 手早く現状確認を終え、導き出された結論をスピカに伝えようと視線を向けると、
 同じ考えに至ったらしい奴もこちらを見ていた。
 
「退くぞ!」
 
 俺が構えていた太刀を背の鞘に戻し、腰のバックパックから黄色と緑色の小さな球を取り出すのと、
 体勢を立て直した黒ディアブロスが再び俺に突進しはじめたのはまったくの同時だった。
 怒りに我を忘れ、限界を超えた速力で迫りくるディアブロスの鼻先に、黄色いほうの球のピンを押し込み、投擲。
 それが角竜の頭に触れる直前、破裂した球から迸った強烈な閃光が、降り注ぐ陽光ごと周囲を、そして二人と一頭を漂白した。
 直後に響いた怒声じみた悲鳴はひとつ。発生源は角竜の口腔。
 飛竜との戦いを有利に進める上で欠かせぬアイテムとされる、
 光蟲という虫が絶命するときに放つ閃光を増幅させて炸裂させる閃光玉の効果だった。
 事前の打ち合わせで撤退するときには狙われた方が閃光玉を使うと決めており、
 目を瞑った上で腕を掲げで光を防いだ俺達はすぐに視界が回復した。
 だが何の防御もせず、しかも最も近い位置で閃光を直視した角竜はそれどころでは済まない。
 焼きついた視界は、優れた回復力を持つ竜の眼とはいえ回復に三十秒は要するだろう。
 ハンターとの戦闘を経験ていたのなら、その効果を学習していて地下に潜行することで光を躱すかと思ったのだが、
 どうやらいらぬ心配だったようだ。怒りのあまり即時の攻撃に拘ってしまったのかも知れないが。
 手に持っていた緑色の方の球を足元に投げつけると、それから噴出した大量の緑色の煙が全身を包み、視界が緑一色に染まる。
 その煙が晴れたとき、目の前にあったのは竜ではなくベースキャンプのテントだった。
 また会おう黒角竜。少しの間とはいえ、存分にもがき苦しみやがれ。
 そう内心で呟き、レックスSヘルムを頭から引き剥がすようにして外す。
 深呼吸をしながらそれを地面に置いた瞬間、突如として背中に重い衝撃が加わり、俺は思い切りうつぶせに転倒した。
 馬鹿な、モンスターの気配などなかった筈!?
 狼狽しながらも、俺にのしかかる重量の正体を確認すべく急いで振り返る。
 だがそこにあったものを見た瞬間、俺の中で急激に高まった緊張感がそれ以上のスピードで、
 しかもその他の感情や高揚感、その他諸々まで道連れにして消えていった。
 その張本人が言葉を紡いだ。

「あ、あはは……痛かった?」

 俺を尻に敷いたスピカの申し訳なさそうな声を聞いても、消えていったものは戻ってこなかった。
 あまりに滑稽な状況に、不意打ちだったとはいえ焦った自分がアホらしくてたまらない。
 虚脱感を感じた俺は、今現在感じていることをそのまま口にすることにした。

「むしろ今も相当痛い……複数の意味で」

 怒るのも億劫だった。


 ◇


「ほんの出来心でやった。今では反省している」

 スピカの口から紡がれた、短絡的な動機で罪を犯した馬鹿が好んで言いそうな言葉を、
 俺は鬼神斬破刀の刃に砥石をかけながら聞くこととなった。

「モドリ玉の煙に飛び込んだらどうなるか試してみたかったんだってば。別に嫌がらせとかじゃないのよ?」
「………」
「ごめんごめんごめんなさい!というわけで許して!」
「許すもなにも、別に怒ってなんかいない」

 軽い音に目を向けると、そこには先程まで装備していたリオソウルUキャップを外し、
 ウィンドボブというらしい短めの型にカットされた茶髪を風になびかせたスピカの姿があった。
 手を合わせて謝罪の意を表現しながらも、二十四という年の割に大人要素を感じさせる成分がやや不足している面と目には、
 反省の意がまったく感じられない笑みが張り付いていた。
 ……畜生、内心楽しんでやがるな。

「ただ単に呆れてるだけだ」

 俺の言葉に、口の形と性格からして「あ、そう?じゃあ謝らなくていいってことね?」とでも言おうとしていたであろう奴の唇が硬直。
 代わりの言葉を紡ごうとした口は、ついに声が発せられぬまま閉じられた。
 どうやら俺の勝ちのようである。わーい、素晴らしいくらいにまったく嬉しくないぞ。
 
「それにしてもモドリ玉って不思議なものよね」

 何の脈絡もなく話題が変更される。不利な話題はさっさと切り替えるが吉と悟ったようだ。
 無言で作業するのもアレな気がするので、面倒だが付き合ってやることにする。
  
「確かにな。人が一瞬で、しかも決まった場所に移動できるなんて話、自分でやってみなきゃ到底信じられるものじゃない」
「原料はドキドキノコと素材玉でしょ?素材玉に何か変わったところがあるとは思えないし、やっぱりキノコの方が怪しいわよね」

 ドキドキノコとは、密林などに普通に生えているキノコにも関わらず、
 物によって現れる効果が違うという摩訶不思議な代物だ。
 体力回復や攻防力の上昇、更には強走薬効果などのプラス効果がある一方で、
 スタミナが減ったり体力が半減するなどのかなり手痛いマイナス要素が出る場合もあることで知られている。
 後者はただ単に腐ってたんじゃないかという気もするが。
 風の噂で聞くには、モンスターにやられて死にかけた奴に食わせたらいにしえの秘薬と同等の回復力を発揮して助かったとか、
 軽い運試しのつもりで食べたら毒に侵され、おまけに体から漂ってきたババコンガのフン以上の悪臭で回復薬の類がダメになり、
 駄目押しの如く声帯が麻痺したことで助けを呼ぶことも出来なくなり、生死の境を彷徨ったやつもいるとかいないとか。
 にも関わらず見た目は全て同じなので、吉と出るか凶と出るかが事前に判別できない。
 飲み込んでから効果があわられるまでの間ドキドキが止まらない!というわけでドキドキノコと名づけられたのだ!
 と、懐かしき青春時代に狩人道場教官から教わった記憶がある。
 ちなみに、俺の目の前で収納ボックスから予備の矢を矢筒に補充しているスピカはその道場の同期生である。
 若い頃からなにかとつけて共に狩りに行かされることが多く、
 おかげで意思とは関係なく否応なしに互いの戦闘技術を熟知することになった過去があるので、
 呼吸の合わせやすさという点では最高の相棒と呼べる。
 夫婦でも恋仲でもないいい歳こいた男女二人が共に狩場にいるのには、そういう理由があったりする。というか他に存在しない。
 

「モドリ玉は存在の確率を変換し、別の場所にいたハンターをキャンプにいたことにしてしまう物であり、
 未調合時に使用してもその効果がないのはハンターの意識がキャンプに向いていないからだ!なんて言ってる人もいたっけ?」
「……随分と突拍子もない理屈だな。まぁ、実際の仕組みが解明されてないことには否定も出来ないが」

 そんな怪しいものを堂々と売っているハンターズギルドと行商ばあちゃんは、正直商売人としてどうかと思う。
 そう考えると、先程モドリ玉を少しだけ離れた場所に叩きつけ、立ち上った煙に飛び込んだらしいスピカの勇気は相当なものだ。
 煙の効果が途中で消えて、キャンプに戻ってきたのは体の前半分の肉だけでした、なんてスプラッターな展開もあったかも知れないのに。
 だが、よく考えなくても勇気から試したのではなく、単なる好奇心でやっただけなんだろうなとすぐに悟った。
 スピカとはそういう女である。

「そういえば、この間噂で聞いた話なんだけど」

 もったいぶるようにそこで言葉を切り、スピカが俺のほうに視線を向けてきた。
 ろくでもない言葉が続きそうな気がしてならないのだが、仕方がないので視線で続きを促す。

「聞いて驚くなかれ、なんとドキドキノコを食べたりモドリ玉の煙を吸ったモンスターは人になるらしいわ!」

 どう考えても嘘か冗談です。本当にありがとうございました。
 あまりの馬鹿馬鹿しさに、返事をするかどうか迷う。だがそれでも答えてしまう辺り、俺は間違っているのだろうか?

「アホか。それが本当なら密林は今頃コンガとモスから人になった連中で溢れ返ってる筈だ」
「そこはそうね、アレよ。えーと……きっと人間が食べたときでいういにしえの秘薬効果ように、極々低確率で起こる現象なのよきっと」

 詰まりながら紡いだ言葉が、一応さりげなく筋の通る内容なところに少し驚いた。
 その才能を別の場所に生かしてくれ、と言いたいが面倒なので言わない。
 ハヤテという男、即ち俺とはそういう人間である。ちなみに現在二十五歳。
 既に輝かしき二十代の折り返し地点を通り過ぎてしまったので、
 正直なところ、アホ話に付き合えるだけの気力も若さも日を増すごとに失われてきていることを最近よく実感している。
 実感する原因の殆どが目の前にいる女と俺の元気加減を比べてしまうことなのも、なんというか少し悲しい。
 こいつには会話した者の生気を吸い取る特殊能力でも備わっているのだろうか。
 そういうことにしたくなってきた。

「それはそれは、随分と夢のあるお話なことで」
「なによその言い方。言っとくけど、案外身近に実例がいたりするんだからね」
「ヘー、ソレハオドロイタ。デ、ソノジツレイトハ?」
「聞いた話によるとね、パロロエ村の、じゃなくてパエロロ村、でもなくてエロパロ村、違う!えーと」
「……ロロパエ村?」
「あ、そうそうそれよ。そこでこの間挙式して、今じゃ夫婦ハンターとして有名な人たちがいるのは知ってる?」
「あぁ、知ってる知ってる。こないだその村に補給に寄ったときに……って、お前もついてきてただろうが」

 更に言うならば、食料や物資の補給と情報収集を済ませ、その話をこいつに伝えたのも俺だった筈だ。
 こいつは乗っていたアプトノス車の荷台でそりゃもう気持ちよさそうにに眠っていて、
 呼んでも叩いてもへんじがないただのしかばねと化していた。
 大量の荷物を抱えて戻ったとき、見計らったかのように起床したこいつの満ち足りた寝ぼけ顔ほど憎かったものはない。
 あれは間違いなくこいつに対してムカついた事象トップテンに入っている。
 ちなみにこのランキング、追加される度に余分が削除されるシステムになっている。
 十以上記憶していると、俺の精神にヒビが入りそうなので。


「あのえらく綺麗で腰が細くてその上巨乳らしい奥さん、実はモドリ玉で人になった元ランゴスタらしいわ」

 どこで仕入れた追加情報やら。というか、他人から聞いただけの話を混ぜて、自分しか知らないことのように話すなよ。

「言い方がヤらしいのは置いとくとして、その奥さん、礼儀作法がちゃんとしてる上にえらく博識だって聞いたぞ。
 ランゴスタのどこにそれを理解する脳味噌があると思っ」
「でね!ポッケ村の近くにサフサットって小さな村があったでしょ。そこでとあるハンターが保護した女の子なんて、
 幻獣キリンがドキドキノコを食べて人になったっていうの。キリンってだけで十分珍しいのに、それが人になるなんて信じられる?」

 目を輝かせて問いかけてくるスピカに、信じられません、と言おうとしてやめた。
 否定的意見を重ねたところで、どうせ無意味だ。
 聞いた話を全て言い終わるまで、こいつの口という名のライトボウガンに装填された戯言という速射対応弾の弾幕は途切れないだろう。
 そう悟れる程度には、ノロマなこの俺も少しずつだけれど学んできたよ。
 俺は研ぎ終えた鬼神斬破刀を傍らに立てかけておいた鞘に戻し、
 腹ごしらえと水分補給、ついでにバックパックの整理と補給を済ませることにした。
 スピカの口から紡がれる、未だ止む気配のない信じられぬ話の数々に、適当に相槌を打ちながら。
 その途中、言葉が不自然に途切れるようになったのが気になって見てみると、
 なんと奴は携帯食料と水筒を両手に持ち、それらを咀嚼しながらも器用に喋っていた。
 歳寄りじみた言葉遣いの蒼ラオシャンロン少女の礼儀正しさを自慢げに話す前に、自分の礼儀をなんとかしろ。
 喉までせり上がってきたその言葉を、俺はなんとか飲み込むことに成功した。
 

 ◇


「そろそろ行くぞ」
「あいあいさー」 

 無限に続くかと思われた無駄話がようやく尽き、しかしまだ言い足りなさそうなスピカを説得し、
 胃袋に流し込んだ水とレーション、ではなく携帯食料が丁度いい具合に腹になじんだところで、俺達は再び戦いに戻ることにした。
 外していたレックスSヘルムを再び被る。すると、聴覚がやや鈍る代わりにそれ以外の感覚が研ぎ澄まされていく。
 その効果は第六感にまで及び、普段はなにげなく感じるだけの生物の気配までもがはっきり感じられるようになってくる。
 目を閉じて余計な情報を遮断し、更に意識を集中。黒ディアブロスの気配を探す。
 別に俺自身にサイキックパワー(笑)の類が備わっているわけではなく、装備している防具の恩恵である。
 轟竜の生体組織が影響しているらしいが、死した竜の甲殻から力を引き出す加工を施す術とはいったいどのようなものなのだろうか。
 ハンターという職について長いが、未だにその仕組みをよく知らない。職人だけに伝わる企業秘密ってやつなのか?
 今度工房のアイルーにマタタビでも渡して聞いてみようか、とか考えている間に目標の気配が感知できた。
 すぐに手に持っていた地図を広げて照合する。

「この距離からして……区域(エリア)五か」

 区域五といえば、マップの下方に位置する広大な砂漠地帯である。
 ちなみに先程まで黒ディアブロスと戦っていた場所もここだ。つまり、

「どこかに移動してまた戻ってきたか、それとも動けぬほどに体力が減ったかのどっちかだな」
「たぶん後のほうだと思う」
「どうしてそう言い切れる?」


 俺の疑問に、スピカはバックパックから矢尻に塗布する特殊薬液を入れておくビンを取り出した。
 その中でちゃぷちゃぷと水音をたてる怪しげな薬液の色は、毒々しい紫。更にその残量は、目算で約五分の三。
 
「君がモドリ玉を使った後に、これを塗った矢をたっぷりと尻尾と腹に撃ち込んどいたから」
「なるほど。いいセンスだ」

 閃光玉で視界を潰された大型モンスターは、怯んでその場に棒立ちになることもあるが、殆どの場合はその場で闇雲に暴れる。
 相手を見ることが出来ないままに繰り出される攻撃の命中率は高くはないが、
 正常な視界を保っているときにはない動きをすることも多く、高をくくって斬りかかると逆にこちらが痛手を被ることも少なくない。
 たとえ不完全な一撃でも、竜の大質量を以ってすれば致命傷になることもある。
 だが、安全な間合いを保ったまま攻撃することの出来るガンナーにとって、それはリスクにはならない。
 閃光玉による行動制限は、完全に動きを停止させる麻痺状態とほぼ等価値のものとなるので、思う存分弱点を撃ち抜くことが出来る。
 通常攻撃でも十分なダメージが叩きだせる上、毒ビンによって体内に侵入した猛毒は徐々に、しかし確実に体力を削る。
 撃ち込んだ箇所が肉質的に最も柔らかい部分である尻尾裏側と俺が切り裂いた腹だというならば、その効果も大きいものになっているだろう。
 やはりこいつはハンターとしての軸はぶれていない。人としてはぶれまくっているが。

 地図を畳んで収納ボックスに戻し、代わりにクーラードリンクを二本取り出して片方をスピカに投げて渡す。
 封を外し、乳白色の中身を一気に飲み干すと、まるで氷塊が喉を滑り落ちていくような感覚が奔り、そしてすぐに消えうせた。
 残ったのは心地よい清涼感。脱水症状防ぎ、体内熱の発散を助長するこの飲料は、
 炎天下の砂漠や灼熱が支配する火山での必需品だ。
 
 準備は万端。これまでに与えたダメージの総量や、角竜の怒る間隔が短くなってきていたことなどを考えると、決着が近いかも知れない。
 ディアブロスの討伐が至難とされている理由として、生命力とプライドの高さが上げられる。
 他者に傷つけられることに対して猛烈な怒気を発する習性があるディアブロスは、その生命力の強さも相まってか、
 体力が減れば減るほどに怒りの頻度が上がり、死に瀕した時に至ってはその身が滅びるまで怒りを忘れることはない。
 このような理由から、ディアブロスを狩猟する際には早期決着が可能な捕獲が推奨される場合が多い。
 だが、俺たちはモンスター捕獲の必需品たるシビレ罠を既に使い切っている。
 ついでに言うと、捕獲用麻酔玉に至っては持ってきてすらいない。
 つまり俺達が勝利を収めるには、怒れる黒ディアブロスを相手に戦い抜き、絶命させるより他にないということだ。
 それを再確認した途端、クーラードリンクで冷えたはずの腹の底から不可視の何かが燃え上がり、
 血に混じって全身に行き渡っていく感覚。
 それは心地よい緊張感と興奮。ベースキャンプに帰還してすぐに失われたそれらが戻ってきていた。
 やはり、俺にとっては人間相手に言葉を投げあうより、竜を相手に命がけで殺しあうほうが楽しく感じられるらしい。


 それって、スピカより俺のほうがよっぽど人として軸がぶれているってことにならないか?


 区域五への近道である地底湖へ続く古井戸に飛び込んだとき、心中にふと浮かんできた疑問を、俺は無視した。
 何故ならそれは、とうの昔から自覚していたことだからだ。
2010年08月16日(月) 04:03:13 Modified by gubaguba




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