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15-59

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
15赤蒼の約束〜盾蟹挽歌〜 蟹の人 59〜61、69〜71、78〜82

赤蒼の約束〜盾蟹挽歌〜


一緒に食事をして、一緒に話をして、一緒に寝る。平凡が一番“幸せ”だと改めて教えられた。
でもよく考えれば、それは以前の私と同じ。手頃な頭骨を見つけ、水を飲み、川辺に集まる魚を食べる。
私のみならず、する行動は違うであろうが太古から続く“生きるため”のサイクル。
幸せとはかけ離れた物。
しかし奇妙な事に、人間その中は+αし、それ行動を“愛”と呼びました。
不思議でなりません、それを理解した私自身も不思議で……――――

月が眩しい夜。遠くでガウシカの鳴き声が聞こえ、それに反応したのか、違う場所に居るガウシカも鳴く。まるでコーラスのように冬の雪山に響いた。
ここは静かな田舎村、観光すべき物や見世物の類もなく、商業の中心地でもなければギルドの要所でもない。
雪山の麓にある小さな村。人々は山の幸と僅かに取れる鉱石で生計を立てている。
しかし最近は専ら『ハンター』と呼ばれる者たちが飛竜討伐のためにしばしば足を運んでくれるお陰もあり、徐々に賑やかになってきている。
生活に必要最低限の生活、しかし誰も不満に思わない。なぜながらここには温かみがある、ミナガルデやドンドルマには無い――何かがあるから。

赤い屋根の家。最も、屋根は雪で覆われ純白になっているが……。ここには一年ほど前にハンターが駐在している。
東方の国出身のサムライらしい。証拠に一振りの蒼い剣と蒼い鎧を手にして数々の飛竜や古龍を討ち取ってきた。
注目すべき点、それは最初は独身だったが、いつの間にか隣に綺麗な女性を連れていた。
そこは田舎の得意技『噂話』で兄妹→隠し子→不倫の子→実子とガノトトスに尾ひれが付いたようになり、手がつけられなくなったが本人の否定によりいつの間にか消えた(どんな否定かは定かではない)

とにかく、その家から可愛らしい話し声が聞こえてくる。

「人間、ちょっと良いですか?」

飲んでいたハニーミルクをテーブルに置き、ザザミ結びの女性が太刀の手入れをしている男に声をかける。

「なんでござろうか、姫」

声に応じ、男が顔を向ける。少しだけ生えた髭、頬に走る三日月の傷だけを見れば怖いが、少なくとも今の顔は優しげで目は笑っている。
見掛けは怖いが、実は優しいお兄さん……と言ったところだろうか。この男が村に駐在しているハンターだろう。

「……なんというか、老けて見えますね。お髭を剃るのはマナーですよ」

「戯れを。拙者はまだ二十と四年程の年月しか過ごしておりませぬ」

男は東方の国の独特な訛りで返事を返し、ケラケラと笑った。
女性は馬鹿にされたと思ったのか、強い口調になる。

「人間の一生なんて、私には短すぎて分かりません。分かるよう話してください
「んむぅ」

少し頭を抱え、男は考えこむ。生来、考え事をした事が無いのだろうかという顔が深刻に歪み、額にも汗が浮かび出る。
あーだこーだと考えを巡らせていると時間のみが過ぎ、女性が『まだ?ねぇ、まだ?』と急かし始め、更に顔は深刻になってきた。
そんな中、やっと考えがまとまったのか顔をあげる……が、あまりすっきりしている顔ではない。所謂『喉まで出てきてます』という状態だろうか。

「姫がまだ小さき頃にございます。言うなれば、まだダイミョウになる途中。足軽、アシガルザザミとでも言いましょうか」
「ますます訳が分かりませんよ……」
「これ以上の表現はございませぬな」
「ぷー」

ドドブラリンゴの中身のように紅い頬をぷっくりと膨らませ、顔も真っ赤にして男を睨み付ける。翡翠のような目だけが濡らした様に光るさまは反則的に可愛い。
その表情を見た男までも顔を赤くし、いそいそと太刀の手入れに戻ってしまった。なにやら女性は『閃いた!』の表情になり、表情がいっきに笑顔へと変わる。
ゆっくりと椅子から立ち、音を立てないよう、ゲネポスのごとく男の背後に忍びよる。もちろん、男は手入れに夢中で気が付かない。
そして男の耳元でゆっくりと――可能な限り妖艶に囁いた。

『りゅうえもん。あ・い・し・て・ま・す』
「うおぉぉぉ!?」

男は驚いた。危なく太刀を自分の足へ突き刺す所だったが、それよりも女性が自分を“名前で呼んだ”ことに気を取られ、そんな事はどうでも良くなっている。

「東国の人名は難しいですね。いくらか人間の言葉を覚えた私でさえ、発音が良く分かりません」
「姫が……“龍衛門”と、名前で呼んでくださった。出会ってから一年でようやく……」

泣いていた、男は泣いていた。彼の言うとおり、砂漠でザザミだった彼女と出会い、暮らし始めてからほぼ一年の月日が過ぎようとしている。
なのに、名前で呼ばれたことは一度も無い。どんな時であろうと『人間』だった。いうなれば無味乾燥、人間というそれ以上でもそれ以下でもない存在。
しかし今は、発音は怪しいものの名前で呼んでくれている現実に歓喜し、信じられず、男は泣いていた。

「『愛してる』の部分は無視ですか。もし鋏があったら、地平線の彼方まで投げ飛ばしてましたよ。今は――人間の太刀を持ち上げるのが精一杯ですけど」
「姫、拙者が未熟だったばかりに……」

フゥ、と後悔と自責の篭った深い溜め息をついた。

「でも良いです。人間になれたからこうして」

言い終えるや否や椅子から立ち上がり、龍衛門が手入れをしている太刀を押し退けて胡座をかいた膝にちょこんと座る。
一回り小さな体は、完全に龍衛門に包みこまれてしまった。

「ダイミョウザザミであった私より遥かに小さかった貴方の体に触れ、甘えることができます」
「な、な、な」

『んー』と甘声をあげながら、顎に頭をぐりぐりと押し付け背中を密着させる。心臓の確かな鼓動がトクントクンと伝わる。
龍衛門は赤くなって……いや、フリーズして微動だにしない。それを良いことに、ハイパー甘々タイムは続く。

「ぐりぐりー、ほらほらー」

体勢を変え、龍衛門の胸に顔を埋める。『うりり〜』と顔を左右に動かし、こすりつける。
それに飽きたのか、それともタイミングを見計らったのか、上目使いで顔を見上げる。

「幸せですか?」
「……この上なく。まるで天女と舞を舞うかのようにござります」
「そうですか。でも私は――」

表情に深く、暗い影がよぎる。

「りゅーえもんは本当に私を……同族“人間”としてはもちろん、貴方にとって特別な存在として見てくれていますか?
こんな風にしてても、所詮はケルビのするじゃれ合いと同じなのです」

立ち上がり、龍衛門を見据えて言い放つ。顔には不安と悲しみ、それに自分と他人への不信が入り混じり、語尾も激しくなっていく。
ぎゅっと拳を握り、唇を噛み締めるその姿は先ほどまで甘えていた少女とは思えないほどの姿で、龍衛門は戸惑いを隠すことができず、驚き、黙っている。

「“証”が欲しいんです、私を愛している、愛されてという。今みたいな抱っこや、以前したようなキスよりもっと深い――証が欲しいんです……愛の」
「姫、それ以上はできませぬ。拙者にも建前というものが……」
「うるさいです!黙ってくださいッ」

遮ろうとした龍衛門の言葉を逆に遮り、膝の上から胸ぐらを掴みより激しい口調で言い迫る。

「馬鹿人間!貴方は本当に私が好きなんですか、好きでいてくれているんですかッ?
 私は貴方が大好きです、心の底から言い切れます。これ以上ないくらい愛していますッ!
だから、ダイミョウザザミだった頃には無い感情、人間になって得たものを精一杯使って伝えているのに……貴方は答えて、くれない、です。不安で不安で不安で」

先程まで高揚していた顔は今や人形のように蒼白になっていて、逆に目はルビーのように真っ赤になっていた。
強く噛んだ唇からは血が流れ、顔をよそに唇は口紅をしたかのように真っ赤。
あふれ出るのは涙だけではなく、幾度も感じた悲しみ、思い出、喜び、怒り。全てが堰を切ったようにあふれ出し、それらが全て口から罵声となって吐き出される。
溢れ出す涙を拭おうとせず、宝石のようなその目で龍衛門を見据えながらゆっくりと立ち上がると、今度はゆっくりと言葉を続けた。


「不安です、貴方はこれから龍を殺しに行く。私は待たなければいけません。何ヶ月、何年も貴方を。ミラボレアスと戦い、帰ってくるまでのように。
傍に感じる者無く生きていくことなんて、私にはできませんよ……」

月光が、頬を伝い床に落ちる涙を照らす。ポタリ、ポタリと一滴ずつ落ちる滴はザザミ達が稀に落とす真珠のように綺麗だった。
その光景はそう、いつぞや見たザザミたちの夜会を思い出させ、自分が責められているのにも関わらず見とれていた。

――涙は宝石。床に落ちると弾けて消える。いつかは消えてしまう。
――言葉は水。冷たくすることも、温めることもできる。
――時間は命。もう戻ってはこないし、何人足りとも生み出すことも失うこともできない。

月夜に照らされる部屋。そこには泣き声と息遣いのみが響く。
やがて龍衛門はゆっくりと立ち上がる。背丈は遥かに自分の方が高いため目線を合わせるために中腰になった――と言えば正しいだろうか。
頬を伝う涙をゆっくりと手で拭き取り、お互いの額同士をコツンと合わせ語りかけた。

「しばし、落ち着いて聞いてくだされ」

あれだけ流れしていた涙が止まる。互いの息遣いが間近に聞こえ、鼓動も早くなる。
あれだけ泣いていたのに、声を上げていたのに、不思議とあたりの空間は優しく穏やかで。
合わせた額と間近にある目と目が熱を持ち言葉では言い表せない何かが二人を包み、照らしているようだった。

「拙者は明朝、雪山の奥深くで“崩竜”と呼ばれる災厄と死合わければなりませぬ。」
「ッ!?」
「姫の知らない人間の血、とても醜いものですな。何百年も前のことが今の今まで根付き、今を苦しめる“宿命”とやらでござります。
龍を殺し、皮を剥ぎ、骨を刃とした者達への懲戒と思えば……さることなし」

ゆっくりと、一つ一つ選びながら、なおかつ子供に言い聞かせるように言葉を続ける。
龍衛門の顔には深い悲しみが浮かんでいる。自分を愛してくれた者に答えられない悲しさ、願いを叶えてやれない悔しさ、そのほか沢山の負の感情。

「宿命なんて知りません。別に……別に貴方だけがしてきたことじゃあないのに、なぜそれを背負うのですか!?」
「過去の汚名にて。拙者の一族が東国に渡った……いや、逃げた理由でござる」

苦笑いし、頭をポンポンとあやすように叩く。
―彼だけの知る何か、彼女の知らない何か― すれ違い、交差し、平行に進む。全て違う道に続くように見えて……

「情け無いとは言わないでくだされ。一応、先祖達もがんばったのでござろう。
もし拙者が先祖のように逃げてしまえば沢山の人々が死に、傷つきましょう。例え倒したとしても、拙者達が生きて帰れるという保証は有りませぬ」

さっきより大きな涙が頬を伝って、ズボンに落ちる。涙は止まりそうに無く、滾々と湧き水のように流れ出し全てを濡らす。
龍衛門は拭う代わりに、合わせていた顔をそっと自身の胸元に抱き寄せ、言葉を続けた。

「もしここで姫を抱けば、拙者は忘れられなくなる。例え自分や仲間が死ぬ時であろうと姫の事を考え、死を恐れてしまうやもしれませぬ。
武士道は護りの道、姫だけでなく“自分を必要”としている者達を全て護らねば道に在らず。それができねば、拙者がこの『朧火』を持つ資格など有りませぬ」
「……」
「なにより」

ゆっくりと顔を抱き寄せ、泣き続けて真紅の色に染まってしまった目を見つめる。もはや泣くだけで言葉すら発しない彼女に向かい、淀みの無い――
とても綺麗で、残酷な言葉を突き刺した。

「帰らぬ人を待ち続けるのは時間と気力の無駄にて。枷は付ける簡単ではありまするが、外すのは石兵八陣を脱するかのごとく難易
もし拙者が帰らぬ時には、忘れてくだされ」
「なにを……何を馬鹿な事を言うのですか!」

龍衛門にしがみつき、硬い腹筋を力任せに殴り続ける。殴って殴って殴って、殴り尽くしても止めようとせず、本人も好きなように殴らせる。
徐々にインナーが濡れてきた。血ではない、拳と一緒に飛ぶ滴――涙が龍衛門を濡らす。最早顔は涙でぐちょぐちょに濡れ、ザザミ結びもほどけかけていた。
そんな彼女の頭を、傷物を触るかのように優しく、愛おしそうに撫で続ける。
いつしか拳の連打は止まり、啜り泣きだけが部屋に響きだす。

「人間は本当に勝手です……
勝手に同じ人間にしておいて、もうどこへも行かないとか言って、惚れさせて、もう届かない場所にとんずらする気なんですね、ふざけないでくださいッ!」

言い終えると顔を離し、未だに涙止まらぬ目で龍衛門を見据える。
赤いを通り超し“朱”くなった目、涙には微量ながら血まで混じり、言葉の支離も滅裂となってきている。それでも彼女は泣くことも――話すことを止めない。

「貴方には私をダイミョウザザミから人間にした責任があります。
私はそれに応える責任があります、それに……りゅーえもんは私を、私はりゅーえもんを愛する義務もあります、これは絶対です」

そう言うと、床に置かれている蒼い太刀を広い龍衛門に差し出す。なぜか蒼い太刀が赤くなり、本体とは違う姿を映していた。
しかし見れば片手が刃の部分を握っていて、刃(やいば)を伝い床に滴り落ちている。
龍衛門が急いで取り上げようとすると引っ込め、『話を聞いてからです』と言い、言葉を続けた。

「貴方は崩竜とかいうのごときで死ぬような人間じゃないです。
一族の宿命とやらを全てを終わらせ、帰ってきてください。そしてまた私に笑顔をください。私もとっておきの物を用意して待っています」

いい終わると太刀を龍衛門に差し出す。見れば顔には決意、決心、そして覚悟がありありと浮かんでいる。
今まで見たことの無い表情に少しおどろいたが、差し出された太刀を受け取り『承知』と、答える。

「この血は戦いに行けない姫の分の血。そして覚悟の表れ。しかと受け取り申した」
「分かってるじゃあないですか。でも拭いてくださいよ。錆が付いて前みたいに折れたら困りますから」

朝も近くなったとき、二人はゆっくりと口付けを交わす。二言三言話し互いに笑った後、女は部屋に戻った。
男は再び武具を仕舞い、自分の国から持ってきた煙管に火を灯すと窓を開け煙を吐き出す。
『もうすぐ明星は昇る……か』と呟くと、思ったより寒かった外の空気をこれ以上入れないために窓を閉め、火の消えた囲炉裏の傍に身を倒した。

山の夜明けは早い。それは一年三百六十五日同じだが、季節が冬であれば尚更早い。今日の天気は雲ひとつ無い快晴なのだが、空気は異常に冷たかった。
……太陽が出ているくせに、外は真冬のように寒い。放射冷却とはよく言ったもの。

――太陽光が地に降り注いでも、雲が無いから熱は地上に止まらず逃げていってしまう。

「お達者で、姫」

家から蒼い鎧を纏った武者が出てきた。朝の透き通っている空気が、武者の周りだけ妙に強ばっているように見えた。
背負った太刀をガチャリガチャリと鳴らし、粗く雪かきされた道を村を一歩、また一歩と進んでいく。
村の中で一際大きな家の前に着くとドアをノックし、ドアを開ける。中には暖炉の傍で、古びたロッキングチェアに座るが龍人が待っていた。

「では村長。行って参ります」

「それが龍殺しの一族たる宿命なら……しかたあるまい」
「残り三人も同じ故、今回の“崩竜”とやらも一族のやらかした結果やもしれませぬ。いろいろとご迷惑をおかけし、申し訳なく候」

頭を下げる男に対し、村長はこの場で初めてみせる笑顔で『ヨイヨーイ』と返事をする。
その言葉にプッとふきだし、一時的だが場の緊張と深刻さが薄らいだ。その時を逃さず、村長は言葉をかける。

「次に主が来るときは、祝いの報告だけにせよ。当然、可愛い女御と一緒にじゃよ」
「……御意」

村に駐在する証である書類と首飾りをテーブルに置き、感謝の意を込めて深く一礼する。
しっかりとした足取りで出口まで足を進め『世話になり申した』と声をかけると、また一礼し家を出た。

静まり返った家の中で村長は懐から古い洋紙皮を取り出すと火に近づけ、何万回も見たであろう文字に目を当てる。

「『【絶】【滅】【劫】【独】龍殺しの力を授けられし一族也。彼ら出所に邪龍有り。
恐々の内に辺りは【絶】対無二の【劫】火により灰のごとき【滅】され、心理という【独】つのみ残る。が、それも今は昔。災厄と崩壊が出会い、滅びを辿り……』
……難解すぎじゃのう、龍人の知識を持ってしてもここまでが精一杯じゃて」

大事そうに再び懐にしまうと、ロッキングチェアから立ち上がり、窓を開け朝焼けの空を見上げる。
相変わらず雲一つ無い寒い空。これから死地に赴く者達を送るなはいささか、いや、とてもじゃあないが軽すぎる。

***

「朧(おぼろ)」
「久々に呼ばれましたな、その名前。とうとう拙者も過去の汚名を返上したよう……ビャッ」

リオソウルの女性から拳骨をもらい、頭を押さえて狭いポポ車(馬車)の中でうずくまってしまう。言わずもが、“朧”と呼ばれた龍衛門。
老山龍から作られた蒼い甲冑を身に纏い、身に持つは昔から一族に受け継がれてきた蒼い太刀“朧火”龍殺しの逸品で天数の龍を喰らい燃やしてきた。

「絶(ぜつ)、やりすぎだろ。女としてどうかと思うぞ」
「黙ってろ」

龍衛門を殴り、仲間にたしなめられているリオソウルの女性モデルを着た剣士。鷹のような目を覗かせ、銀色の髪が振動でたなびいている。
腰には太古に『龍を殺すこと』のみを目的に創られた双剣を挿している。それはまごうこと無き“超絶一門”……にしては若干姿が異なるが、その類で間違い無いだろう。
剣先から柄にあたる全ての金属が解析不明らしく、ギルドの工房ですら再現すらできず、過去の遺物からしか再製できない代物。それが腰で鈍く輝いている。

「しからば拙者も言わせてもらおう、この益荒男女郎!」
「んだと東国の田舎の塊ッ!」
「はいはいそこまで、そこまで」

二人の間に巨大な大剣がドスンと置かれ、それ以上の雑音を強引に遮断する。ディアブロス亜種……の鎧を着た男。
持ち前の高級耳詮で知らんぷり、とは流石にいかなかたったようだ。

「言っておくがなーあ。戦う前に怪我したり、させたりしちゃ元もこも無いだろ!ちったぁ考えろ阿呆二人よ」
「余計なおせっかい、名前の通り……滅されたい?」
「それは俺の先祖だけで勘弁してくれ。流石にリアルファイトは洒落にならない、それに本名は滅(めつ)じゃないぞ」
「今、このパーティーでは滅でしょ」
「はいはいはい御もっとも。いいから落ち着いてキノコキムチでも食いやがれ」

キリキリと歯軋りしながら、村の人の心遣いとして送られたキノコキムチを絶はバリバリと口に放り込む。
フゥッ、とため息を吐きながらホットドリンク(これも心遣い)を一気飲みする。半分ほど飲み干し、それを安心した顔の龍衛門に回す。
『忝い』と受け取り、彼も残った全てを飲み干した。ここに居る三人は戦う前に胃を壊さないのだろうか。

「寒きことこの上なし、そして吹雪いてきたでござるな。中継点のポッケ村を過ぎて大分たつが……そろそろでござろうか」
「奥地とか言ってたしな。なんでも、ギルドの先鋭でさえテントも建てれないような場所だ、そう簡単に行けたら苦労は無いだろうよ」

吹雪は一層激しくなり、ポポ車の足取りも遅くなる。絶はそれにイライラし罵声を浴びせる、滅と朧はのんびりとホットドリンクの缶を追加で開ける。
三者三様の性格(正確には二者二様)が垣間見え、これから死地に赴く者達の姿勢、態度とは考えられない。

「にしても。見張りに出た独(どく)からの報告が無いでござるな」
「凍死してるんじゃないか?」
「いや、それは無いでござろう……と思いたい。しかし黒龍戦からずっとリハビリ状態でござったからな、心配にござる」

以前あった黒龍との戦いを思い出す。あの時誰もが必死で、極限状態だった。片手使いの独が悪しき炎で倒れ、朧が殿(しんがり)を勤めシュレイドから脱出する。
撤退は壮絶を極め、多くの偶然が重なりに重なり四人とも無傷とは言わないも無事に生き延びることができた。
その時は、日ごろは信じもしなかった神にどれだけ感謝したことか。

回想の途中、外から怒声が聞こえる。明らかに人の声ではない巨大な“何か”が猛り、天を揺るがす程の雄たけびをあげている。


グ オォ ォ ォ ォ ォ オオ オ オ オ オ オ オオ  オオ オ オ オオ オ オ オ オ オオ オ オ  オオオ オオオォオオオオオ

「まさかッ」

三人の乗ったポポ車が揺れる。慌てて外を見るが、崩龍の姿は確認できず、大きなクレバスと壊れたテントがそこにあるのみ。
滅が素早く千里眼を飲んで確認するも、姿はまったく見えない。今、雪原には“何も居ない”のに“何かが居る”

「仮説でござる」
「なんだ!?」

朧が素早く三人に言葉を走らせる。

「この崩龍とやらが伝承の通り覇龍と対を成す存在であれば、少なからず習性が似偏っている筈」
「だから何なのよ!?」
「俺はよォーく分かったぜ」

滅は唖然としている絶の腕をしっかりと掴み、片側の出口に素早く駆け寄る。
朧は既にもう片方の出口の近くで飛び降りる準備をしていた。

『 敵 は 下 か ら 来 る ッ』

滅が言い終えた刹那、ポポ車の下の雪が隆起し跳ね上がる。哀れポポは空高く舞い上がり、地面に叩きつけられ一瞬のうちに絶命してしまった。
そして現れたのは“破壊”を、“滅亡”を、“崩壊”を体全体に表した白い巨大な悪魔いや、神の化身。
かの昔。覇龍と共に世界を共に人類を絶望させ、世界を終わらせる手前まで破壊し尽くした――



崩龍【ウカムルバス】
2010年08月25日(水) 12:54:51 Modified by gubaguba




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