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22-393

スレ番号 タイトル カップリング 作者名 備考 レス
22 ギルドのお仕事 前編 フルフル♂×ハンター♀ 凌辱あり 393〜406

ギルドのお仕事 前編


ポッケ村からほど近い、通称「雪山」と呼ばれる区域。自然環境が厳しく、凶暴なモンスター
が多数生息しているそこは、この世界の自然との付き合い方を弁えている狩人達にとっても、
気楽な場所とは言いがたい。そんな場所であっても、そこにある多種多様な自然の恵み、
訪れる飛竜を始めとする大型モンスターの狩猟のため、多数のハンターがこの地にやってくる。
だが、今、雪山にいるハンター達は少々様子が違う。一人の女を取り囲み、さんざんに
嬲っているのだ。女もハンターであることは、狩猟用の装備に身を固めたその姿から
うかがえるが、それらは、重要な部分、つまり、胴、腰といった体の中心を防御する部分が
はぎ取られていた。
そして、その女を取り囲んだ男どもが代わる代わる、女をレイプしているのだった。
しかし、その割には女の様子がどこかおかしい。悲鳴ではなく、嬌声を上げ、男どもにすがり
ついている。呂律の回らぬ口調で凌辱をせがむその姿は、どこか狂気を孕んでいるようにも
感じられた。
やがて、男どもが飽きたのか、女が力尽きたか、ぐったりとした女を残し、男どもは下山して
いった。後に残されたのは、凌辱の後も生々しい女が一人。雪面に倒れ伏し、動くことも
ままならぬ様子で、力なく喘いでいた。
どれくらいの時間そうしていたであろうか、やがて、分厚い鉛色の雲に覆われた空から
ゆったりとした羽ばたきの音が響いてくる。何か、巨大な物が近付いてきていた。

そして、雪山に女の悲鳴が響いた。


ドンドルマの街には、ハンターを統括するギルドが書類仕事を行うための施設がある。
特に名前はなくただ「本部」とだけ呼ばれているそこは、そのいい加減な呼び名とは裏腹
に非常に重要な役割を担っている。要するに、ギルドが絡む仕事は、最低一度はこの施設
が関わっているからだ。金、物資、人員、情報、それらを管理、運営している部署である。
ある日の夕暮れ、ギルドの役人であるライト・アンダースンは「本部」の中で大量の書類と
格闘していた。彼は壮年に差し掛かった役人であり、であるからには、こなさなければ
ならない責務というものも、年齢に比例して増加している。それら大量の事務処理により
所定の勤務時間内ですべてが片付くことなどないといってよかった。彼は今、先日世を
騒がせた、ミラボレアスの出現に伴う後始末に忙殺されているのだ。その事件の対策本部長
として当然のこととはいえ、連日の超過勤務には閉口させられていた。そして、彼がこなさなければ
ならない仕事は、また、次々と発生して来る。いい加減、処理能力が限界に達しようとしていた。
もっとも、疲労を他人に見せる事を恥じと思う性格ゆえか、外見からはそんな様子はうかがい知る
ことは難しい。
「…官!アンダースン監理官!」
誰かが彼を呼んでいた。しかし、自分の事だと認識するまでに、少し時間がかかる。歳のせい
か無理が利かなくなってきたと自覚し、思わず自嘲の笑みが漏れる。
「監理官にお客様ですわ!」
そう言いながら、彼の執務室に無遠慮に入室してきたのは、
「ああ、エルザさん。申し訳ない。本業ではない仕事まで、あなたに押し付けてしまって」
豊かな金髪を結い上げ、意志の強さを示す光を湛えた青い瞳を持つ女性。少女から大人に
なる間の無自覚で健康的な魅力を惜しげもなく振りまいている魅力的な人物だった。エルザ
と呼ばれたその女性、本名はエリザベート・コッホフェルト、現在、この「本部」に駐留している
ギルドの実行部隊「ギルドナイツ」の一員であり、実は王位継承権を持つコッホフェルト公爵家
の一人娘でもある。とはいえ、王位継承順位は2ケタの後半であるため、彼女が王族として
王国の中枢に入る可能性は万に一つ以下ではある。ともかく、一般社会の地位や名声等は
考慮されず、もっぱら実績と実力に基づいて人事が行われているギルドの中でもなければ、
平民出のアンダースンが上司として振舞うどころか、声をかける事すら難しい人物ではある。
もちろん、来客の取次ぎなど、本来ギルドナイトたる彼女の仕事ではないのだが、本部駐留中、
彼女は監理官付という役職を与えられている。要するに、秘書の真似事をさせられているのだ。
街に駐留している間くらいは危険なことはさせたくないと、彼女の父、コッホフェルト公爵が
ねじ込んできたための人事だったが、彼女にはお気に召さなかったらしく、事あるごとに
現場復帰を希望している。
「この程度、構いませんわ」
アンダースンの恐縮を鷹揚に受け流す彼女だが、その表情にはどこか屈託があった。
「お客様はポッケ村の駐在ハンターだそうですけれど、ハンターごときと何の御用がお有り
ですの?」
屈託の原因はどうも来客にあるようだ。彼女のハンター嫌いは、ギルド内でも有名だったな
と、アンダースンは思い出す。
「ええ、先回の件で約束をしましたので」
アンダースンの回答に、エルザはわずかに表情を変えた。
「ギルドの業務監理官殿が、たかが一ハンターと私的に面会とは…」
彼女は「何を企んでいますの?」と言わんばかりの顔でアンダースンを見やる。
「いや、ただのお礼ですよ」
あいまいに笑って追及をかわすアンダースン。
「すぐに伺いますので、面会室へお通ししていただけますか?」
わかりました、と彼女は答え退出する。まだ何か言いたそうな表情をしていたが、さすがに
これ以上の追及は無礼と思ったのだろう、続く言葉はなかった。
「…あの偏見がなくなると良いのですが…」
アンダースンは一つ溜息をつくと、書類の山を片付け始めた。つい仕事に夢中になり、約束の
時間をすっかり忘れてしまっていたため、客を待たせることは間違いない。彼はまた溜息を
ついた。


「お待たせいたしました」
面会室の先客に詫びつつ扉を開いたアンダースンを、いつもより華やかな雰囲気の室内が
迎えた。
「あ、いえいえ、全然待ってないです」
その華やいだ雰囲気の原因、艶やかなイブニングドレスを身に着けた女性は、その印象とは
反対の、子供っぽい態度で応じる。
彼女が身に着けているドレスはマボロシチョウの繭より採れた糸を使った生地で、かなりの
高級品ではあるのだが、どこか服に着られている様な違和感があった。有体に言ってしまえば、
着る人間がフォーマルな格好に慣れていないため、立ち居振る舞いが服装にあっていないのだ。
それもそのはずで、そのドレスの女性こそがアンダースンの客であり、ポッケ村の駐在ハンター
なのである。注意深く見れば、その女性の腕の薄い脂肪の下には、しっかりとした筋肉がある
ことが分かるし、露出の多い上半身には、化粧で隠されてはいるものの微かな傷痕がいくつ
もあることも見てとれる。
しかし、それらは彼女の魅力を損なうどころか、却って引き立てているようにアンダースンには
感じられた。
「あの…どこか変ですか?」
その女性がおずおずと問いかけてきた。
「いえいえ、大変、魅力的でいらっしゃいますよ」
一瞬、見惚れてしまったことを隠すように、アンダースンは答える。それを聞き、女性は
「よかったぁ」とばかりにため息をついた。それから何かに気がついたように、慌てて立ち
上がりドレスのすそを少しつまむ。
「ほ、本日は、お招きいただき、ありがとうございましゅっ」
最後のところで噛んだようだ。それにしても、まったく様になっていない。アンダースンは
こみ上げてくる笑いを、理性と教養、知性と礼節を総動員し優しげな微笑みに置き換え
なければならなかった。
「マヤさんもお元気そうでなによりです」
マヤと呼ばれたこの女性に、アンダースンは以前、かなり無理難題を持ちかけた。いや、
無理難題と言うより、ギルドのために死んでくれと言ったに等しい内容を脅迫に近い方法
で依頼した。彼女は笑顔でそれを受け、生還したら食事を奢れと彼に冗談を言ったのだ。
それは、アンダースンにとって叶えることのできない約束となるはずだった。だが、彼女は
いくつかの幸運にも恵まれ生還を果たした。彼は、彼女の生還を知り、半ば冗談であった
その約束を果たせることを喜び、そして今日、約束通り彼女を街に招いたのである。
「では、参りましょうか」
そう言うと、アンダースンは、恭しく彼女の手をとった。
「ふふっ」と、マヤがかすかに笑う。
「何かありましたか?」
「いえ、なんか、いけないお付き合いしてるみたいで、ドキドキしますね」
アンダースンは、思わず噴き出しかけた。
「率直に申し上げて、その発想はありませんでしたね」
アンダースンにとってマヤは恩人でありこそすれ、劣情の対象とはなりえていない。彼の
性的嗜好は、世の多くの男性と同様の傾向を示しており、自分の娘ほどの歳の少女に劣情
を催すほどに彼は若く無い。
「本当に、そう思っていらっしゃいます?」
しかし、ぞくりとするような表情で問いかけてくるマヤは、先ほどまでとはまるで別人の様に
妖艶な色気を醸していた。
「さて、どうでしょう?」
冗談ですよ、と笑うマヤの思ったより大きい胸を意識しないようにしつつ、アンダーソンは
曖昧にはぐらかした。マヤに女性としての魅力が備わっていることに、彼は密やかな喜びを
感じていた。もっとも、それは大人へと成長していく娘を見守る父親のような喜びではあった
のだが。


二人が訪れたのは、ドンドルマでも人気のある店だった。あまり格式ばった店ではないため、
一般庶民がちょっと贅沢するつもりで訪れたり、貴族が軽い付き合いで利用するなど、気楽に
利用できる店でもあった。
一応正装して利用することにはなっているが、それ以外はあまりうるさくない店とも言える。
マヤは店に入るなり「へぇ〜」とか「わぁ〜」とか呟きながら、きょろきょろあたりを見回していた。
完全におノボりさん状態である。店内の照明は控えめで落ち着いた雰囲気であり、また、
テーブル間の距離も少し贅沢ではないかと思うほどに開けられていた。店の奥の舞台では、
少人数ではあるがちゃんと楽団が生演奏をしている。マヤの眼にはずいぶんとお洒落な店に
映った。
「こういうところは、初めてですか」
「はい、昔、親と来た時はもっと庶民的なお店だったもので」
席に案内され、しばらくすると、食前酒が運ばれて来た。ハンター達が好んで飲むブレスワイン
ではなく、マヤの聞いたこともない銘柄だ。
「では、貴女の生還を祝って」
「乾杯」
グラスを一気に煽ろうとして、マヤは手を止めた。出掛けに「あんたはマナーのマの字も
知らないんだから」と村で受けた彼女の友人のレクチャーを思い出す。
(まず、グラスをゆっくり揺らし、匂いを嗅ぐ)
鼻をひくひくさせないように注意して、鼻で息を吸う。
(なんか、ブドウっぽい匂いがする…で、次に一口、舌の上に乗せるような感じで口に入れる)
そーっと口にワインを注ぐ。
(わっ、シブい…で、しばらくそのまま口の中で転がす。くちゅくちゅしないように注意)
ゆっくりと、舌で液体を弄ぶ。
(舌使いなら得意…じゃなくて…………あれ、なんか味が変わった?)
いつしか渋味が消え、ブドウのまろやかな甘味とさわやかな酸味が、じんわりと舌を楽しませて
いた。
ゆっくりと呑みこむと、喉を通るアルコールがささやかにそこを刺激する。
「ほぅ…」
思わず溜息が洩れる。
「美味しい」
自然と率直な感想がでた。アンダースンはそれを聞き、笑みを大きくする。
「ありがとうございます。お酒はいつも飲まれるのですか?」
マヤの飲み方を見て気になったのだろう、アンダースンは酒席での定番の質問をしてきた。
「狩りの前日には景気づけで、幻獣チーズをおつまみにして黄金芋酒を飲んでます」
「なぜか、ハンターの皆さんには人気なんですよね、そのメニュー」
「そうですね、ゲン担ぎみたいなところもあるでしょうけど」
そういって、楽しそうにほほ笑むマヤ。たわいもない会話を楽しめる事が、なんとも贅沢に
感じられた。

やがて、メインディッシュが運ばれてくる。何かの切り身を焼いたものに、香ばしい匂いの
するソースがかけられていた。焼かれた肉の油とソースの濃厚な香りが、いやが上にも
食欲を刺激する。
「これは、何のお肉ですか?」
マヤが、目を丸くして尋ねる。見たことのない料理だった。
「まずは、召し上がって見てください」
アンダースンはどこかいたずら小僧を思わせる表情で、彼女に料理を勧める。
「…なにか、企んでらっしゃいますね?」
「いえ何も」
少し恨みがましい目をするマヤに、アンダースンは笑みを大きくして答えた。
「もう」と、マヤはかわいらしくつぶやくと、意を決し、ナイフとフォークを手にする。肉を
半口サイズに切り、ソースをたっぷりとまぶし口へと運ぶ。
鼻孔をくすぐる肉の香りの正体に、彼女は不意に思い当った。まさかと思いつつ口にする。
こってりとしたソースの甘辛い味わいの向こう側から、肉の脂の旨味が溢れ出してくる。一噛み
するごとに肉はとろける様にほぐれ、瞬く間に彼女の喉奥へと流れていく。芳潤な肉の
味わいに思わず頬が緩む。
マヤは、喉に残った濃厚な肉の残り香をしっかり味わった後で、口を開いた。
「フルフルベビーの肉…ですね」
「正解です。良くお分かりになりましたね」
アンダースンが嬉しそうに認める。どことなく、自慢の玩具を褒められた子供のような雰囲気
だった。
「何度か、家のアイルーがステーキを作ってくれましたから」
アンダースンの表情につられて、マヤも笑顔で答える。
「でも、私が食べたのより、何というか、肉の油の匂いが強いですね。それに、身も柔らか
すぎるような気がします。まるで別物みたいです」
マヤの感想に、アンダースンはますます笑みを大きくする。
「それは、養殖物だからですね」
「養殖…ですか?」
フルフルベビーは、その名の通り孵化したばかりの帯電飛竜フルフルの幼生なのだが、
通常、食用として消費されるものは、マヤのようなハンターがたまたま狩場で、フルフルに
卵を産み付けられた生き物を見つけそれを剥ぎ取ってくるものがほとんどである。フルフルは
それこそ、生き物なら飛竜から小型草食竜や人間、果ては古龍の脱皮殻にまで産み付ける
ため、他の飛竜の卵のように、この時期ここに行けば手に入る、という代物ではない。
それを養殖するとなると、マヤにはその入手方法が思いつかなかった。
「どうやって捕まえるんです?」
「ちょっと、食事中には向いてない話なんですが…」
アンダースンは言い淀む。
「構いません、あたしはハンターですから、ちょっとくらいグロい話でも大丈夫です」
それよりも聞きたいです、と表情に明確に表しながら、マヤは先を促す。
「それではご説明しましょう」
要するに、栄養価の高い餌を与えて太らせた家畜、モスやポポ等をフルフルの生息地に
連れて行き、角笛などを使用しフルフルをおびき寄せる。そこに産卵誘発剤入りの生肉を先に
フルフルに食べさせ、家畜に産卵させる。通常、小型のモス等には一個しか卵を産まない
フルフルだが、誘発剤のおかげでいくつか産みつかるらしい。後は、フルフルが去ってから、
孵化したフルフルベビーを捕獲し、やはり脂身の多い家畜の生肉を食わせつつ食用サイズ
まで育てる。
「へーそれで、あんなに肉が軟らかかったんですね〜」
「難点としては、肉の脂の匂いが少々きつくなってしまうことでしょうか」
「なるほど〜」
それ以外にも、経費がかかるため、養殖と天然で値段がほとんど変わらない、場合によっては
養殖のほうが高いという点も難点であるのだが、それはこの場で口にする必要のないことだった。


「それで、今回はどんな秘密のお話ですか?」
食事が終わり、食後のお茶をゆっくり楽しんだ後、マヤは唐突に切り出した。
それを聞いたアンダースンは表情を、驚愕、感服、逡巡、諦観と目まぐるしく変化させた後、
ようやく口を開いた。
「どこで気付かれました?」
興味深げといってもいいほどの口調でマヤに問う。
「もともと、なんとなくそんな気はしていましたけど、確信を持ったのはお店に入った時」
にこりと微笑んでマヤは答えた。
「このお店は、照明も暗いし、隣の席とも距離がとってあります。それに…」
そう言ってマヤは、店の奥で演奏している楽団に視線を移す。
「ちょうどいい具合に、音楽が流れています。小声であれば店の人にも聞こえないくらいに」
アンダースンに視線を戻し、また微笑みかけるマヤ。
「密談をするには、いい場所だと思います」
アンダースンはそれを聞き、参りましたとばかりに両手を挙げた。
「これからするお話は、ギルド内部の恥をさらすようなものです。何卒、他言無用に願います」
「あたし、ずいぶんと信用されてるんですね」
マヤが、わざとらしく驚いたような口調で言う。
「貴女の事は一度、経歴からすべて調べさせていただきましたから。それに先日の件もあり
ますので……」
「最低限、信用できると思っていただいてるわけですね」
「私個人として、ですが、信用しておりますよ」
いつの間にか、アンダースンの表情があいまいな笑みに変わっていた。真意を読み取れぬ
表情。
マヤは、彼は決して全幅の信頼を向けているのではない、と、腹の中で自分に言い聞かせた。
「それで、お話とは?」
「最近、雪山でハンターが立て続けに三人、亡くなりました。三人ともハンターになり立ての
若い女性で、街で雪山へ採集のために一人でクエストを受注して出発した方達です」
前置きもなしに、アンダースンは本題を切り出した。
「三人とも、フルフルに襲われて卵を産み付けられたことにより…」
「ちょっと、ちょっと待ってください」
マヤが口を挟む、挟まずにはいられない理由があった。
「三人連続でフルフルに卵を産み付けられるって、そんな。いくら新米でも素人じゃあるまいし…」
ハンターの資格を得る時に、危険な飛竜に対しての基礎的なレクチャーを受けなければ
ならないが、その中にフルフルへの対処も入っている。フルフルに卵を植え付けられるという
被害は、知識も体力も無い一般人なら稀にあるが、ハンターが、というのは今までほとんど
無かったはずだ。フルフルという飛竜は動きが遅く、倒すのではなく逃げるのであれば、
駈け出しのハンターでもそう無理な話ではない。
「最近のギルドは、まともに新人教育も出来ないんですか?」
怒り半分、呆れ半分といった態度でマヤは問いかける。
「そういうわけではありません、むしろ、注意を呼び掛けていたところです」
アンダースンは事務的に淡々と答えた。
「それなのに、事故は起こった。それが、貴女にこのお話をさせていただいた理由です」
そして謎かけのように告げる。

「つまり、その三人の死になにか裏がある、そう思ってみえるわけですね」
マヤはそう言うと、先を促す様に黙り込んだ。
「はい、三人は何者かによって殺害された。と私は考えています」
マヤの沈黙に答えてアンダースンは続ける。
「しかし、手掛かりが少なすぎて、ギルドでは事故死として処理する話が出てきています」
「そんな!」
思わず声を上げるマヤ、そんな彼女をなだめるように、アンダースンは落ち着いた態度で語る。
「ですので、貴女にお話させていただいたのです。こちらのクエストの受注歴を確認しましたが、
犠牲になった方と同時に雪山に出発したパーティーはありませんでした」
「え、それはつまり…」
マヤも気がついた。この街以外で、雪山へのクエストを受けるのに都合のいい場所は、一ケ所
しかない。
「ええ、おそらく、三人を結果的に殺害した人物は、ポッケ村を拠点にしている可能性が高い」
アンダースンは、マヤの眼を正面から見据えて尋ねた。彼の眼の奥にかすかな光が見える。
「なにか、お心当たりはありませんか?」
あの光は怒りだ、とマヤは直感した。
「ポッケ村の集会所では、あまり見かけない人はいなかったような気がしますが…でも、全員
と面識があるわけじゃないですし…」
彼女は右手を握りその親指を唇にあてる。自分のあいまいな記憶が恨めしい。
「今すぐでなくてもかまいません。何か思い出されましたら、お話し下さればよろしいですので」
必死になって思い出そうとするマヤを、アンダースンは気遣い慰めるように言う。
「あの、犯人はどうやってフルフルに襲わせたと考えてらっしゃいますか?なにか、ヒントに
なるようなことは有りませんか?」
「おそらく、犯人は複数。被害者を薬か何かで動けなくし、フルフルを呼び寄せ、産卵誘発剤を
使ってフルフルに産卵させていると思われます。誘発剤はフルフルベビーの業者には流通
しているため、比較的簡単に手に入ってしまいますから、入手ルートの確認もはかどって
いません」
うーん、と、マヤは小声で唸りつつ考え込む。集会所に複数人数でいた、見かけない人物。
はたして、そんな人物がいただろうか、いたような気もするが、いないような気もした。
そもそも、何のためにそんなことをする?若い女一人に複数の犯人。犯人が男ならレイプ
でもするかも知れないが。
レイプして、証拠隠滅のため女を殺してフルフルに食わす?そこまで下衆なハンターがいると
思いたくない。いや、はたしてそうだろうか、証拠がなく罰せられないだけで、意外とレイプの
被害は多いと聞いたこともある。
マヤは思考の迷宮にはまり込みつつあった。


女は、目の前に降り立った巨大な白い飛竜、フルフルを見て悲鳴を上げた。上げたつもり
だった。
だがすでに男たちにより媚薬を打たれ、さんざんに凌辱された体では、微かな呻き声を
あげる事すら叶わなかった。もちろん、戦うことも、逃げ出すこともできず、僅かに後ずさる
のが精いっぱい。
すでに体を守る防具は、その大半がはぎ取られ、彼女の白い素肌を雪山の寒気に晒している。
男たちが置いて行った生肉をあっさり飲み込んだフルフルは、彼女の方にゆっくりと近付いて来る。
「ぃゃ…」
彼女の懇願など通じる訳もなく、口から白い吐息をもらしながら、フルフルは彼女へと覆い
かぶさった。
ハフハフと息を荒げて彼女の全身を舐めまわす。彼女の体の形を確認するかのように、
体中すべて余すところなく舐めてくる。
「ぁぁ…」
打たれた媚薬のせいで、こんなおぞましい目に会っているというのに、体が熱を持ち股間が
潤んでくる。全身に甘い刺激が走り、かすれた嬌声を上げてしまう。
その声を聞きつけたのか、フルフルは彼女の半開きの口に、自分の舌を突っ込んできた。
「…ッ!……ッ!」
口腔をすべてフルフルの舌で埋め尽くされ、声を上げることすらできない。それどころか、息を
するのもままならない。それなのに甘い疼きが口から湧き上がり、背筋を伝って全身へと
広がってゆく。フルフルは、彼女の内側をまさぐるように舌をうごめかし、舐め尽くす。そのたび
に彼女は全身を震えさせた。
やがて、ゆっくりと舌が引き抜かれていった。
「プハァッ!ッハァ…ハァ……お、お願…い、や…めてぇ」
弱々しく懇願する彼女の頬を、フルフルは優しく舐める。
「ああぁ…ッグ!」
一瞬、安堵したのもつかの間、いつの間にか、細く変形したフルフルの尾が彼女の口に忍び寄り、
唇を割り押し込んできた。
フルフルの尾は非常に柔らかく、吸盤状に広げたり、細長く窄めたりすることができ、その中央
には産卵管を兼ねた開口部が存在している。今は限界まで細くさせ、彼女の口腔内へ突き
入れられていた。
「アッ……ガハッ!」
フルフルの尾は遮二無二に彼女の中に入ろうと暴れ、ついには喉まで達していた。そして…
「ゴボッ」
音を立て、尾の先端から彼女の体内へと何かが送り込まれる。
それは、彼女の死刑宣告の音、フルフルの卵が産み落とされた音だ。
彼女の眼から涙が溢れ出す。だが、その表情は、むしろ恍惚とさえしていた。すでに精神に
変調をきたしているのか、それとも、媚薬の効果か。
彼女の口から尾を抜いたフルフルは、次に彼女を跨ぎ、その股間に舌を伸ばす。生物の体内
に傷付けずに産卵する方法を、フルフルは知っているのだろう。
「ッああぁ!」
彼女の性器を肛門をフルフルの舌は容赦なく蹂躙する。そのたびに彼女は嬌声を挙げる。
もう彼女の中では、フルフルに対する嫌悪感など微塵もないのであろう、力の入らぬ手足で
必死にフルフルにしがみつき、更なる快楽をねだっている。フルフルは彼女の性器を舌で
嬲りながら、自分の体長の倍以上に伸ばした尾を彼女の体に巻き付け、先端を肛門に突き
入れた。
「くっひぃい!」
全身を痙攣させフルフルを迎え入れる彼女。更なる快楽を得ようと貪欲に腰を振る。
フルフルの長く変形した尾が彼女のアナルをくぐり、体内に深く深く沈みこむ。その感覚に
彼女はあられもない嬌声で答えていた。
「……あっ…ふあっ…ひっ…ああっ」


やがて、彼女の体の奥深く、その中に何かが脈打つように放出される。最早嫌悪感すら
感じる事なく、その命の放出を受け止める。
再度の産卵を終えたフルフルの尾が、次は彼女の性器に狙いを変えたる。
「……早くぅ、…お、おまんこ…犯してぇ…」
媚薬と諦観に心を支配されたのか、フルフルを誘惑するかのように凌辱をせがむ彼女には、
数時間前まで見られた、駈け出しハンターの未来の可能性にあふれた姿はもうどこにもなかった。
フルフルが承知したかのように、彼女の性器にその長大な凶器を突き立てる。
「あっあああぁん!」
それだけで、彼女は絶頂に達した。
だが、フルフルの責め苦はまだ終わりを告げてはいない。確実に卵を植え付けるために、
ゆっくりと彼女の最奥に侵入してくる。
「ひあ…あぁ……」
その今まで体験したことのない異常な感覚に、彼女は絶頂から引き戻され、そうかと思えば、
また徐々にその頂へと押し上げられていく。
「……だ…駄目ぇ……また…っくぅ…」
それと同時に、彼女の最も奥深いところで粘ついた水音が響く。フルフルが最後の産卵を
行ったのだ。
「っひぃいっ!」
ただただ、その放出を受け止めるしか術のない彼女。
やがて、ぐったりと雪面に倒れ、快楽の余韻に荒い息をつく彼女の首筋に、フルフルはそうっと
己の口を寄せる。そして一度、そこをその大きな舌でゆっくりと舐めると、不気味な赤い唇を
そこに押し付ける。
「……ん…ああぁ」
彼女が、その刺激に緩やかに応じたその時、フルフルの巨体が微かに燐光を発した。
「……かはっ!」
全身を一度大きく痙攣させ、彼女は自分の五感がすべて消失してゆくのを感じた。フルフルの
電撃によって、全身の神経を麻痺させられたのだ。
彼女は、ほんの僅かに残っていた生還への望みが、完膚なきまでに粉砕されたのを感じ
ながら、その意識を強制的に断ち切られたのだった。

「…大丈夫ですか?マヤさん?」
アンダースンが俯いたまま黙りこくったマヤに声をかけていた。
「へ?あ!はい!あの、大丈夫です!」
思考が迷走した揚句、とんでもない大妄想へと突入していたマヤは、アンダースン声にようやく
現実へとその思考回路を復帰させた。
「大丈夫ですか?ずいぶんと考え込んでいらしたようですが」
アンダースンの心配そうな声が、罪悪感をズキズキと刺激する。マヤは自分の内側がずいぶん
と湿っていることに気がついた。
(どんだけ変態なんだ、あたしは)
思わず自嘲した。あの妄想で感じている自分に対し、軽蔑さえしたくなってくる。
「ちょっと、被害にあった方の事を考えてしまって…」
確かに嘘ではない、嘘ではないが、咄嗟に相手が好ましいほうに誤解する言い方をしてしまった。
(自分でなければ、殺してやりたいほどの傲慢さね)
どこかで聞いた言葉を、思わず胸中で呟いた。自分がなんとも情けなく、みじめに思えるマヤ
であった。

しかし、このとんでもない妄想が、ほぼ事実を的確に予見していようとは、神ならぬ彼女には
知る由もなかった。



明りが落とされた室内には、葉巻の絡みつくような煙とともに、重苦しい空気が漂っていた。
「アンダースンが、ポッケ村のハンターに接触したというのは間違いない」
その室内にいる、初老の男性が重々しく口を開いた。その声色は焦りといら立ちを隠せないでいる。
「偽の情報と言う可能性は?アンダースンはああ見えてなかなかのキレ者です」
もう一人、壮年の男性が問いかけた。
「フン、奴はコッホフェルトの小娘を、俺からの間者と疑っているようだからな…」
初老の男が、声とともに盛大に紫煙を吐きだす。あの小娘は逆に使いにくいのだがなと小声で
呟いてから続けた。
「俺の都合で動かせる人間が、本部内にも居るからな。そこからさ」
「なるほど……で、奴は何かを掴むことができたのですか?」
壮年の男は、感情を殺した無表情で問う。
「いや、わからん。上手くかわされてしまったよ。確かに奴は厄介だ」
忌々しそうに、初老の男が吸っていた葉巻を乱暴にねじ消した。
「恐らく、近いうちにこちらの尻尾を掴みに来るな」
「では手はず通り、連中を処分するとしましょう」
壮年の男が、物騒な単語が含まれるその言葉を、まるで掃除でも請け負ったかのように発音した。
「頼む、この件は露見させるわけにはいかんからな」
少し神経質そうにもみつぶした葉巻を弄びつつ、初老の男は告げる。
「心得ております。御家再興の御為なれば」
忠実な部下以上の態度で、壮年の男は応じた。
「できる事なら、事故で決着させたかったが…」
初老の男は呟きながら新たな葉巻を取り出し、吸い口を整え咥える。その葉巻は、彼の身なり
からすれば、ありえぬほどの安物であった。
「そう何もかも、上手くは行きますまい。御家の苦境と同様に…」
同情するように、というより、言って聞かせる様に壮年の男は話す。
「フン、たまたま飛竜がやってきて……か?たしかに、時々、竜にすべてを破壊されてしまえと
思う時はあるが……まあいい、すぐに現地へ飛べ。後の始末は任せる」
「はッ」
壮年の男は、令則通りの敬礼を行い、すぐさま踵を返した。
「くそッ、ようやくここまで来たのだ。邪魔などさせるものかよ」
その後ろ姿を眺めつつ、初老の男は吐き捨てる様に呟いた。



「それで、犯人たちはギルドナイトが抹殺した、というわけですか」
マヤとの会食から数日後、アンダースンは自分の執務室で、エルザからの報告を聞き、呟くよう
に言った。
「ええ、ポッケ村の集会所で聞きこみをしていた、ギルフォーデス隊の手柄だそうですわ。
なんでも、数人掛かりで女を凌辱し、その場に放置していたことを白状したとか」
エルザは、送られてきた報告書を執務机の上に置くと、両手を腰にあて、上目づかいで
アンダースンをからかう様に見やる。
「あの女と会う口実が無くなってしまいましたわね」
あの会食の日、マヤを泊っている宿まで送った後、なぜかエルザが本部の前で待っていたのだ。
そして「監理官ともあろう方が、機密漏洩ですの?」と、問いかけられた。「事情徴収ですよ」と
返したのだが、その直後、エルザのしてやったりという表情を見て、アンダースンはカマを
掛けられたことに気がついたのだった。それ以来、エルザはこの件に関してやたらと関わりたがる
ようになっている。
しかし、アンダースンには彼女の軽口を気にしている余裕はすでに無かった。
「変ですねぇ、ギルフォーデス隊ならば、殺さずにとらえることも不可能ではないと思いますが」
厭味を流されたことより、彼が疑っている内容に興味を引かれ、エルザは口を出した。
「ハンター3人が全力で抵抗した場合、捕縛は難しいのではなくて?」
「ギルフォーデス卿は、ギルドナイツでもトップクラスの実力者だと伺っておりますが」
それを聞いて、エルザは苦笑いをした。ギルフォーデスは確かに、訓練試合でも負けなし、
任務の達成率も高く優秀と評判のギルドナイトであるが、尊大なその態度と捕縛よりも
抹殺を好むその性格によりギルド内でも敵の多い人物であるからだ。犯人の抹殺よりも、
事件解決と法による処罰を重視するアンダースンとは不仲を通り越して、敵視しているに近い。
とは言え、アンダースンも犯人を死刑にすることに反対なわけではない、あくまで法の下に
平等に罰を与えるべきだとの考えに基づいての事だ。
「確か、彼の隊の派遣は、マンシュタイン閣下直々のご命令でしたね」
マンシュタインというのは現在この本部に駐留するギルドナイツ第三旅団長である。若かりし
頃は巌のような強面の屈強な騎士だったのだが、最近ではもっぱら金の亡者とか、肥え太った
豚とか陰口を叩かれるほど、見事に俗物化してしまったと言われている。年齢を重ねるごとに
駄目になっていく人間の見本ともっぱらの噂だ。
「あのお二人を疑っていますの?」
興味津々という顔でエルザが問いかけて来る。
「いえ、疑うというほどの事はありませんが、まあ、事実確認程度のことです。しかし、興味が
お有りのようですね?」
あっさりと否定しながら、彼女の態度に話を切り返した。
「監理官とあのお二人とは、仲がよろしくなかったですわね」
少し、意地の悪い笑みを浮かべ、エルザは答える。
「確かに、良くはないですねぇ。しかし、仕事に私情は持ちこんではいませんよ」
「どうかしら」
アンダースンの否定を、一言で切り捨てた。だが、その表情には笑みが浮かんでいる。
「わたくし、今回の監理官の行動、マンシュタインにもギルフォーデスにも伝えていませんのよ」
エルザは、本来上司に当たる二人を呼び捨てた。もっとも、彼女の本来の身分からすれば、
その二人よりも彼女のほうが上位ではある。
それを聞き、一瞬、アンダースンの表情が変わった。
「なるほど、貴女もそう思ってみえた訳ですか」
だが、アンダースンの表情の変化は、それだけが理由ではなかった。確かに、万が一の可能性
として彼はエルザがマンシュタインの送り込んできたスパイではないかと疑っていた。社会的な
立場から考えれば、まずあり得ない事ではあったが、アンダースンは警戒していた。実際に
マンシュタインへ連絡したのは違う人物であると確認はできていたが、エルザがこちらの味方
であると立場を表明してくれたことは、アンダースンにとって大きな収穫である。それが確認
できただけでもマヤとの会食には充分意味があったと喜べる。

「ええ、最近マンシュタインは、妙に金廻りが良くなっていましたわ。それに実行犯だけでは、薬品
を用意できませんもの。ご覧になったかしら、殺された女には媚薬すら使われていますのよ」
そう言って、報告書の一部を指さす。
「ある程度の地位のある人間が協力をしないと、手に入れることは困難なものではなくって?」
そこに記入された薬品の名称を見て、アンダースンの眉が微かに動いた。
「媚薬の方は確かに。しかし、証拠がありませんね」
彼の呟きを受け、エルザも続ける。
「動機もよく判りませんわね」
「そうでもないですよ」
アンダースンはエルザを責める様子もなく、いつもどおりの声で告げる。
「マンシュタイン卿というか、あの家は十年ほど前に領地の運営に失敗していますからねぇ」
お金が要るんでしょうと、アンダースンは続けた。
「領地の運営に失敗?」
「おや、ご存じなかったですか?簡単に言えば、日照りが続いたので灌漑設備を整備しよう
として、大量に財産を注ぎ込んだところ、完成寸前に飛竜に襲来されて全部壊されてしまい、
借金と荒れた土地だけが残ってしまったということですが。まあ、マンシュタイン卿が動く時は、
必ずどこかにお金になる話が絡んでいるはずです」
アンダースンはそう締めくくった。
「しかし、ハンターを数人殺したところで、なにかお金になりますの?」
エルザのもっともな疑問に、そうですねぇと呟いてアンダースンは答えた。
「それが掴めれば、あるいは糸口になるかも知れませんねぇ」
その場を沈黙が支配した。二人は、先ほどから名前の挙がっている、マンシュタインと
ギルフォーデスが実行犯に指示し事件を起こしたのではないか、と疑っている、だがそれ以上
の手掛かりがまったく無い。
トカゲの尻尾のように実行犯だけが切り捨てられた。それが可能だったのが、マンシュタインと
ギルフォーデスしかいないということしか、その二人を疑う根拠がなかった。
その時、執務室の扉かノックされた。即座にエルザが動き、室外の職員に何事かと尋ねる。
ずいぶんと秘書が板について来ましたねぇ、とアンダースンは妙な感心の仕方をした。
「監理官。お客様だそうですけれど、こちらにお通ししてもよろしいかしら」
こちらを振り向いた彼女の表情を見て、アンダースンはだれが訪ねてきたのか分かったような
気がした。
「例のハンター殿がお見えだそうですわよ」
お通ししてください、と答えつつ彼は自分の予想が的中したことを密かに喜んだ。


マヤは先日とは打って変わって、なんとも地味な服を着用していた。しかも、ハンターが好んで
普段着に使ういくつかの種類の服とも違う。強いて似た服を探すなら、食材屋のおばちゃんが
着ている服に近い。
「あら、今日はずいぶんと地味ですわね」
地味を強調して言うエルザに、マヤは笑顔を向け答える。
「アンダースンさんに、なるべく迷惑をかけないように考えたんですけど」
しかし、マヤの眼は笑ってはいなかった。
「取次の人が、ハンターが来ましたぁ、なんて言ったら台無しですけどね」
火花散る視線の応酬、アンダースンは飛び散る火花が見えたような気がした。
「しかし、よくそんな服を用意できましたね」
とりあえず、話題を変える努力をしてみるアンダースン。
「ああ、下町の古着屋で、いくつか見つくろいました」
そんなに高い物じゃないですし、とマヤは続ける。


「先立つものの方は大丈夫ですか?」
それでも心配そうに、アンダースンは続けて尋ねる。マヤの街への滞在はほんの数日の予定
だったはずだからだ。そんなに余裕があるとは思えない。
「あ、それなら大丈夫です」
だが、余裕めかしてマヤは笑う。
「これを、持って来てますから」
そう言って取りだしたのは、何やらほのかに光を放つ、赤い鱗。
「そ、それは」「火竜の逆鱗」
二人が息を飲む。それも当然であろう、彼女が持っているのは、火竜リオレウスからごく稀に剥ぎ
取ることができる希少な鱗だ。加工素材としても利用価値が高く、ハンターでもなければ、鱗の
状態で目にすることなどめったにない。いや、ハンターですら手に入れる前に、引退をしてしまう
者もいるほどの貴重な素材である。
「雌火竜のもあったんですけど、そっちは、ドレスに化けました」
なるほど、とアンダースンは納得する。道理であんな上等なドレスを身につけていたわけだ。
しかし、逆鱗一枚分のドレス、ずいぶん奢ったものだ。
「これなら、捨て値で売り払ってもしばらくは街で遊んでいられる程度のお金になりますから」
事もなげにそう言うマヤ。たしかに現金で持ち歩くより、かさ張らないし目立たない。多少相場
に左右されるとはいえ、利点の方が多い。アンダースンは思わず感心した。
「あ、貴女、ずいぶん豪気ですのね」
エルザの毒気を抜かれた声を聞きながら、アンダースンは、彼女は村に駐在するハンター
としては、すでに相当の腕前であると認められていることを思い出していた。
「せっかくのお誘いなんで、思い切って奢ってみました。…っと、今日はそんなこと話に来たんじゃ
ないんです」
マヤは、少しだけ自慢げな態度を見せたが、すぐに態度を改め真剣な眼差しでアンダースンを
見つめる。
「街で妙な噂を聞きましたので、差し出がましいとは思いましたがお知らせに参りました」
「なるほど、それで、噂とは一体どのようなものでしょうか?」
アンダースンが感情の読めぬ表情になり尋ねる。
「…貴族の間で、ヤバい食材の裏の取引ルートがあるとかで、その中で、人肉を食わせて育てた
養殖フルフルベビーがある、とか」
「まさか」「いくらなんでもそれは…」
声をひそめたマヤの話の内容に、思わず言葉を失う二人。
「どっかの貴族のお墨付きとかで、とんでもない値段が付いているそうです」
「どこでそんな話を?」
にわかには信じがたい、そんな表情でアンダースンがさらに問う。
「宿に出入りしていた食材屋のおばちゃんが、問屋で聞いた話だそうです」
アンダースンは黙り込んだ、もし、マヤの話が本当だとしたら…いや、重要なのはマヤの話の
真偽ではない、人肉で育てた事を付加価値としたフルフルベビーが高額で売れる可能性がある、
その事の方が重要だ。
「そのお話が本当だとしたら……許せません。断じて許せませんわ。貴族にありながら、その
ような悪徳に手を染めるなどと、王国貴族として、いえ、人としてあってはならない事」
エルザが珍しく怒気を露わに呟く。
「直接、問い質してまいりますわ!」
そのまま、退出しようとする。マンシュタインのところに殴り込みかねない勢いだ。
「待ちなさい!今はまだいけません」
こちらも珍しく、語気荒くアンダースンは彼女を制する。
「どうしてですの!」
「今はまだ証拠がありません。今、問い質したところでとぼけられるのがオチでしょう。下手をする
と貴女が、マンシュタインを謂れもないことで侮辱したと看做されてしまいます。まずは証拠です」
「あの、そのことなんですが」
おずおずとマヤが声をかける。
「あたしに一つアイディアがあるんですけど」

「囮捜査、だと?」
ドンドルマの街の某所にある、薄暗い部屋に男の軋むような声が響いた。
「アンダースンめ、厄介な真似を……」
そこで、部下からの報告を受け取っているのは、現在、ドンドルマに駐留するギルドナイツ
第三旅団の旅団長、マンシュタインである。彼は、部下により届けられた書類を睨みつけて
いた。そこにはアンダースンがポッケ村にて捜査を行うため協力を要請する旨、記載されて
いる。アンダースンの下に配置しておいた間者からも、囮捜査の情報を入手していた。
ポッケ村と雪山でアンダースンが捜査を行うことは確実だ。
「どうする、ここは無視をするのが妥当か…いやまて、今回動かなければ、いずれギルド
内の人物が怪しまれるか…」
マンシュタインは一人呟く。ここで、手を誤れば自身の破滅となる。慎重にならざるを得ない。
「ならば、アンダースンの裏をかいて、囮のハンターを始末することができれば……」
確かに、協力者を殺されたとなれば、アンダースンは今後、苦境に立たされることになる。
捜査もまともに行えなくなるだろう。
「ギルフォーデスは動かせんか……誰にやらせるか……」
囮ハンターを殺すのであれば、自分に忠誠心の高く腕の立つ人物が必要だ。今、ポッケ村に
いるギルフォーデスはその条件に合致しているが、アンダースンの監視が必ず付く、下手に
動かすことはできそうにない。
しばし、沈思黙考するマンシュタイン。と、不意に彼の脳裏に閃くものがあった。
「ふっ、ふふっ、そうか、その手があるか」
思わず笑みすらこぼれる。自ら思いついた妙案に彼は酔っていた。
「アンダースンめ、自らの策で自分の首を絞めるがいい」
暗闇にマンシュタインの低い笑い声が響いていた。
                              〜つづく〜
2010年08月15日(日) 04:42:45 Modified by kongali




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