保管庫内検索
作品メニュー
作者別

スレ別

画像保管庫

キャラ別

編集練習用ページ

まだ必要なものあったら編集頼む
最近更新したページ
最新コメント
炎の山の金獅子 後編 by 名無し(ID:pZXome5LrA)
キャラ別 by 名無し(ID:5Lz/iDFVzA)
キャラ別 by 名無し(ID:cOMWEX4wOg)
キャラ別 by 物好きな狩人
キャラ別 by  
降りてこないリオレイア後編 by 名無し(ID:UKypyuipiw)
25-692 by 名無し(ID:PnVrvhiVSQ)
一角獣 by ケモナーかもしれない
誇り高き雌火竜 三 by ルフスキー
タグ
Wiki内検索
カテゴリー

23-137

スレ番号 タイトル カップリング 作者名 備考 レス
23盗人が盗んだものゲリョス♀×人間♂ 137〜143

盗人が盗んだもの


沼地。
人間の叫ぶ声が、私の耳に届いた。人間が手を大きく振りながら、私に向かって走ってくる。
ハンターかと思い、私は毒を吐きかけようと身構えたが、すぐに思いとどまった。

たしかにボウガンと呼ばれる遠距離攻撃型の武器を腰にかけてはいるが、ハンターが着ている筈の鎧を、その人間は着ていなかった。ごく普通の私服らしい。
それでもってボウガンで私を攻撃しようとする意思は、その人間には感じられないのだ。
攻撃意思のない者を襲うなど、私のプライドが許さない。たとえ相手がハンターであっても、それは変わらない事だ。
…しかし警戒を解くわけにはいかない。面識のない者である以上は、何を企んでいるかわからないからな。

私は相手を睨み付けたまま、徐々に後退し始めた。私はつい先程ハンターと戦い、追い返したばかり。
疲労がたまったままでは、いつまた襲ってくるかわからないハンター共との戦いにおいてかなり不利になる。
いち早く疲労を消すためにも、早くねぐらに帰って眠りにつきたい。今 私の前にいる人間に攻撃意思がないことを幸いに思った。

『俺を弟子にしてください!!』

まだ何か叫んでいる人間。両手と額を思い切り地面につけ、何度も何度も叫ぶ。
はっきり言って私は、この人間が何をしているか全くといっていいほどわからなかった。
人間のしぐさについてなんか、生まれてからずっと野生で生きてきた私にわかるわけなかろう。
私はそっぽを向き去ろうと思ったのだが、人間は私の前に立ちはだかって行く先を遮り、また先程の仕草。

『お願いします!どうか…どうか俺を弟子にしてください!!』

私はくちばしの先で、地に額をつけながら叫んでいる人間の頭を二、三回軽く小突いた。

「邪魔だよ どいてくれないかな」
『…顔を上げろという事ですか…? という事は俺を弟子にしてくれるのですか!!?』

人間は何を勘違いしたのか、勢いよく立ち上がり 両手を大きく上げて歓喜しているようだった。
この人間は私に何を望んでいたのだろう。私はこの人間にとって得になるような事はしていない。
まあそんな事はどうでもいい。眠い。早く寝たい。

『あっ、どこへ行かれるのですか?弟子となった以上 自分にはお供する義務があります』

うわあ ついて来るよ…。何もしないんだったら別にいいけど、寝床までついて来られちゃ他の人間に場所知らされるかもしれないな…。

私は翼を大きく広げ、一回、二回と羽ばたいて体を浮かせた。まあ 人間には翼はないからまずついて来るなんて事はないだろう。
二十メートルぐらい浮上した時、私は奇妙なことに気がついた。私がふと地面を見ると、すでに人間の姿はなくなっていたのだ。

(いつの間に……まあいいか。ついて来るの止めてくれたなら――)
『うおぉお、すげぇ眺め!』

私はあまりの衝撃的な出来事に、恐怖の叫び声を沼地のフィールド一帯に響かせた。
そして地面に真っ逆さまになりかけたが、私はなんとか体勢を立て直し、空中に体を維持させた。

恐ろしい…この人間……瞬時に私の首に乗っただけじゃなくて、乗った感覚すら感じさせなかった………
並外れた身体能力を持ち、そして数多の修羅場をくぐり抜けてる……

私は戦慄した。この後 この人間が何をするかわからないからだ。
後ろ首にしっかりとつかまっている人間を振りほどく事など、人間への恐れで頭に浮かんでこなかった。

私どうなるの…?ボウガンで零距離から首を貫かれて死ぬ…?それとも もっと苦しむ方法で……

『…師匠のゴムの皮……すごく気持ちいいです……』

人間がそう呟いて、私の後ろ首に体全体を密着させた。人間の体の温かみが感じられる。
次の瞬間、私を襲っていた恐怖が一瞬にして消え去った。恐怖から解放され、私の心に光がさした。

どうすればいいの……敵意はないみたいだけど…………信じていいのかな…?

恐れの次に私を襲ったものは、眠気。早く寝床に向かわないと 空中落下でとんでもない事になってしまう。
先程も言った通り、この人間を自分の寝床に案内することは危険が伴う。かと言って 襲うのは気が引ける。
だが、今度はプライドの問題ではない。まず言える事は、この人間は只者ではないという事。
勝てる気がしない。こんな気持ちは初めてだ。襲ったら私の命が一瞬で消え去るような、そんな予感がするのだ。
ハンターとは違う、もっと別なものをこの人間からは感じた………。




「師匠………寝顔かわいいっす……………」

俺は思わず、沼地の地に体を横にして眠っている師匠の顔に頬擦り。
はっ とした俺は首を大きく左右に振り、両方の手の平で自分の頬を ペチン と叩いた。

「いけない いけない…安心してください師匠。この俺がいる限り、師匠には誰一人として触れさせませんから」

俺は腰にかけていたライトボウガンを両手に持ち、警戒態勢に入った。



名前は サウス・ノーザン。最悪の環境 そして最悪の人生を、俺は歩んできた。
母が俺を出産し、病院に入院し始めてから何日か経過したある日の夜、最初の悲劇が俺に襲い掛かってきた。
突如 病院内ですさまじい爆音と共に起こったガス爆発。そこから発生した大規模な大火事。
建物内にいた全員が逃げ惑い、恐怖に満ちていたそうだ。しかし、幸いにもその病院は小さく、逃げることは容易かった。
…しかし…母は助からなかった。ガス爆発が起こった際に天井にひびが入り、崩れてきた瓦礫の下敷きになってしまったのだ。
運良く下敷きにならなかった医師達は、母を助けようと瓦礫を動かそうとしたのだが、瓦礫が重すぎてびくともせず、徐々に火の手が医師達にもまわってきていた。
まだ生きていた母は口から吐血しながら、床に落ちてしまっていた、まだ赤ん坊だった俺を指差しながら言ったそうだ。

「……せめて……この子だけでも……助けてあげて……」

すさまじい火が襲い来ている事に限界を覚った医師達は、すでに誰もいなくなっていた 炎に包まれた病院から全速力で走って脱出した……一人の赤ん坊を抱えながら…。
最後のガス爆発が起こり、完全に崩れ去った“病院だった場所”からは、瓦礫に押しつぶされた一人の女性の死体が発見されたそうだ。
……犠牲者は……………その女性だけだった………。


そしてそれから何年かたった後、次の悲劇が俺に襲い掛かってきた。父子家庭となり、配偶者がいなくなった親父はその事をいいことに、幼かった俺をなにかにつけて折檻し始めた。
ハンターだった親父。獲物を取り逃がした時、クエストに失敗した時などのストレスを、俺をぶん殴る事によって解消しようとしたのだ。
しかし、俺は抵抗しなかった。殴られる事は、全て自分に責任があるのかもしれないと思い込んでいたからだ。
続く暴力と飢えの日々。殴られ、蹴られ続けて、ろくに食事も与えられず、いつも飢えに苦しんでいた。
親父は一回とて俺を、家の外に出そうとはしなかった。折檻の傷を他人に見られてしまっては面倒だからだろう。
外に出ようとすれば、いつもに増して激しくなった暴力が俺に襲い掛かる。殴り終えたあと、親父は毎回決まって同じ事を言っていた。

               なんでこんな奴をあの病院の野郎どもは助けたんだろうな

悔しかった。俺を助けてくれた人たちを馬鹿にされて、腹が煮えくり返る思いだった………………。

そんなある日、俺は空腹に限界を感じ、親父が仕事で家を出ている隙にこっそり外へ出た。
何年ぶりかに当たったの日の光。俺は近所の人たちに知られないように、街を歩き回った。

お父さんに伝わるかもしれない………僕が外に出たこと…………。

そんな事を思って心臓がばくばくなっていた。人が自分の隠れている場所の近くを通るたび、体の震えがとまらなくなっていた。

その時俺の鼻に入ってきた、すごくいい香りのする焼きたてのクッキーの匂い。
匂いのした方向を見ると、街の広場で菓子職人がクッキーを売っていた。何種類もあり、俺はよだれが止まらなかった。
それが、第三の悲劇となる事とも知らずに………………………。


………――広場にいた全員が自分の周りに集まって、体中に金属バットで殴られたような激痛が走った。
いわゆる集団リンチ。店の商品盗みやがった って菓子職人が叫んだら、みるみるうちに取り囲まれて……。

自分は誰にも理解されないのか……自分の事を…知ってほしいのに…………。

一人広場でリンチされた時のまま地面に横たわって、雨に打たれながら親父と街の奴ら全員を激しく恨んだ。
どうしたら自分を理解しなかった事を奴らに後悔させることができるのか、俺は必死に考えた。

…盗み。自分が生き残るにはそれしかないと、奴らに後悔させるにはそれしかないと俺は気がついた。
俺を痛めつけた奴らは全員裕福な暮らしをしており、毎日に退屈していた奴らだ。
そこに現れた一種のサンドバック。ここぞとばかりに集まり、笑いながらそのサンドバックをもてあそんだ。
裕福な暮らしをしている奴ら、親父を含めそのほとんどが、ハンターだった…………。

「―もう十年も経つのか………」

俺はかわいく寝息をたてている師匠を見つめながら呟いた。十年という月日の中で、俺は数え切れないほどの盗みを犯した。
これは復讐。ハンターの大事にしていた武器、防具、宝石……金になるものは何一つ見逃さず全て盗み去った。
初めの方は生きるための手段として盗みを犯していたのだが、盗みをしていく内に、
一種の快感として受け止めるようになってしまっていた。
今俺が持っているライトボウガンも、もちろん盗品だ。
面白半分でギルドの重要機密書類なんかも盗んだ所為で、俺はギルドからも終われる身となっていた。
ほとんどの国でも指名手配されており、盗んだものを売る時は裏の悪い組織に売り込むしかない。
そんなわけでいくら金作っても街に行けば 大泥棒のサウスだ と叫ばれ、逃げ〜 といった感じだ。
結構生きるのに苦労してるわけよ。十年もサバイバル生活送ってりゃ人並みはずれた力持てるようになったりして、
逃げるのには苦労しないけどな。


そして今日ダメ元で、沼地に隠してあった金と宝石を持って、食料欲しさに街に向かおうとしたその時
俺の目に映ったのは、すんげ〜クチバシ使いでハンターの持ってるアイテムを盗んでいく毒怪鳥の姿。
俺ね、そのゲリョスのテクニックに気付かない内に一目ぼれしちゃってたのよ。
ハンターをその強い力で追い返して、逃げていく情けないハンターの姿。
気がついたときにはゲリョスに向かって走ってて、土下座して弟子にしてくれって頼んでた。
だって、あんな大胆な盗みなんて俺到底できねぇもん。それでもってすごい力持ってる。
もうホンットにびっくりした。もうパーン☆ってなりましたね頭が。
弟子入りを師匠に容認されたときには、嬉しくって感動で……――!!

『!』

ゲリョス師匠も起きちまったぜ………くそハンター共の襲来だぜ畜生…。
遠くから……三人歩いてくるのが見える。三人か……少しきついかもな………。

「あっ!!ゲリョスだけかと思ったら、こいつは大泥棒のサウスだぜ!!」
「ほっほーう……二つ同時においしくいただけるというわけか……懸賞金すごいらしいぜぇ…」
「へへへ…ゲリョスなんかと仲良くしやがって…二人同時に狩ってやるぜ」

ハンター達がうすら笑いを浮かべながら片手剣、ボウガン、そして大剣を構えた。
師匠は少し慌てた様な素振りを見せたが、俺は表情一つ変えず息を すぅ と吸った。

「なめるなボンクラァ――――――っ!!」

静寂がしばらくの間 沼地を包み込んだ。ハンター達は大きく目を見開いたまま、何一つ喋ることはなかった。

「俺も、このゲリョス師匠も何年もの間生きるか死ぬかの世界で生きてきたんだ。
 のうのうと毎日を過ごしているてめぇらに俺らが殺れるか」
「なんだとてめェ!盗人ごときが調子に乗るんじゃねぇよ!」

大剣持っていた男が俺に襲い掛かってきた。そしてボウガン男も俺に狙いを定めている。

「師匠!その片手剣野郎を頼みます!」

師匠は戦いの場を変えようと別のフィールドへと飛び立ち、片手剣野郎はそれを追い始めた。

「死にさらせぇェ!!」

大剣男はまず片付いた。大剣の縦斬りをかわした俺はボウガンを男の首元に殴りつけ、ハンターはあっけなく気絶。
それに動揺したボウガン男は、俺に向かってボウガンを狂った様に乱射。
馬鹿じゃねぇのこいつ。回復弾なんかあてても痛くもかゆくもねえよ。

「―ぎゃいッ!」

俺はボウガン男をあっという間に取り押さえ、地面に仰向けに取り押さえた。

「ハンターなんてクソよ、馬鹿以外やりゃあしないわ」
「まっ…待ってくれ!命だけh―」

ハンターの持っていたボウガンをポイした俺は、自分の持っていたボウガンで頭を殴ってハンターを気絶させた。
なめんじゃねぇ。今までこんな輩を何十人相手にしてきたと思ってるんだ。

「あっ、まずい!早くゲリョス師匠のもとへ向かわなければ!!」

俺は師匠と片手剣ハンターが向かって行っていた方向へ、全速力で走り出した……。

くっ…この短時間でこれほどの傷を負わされるなんて………体中が痛い……

『おらおらどうした毒怪鳥さんよ。初めっから俺に勝てねぇ事なんか野生の勘とやらでわかってた事だろォ?』

体の所々で血があふれ出してる……もう体力もない………くらくらして意識が朦朧……

「―ゲボッ!ゴホ、ゲボォッ!!」

…すごい血の量……口からこんなにいっぱい血出るものなんだ………
こんなにハンターにズタボロにされるのは初めて…このハンター…強すぎる…所持品を盗む暇なんて………。

私は薄れゆく意識の中で、最期の時を感じた。体にもう力が入らない。
地面に崩れた私に、ハンターは止めを刺そうとその持っていた片手剣を振り上げたその時だった。

                ズドボォン!!!

ボウガンの銃声らしき音と共に、ハンターの首が宙を舞い、その首の持ち主の体と首は力なく地に落ちた。
その奥には、銃口から煙を出しているボウガンを構えている、あの人間がいた。

『…俺の師匠を苦しませる野郎は…この俺が許さねェ。よって死をもって償ってもらった』

人間は沼地の地面に転がっていた生首を一蹴りし、追い討ちをかける様にボウガンで再度それを撃った。
砕け散った首を尻目にし、地面に横たわっている私に近づいてきて、持っていたボウガンのマガジンを取替え、
そのボウガンを私に向かって構えた。

…あ…私死んじゃうんだ…でもありがとう…あなたのおかげでもう苦しまなくてすむんだから……

『師匠ダメじゃないですか、弟子の前ではもっとしっかりしてください』

その声と同時にボウガンから銃声が発せられた。その弾丸は私の胸に直撃し、私を苦しみのない世界へと導いた。
でもここは天国じゃない。私はちゃんと生きているようだ。それだけではなく、なんだか痛みが引いていくようだ。

―回復弾か。何回かハンターが誤って私に撃ち込んだ事があったっけ。

それと同じ感覚だった。私は、どうやらこの人間によって助けられたようだ……。

「本当にありがとう…あなたに頭が上がらないわ」

礼の言葉を言い、頬擦りをしようとしたその次の瞬間…………

「―うげええぁぁぁああああ!!!!!」

…吐いた。この上ない吐き気が俺を襲い、情けなく地面に倒れこんで口から嘔吐物を吐き出したのだ。
何度もゲリョス師匠の前でそれを繰り返した。ゲリョス師匠は、そんな俺の様子を どうしたのか と言わんばかりに見ていた。

「はあ…はあ…申し訳ありません師匠……とんだお見苦しいところを……」

醜態さらしちまったな……でも吐くなっていう方が無理な話だぜ……………
俺は泥棒だ……何十回、何百回と盗みを繰り返してきたが、人の命を盗んだ事なんて一回もなかった……
いくら師匠が殺られかけて激昂してたからといっても、人間の生首を一瞬でも見て、冷静になったら吐きたくもなる………

俺はポケットティッシュを取り出して口の周りを拭き、大きく何回か深呼吸をした。
ため息をついて、俺は師匠に背を向けて眼も合わせられなかった。
師匠が俺に呼びかけるような鳴き声が何度か聞こえたが、俺はそれを無視し続けた。

「――――がぃイッ!!?」

背中に強い衝撃を感じたと同時に、俺は沼の地を転がった。持っていたボウガンは ゴシャ と音を立てて地面に沈む。
なんだ と思って倒れたまま顔を上げると、師匠がまだ怪我しているその体を持ち上げて、そこに立っていた。
そしてその師匠のクチバシには、俺の所持品だったキラキラ綺麗に光る宝石が咥えられていた。

「し……師匠……」

師匠は仰向けになって呆然としている俺の口にそっとクチバシの先を触れ、俺の口腔内に、舌を使って宝石を入れ込んだ。
舌を引き抜かれると、俺の口から唾液の糸が出て、それは師匠の舌の先へと繋がっていた。

…俺が誰かに何かを盗まれるなんて初めての事だった。屈辱感もあったが、それより強い何かが俺の心にあった。
そう、ゲリョス師匠が盗んだのは宝石だけじゃない。俺のハートまでも盗んでいたのだ………。
2010年11月12日(金) 02:20:13 Modified by kongali




スマートフォン版で見る