２式戦
２式戦闘機「羅刹」
２式戦闘機は第二次世界大戦において用いられた帝国空軍の戦闘機で、紀元２６０２年（１９４２年）制式採用により２式戦闘機と称した。製造、開発は三菱である。羅刹は愛称である。軍が認めた正式なものではなく、新聞社が読者応募企画の一環として募集したものが軍に逆輸入されて広まったものである。現場のパイロットは単純に「にしきせん」、「にしき」、「二号さん」などと呼んでいた。愛称は殆ど用いられていない。
なお、帝国空軍は以後配備される軍用機の全てに愛称を一般公募する方針を定め、２式戦以後に制式化された機には何らかの愛称が正式に付与されることになった。但し、その愛称をパイロット達が常用しているかどうかは別の問題である。
開発までの経緯
１９３９年に生起したノモンハン事件は帝国空軍に衝撃を起こした。帝国空軍はソ連空軍との戦闘に敗北し、ノモンハン上空の制空権を喪失したのである。
当初こそ９６式艦戦（その空軍版）は圧倒的な格闘性能でソ連空軍のＩ−１６を一蹴したものの、ソ連側が格闘戦を避けて一撃離脱に徹するようになると戦況は一変し、絶え間なく増援を送り出して消耗戦を仕掛けるソ連空軍に帝国空軍は押され、戦闘機部隊は殆どが壊滅状態に追い込まれたのだった。
２０ｍｍ機関砲を備え、強固な防弾鋼板を備えるようになったＩ−１６は９６式艦戦の７．７ｍｍ機銃では撃墜不可能で、パイロットへの狙撃だけが唯一の対抗手段という有様だった。しかし、それさえも一撃離脱に徹する高速のＩ−１６を相手に仕掛けるのは至難の技なのはいうまでもない。また、ソ連側の無限に湧き出る増援部隊に対して帝国空軍は殆ど増援を送ることができず、練度で大差をつけているはずのベテランパイロットは疲労で倒れ、次々と討ち取られていったのである。こうした事態に対応するため、帝国空軍は大規模な編成替えと部隊定数を倍にする等、継戦能力を高める様々な改革が行われることになった。
帝国空軍に大変革を強要したノモンハンショックは開発中の１２試作戦闘機（後の１００式戦）の開発にも影響を及ぼし、軽戦、重戦論争に最終的な決着を付けることになり、１００式戦は重戦闘機として完成させることになる。
しかし、１００式戦はノモンハンショックの戦訓を完全に取り込んでいるとはいえず、ノモンハン事件の戦訓を完全に取りいれたのは１４試作戦闘機、２式戦闘機からである。
ノモンハンショックが帝国空軍にもたらした変革は消耗戦に備えた予備パイロットの大量養成やパイロットの疲労軽減のための部隊のローテンション配置の徹底など多岐にわたるが、戦闘機設計においては「高速、重武装、重防御」の３点が以後の戦闘機開発に徹底されるようになった。
１４試戦は１００式戦の正式な後継機（川崎の１５試作戦闘機が失敗した場合の保険）として三菱の一社特命入札で発注されたが、これは中島飛行機が１００式戦の生産や改修で精一杯だったためであることを念のために付しておく。
設計
帝国空軍航空本部が示した性能要求は「高速・重武装・重防御」という３点で説明され、その要求仕様は殆どが概念的なもので、１２試戦の時と打って変わって非常に抽象的なものだった。
これは１００式戦の開発であまりにも具体的で詳細な要求仕様をまとめたことが却って開発を混乱させたことへの反省だった。以後、帝国空軍の要求仕様は「概念を以って良しとすべし」という言葉に要約されるように、最低限度のアウトラインを示す以外は運用の概念を提示するだけとなる。また、これまでの指導や、指示の乱発もなくなり、メーカーはそれまでとは比較にならない自由な環境の中で開発を行うことができるようになったのである。
もっとも、こうした軍の柔軟姿勢は１００式戦の高性能から暫くはその改良型で制空戦闘は十分に対応できるという楽観（楽天の間違いとしか思えない）から来るものであり、１４試作戦闘機はあまり期待されたものではなかった。１４試戦は１００式戦の補助戦力程度にしか考えられていなかったのである。
しかし、こうしたプレッシャーの少ない環境は、１２試戦開発中にノイローゼで倒れたＨ設計主任にとっては幸いなことだったといえるだろう。１００式戦が長男であるとすれば、１４試作戦闘機は次男坊のようなものだった。家長制度の残る当時の日本において長男へのプレッシャーは現代以上に強いものだったが、その反対に次男へのプレッシャーはないも同然だった。日陰ものであることを定められているがゆえに、２式戦はメーカーの自由な創意工夫が生かされた。
Ｈ設計主任を中心とする設計チームは最初に取り掛かったのは発動機の選定だったが、これはスムーズにことが運んだ。
帝国空軍はドイツ空軍をモデルにその戦備を整えていたが、その流れの中で戦闘機のエンジンは将来的に全て液冷化するという方針を立てていた。前面投影面積を最小限にできるスマートな液冷エンジンこそ戦闘機の発動機にふさわしく、空冷エンジンは爆撃機用と考えていたのである。
１２試戦はその方針が定められる前の設計であったために空冷の栄１０００馬力が用いられたが、１４試戦の設計、開発には高速発揮が可能な液冷エンジンが用意されていた。
ドイツからライセンス製造権を取得したＤＢ６０１とＪｕｍｏ２１１がそれにあたり、それぞれ川崎と三菱で量産準備が進められていた。
そうした経緯があり、三菱で量産準備進むＪｕｍｏ２１１が１４試作戦闘機の発動機として採用されることは自然の流れだったが、Ｈ設計主任はより小型軽量のＤＢ６０１が使いたかったのはいうまでもない。しかし、空軍当局は１００式戦を継ぐ主力戦闘機は液冷エンジン機の製造に精通している川崎の新型機だと考えており、２式戦にＤＢ６０１がまわることはありえなかった。
発動機がＪｕｍｏ２１１（そのライセンス生産版「彗星」）に決定するとその後の設計は比較的スムーズに進んだ。
Ｈ設計主任は空軍の研究機関が発表していた最新の航空力学理論を用いて、機体を紡錘形に整えた。液冷エンジンを用いたことで前面投影面積は小さく、機首から機尾までの機体下面のラインは一つの曲線にまとめられて優美というほかなかった。
紡錘体の胴体で最大の断面積（機体の４０％付近）に置かれた操縦席は、液冷エンジン機の常として指摘される操縦席の狭さとは無縁で適度な広さがあり、風防は平面ガラスで構成され、その背後からすぐにファストバック形になだらかに整形された胴体が機尾までつながって機体下面のラインとクロスして細い紡錘体を構成していた。さすがに液冷エンジンの常として地上での前方視界は悪いが、空中での前方視界は倒立Ｖ型エンジンによって非常に優れていた。
２式戦で揉めたのは主翼の設計だった。というのも、１００式戦が実戦部隊において着陸事故が多発していたことから、１４試戦では離着陸性能の改善、ひいては離着陸速度の低減を求めていたのである。１００式戦は主翼の小型化、薄翼化が災いして、離着陸速度が速く、高揚力装置を用いてさえ、着陸事故が多発していた。また、重量軽減に気を使うあまりに主脚が強度不足であり、ブレーキディスクの性能も低く、事故を増やす原因になっていた。
主脚強度の改善とブレーキディスクの強化は�況燭納損椶気譟∋�故は減ったものの、パイロットの大量養成を控えていた空軍はレベルの低いパイロットでも確実に離着陸がこなせるだけの低速飛行性能を２式戦に求めていた。
低速飛行性能を改善するのに一番早い方法は主翼を大型化することだった。大きな主翼は低速でも機体を空中に支えられるだけの揚力を発揮する。小さくすれば、その分だけ揚力は減る。それを補うために高速で飛ぶ必要があり、離着陸速度が上がるという仕組みである。
大きな主翼は空気抵抗が大きく、高速飛行には不利になるので高速性能を重視するならば、どこかで妥協しなければならなかった。
Ｈ設計主任は悩んだ末に、翼型を逆ガル式とした。逆ガル式の最大の利点は主翼と地面とのクリアランスが短くなることである。このため主脚は日本戦闘機の中でもっとも短いものになっている。固定脚の９６式艦戦でも一度だけ試したことがあるので設計そのものは問題なかった。降着装置も強固なものとするためにできるだけ単純化し、空気抵抗の増加をしのんで単純な後方引き込み式として、翼内収納ができない部分（タイヤ）はその分だけ主翼下面にバルジを設けて収納できるようにした。ブレーキディスクも重量増加を忍んで強力なものを採用している。
空気抵抗削減のために主翼の内翼部分にはＬＢ翼と呼ばれる層流翼形を採用し、逆ガルで折れ曲がった先の外翼はぎりぎりまで薄翼化を図っている。また、この部分は軽量化のために布張りにされている。しかし、緻密な強度計算によって時速８５０ｋｍの急降下に耐えるだけの強度が与えられていた。主翼面積は拡大され、翼面荷重は１７０ｋｇ／平方ｍに低減されており低速飛行性能は改善され、離着陸速度は時速１３６ｋｍにまで抑えられた。フラップはファウラー式だった。
内翼部分の前縁に開口部を設けてそこにラジエーターとオイルクーラーを配置しているが、これはアメリカのＦ４ＵやＦ８Ｆと同じ発想によるものである。２式戦で初めて採用され、４式戦も同様の配置を採用した。そのために三菱はパテント侵害であるとして九州飛行機を訴え、訴訟問題に発展している。
ラジエーターとオイルクーラーの後ろには燃料タンクが配置されているが、これは最初から防漏タンクとなっている。これにエンジンと操縦席の間にある前部胴体燃料タンクと操縦席下面、操縦席後部の補助燃料タンクを合わせると６００ｋｌの燃料搭載が可能だった。そして、主翼面積の拡大によってさらに翼内タンクが拡大されたので最終的には７００ｋｌの搭載が可能になった。
武装
１００式戦に採用された９９式２０ｍｍ機関砲２門を機首上面に搭載している。高射機関砲を原型とするこの２０ｍｍ機関砲は長砲身、高初速であったがそのために主翼内搭載が殆ど不可能であるという欠点があり（砲身が長く、反動が大きい）、胴体以外に装備することはできなかった。
なお、２０ｍｍ機関砲の搭載により重心が前に偏ったため、操縦席後部の防弾鋼板を１３ｍｍから１５ｍｍに変更し、機体後部の補助燃料タンクを増積することで重心の補正と防御強化、航続能力の延伸が行われている。
１００式戦と比べて火力向上はないものの、シベリア戦役で２式戦が対戦したＩｌ−２やＰｅ−２などの戦術攻撃機、爆撃機ならば２０ｍｍ機関砲２門で十分であり、対戦闘機戦闘においても必要にして十分な火力であったと言える。
ただし、元が高射機関砲であるために発射速度は早いとはいえず、プロペラ同調装置を介するために元から遅い発射速度がさらに遅くなっているのでパイロット達は一撃必殺の狙撃銃のように捉えていた。
なお、当初はドラム弾倉式の１００発だったが、後にベルト給弾式に改め、２００発までに装弾数を増やしている。
防御
２式戦闘機の防御は１００式戦よりもさらに洗練、強化されており、操縦席後部の防弾鋼板は１５ｍｍもあり、１３ｍｍクラスの機銃なら正撃にも対抗できた。また防弾鋼板そのものを機体構造に組み込んで機体強度を上げるなど巧妙な設計となっている。同じ理由によってこの防弾鋼板はパイロットが軽量化のために取り外すことができない。
機体の各部の燃料タンクは胴体前後のタンクは防弾、防漏式となっており、翼内タンクのみは防漏式になっている。また、後期型では自動消火装置が装備され燃えにくい戦闘機になっている。
防弾ガラスが最初から採用されたのも２式戦からで、風防正面には３０ｍｍの防弾ガラスが装着されている。
発動機
２式戦に採用されたＪｕｍｏ２１１のライセンス生産版、彗星発動機はＤＢ６０１のライセンス生産版の熱田と共に日本空軍の次世代主力戦闘機の発動機としてドイツから全面的な技術導入が行われた。
しかし、両者がたどった運命は実に対称的である。三菱が担当したＪｕｍｏ２１１が生産を拡大してもその性能を劣化させることがなかったのに対して、液冷エンジンの生産について深い経験をもつはずの川崎のＤＢ６０１は生産拡大にしたがって動作不良が多発し、歩どまりも劣悪となり、最後は生産が打ち切りとなっている。
その理由は複数考えられるが、三菱と川崎の液冷発動機に関する経験の差が明暗を分けたと考えられた。三菱は過去にイスパノスイザ系の液冷エンジンの生産を行っていたことがあるが、社内の方針からいったんは液冷発動機から離れていた。そこへ再び液冷発動機の生産、開発の話が空軍から持ち込まれたので、三菱は技術的な空白を抱えることになっていた。
そこで、Ｊｕｍｏ２１１のライセンス生産に当たってはドイツからの全面的な技術導入を図り、工作機械から生産ラインまで一式をドイツから丸ごと輸入するという徹底した処置をとった。そこで働く工員もいっしょに連れてくるという徹底した処置である。こうした処置が行えるのは三菱財閥という巨大なバックボーンがあればこそであり、資本力のない川崎には無理な話だった。
三菱はドイツから輸入したラインで十分に経験を積んでから国産工作機械でも十分にＪｕｍｏ２１１の生産が可能であることを確かめていたので、シベリア戦役勃発で米国の対日経済制裁（１９４１年７月〜）が発動し、アメリカから工作機械の輸入が途絶えても十分に生産拡大することができたのである。
それに対して、川崎のアプローチは最初から国産化ありきであり、なまじ液冷エンジンの生産について経験を積んでいたことから、ドイツからの技術輸入についても表面的なものにとどまっている。ダイムラーベンツから派遣された技師が川崎の技師、工員の態度に悪さにあきれ返って帰国してしまったが、なまじ経験がある分だけ人から教えを請うことに抵抗があり、基礎的なレベルから学びなおした三菱に対して川崎はそうした地味な積み重ねを軽んじていた節があり、生産拡大にしたがってメッキがはがれていったと言うことができるだろう。
もちろん、ＤＢ６０１が最初から精緻なメカニズムを多用し、Ｊｕｍｏ２１１に比して格段に製造が難しいという点も忘れることはできない。Ｊｕｍｏ２１１はＤＢ６０１に比して大型で重量あたりの馬力は低い数値になっているが、その分だけ保守的な設計となっており、当時の日本の工作技術でも生産がこなせるぎりぎりのラインにあたったといえるだろう。
しかし、それでもフルカン継手による２段式過給器や燃料噴射ポンプ等、当時に日本においては難物とされる隘路は存在したが、自力で勝る三菱は見事に国産化に成功している。
その他、技術的な特徴
１００式戦では操縦索に鋼管ロッドが使われたが、２式戦では一般的なピアノ線に戻されている。しかし、操縦索を伸び易いものにし、高速飛行時に操縦桿を大きく動かしても、舵面が受ける風の抵抗が大きいため操縦索が引っ張られて伸び、結果的に適正な舵角を自動的に取れるようにしている。効能は中島飛行機の鋼管ロッドと同じであるが、中島の鋼管ロッドは操縦感覚が重く、パイロットからの評判があまりよくなかった。そこに目をつけた三菱は失敗に終わった１２試戦で使う予定だったものを２式戦に移植して、あらゆる速度域で自由自在に機体を操ることを可能としている。操縦感覚は軽めに設定されており、９６式艦戦並とパイロットから絶賛された。操縦性能は非常に素直で、未熟なパイロットでも容易に操縦ができることはパイロットの大量養成を進めていた空軍にとっても悪い話ではなかったが、あまりにも軽いので荷重制限を超える操作をしてしまうパイロットが多数に上り、機体が破損する事故が多発したために、後に操縦感覚を若干重くしている。
また、２式戦は生産性や整備性に注意を払った最初の戦闘機である。工数削減や主翼の内翼に厚板構造を用いる等、１００式戦よりも大型であるにもかかわらず生産性は１００式戦よりも高く、整備用のハッチ、パネルも合理的な配置になるよう配慮されている。
試験飛行、実戦配備
試験飛行はおおむね順調であり、練習機なみの操縦性能や翼面荷重の低さから伝統的な格闘戦にも対応できる戦闘機としてパイロットから絶賛された。しかし、ファストバックの操縦席後部は後方視界が悪く、その点だけが難点とされた。液冷エンジンであるため、地上での前方視界はないに等しいが、液冷戦闘機の宿命として妥協されている。
なお、非武装状態で燃料を限界まで抜いて、機体表面を研磨した速度記録機は高度５０００ｍでの最高速度は６７０ｋｍ／ｈをマークして関係者を狂喜させた。武装し、燃料を満載した状態でも同じ高度で６１０ｋｍ／ｈを記録し、偵察機を除けば採用当時日本最速度の戦闘機となった。
試験飛行は第二次世界大戦勃発から急ピッチで進められ、多数の増加試作機を製造された。その増加試作機をかき集めて編成された第４７戦闘大隊がシベリア戦役の開戦緒戦の奇襲攻撃に参加し、多数のソ連空軍機を地上撃破した。さらに開戦から１週間後にはＩ−１６との空中戦で４機を瞬く間に撃墜するなど、空軍当局が予想もしていなかった大活躍となった。
但し、実戦テストで浮き彫りになった問題も少なくなく、その改修に３ヶ月を要するなど、全く完全無欠というわけにはいかなかった。
しかし、４７戦闘大隊がもたらした実戦データは非常に有益であり、４７戦闘大隊がまとめた戦闘詳報や整備部隊がまとめた日次・月次整備記録はそのままコピーされ全ての戦闘機部隊に戦闘教本や整備教本として配布されるほどだった。特に４７戦闘大隊の整備部隊がまとめた整備記録は非常に秀逸なもので、イラストを多様し、内容は簡潔平易な言葉でまとめられ、「どんな馬鹿でもＪｕｍｏ２１１が整備できる」ことを目標に編纂された整備記録は整備マニュアルの白眉として名高いものである。
改良・派生型
昭和１７年８月に２式戦闘機Ｉ型として採用された２式戦は昭和１８年にはすぐに改良モデルの�況燭�完成した。�況燭硫�良点は武装の２０ｍｍ機関砲をドラム給弾からベルト給弾に変更している点で、ドラム弾倉がなくなった分だけ機首の出っ張りがなくなっている。また、エンジンを�儀燭裡隠横毅闇藁呂�ら１５００馬力に引き上げられており、最高速力も６１０ｋｍ／ｈから６３０ｋｍ／ｈまで引き上げられている。エンジンの改良は主に過給器にあり、８７オクタン前提の過給圧を９２オクタン燃料前提に変更することで過給圧を高めて馬力向上を果たしている。しかし、燃料タンクは増えていないので航続距離は減少している。シベリア戦役末期に実戦投入された�祁燭離┘鵐献鵑惑確舛鬚修譴泙任裡坑殴�クタンから９７オクタンに切り替え、それを前提として過給圧をさらに引き上げて馬力を上げた彗星エンジンの最終生産型である。燃料タンクの改良はなされていないので、さらに航続距離は短く（�儀燭裡沓亜鵝砲砲覆辰討い襪發里痢■隠沓娃闇藁呂旅盻侘呂鮗�け止める３．６ｍの大直径プロペラの採用と胴体設計のリファイン、さらに主翼を切り詰めたことで最高速度は６６０ｋｍ／ｈに達しており、太平洋戦役における日本軍戦闘機部隊の数的主力となっている。なお、自動消火装置の装備が施されたのは�祁燭�らだった。
戦歴
既に述べたように４７戦闘大隊における増加試作機のシベリア戦役参加が最初の実戦となった。以後、量産配備が進められた�儀燭禄膽．轡戰螢∪鐇�に送り込まれた。
２式戦のライバルは開戦初期の奇襲攻撃から立ち直り、Ｍｉｇ−３やＬａ−５を配備した再建途上のソ連空軍だった。１００式戦よりも高速なソ連製高速戦闘機を補足することができたのは２式戦だけであり、高速の２式戦の配備は前線から歓呼の声を以って向かえられた。また、落下タンクを併用した場合、１０００ｋｌの燃料搭載量を誇る２式戦は１００式戦よりもさらに航続距離が長く、それを利用したアウトレンジ作戦、複数の前線基地に分散配置された戦力の集中が容易で、ソ連空軍は２式戦によってずたずたにされていった。
２式戦は１００式戦に比べて低翼面荷重であり、伝統的な格闘戦を好んだベテランパイロットからの評価は高く、２式戦を相手にして格闘戦を挑むことはソ連空軍パイロットにとって死を意味していた。
また、劣悪な前線飛行場において２式戦の短い頑健な主脚と降着装置は遺憾なく威力を発揮し、１００式戦が次々と脚を折って飛行不能になる泥濘の春を余裕でクリアしている。経験の浅いパイロットでも操縦が容易で、荒っぽい着陸でも受けいれる２式戦は拡大期にあった帝国空軍にとってなくてはならない機材となっていた。
川崎で開発中だった１５試作戦闘機が期待したほどの性能でないことが判明してからは２式戦の改良に資源と資金が集中され、�況拭↓祁燭�順次実戦投入された。
操縦性は９６式艦戦以来の軽いものを採用し、格闘戦における小回りと高速戦闘におけるキビキビとした機動、舵の効きの良さをある程度まで両立した２式戦のパイロットからの評価は高い。
なお、２式戦の経験した最大の激戦は米軍の沖縄侵攻作戦アイスバーグに伴う空母機動部隊の襲来だった。
シベリア戦役においては陸戦兵器と航空機の生産が優先され、高価な艦艇の建造は後回しにされたことで、第二次ロンドン条約によって主力艦、補助艦を減らしていた帝国海軍は第二次世界大戦勃発後に両洋艦隊法を成立させ、大艦隊を建造していた米海軍に対して１９４４年の段階で戦艦だけで３倍の戦力差をつけらており、艦隊型空母では４倍という大差がついており、総合的な戦力差は１０倍という全く対抗不可能な状態に追い込まれていた。
ソ連崩壊後の米国の露骨な戦争準備に対して、大本営は内南洋の放棄した上で戦力を温存し、将来の決戦場を沖縄近海に定めて、ただ一度の決戦を挑んで米艦隊を撃滅し、講和に持ち込むという戦略を立てて米国の参戦を迎えた。
そして、日本の予想は完全に的中し、マーシャル諸島、トラック環礁、マリアナ諸島に襲来した米太平洋艦隊は連合艦隊が迎撃に現れないことをいぶかしみながら、予定どおりに日本の海上封鎖を完全なものとするために沖縄に侵攻してきた。
無線傍受とフィリピンから発進した上陸船団を発見した伊号潜水艦の報告から沖縄上陸を確信した陸海空軍は最高警戒体制に移行した。上陸地点の制空権確保のために襲来した米軍空母機動部隊の激しい空襲を空中退避と掩体壕によってやりすごしていた帝国空軍は静かに反撃の時を待っていた。
日本軍が待っていたのは、米軍が上陸開始し、その上陸部隊の援護のために米空母機動部隊が身動きできなくなる一瞬だった。上陸部隊の支援のために逃げることができなくなった空母機動部隊に沖縄と九州南部の布陣した全航空戦力と帝国海軍の全力をぶつけるのである。
反撃作戦は練りに練られたもので、水際防御を放棄し、米軍の上陸を確実にしたうえで陸軍の砲兵旅団と戦車師団の全力反撃から始まった。上陸部隊からの矢のような催促に屈した米艦隊から近接航空支援のために航空戦力が引きずりだされた。米艦隊の作戦参謀はこうした航空戦力の抽出が危険であることを説いたが、上陸部隊を見捨てるという選択肢がない以上、近接航空支援は継続されなければならなかった。
さらにほぼ同じタイミングで、空母４隻、戦艦６隻を基幹とした連合艦隊、その全力を潜水艦が発見。すぐさま待機していた攻撃隊に発進命令が下り、３００機に及ぶ攻撃隊が発進した。
そして、米艦隊の直援戦闘機が危険なまでに減少した、その一瞬の隙をつく形で４００機に及ぶ空軍の戦爆連合が米艦隊に殺到した。
その、いずれの戦闘においても２式戦は戦闘の主役を務めている。
２式戦闘機は第二次世界大戦において用いられた帝国空軍の戦闘機で、紀元２６０２年（１９４２年）制式採用により２式戦闘機と称した。製造、開発は三菱である。羅刹は愛称である。軍が認めた正式なものではなく、新聞社が読者応募企画の一環として募集したものが軍に逆輸入されて広まったものである。現場のパイロットは単純に「にしきせん」、「にしき」、「二号さん」などと呼んでいた。愛称は殆ど用いられていない。
なお、帝国空軍は以後配備される軍用機の全てに愛称を一般公募する方針を定め、２式戦以後に制式化された機には何らかの愛称が正式に付与されることになった。但し、その愛称をパイロット達が常用しているかどうかは別の問題である。
開発までの経緯
１９３９年に生起したノモンハン事件は帝国空軍に衝撃を起こした。帝国空軍はソ連空軍との戦闘に敗北し、ノモンハン上空の制空権を喪失したのである。
当初こそ９６式艦戦（その空軍版）は圧倒的な格闘性能でソ連空軍のＩ−１６を一蹴したものの、ソ連側が格闘戦を避けて一撃離脱に徹するようになると戦況は一変し、絶え間なく増援を送り出して消耗戦を仕掛けるソ連空軍に帝国空軍は押され、戦闘機部隊は殆どが壊滅状態に追い込まれたのだった。
２０ｍｍ機関砲を備え、強固な防弾鋼板を備えるようになったＩ−１６は９６式艦戦の７．７ｍｍ機銃では撃墜不可能で、パイロットへの狙撃だけが唯一の対抗手段という有様だった。しかし、それさえも一撃離脱に徹する高速のＩ−１６を相手に仕掛けるのは至難の技なのはいうまでもない。また、ソ連側の無限に湧き出る増援部隊に対して帝国空軍は殆ど増援を送ることができず、練度で大差をつけているはずのベテランパイロットは疲労で倒れ、次々と討ち取られていったのである。こうした事態に対応するため、帝国空軍は大規模な編成替えと部隊定数を倍にする等、継戦能力を高める様々な改革が行われることになった。
帝国空軍に大変革を強要したノモンハンショックは開発中の１２試作戦闘機（後の１００式戦）の開発にも影響を及ぼし、軽戦、重戦論争に最終的な決着を付けることになり、１００式戦は重戦闘機として完成させることになる。
しかし、１００式戦はノモンハンショックの戦訓を完全に取り込んでいるとはいえず、ノモンハン事件の戦訓を完全に取りいれたのは１４試作戦闘機、２式戦闘機からである。
ノモンハンショックが帝国空軍にもたらした変革は消耗戦に備えた予備パイロットの大量養成やパイロットの疲労軽減のための部隊のローテンション配置の徹底など多岐にわたるが、戦闘機設計においては「高速、重武装、重防御」の３点が以後の戦闘機開発に徹底されるようになった。
１４試戦は１００式戦の正式な後継機（川崎の１５試作戦闘機が失敗した場合の保険）として三菱の一社特命入札で発注されたが、これは中島飛行機が１００式戦の生産や改修で精一杯だったためであることを念のために付しておく。
設計
帝国空軍航空本部が示した性能要求は「高速・重武装・重防御」という３点で説明され、その要求仕様は殆どが概念的なもので、１２試戦の時と打って変わって非常に抽象的なものだった。
これは１００式戦の開発であまりにも具体的で詳細な要求仕様をまとめたことが却って開発を混乱させたことへの反省だった。以後、帝国空軍の要求仕様は「概念を以って良しとすべし」という言葉に要約されるように、最低限度のアウトラインを示す以外は運用の概念を提示するだけとなる。また、これまでの指導や、指示の乱発もなくなり、メーカーはそれまでとは比較にならない自由な環境の中で開発を行うことができるようになったのである。
もっとも、こうした軍の柔軟姿勢は１００式戦の高性能から暫くはその改良型で制空戦闘は十分に対応できるという楽観（楽天の間違いとしか思えない）から来るものであり、１４試作戦闘機はあまり期待されたものではなかった。１４試戦は１００式戦の補助戦力程度にしか考えられていなかったのである。
しかし、こうしたプレッシャーの少ない環境は、１２試戦開発中にノイローゼで倒れたＨ設計主任にとっては幸いなことだったといえるだろう。１００式戦が長男であるとすれば、１４試作戦闘機は次男坊のようなものだった。家長制度の残る当時の日本において長男へのプレッシャーは現代以上に強いものだったが、その反対に次男へのプレッシャーはないも同然だった。日陰ものであることを定められているがゆえに、２式戦はメーカーの自由な創意工夫が生かされた。
Ｈ設計主任を中心とする設計チームは最初に取り掛かったのは発動機の選定だったが、これはスムーズにことが運んだ。
帝国空軍はドイツ空軍をモデルにその戦備を整えていたが、その流れの中で戦闘機のエンジンは将来的に全て液冷化するという方針を立てていた。前面投影面積を最小限にできるスマートな液冷エンジンこそ戦闘機の発動機にふさわしく、空冷エンジンは爆撃機用と考えていたのである。
１２試戦はその方針が定められる前の設計であったために空冷の栄１０００馬力が用いられたが、１４試戦の設計、開発には高速発揮が可能な液冷エンジンが用意されていた。
ドイツからライセンス製造権を取得したＤＢ６０１とＪｕｍｏ２１１がそれにあたり、それぞれ川崎と三菱で量産準備が進められていた。
そうした経緯があり、三菱で量産準備進むＪｕｍｏ２１１が１４試作戦闘機の発動機として採用されることは自然の流れだったが、Ｈ設計主任はより小型軽量のＤＢ６０１が使いたかったのはいうまでもない。しかし、空軍当局は１００式戦を継ぐ主力戦闘機は液冷エンジン機の製造に精通している川崎の新型機だと考えており、２式戦にＤＢ６０１がまわることはありえなかった。
発動機がＪｕｍｏ２１１（そのライセンス生産版「彗星」）に決定するとその後の設計は比較的スムーズに進んだ。
Ｈ設計主任は空軍の研究機関が発表していた最新の航空力学理論を用いて、機体を紡錘形に整えた。液冷エンジンを用いたことで前面投影面積は小さく、機首から機尾までの機体下面のラインは一つの曲線にまとめられて優美というほかなかった。
紡錘体の胴体で最大の断面積（機体の４０％付近）に置かれた操縦席は、液冷エンジン機の常として指摘される操縦席の狭さとは無縁で適度な広さがあり、風防は平面ガラスで構成され、その背後からすぐにファストバック形になだらかに整形された胴体が機尾までつながって機体下面のラインとクロスして細い紡錘体を構成していた。さすがに液冷エンジンの常として地上での前方視界は悪いが、空中での前方視界は倒立Ｖ型エンジンによって非常に優れていた。
２式戦で揉めたのは主翼の設計だった。というのも、１００式戦が実戦部隊において着陸事故が多発していたことから、１４試戦では離着陸性能の改善、ひいては離着陸速度の低減を求めていたのである。１００式戦は主翼の小型化、薄翼化が災いして、離着陸速度が速く、高揚力装置を用いてさえ、着陸事故が多発していた。また、重量軽減に気を使うあまりに主脚が強度不足であり、ブレーキディスクの性能も低く、事故を増やす原因になっていた。
主脚強度の改善とブレーキディスクの強化は�況燭納損椶気譟∋�故は減ったものの、パイロットの大量養成を控えていた空軍はレベルの低いパイロットでも確実に離着陸がこなせるだけの低速飛行性能を２式戦に求めていた。
低速飛行性能を改善するのに一番早い方法は主翼を大型化することだった。大きな主翼は低速でも機体を空中に支えられるだけの揚力を発揮する。小さくすれば、その分だけ揚力は減る。それを補うために高速で飛ぶ必要があり、離着陸速度が上がるという仕組みである。
大きな主翼は空気抵抗が大きく、高速飛行には不利になるので高速性能を重視するならば、どこかで妥協しなければならなかった。
Ｈ設計主任は悩んだ末に、翼型を逆ガル式とした。逆ガル式の最大の利点は主翼と地面とのクリアランスが短くなることである。このため主脚は日本戦闘機の中でもっとも短いものになっている。固定脚の９６式艦戦でも一度だけ試したことがあるので設計そのものは問題なかった。降着装置も強固なものとするためにできるだけ単純化し、空気抵抗の増加をしのんで単純な後方引き込み式として、翼内収納ができない部分（タイヤ）はその分だけ主翼下面にバルジを設けて収納できるようにした。ブレーキディスクも重量増加を忍んで強力なものを採用している。
空気抵抗削減のために主翼の内翼部分にはＬＢ翼と呼ばれる層流翼形を採用し、逆ガルで折れ曲がった先の外翼はぎりぎりまで薄翼化を図っている。また、この部分は軽量化のために布張りにされている。しかし、緻密な強度計算によって時速８５０ｋｍの急降下に耐えるだけの強度が与えられていた。主翼面積は拡大され、翼面荷重は１７０ｋｇ／平方ｍに低減されており低速飛行性能は改善され、離着陸速度は時速１３６ｋｍにまで抑えられた。フラップはファウラー式だった。
内翼部分の前縁に開口部を設けてそこにラジエーターとオイルクーラーを配置しているが、これはアメリカのＦ４ＵやＦ８Ｆと同じ発想によるものである。２式戦で初めて採用され、４式戦も同様の配置を採用した。そのために三菱はパテント侵害であるとして九州飛行機を訴え、訴訟問題に発展している。
ラジエーターとオイルクーラーの後ろには燃料タンクが配置されているが、これは最初から防漏タンクとなっている。これにエンジンと操縦席の間にある前部胴体燃料タンクと操縦席下面、操縦席後部の補助燃料タンクを合わせると６００ｋｌの燃料搭載が可能だった。そして、主翼面積の拡大によってさらに翼内タンクが拡大されたので最終的には７００ｋｌの搭載が可能になった。
武装
１００式戦に採用された９９式２０ｍｍ機関砲２門を機首上面に搭載している。高射機関砲を原型とするこの２０ｍｍ機関砲は長砲身、高初速であったがそのために主翼内搭載が殆ど不可能であるという欠点があり（砲身が長く、反動が大きい）、胴体以外に装備することはできなかった。
なお、２０ｍｍ機関砲の搭載により重心が前に偏ったため、操縦席後部の防弾鋼板を１３ｍｍから１５ｍｍに変更し、機体後部の補助燃料タンクを増積することで重心の補正と防御強化、航続能力の延伸が行われている。
１００式戦と比べて火力向上はないものの、シベリア戦役で２式戦が対戦したＩｌ−２やＰｅ−２などの戦術攻撃機、爆撃機ならば２０ｍｍ機関砲２門で十分であり、対戦闘機戦闘においても必要にして十分な火力であったと言える。
ただし、元が高射機関砲であるために発射速度は早いとはいえず、プロペラ同調装置を介するために元から遅い発射速度がさらに遅くなっているのでパイロット達は一撃必殺の狙撃銃のように捉えていた。
なお、当初はドラム弾倉式の１００発だったが、後にベルト給弾式に改め、２００発までに装弾数を増やしている。
防御
２式戦闘機の防御は１００式戦よりもさらに洗練、強化されており、操縦席後部の防弾鋼板は１５ｍｍもあり、１３ｍｍクラスの機銃なら正撃にも対抗できた。また防弾鋼板そのものを機体構造に組み込んで機体強度を上げるなど巧妙な設計となっている。同じ理由によってこの防弾鋼板はパイロットが軽量化のために取り外すことができない。
機体の各部の燃料タンクは胴体前後のタンクは防弾、防漏式となっており、翼内タンクのみは防漏式になっている。また、後期型では自動消火装置が装備され燃えにくい戦闘機になっている。
防弾ガラスが最初から採用されたのも２式戦からで、風防正面には３０ｍｍの防弾ガラスが装着されている。
発動機
２式戦に採用されたＪｕｍｏ２１１のライセンス生産版、彗星発動機はＤＢ６０１のライセンス生産版の熱田と共に日本空軍の次世代主力戦闘機の発動機としてドイツから全面的な技術導入が行われた。
しかし、両者がたどった運命は実に対称的である。三菱が担当したＪｕｍｏ２１１が生産を拡大してもその性能を劣化させることがなかったのに対して、液冷エンジンの生産について深い経験をもつはずの川崎のＤＢ６０１は生産拡大にしたがって動作不良が多発し、歩どまりも劣悪となり、最後は生産が打ち切りとなっている。
その理由は複数考えられるが、三菱と川崎の液冷発動機に関する経験の差が明暗を分けたと考えられた。三菱は過去にイスパノスイザ系の液冷エンジンの生産を行っていたことがあるが、社内の方針からいったんは液冷発動機から離れていた。そこへ再び液冷発動機の生産、開発の話が空軍から持ち込まれたので、三菱は技術的な空白を抱えることになっていた。
そこで、Ｊｕｍｏ２１１のライセンス生産に当たってはドイツからの全面的な技術導入を図り、工作機械から生産ラインまで一式をドイツから丸ごと輸入するという徹底した処置をとった。そこで働く工員もいっしょに連れてくるという徹底した処置である。こうした処置が行えるのは三菱財閥という巨大なバックボーンがあればこそであり、資本力のない川崎には無理な話だった。
三菱はドイツから輸入したラインで十分に経験を積んでから国産工作機械でも十分にＪｕｍｏ２１１の生産が可能であることを確かめていたので、シベリア戦役勃発で米国の対日経済制裁（１９４１年７月〜）が発動し、アメリカから工作機械の輸入が途絶えても十分に生産拡大することができたのである。
それに対して、川崎のアプローチは最初から国産化ありきであり、なまじ液冷エンジンの生産について経験を積んでいたことから、ドイツからの技術輸入についても表面的なものにとどまっている。ダイムラーベンツから派遣された技師が川崎の技師、工員の態度に悪さにあきれ返って帰国してしまったが、なまじ経験がある分だけ人から教えを請うことに抵抗があり、基礎的なレベルから学びなおした三菱に対して川崎はそうした地味な積み重ねを軽んじていた節があり、生産拡大にしたがってメッキがはがれていったと言うことができるだろう。
もちろん、ＤＢ６０１が最初から精緻なメカニズムを多用し、Ｊｕｍｏ２１１に比して格段に製造が難しいという点も忘れることはできない。Ｊｕｍｏ２１１はＤＢ６０１に比して大型で重量あたりの馬力は低い数値になっているが、その分だけ保守的な設計となっており、当時の日本の工作技術でも生産がこなせるぎりぎりのラインにあたったといえるだろう。
しかし、それでもフルカン継手による２段式過給器や燃料噴射ポンプ等、当時に日本においては難物とされる隘路は存在したが、自力で勝る三菱は見事に国産化に成功している。
その他、技術的な特徴
１００式戦では操縦索に鋼管ロッドが使われたが、２式戦では一般的なピアノ線に戻されている。しかし、操縦索を伸び易いものにし、高速飛行時に操縦桿を大きく動かしても、舵面が受ける風の抵抗が大きいため操縦索が引っ張られて伸び、結果的に適正な舵角を自動的に取れるようにしている。効能は中島飛行機の鋼管ロッドと同じであるが、中島の鋼管ロッドは操縦感覚が重く、パイロットからの評判があまりよくなかった。そこに目をつけた三菱は失敗に終わった１２試戦で使う予定だったものを２式戦に移植して、あらゆる速度域で自由自在に機体を操ることを可能としている。操縦感覚は軽めに設定されており、９６式艦戦並とパイロットから絶賛された。操縦性能は非常に素直で、未熟なパイロットでも容易に操縦ができることはパイロットの大量養成を進めていた空軍にとっても悪い話ではなかったが、あまりにも軽いので荷重制限を超える操作をしてしまうパイロットが多数に上り、機体が破損する事故が多発したために、後に操縦感覚を若干重くしている。
また、２式戦は生産性や整備性に注意を払った最初の戦闘機である。工数削減や主翼の内翼に厚板構造を用いる等、１００式戦よりも大型であるにもかかわらず生産性は１００式戦よりも高く、整備用のハッチ、パネルも合理的な配置になるよう配慮されている。
試験飛行、実戦配備
試験飛行はおおむね順調であり、練習機なみの操縦性能や翼面荷重の低さから伝統的な格闘戦にも対応できる戦闘機としてパイロットから絶賛された。しかし、ファストバックの操縦席後部は後方視界が悪く、その点だけが難点とされた。液冷エンジンであるため、地上での前方視界はないに等しいが、液冷戦闘機の宿命として妥協されている。
なお、非武装状態で燃料を限界まで抜いて、機体表面を研磨した速度記録機は高度５０００ｍでの最高速度は６７０ｋｍ／ｈをマークして関係者を狂喜させた。武装し、燃料を満載した状態でも同じ高度で６１０ｋｍ／ｈを記録し、偵察機を除けば採用当時日本最速度の戦闘機となった。
試験飛行は第二次世界大戦勃発から急ピッチで進められ、多数の増加試作機を製造された。その増加試作機をかき集めて編成された第４７戦闘大隊がシベリア戦役の開戦緒戦の奇襲攻撃に参加し、多数のソ連空軍機を地上撃破した。さらに開戦から１週間後にはＩ−１６との空中戦で４機を瞬く間に撃墜するなど、空軍当局が予想もしていなかった大活躍となった。
但し、実戦テストで浮き彫りになった問題も少なくなく、その改修に３ヶ月を要するなど、全く完全無欠というわけにはいかなかった。
しかし、４７戦闘大隊がもたらした実戦データは非常に有益であり、４７戦闘大隊がまとめた戦闘詳報や整備部隊がまとめた日次・月次整備記録はそのままコピーされ全ての戦闘機部隊に戦闘教本や整備教本として配布されるほどだった。特に４７戦闘大隊の整備部隊がまとめた整備記録は非常に秀逸なもので、イラストを多様し、内容は簡潔平易な言葉でまとめられ、「どんな馬鹿でもＪｕｍｏ２１１が整備できる」ことを目標に編纂された整備記録は整備マニュアルの白眉として名高いものである。
改良・派生型
昭和１７年８月に２式戦闘機Ｉ型として採用された２式戦は昭和１８年にはすぐに改良モデルの�況燭�完成した。�況燭硫�良点は武装の２０ｍｍ機関砲をドラム給弾からベルト給弾に変更している点で、ドラム弾倉がなくなった分だけ機首の出っ張りがなくなっている。また、エンジンを�儀燭裡隠横毅闇藁呂�ら１５００馬力に引き上げられており、最高速力も６１０ｋｍ／ｈから６３０ｋｍ／ｈまで引き上げられている。エンジンの改良は主に過給器にあり、８７オクタン前提の過給圧を９２オクタン燃料前提に変更することで過給圧を高めて馬力向上を果たしている。しかし、燃料タンクは増えていないので航続距離は減少している。シベリア戦役末期に実戦投入された�祁燭離┘鵐献鵑惑確舛鬚修譴泙任裡坑殴�クタンから９７オクタンに切り替え、それを前提として過給圧をさらに引き上げて馬力を上げた彗星エンジンの最終生産型である。燃料タンクの改良はなされていないので、さらに航続距離は短く（�儀燭裡沓亜鵝砲砲覆辰討い襪發里痢■隠沓娃闇藁呂旅盻侘呂鮗�け止める３．６ｍの大直径プロペラの採用と胴体設計のリファイン、さらに主翼を切り詰めたことで最高速度は６６０ｋｍ／ｈに達しており、太平洋戦役における日本軍戦闘機部隊の数的主力となっている。なお、自動消火装置の装備が施されたのは�祁燭�らだった。
戦歴
既に述べたように４７戦闘大隊における増加試作機のシベリア戦役参加が最初の実戦となった。以後、量産配備が進められた�儀燭禄膽．轡戰螢∪鐇�に送り込まれた。
２式戦のライバルは開戦初期の奇襲攻撃から立ち直り、Ｍｉｇ−３やＬａ−５を配備した再建途上のソ連空軍だった。１００式戦よりも高速なソ連製高速戦闘機を補足することができたのは２式戦だけであり、高速の２式戦の配備は前線から歓呼の声を以って向かえられた。また、落下タンクを併用した場合、１０００ｋｌの燃料搭載量を誇る２式戦は１００式戦よりもさらに航続距離が長く、それを利用したアウトレンジ作戦、複数の前線基地に分散配置された戦力の集中が容易で、ソ連空軍は２式戦によってずたずたにされていった。
２式戦は１００式戦に比べて低翼面荷重であり、伝統的な格闘戦を好んだベテランパイロットからの評価は高く、２式戦を相手にして格闘戦を挑むことはソ連空軍パイロットにとって死を意味していた。
また、劣悪な前線飛行場において２式戦の短い頑健な主脚と降着装置は遺憾なく威力を発揮し、１００式戦が次々と脚を折って飛行不能になる泥濘の春を余裕でクリアしている。経験の浅いパイロットでも操縦が容易で、荒っぽい着陸でも受けいれる２式戦は拡大期にあった帝国空軍にとってなくてはならない機材となっていた。
川崎で開発中だった１５試作戦闘機が期待したほどの性能でないことが判明してからは２式戦の改良に資源と資金が集中され、�況拭↓祁燭�順次実戦投入された。
操縦性は９６式艦戦以来の軽いものを採用し、格闘戦における小回りと高速戦闘におけるキビキビとした機動、舵の効きの良さをある程度まで両立した２式戦のパイロットからの評価は高い。
なお、２式戦の経験した最大の激戦は米軍の沖縄侵攻作戦アイスバーグに伴う空母機動部隊の襲来だった。
シベリア戦役においては陸戦兵器と航空機の生産が優先され、高価な艦艇の建造は後回しにされたことで、第二次ロンドン条約によって主力艦、補助艦を減らしていた帝国海軍は第二次世界大戦勃発後に両洋艦隊法を成立させ、大艦隊を建造していた米海軍に対して１９４４年の段階で戦艦だけで３倍の戦力差をつけらており、艦隊型空母では４倍という大差がついており、総合的な戦力差は１０倍という全く対抗不可能な状態に追い込まれていた。
ソ連崩壊後の米国の露骨な戦争準備に対して、大本営は内南洋の放棄した上で戦力を温存し、将来の決戦場を沖縄近海に定めて、ただ一度の決戦を挑んで米艦隊を撃滅し、講和に持ち込むという戦略を立てて米国の参戦を迎えた。
そして、日本の予想は完全に的中し、マーシャル諸島、トラック環礁、マリアナ諸島に襲来した米太平洋艦隊は連合艦隊が迎撃に現れないことをいぶかしみながら、予定どおりに日本の海上封鎖を完全なものとするために沖縄に侵攻してきた。
無線傍受とフィリピンから発進した上陸船団を発見した伊号潜水艦の報告から沖縄上陸を確信した陸海空軍は最高警戒体制に移行した。上陸地点の制空権確保のために襲来した米軍空母機動部隊の激しい空襲を空中退避と掩体壕によってやりすごしていた帝国空軍は静かに反撃の時を待っていた。
日本軍が待っていたのは、米軍が上陸開始し、その上陸部隊の援護のために米空母機動部隊が身動きできなくなる一瞬だった。上陸部隊の支援のために逃げることができなくなった空母機動部隊に沖縄と九州南部の布陣した全航空戦力と帝国海軍の全力をぶつけるのである。
反撃作戦は練りに練られたもので、水際防御を放棄し、米軍の上陸を確実にしたうえで陸軍の砲兵旅団と戦車師団の全力反撃から始まった。上陸部隊からの矢のような催促に屈した米艦隊から近接航空支援のために航空戦力が引きずりだされた。米艦隊の作戦参謀はこうした航空戦力の抽出が危険であることを説いたが、上陸部隊を見捨てるという選択肢がない以上、近接航空支援は継続されなければならなかった。
さらにほぼ同じタイミングで、空母４隻、戦艦６隻を基幹とした連合艦隊、その全力を潜水艦が発見。すぐさま待機していた攻撃隊に発進命令が下り、３００機に及ぶ攻撃隊が発進した。
そして、米艦隊の直援戦闘機が危険なまでに減少した、その一瞬の隙をつく形で４００機に及ぶ空軍の戦爆連合が米艦隊に殺到した。
その、いずれの戦闘においても２式戦は戦闘の主役を務めている。
2007年11月04日(日) 17:31:51 Modified by suzukitomio2001