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声優業界の養成所ビジネスがもたらす問題
松田咲實氏とアーツ系列会社について
松田咲實氏は、元芸能事務所マネージャーであり、(逮捕以前の段階では)声優業界の最大手の一つであるアーツビジョン、そして同じビル内に施設を構える関連企業のアイムエンタープライズと日本ナレーション演技研究所(以下日ナレ)、それぞれの代表取締役である。また、日本芸能マネージメント事業者協会副理事長としての顔も持つ人物だ。アーツビジョン、アイムエンタープライズは声優事務所だが、日ナレは声優を養成するための専門学校、いわゆる養成所である。
以上を踏まえた上で、声優事務所と養成所の問題について見ていく。
本来、声優事務所は儲からない
意外に思われるかもしれないが声優事務所は非常に儲からない。なぜか?
結論からいえば、「声優業界へ流れる資金の少なさ」が、もっとも大きな原因の一つに挙げられる。
第一に、たとえ特殊な声優業界といえども芸能界(テレビ、音楽、その他エンタテイメント産業)というさらに大きな業界の一部であることを忘れてはいけない。テレビに強い音楽事業者協会、通称音事協関連の会社(バーニング、ジャニーズ、吉本など)によって、テレビに露出する仕事はほぼ全て抑えられており、声優事務所にまわってくる仕事はそれらから漏れた儲からない仕事、つまりアニメ(アニメ自体も相当儲からないが…)や映画の吹き替え、ナレーションなどの仕事が多くなるため、結果的にギャラの安い仕事が多くなる。
結果、声優も儲からない
声優事務所にまわってくる仕事のギャラが安いということは、当然そこと契約している声優のギャラも安い。しかもべらぼうに安い。たとえば、ベテランの大御所でアニメ一本数万、新人になれば数千円というのがザラな世界である。声優事務所の儲けも推して知るべしである。声優としての仕事は儲からないないため、若手の大部分は副業やアルバイトで稼いでいるのが現状である。そしてある程度キャリアをつみ、人脈を築いたベテラン声優(や役者)の多くが個人事務所を立てて独立し、声優の養成所を設立することで生徒からの収入を頼りに事務所を運営していくという例が増えている。
事務所経営の切り札である養成所経営
声優業界には大小様々な声優事務所が存在しているのだが、アーツビジョンのような大手はもちろん、先の声優個人が経営する非常に小さな個人事務所でさえほぼ全ての事務所が傘下に養成所を持っているのが現状である。なぜ声優事務所は養成所を持ちたがるのか?
非常に単純である。養成所は儲かるからだ。
「どれくらい儲かるのか??」と問われれば、事務所の売り上げの半分以上が養成所の運営によるものというのも珍しくないからである。逆にいえば、声優を派遣する業務は苦労が多く、手間もかかる割りにあまり儲からないのである。これは既に述べたとおり、声優業界そのものの貧弱さに起因している。
にもかかわらず、昨今の(アイドル)声優ブームによって「声優」という職業に憧れを持つファン自体の数は非常に増えており、それを逆手に取った養成所ビジネスは非常に好調である。この機を逃すまいとする各声優事務所は、このブームに乗って才能ある若手声優を過剰ともいえるほど前面に押し出したイメージ戦略、悪く言えば(アイドル)声優をダシに使うことで、その事務所の養成所に入学する生徒の数を増やすという目論見がある。
(ちなみに養成所最大手はアーツビジョン傘下の「日本ナレーション演技研究所」、青二プロダクション傘下の「青二塾」とされている)
養成所ビジネスの副産物としての過当競争。その果てに…
養成所ビジネスは、声優業界に大きな影響を与えた。それが若手声優同士の過当競争である。
事務所の経営をより大きくするために多数の養成所生徒を抱える一方、その本体である事務所にはそれら全てを声優として採用できるほどの資金的な余裕がない。結果的に、養成所生徒から事務所所属の声優となるためには、生徒同士の超過当競争競争を勝ちあがらなければならない。
例えば日ナレでは「総所属数3500人」を謳われているが、年間に事務所に所属できる研究生は「わずか20人程度」である。ましてや、自立できる収入が得られるのは、その中の1人か2人。声優になれる確率が1%以下、仕事して生業にできるとなるとさらに低いというあまりにも過酷な状況である。
一方で、小さい事務所には確実に仕事をブッキングするほどの力がなく、たとえ養成所からそこの事務所の声優になれても仕事のない役者が多い。
実態を見れば、業界全体では養成所を作る必要もないほど声優は余っているのは明らかである。
事務所を資金的に潤す養成所ビジネスは、若手声優同士の異常ともいえる過当競争を生み出し、またそれを知りながらも声優にあこがれる純朴な少年少女を声優になれるかのように錯覚させ、彼らを当てに事務所の経営を成り立たせているという問題が、例外なくほぼ全ての事務所に存在しているのである。
外から見る限りきわめて問題のあるビジネスモデルとしか思えないのだが、この養成所ビジネスに手を染めていない大手事務所も存在する。大沢事務所は声優業界大手プロダクションの一角でありながら、養成所ビジネスに全く手を染めていない(研究生のレッスン料は無料で、月に1,2度所属タレントの研究会(通称大沢塾)を開いているだけである)。本業である声優のマネージメント料を主な収入源に、事務所の運営を成り立たせている。それは彼らがテレビの「CM」「ナレーション」の仕事に非常に強く、他の事務所に比べ単価収入が大きいからといわれている。
日ナレがひたかくしにする特待生制度の合否問題
実は、今回の事件で表立って報道されていないことがある。それは、松田前社長が少女に持ちかけた合否とは、「日本ナレーション演技研究所特待生オーディション」(養成所の学費免除、アーツビジョンとの契約がかなり高い確率で約束される制度)についての合否であることは疑いようがない。日ナレへの入学自体にはこれといって厳しい審査はない。このオーディションが例年12月頃に二次審査が行われるということも、事件が起きた時期と一致する。
だとすれば、アーツビジョンが日本ナレーション演技研究所のHPで掲載している「日本ナレーション演技研究所は無関係」というのは明らかな誤認であり、警察発表による事件の説明と大きく食い違うことになる。
アーツビジョンがもっとも恐れていることは養成所の経営、果ては事務所の経営が成り立たなくなることであろう。今や養成所経営はアーツ系列会社の運営にかかわる重要な収入源であることに疑いようはない。そこに入学しようとするわずか16歳の少女に特待生をちらつかせて性的な関係を強要したことが明るみになれば、日ナレ生徒の両親の信用を損ない、今後の養成所の経営に悪影響が出ないはずがない。
これは今後の捜査の進展次第だが、この日ナレ側の「無関係である」という声明は、想定される上記のような状況を避けるために、日ナレをいち早くこの事件から隔離するための方便として捉えざるをえないのである。
特待生制度の疑惑はさらに深まる
警察の発表では「余罪がある可能性」と言及されている。これが同上の「日ナレ特待生への性的関係の強要」であるとすれば、それは声優業界を揺るがす大問題である。松田元社長の行為は常習的に行われていたとすれば、過去の特待生の幾人かはそういったいかがわしい行為を強要された可能性も考えられる。かつて特待生制度を受けた生徒の中には、現在のアーツビジョンの看板といえる声優が何人も存在している。
それ以前に、本来若手の有望な声優の卵を発掘するために用いられるべき特待生制度のあり方そのものについても、見直さなければならなくなる。
今後の警察の捜査で明らかになることもあるだろう。
声優ファンとしては、この際業界の膿を全て出し尽くしておいてほしいと願うばかりである。
参考
2008年07月21日(月) 08:39:05 Modified by tasogare100