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【定義】

『摩訶般若波羅蜜多経(大般若経)』の経文を読む(=転読)ことにより、その功徳をもって、世界の平和や参列者の平安などをご祈祷申し上げる法会のこと。曹洞宗では正月(現行『行持軌範』では1月1〜3日まで)の祈祷として行うことも多い。修正会とも呼ばれたが、現行『行持軌範』では「転読大般若」という名前で立項している。

【内容―『大般若経』とは何か?】

『大般若経』は、『摩訶般若波羅蜜多経』が本来の名前で、『西遊記』にも出てくることで有名な三蔵法師?玄奘(602〜664)が、最晩年になってから4年余りの年月をかけて配下の訳経僧たちとともに翻訳した、あらゆる仏典の中で最大規模を誇る経典。字数は約500万字、全部で600巻となる。内容は、大乗仏教の空思想にもとづいた仏陀説法を記録したものであり、同経中、全部で十六会において釈尊が説かれている。また、玄奘三蔵はこの訳出を終えてすぐに亡くなってしまったが、自分の生存中に経典の翻訳が終わったことについて、諸仏や龍天の助けがあったと述べたことから、この経典が国家や民衆を守ってくれると信じられ、「大般若会」の成立となった。

日本では703年に藤原京にあった四大寺に文武天皇(707年崩御)が命じて行わせたようで、その後は寺院のみならず朝廷の宮中にも僧侶が出張して行われた。737年になると、奈良市にある大安寺で毎年行われるようになり、中世に至って全国に広まった。

曹洞宗の「大般若会」は、瑩山紹瑾禅師(1264〜1325)が1324年に編集された『瑩山清規』の中に「大般若経結願疏」が収録されており、その時代には行われていたことが伺える。「結願疏」を見ていくと、当時は「信読(真読に同じ)」をしていたことが分かるため、相当の時間をかけて法会を行っていたはずである。また、広大なる般若の功徳力を捧げる相手としては、『大般若経』に出てくる様々な仏・菩薩などはもちろんのこと、日本中のあらゆる神社の主宰などにも回向しており、その上で、一切の生きとし生けるものの煩悩を焼き、寿命の無限なることを祈り、智慧を得て心安らかに生きることを願う内容となっている。

【内容―読経と功徳】

「大般若会」は、その式の中で『大般若経』600巻を全て読むわけだが、怖ろしく膨大であるため、当然にそれを全て読むのは至難の業である。大安寺では150人の僧侶がこの法会に参加していたようだが、それであれば全ての経文を読んでも(これを「真読」という)、まだ法会に要する時間も常識の範囲内で済む計算になる。しかし、実際のところは、少人数で行われる場合も多く、その時には、略して読む方法(これを「転読」という)が採られた。

転読」の方法は、時代によって変遷があり、当初経典が「巻物」であった時代には、題名と、中間と、末尾のみをめくって読んだ。その後「折本」が出来てくると、左右や前後に経本を振るようにして転読とした(一説には、節を付けて経文を読むことを指すともいう。面山師の見解)。この転読の際に出る風に当たると、一年間は無病息災という。

読経する理由だが、それは我々自身が良い功徳を得るためである。『大般若経』を読むと功徳が得られる理由は、経典の本文に示されている。
常に能く此に於いて甚深なる般若波羅蜜多を、受持し、読誦し、精勤して修学し、理の如く思惟し、書写し、解説し、広く流布せしめれば、我等、常に随って恭敬擁衛し、一切の災いをして横に侵悩せしめず。何を以ての故に、此の善男子・善女人等、即ち是れ菩薩摩訶薩なるが故に。 『大般若経』巻100

この言葉を述べているのは、四天王などを始めとした、諸天という仏法の守護者である。彼らは『大般若経』を、受持し、読誦し、学び、内容を想い、書写し、理解し、他人に説くならば、その人をよく守ると述べているのである。よって、我々はこの「読誦」という修行を、「大般若会」で行うのである。

【「大般若会」差定

殿鐘三会
大衆上殿?
七下鐘導師上殿
普同三拝
浄道場?
献茶湯
・『般若心経』『消災呪』読誦(ここから導師は『理趣分』を用いて供養
・転飜法(『大般若経』転読)
回向
散堂

【準備物―十六善神図】

『大般若会』を行う場合には、本尊の代わりに「十六善神図」と呼ばれる絵図を掛けることになっている。この「十六善神図」だが、様々な書式があるものの、その一例を述べれば、以下の通りである。

本尊−釈迦牟尼世尊
脇侍−普賢菩薩・文殊菩薩
脇侍−法涌菩薩・常啼菩薩
両側−十六善神
下部−深沙大将・玄奘三蔵

なお、『般若守護十六善神王形体』によれば、十六善神とは以下の通り。

提頭頼宅善神  緑青色。口を開き忿怒の相貌を現す。
盧勒叉善神   赤紫色。忿怒の相を現じ唇を閉じた形。
摧伏毒害善神  鬢、聳え立つなり。赤肉色。
増益善神    赤肉色。四臂、容は怒鬼なり。
歓喜善神    緑色。面体、忿怒なり。
除一切障難善神 黄色。瞋怒の相を作す。
抜除罪垢善神  裸形に赤緑色袈裟を被す。
能忍善神    空色。(以上が図の左側に立つ)
吠室羅摩拏善神 青黒色。瞋王の相を現す。
毘盧博叉善神  肉色。微笑の形なり。
離一切怖畏善神 形体は帝釈天の如し。
救護一切善神  青白色。相貌は毘沙門天の如し。
摂伏諸魔善神  髮毛、聳え立つ。黒肉色。
能救諸有善神  白緑色、顏貌は玉相なり。
師子威猛善神  肉色、師子の宝冠を載せる。
勇猛心地善神  甲冑を被す。緑色。(以上が図の右側に立つ)

【「大般若会」『回向文』】

總持は猶妙薬のごとし、能く衆の惑病を療ず、
亦は天の甘露の如し、服する者は常に安楽なり。
仰ぎ冀わくは三宝、俯して照鑑を垂れたまえ。
上来、大般若波羅蜜多経六百軸の金文を転読し、摩訶般若波羅蜜多心経、消災妙吉祥陀羅尼を諷誦す、集むる所の功徳は、
般若会上諸仏菩薩、及び十六善神、一切護法の諸天、当山土地合堂の真宰、威光を増加せる無量の徳海に回向す。
祈る所は、正法興隆、国土昌平、万邦和楽、群生康寧、山門繁栄、檀信帰崇、海衆安穏、諸縁吉祥ならんことを。

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