…こんなところまで1人で探しに来たのか…バカが……。
若くして商会を切り盛りする青年、ヤーコブ=スモールウッドは街道の先に倒れていた少女を見つけて呆れたように口の中で呟いた。
急いで駆け寄ると、少女は荒い息をつきながら意識を失っているようだった。
「おい、リリアナ!死ぬんじゃねえぞ!」
青年は少女の状況を急いで確認する。手にはゼンマイのような形の薬草が握られており、額にはびっしょりと汗が滲んでいる。少女の顔は上気して赤くなっており、手の甲で軽く触れると、かなり熱があるようだった。
「こいつのせいか。ったく、ルーカスのやつ、甘やかしすぎだ。ちゃんと教育くらいしとけってんだ」
少女の右手に握り締められた薬草を見て、青年はここにいない友人への積もる苛立ちを舌に乗せて吐き出す。しかし彼はひとまず目立った外傷がないことを確認すると、両腕で抱え上げると、商会の拠点へと運ぶ準備をする。
少女が腕の中で何か呟いているのが聞こえるが、青年はいまは一刻も早く手当てをすることが先決だと判断し、そのまま急いで拠点に向かった。
そもそも青年には呟きの内容なんて確かめるまでもなく、少女の寂しげな表情を見れば一目瞭然だったのだが。
―――い、リリアナ!死ぬんじゃねえぞ!
容赦のない大声が少女の頭蓋の中に反響し、沈んでいた意識が呼び戻される。
(だ……れ…?るー…く……?帰ってきてくれたの…?)
声の主はしばらく自分のまわりで何事かぶつぶつと呟くと、そのまま少女を抱きかかえる。
(あぁ…、あったかい手…。るーくじゃないや……。)
大好きなひんやりとした感触でないことに少しの期待を裏切られたことによる落胆を覚えながら、少女の意識は再び闇に沈んでいく……。
第一話「そうしつ」
………ゆめをみていた。
壁には蔦がはってて、ふうかしてボロボロ。
だけど…、暖かい光のある、しあわせな夢……。
…料理のために焚かれた火の暖かい色のすぐ横には、冷やこいかんじの、だけど私のだいすきな、水晶みたいな青い目…… なつかしいにおい…。
(あれ………、におい…?)
だけど幸せな時間は永遠には続かない。
水晶の目の人物は立ち上がり、そのまま振り返って、背中を向けて歩き出す。
……まって。待って待ってまって‼
「いかないで、ルー・・・・―――――――‼」
幸せな夢の時間は終わり、目の前の視界が閉じ始める。夢の主は少女が後ろを追いかけることを許さない。
抑えきれない親愛が目から溢れ出す。
―――――ぼんやりと、沈んだ意識が色を持ち始めた。
「…、またこのてんじょう。」
「おっさん!リリアナ起きたかも!」
子供みたいな高い声が、覚醒したての意識を無理やり揺さぶってくる。
(…うぅ、体がおもい。)
どれだけ寝ていたのか、体にうまく力が入らず、首だけ回して声の方を向くと、滲んだ視界の先に石みたいな灰色をしたドラゴンが椅子に座ってドアの外に向かって何事か叫んでいる。手には底の深めなお皿と木製のスプーンを器用に持っており、足元にはガラスのポットから蒸気が出てる。
(…うわわっ、ドラゴン?!…の子供かなぁ。)
「うなされてたな!大丈夫か?」
「リリアナって、私のなまえ…」
頭にもやが掛かって思考が形を結ばない。
「エイジ、商会長と呼べといつも言っているだろう」
「うるせえおっさん!」
「おまえなぁ、それにおれはまだ29だぞ」
「おっさんはおっさんだろっ!」
(薬草のにおい。なつかしい感じ…。それに、くちのなか…、私なにか食べてる…?うぇ…ぐちゃぐちゃ。)
廊下の向こうから綺麗な赤土色の髪の毛に、髪の毛よりは少し暗い色の髭を蓄えた男が部屋に入ってくる。
「よぉ。死んでなかったな。ひとまずよかった。」
赤土の髪を見ているとまだぼんやりと霧がかかっていた思考が出口を見つける。
「ヤーコブさん…」
そう声に出すと同時に自分の状況を少しずつ思い出す。たった一人の家族に突然捨てられ、それを探しに飛び出したけど見つからなかったんだ。
(ルーク……、おうちにも戻ってなかった……。)
一昨日の夜、ルークが行商人として旅に出るなんて言い出して、私の前から消えてしまったのは。
ルークとは私が生まれた時から一緒だった。私が家族って呼べる世界でたったひとりの人。口数はあんまり多くなかったけど、困ったときにはいつも頼りになるし、私が風邪を引くといつも、山菜と木の実とお芋のスープにくるくるの葉っぱの薬草を一緒に入れて煮込んでくれた。そのスープを飲むと辛かった身体がすっと楽になるから、私の兄はやはり偉大だ。味は…、薬草が入ったときはニガくてあんまりだったけど……。
その日は、ルークに教えてもらって作って自分で作った野ウサギ取りの罠に初めての獲物がかかった。
ルークが「自分で捕まえられるようになったんだから、自分で責任を持って最後まで無駄なく食べられるようにならないとね。」っていうから、教えてもらいながら頑張ってありがとうした。
頭を叩いて気絶させたら、足からナイフを入れて、皮を剥ぐのが難しかったけど、ちゃんと手で押さえながら残った2本の腕で引っ張ったらなんとか出来た。そうしたらお腹を開いて、中身を出して、食べられるようにしたらよく洗って、小さく切って…。
その日のスープはお肉の出汁がよく出ててすごく美味しかった。
今日は全部自分で出来たからルークがたくさん褒めてくれた。いつも通りルークのおひざの上に乗って、いつも通りお話ししながらご飯を食べる、いつも通りの夜だった。スープがいつもよりおいしい分で、いつもよりもちょっとだけしあわせな家族の時間だったかも。
…………でも全部がいつも通りじゃ無かった。
ルークの声がいつもより少し寂しそうだった。楽しいし美味しいしへんだなぁ〜と思って、「ルーク、なにかあった?」なんて言いながら、後ろで支えてくれてるルークの胸に体重を預けながら頭だけ振り返って、ひざにのってるのに自分の頭より高い位置にあるルークの青い瞳に目を合わせると「おれは行商人になるから、ここを離れて世界を旅しないといけない。…リリアナ、お前は強く育つんだぞ。」なんて言い出して。ルークいつもはゆっくり話すのに、今日はすらすらーって、準備してたみたいに…
「いつから?」
「今日」
「えぇっっ?!」
今日って、もう何時間もないじゃん!
ルークにしては珍しく変な冗談かと思って見たルークの目は、やっぱり遠くを見るような寂しそうな色で、
「ルークが行くなら私も一緒にいくよ!、ぎょーしょーにんになる!」
反射的に口を開いていた。
悲しみで下がってきそうになる耳に力を入れてぐっと押しとどめ、彼と一緒にいられる可能性を求めて言葉をつなぐ。
「罠だって自分で出来るようになったし、算術だってちゃんと勉強するよ!ち、ちからは無いけど、これから強くなるから!それに、大きくなるまでずっと一緒にいるって、約束!」
ルークは困った顔をして、私のことを抱え上げると、「約束、守れなくてごめんな。」なんて言ってから口の中でなにか呟いたと思ったら私、急に眠くなって…。
目が覚めたら、ヤーコブおじさんのおうちにいて、簡素な白い天井が目に入った。でも肝心のルークはおうちのどこ探してもいなくて、ヤーコブおじさんに問い詰めたら、「ルークはなー、旅に出たよ。」って。
ーー夜のことを思い出して天地がひっくり返ったかと思った。同時にそんなことを当たり前みたいな顔で言う青年に腹が立ち、ルークを探しに飛び出した。
ルークが私を置いていくなんてありえない!!私にとってはだいじな、大事な約束だったのに!!
だけどルークがいそうな場所全部探したけどいなくて、おうちにもいなくて、どこ探してもいなくて、たくさん歩いたらお腹が空いて、頭も痛くなってきて、でも木の実はルークがいないと手が届かなくて…。
熱と空腹でぼぅっとしたあたまで頭の痛みをなんとかしようとした気はするけど、次に気がついた時にはまたあのベッドの上だった。
「ヤーコブさん、ルーク、いなかった。」
「そうか。シチュー食うか?うまいぞ。」
「たべる。」
彼は相槌を打つと、隣にいた仔ドラゴンに合図をする。仔ドラゴンは私に皿を差し出してくる。
「体動かない。」
「あぁ、わりぃわりぃ、食わせてやれ。」
「わかった!!」
仔ドラゴンは今度はスプーンで器用にひと口分だけシチューを掬い、私の口もとに運んでくれる。
「ほんとに私を置いて行っちゃったのかな。」
「あいつにも事情があるんだろうよ。恨まないでやれ。」
恨むとか恨まないではなかった。ろくな説明もないまま突然に家族を失った喪失感と脱力感でなにも考えたくなかった。
「突然飛び出してごめんなさい。」
「あぁ、心配したよ。遺跡の近くの草むらで倒れてたんだ。おまえ、商会総出で探したんだからな。」
「でも……、でも、ルークは私が大きくなるまでは一緒だって言ったし…、約束したのに…。」
「おまえはルークに任されたおれが、こいつらと一緒に家族として育ててやるから、あんまり落ち込むな。兄弟がたくさん出来るぞ!」
そう言って彼は隣のドラゴンの頭をガシガシと撫でる。
「ぎょーしょーだろ?おっさんが言ってたぞ!リリアナもぎょーしょーしたら会えるじゃんか。」
「ヤーコブさん、ほんと?」
「あ、あぁ、そうだな。」
そうなのか。わたしも行商人になろう。
第一話 そうしつ 完
------ ちょっと最後書くの疲れて無理やり締めたからちょっと変わるかも。
若くして商会を切り盛りする青年、ヤーコブ=スモールウッドは街道の先に倒れていた少女を見つけて呆れたように口の中で呟いた。
急いで駆け寄ると、少女は荒い息をつきながら意識を失っているようだった。
「おい、リリアナ!死ぬんじゃねえぞ!」
青年は少女の状況を急いで確認する。手にはゼンマイのような形の薬草が握られており、額にはびっしょりと汗が滲んでいる。少女の顔は上気して赤くなっており、手の甲で軽く触れると、かなり熱があるようだった。
「こいつのせいか。ったく、ルーカスのやつ、甘やかしすぎだ。ちゃんと教育くらいしとけってんだ」
少女の右手に握り締められた薬草を見て、青年はここにいない友人への積もる苛立ちを舌に乗せて吐き出す。しかし彼はひとまず目立った外傷がないことを確認すると、両腕で抱え上げると、商会の拠点へと運ぶ準備をする。
少女が腕の中で何か呟いているのが聞こえるが、青年はいまは一刻も早く手当てをすることが先決だと判断し、そのまま急いで拠点に向かった。
そもそも青年には呟きの内容なんて確かめるまでもなく、少女の寂しげな表情を見れば一目瞭然だったのだが。
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―――い、リリアナ!死ぬんじゃねえぞ!
容赦のない大声が少女の頭蓋の中に反響し、沈んでいた意識が呼び戻される。
(だ……れ…?るー…く……?帰ってきてくれたの…?)
声の主はしばらく自分のまわりで何事かぶつぶつと呟くと、そのまま少女を抱きかかえる。
(あぁ…、あったかい手…。るーくじゃないや……。)
大好きなひんやりとした感触でないことに少しの期待を裏切られたことによる落胆を覚えながら、少女の意識は再び闇に沈んでいく……。
第一話「そうしつ」
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………ゆめをみていた。
壁には蔦がはってて、ふうかしてボロボロ。
だけど…、暖かい光のある、しあわせな夢……。
…料理のために焚かれた火の暖かい色のすぐ横には、冷やこいかんじの、だけど私のだいすきな、水晶みたいな青い目…… なつかしいにおい…。
(あれ………、におい…?)
だけど幸せな時間は永遠には続かない。
水晶の目の人物は立ち上がり、そのまま振り返って、背中を向けて歩き出す。
……まって。待って待ってまって‼
「いかないで、ルー・・・・―――――――‼」
幸せな夢の時間は終わり、目の前の視界が閉じ始める。夢の主は少女が後ろを追いかけることを許さない。
抑えきれない親愛が目から溢れ出す。
―――――ぼんやりと、沈んだ意識が色を持ち始めた。
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「…、またこのてんじょう。」
「おっさん!リリアナ起きたかも!」
子供みたいな高い声が、覚醒したての意識を無理やり揺さぶってくる。
(…うぅ、体がおもい。)
どれだけ寝ていたのか、体にうまく力が入らず、首だけ回して声の方を向くと、滲んだ視界の先に石みたいな灰色をしたドラゴンが椅子に座ってドアの外に向かって何事か叫んでいる。手には底の深めなお皿と木製のスプーンを器用に持っており、足元にはガラスのポットから蒸気が出てる。
(…うわわっ、ドラゴン?!…の子供かなぁ。)
「うなされてたな!大丈夫か?」
「リリアナって、私のなまえ…」
頭にもやが掛かって思考が形を結ばない。
「エイジ、商会長と呼べといつも言っているだろう」
「うるせえおっさん!」
「おまえなぁ、それにおれはまだ29だぞ」
「おっさんはおっさんだろっ!」
(薬草のにおい。なつかしい感じ…。それに、くちのなか…、私なにか食べてる…?うぇ…ぐちゃぐちゃ。)
廊下の向こうから綺麗な赤土色の髪の毛に、髪の毛よりは少し暗い色の髭を蓄えた男が部屋に入ってくる。
「よぉ。死んでなかったな。ひとまずよかった。」
赤土の髪を見ているとまだぼんやりと霧がかかっていた思考が出口を見つける。
「ヤーコブさん…」
そう声に出すと同時に自分の状況を少しずつ思い出す。たった一人の家族に突然捨てられ、それを探しに飛び出したけど見つからなかったんだ。
(ルーク……、おうちにも戻ってなかった……。)
一昨日の夜、ルークが行商人として旅に出るなんて言い出して、私の前から消えてしまったのは。
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ルークとは私が生まれた時から一緒だった。私が家族って呼べる世界でたったひとりの人。口数はあんまり多くなかったけど、困ったときにはいつも頼りになるし、私が風邪を引くといつも、山菜と木の実とお芋のスープにくるくるの葉っぱの薬草を一緒に入れて煮込んでくれた。そのスープを飲むと辛かった身体がすっと楽になるから、私の兄はやはり偉大だ。味は…、薬草が入ったときはニガくてあんまりだったけど……。
その日は、ルークに教えてもらって作って自分で作った野ウサギ取りの罠に初めての獲物がかかった。
ルークが「自分で捕まえられるようになったんだから、自分で責任を持って最後まで無駄なく食べられるようにならないとね。」っていうから、教えてもらいながら頑張ってありがとうした。
頭を叩いて気絶させたら、足からナイフを入れて、皮を剥ぐのが難しかったけど、ちゃんと手で押さえながら残った2本の腕で引っ張ったらなんとか出来た。そうしたらお腹を開いて、中身を出して、食べられるようにしたらよく洗って、小さく切って…。
その日のスープはお肉の出汁がよく出ててすごく美味しかった。
今日は全部自分で出来たからルークがたくさん褒めてくれた。いつも通りルークのおひざの上に乗って、いつも通りお話ししながらご飯を食べる、いつも通りの夜だった。スープがいつもよりおいしい分で、いつもよりもちょっとだけしあわせな家族の時間だったかも。
…………でも全部がいつも通りじゃ無かった。
ルークの声がいつもより少し寂しそうだった。楽しいし美味しいしへんだなぁ〜と思って、「ルーク、なにかあった?」なんて言いながら、後ろで支えてくれてるルークの胸に体重を預けながら頭だけ振り返って、ひざにのってるのに自分の頭より高い位置にあるルークの青い瞳に目を合わせると「おれは行商人になるから、ここを離れて世界を旅しないといけない。…リリアナ、お前は強く育つんだぞ。」なんて言い出して。ルークいつもはゆっくり話すのに、今日はすらすらーって、準備してたみたいに…
「いつから?」
「今日」
「えぇっっ?!」
今日って、もう何時間もないじゃん!
ルークにしては珍しく変な冗談かと思って見たルークの目は、やっぱり遠くを見るような寂しそうな色で、
「ルークが行くなら私も一緒にいくよ!、ぎょーしょーにんになる!」
反射的に口を開いていた。
悲しみで下がってきそうになる耳に力を入れてぐっと押しとどめ、彼と一緒にいられる可能性を求めて言葉をつなぐ。
「罠だって自分で出来るようになったし、算術だってちゃんと勉強するよ!ち、ちからは無いけど、これから強くなるから!それに、大きくなるまでずっと一緒にいるって、約束!」
ルークは困った顔をして、私のことを抱え上げると、「約束、守れなくてごめんな。」なんて言ってから口の中でなにか呟いたと思ったら私、急に眠くなって…。
目が覚めたら、ヤーコブおじさんのおうちにいて、簡素な白い天井が目に入った。でも肝心のルークはおうちのどこ探してもいなくて、ヤーコブおじさんに問い詰めたら、「ルークはなー、旅に出たよ。」って。
ーー夜のことを思い出して天地がひっくり返ったかと思った。同時にそんなことを当たり前みたいな顔で言う青年に腹が立ち、ルークを探しに飛び出した。
ルークが私を置いていくなんてありえない!!私にとってはだいじな、大事な約束だったのに!!
だけどルークがいそうな場所全部探したけどいなくて、おうちにもいなくて、どこ探してもいなくて、たくさん歩いたらお腹が空いて、頭も痛くなってきて、でも木の実はルークがいないと手が届かなくて…。
熱と空腹でぼぅっとしたあたまで頭の痛みをなんとかしようとした気はするけど、次に気がついた時にはまたあのベッドの上だった。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「ヤーコブさん、ルーク、いなかった。」
「そうか。シチュー食うか?うまいぞ。」
「たべる。」
彼は相槌を打つと、隣にいた仔ドラゴンに合図をする。仔ドラゴンは私に皿を差し出してくる。
「体動かない。」
「あぁ、わりぃわりぃ、食わせてやれ。」
「わかった!!」
仔ドラゴンは今度はスプーンで器用にひと口分だけシチューを掬い、私の口もとに運んでくれる。
「ほんとに私を置いて行っちゃったのかな。」
「あいつにも事情があるんだろうよ。恨まないでやれ。」
恨むとか恨まないではなかった。ろくな説明もないまま突然に家族を失った喪失感と脱力感でなにも考えたくなかった。
「突然飛び出してごめんなさい。」
「あぁ、心配したよ。遺跡の近くの草むらで倒れてたんだ。おまえ、商会総出で探したんだからな。」
「でも……、でも、ルークは私が大きくなるまでは一緒だって言ったし…、約束したのに…。」
「おまえはルークに任されたおれが、こいつらと一緒に家族として育ててやるから、あんまり落ち込むな。兄弟がたくさん出来るぞ!」
そう言って彼は隣のドラゴンの頭をガシガシと撫でる。
「ぎょーしょーだろ?おっさんが言ってたぞ!リリアナもぎょーしょーしたら会えるじゃんか。」
「ヤーコブさん、ほんと?」
「あ、あぁ、そうだな。」
そうなのか。わたしも行商人になろう。
第一話 そうしつ 完
------ ちょっと最後書くの疲れて無理やり締めたからちょっと変わるかも。
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