レーヴェス探訪記ーA Tale of Rehvesー　攻略

　かつて主人に仕えていた頃、日々の出来事を何物かに書きつける習慣があった。
テラスティアを南下している間は生きていくのに精一杯でそんなことは忘れていたが、根なし草とはいえこの生活も安定してきたし、新たな大陸に足を踏み入れたこの機にまた始めようと思う。

　出会いは唐突だった。
レーヴェス大陸の北の玄関口、港町ツェーべ。
とりあえず宿を確保しようと入った[潮騒のさざめき亭]で、私は人生のもう半分を共にする仲間と出逢うこととなる。

　テラスティアにいる間は復元師(リペアラー)として仕事をしながら日銭を稼いでいた。
バトラーとしての技能も活かして、客や雇い主の評判はそこそこ良かったが、大陸を渡った今、こちらには魔動機文明の遺構もそこらにあるというわけにもいかなくなってきた。
だから[潮騒のさざめき亭]で冒険者まがいの依頼を受けたのは渡りに船だったのだ。
これからは冒険者として生きていこう、あの時銃の扱い方を教わっておいて良かった。

　私は家族というものをほとんど知らない。
ルーンフォークの中でもバルナッドの個体群は特に血縁意識が薄かったからだ。
父と呼ぶべき関係の個体はあったし、自らと伴侶のパーツを炉にくべて子を作るのだから親ではあるのだが、人間のいう「家族」と呼ぶべき存在を、私は遂に一人しか持ち得なかった……主人である。

　故に父との壮絶な別れを経験した少女の心情は推し量るに余りあるものであるし、父親も最期には家族としての別れを選んだが、彼との戦いはとても心苦しいものであった。

　光の都、王都シュトラール。
王政を取る国家群の中でも、ここはかなり穏やかで平和を保っていると感じる。
人々の生活には余裕があり、軍隊や警察組織もきちんと機能している。
ましてバルナッドのような共和制を執りながら実質的に貴族主義に堕ちた国とは大違いだ。

　しかしどこにあっても完全な平和は存在せず、この国にも子供を攫って回るような輩はいる。
情状酌量の余地こそあれ、許されていい事では決してない。
あまつさえ、魂持つ者が死んで償おうなどと。

　……[あの子]は今、平和に暮らせているだろうか。

　王都のギルド[城望むひばり亭]に、貴族の女性が来ていた。
名を、エリナ＝デランダル。
ギルドのマスターと懇意にしていたらしいその方から、娘を探してほしいと依頼を受けた。
さして難しい依頼でもなさそうなのですんなり引き受けたが、この時の私達は、この時結ばれた縁がこの後どれだけ私達の力になってくれるか、ましてデランダル家が王都随一の王族の家だなどとは、つゆ知らぬのである。

　発見した娘 カトヤルカ＝デランダル、エリナ様からはカティと呼ばれていた11歳のお嬢様はやたらとツンケンした感じの子どもで、いかにも年頃の女の子といった感じであった。
女の子だからなのか、奔放に育てられているからなのか、[あの子]とは全然違う雰囲気の子だ。
別人であると頭で理解しながらも、ルーンフォークの種族としての本能なのか、[あの子]をお嬢様に重ねているのか、私はいつしか彼女を「お支えしなければ」とまで思うようになった。

　……だめだ、顔の半身が言うことを聞かない。
なぜだ、なぜ私の左目は涙を流している。
テラスティアの南端を超えた今[あの子]と再び相見えることなどもう叶うはずがないというのに、私はもう[あの子]が書き残したように自分のために生きると決めたはずなのに、日々を生きるのが精一杯でそんなことすらも忘れかけていたはずなのに、死なないことだけを目的にに生きている人形に成り果てたはずだったのに。
なぜ私は、泣いているんだ。

　期せずして、私が人間でないことが皆に露呈してしまった。
今更隠す必要もないのかもしれないが、種族に対する偏見は根深い。
まして私達は「人に仕える」種族、物のように思う者もまだいると聞く。
ナイトメアほどではないが、私達もどちらかといえば迫害される側なのだ。

　ナイトメア、といえば。
シノン……彼女は何か私達にない感覚を持っている感じがした。
ごった煮酒場のマスターをあれだけの会話でナイトメアだと見抜いた、私の観察眼をもってしても確信を持てなかったのに。
同族にはわかる、ということなのか。
思い出してみればそれとわかる言動は確かにあった。
最初に深く言葉を交わした時には、村を追われてきたと言った。
地下の遺跡で水路を見つけて泳いでいけばとなった時も、彼女は好ましい反応を見せなかった。
顔を覆うヴェールは白い肌と対照的な顔の痣を、頑なに外さない頭のバンダナは角を、隠しているのだとすれば合点がいく。
……もしかして、彼女は「忌み子」だったのだろうか。

　お嬢様たっての希望でルク村の洞窟へ探検に。
魔動機文明のものと思われる遺構は数あれど、まさか同胞が眠っていることがあろうとはつゆ知らず……。

　大破局の前から眠っていたであろうティエンスの女剣士に、古代種の妖精ケットシー。
私達ルーンフォークに妖精の類は見えないと父から聞いてはいたが、まさか本当に姿だけが見えないとは、驚きだ。
古い物や珍しい物の連続に思わず心が踊りそうになる。
だめだ、今はお嬢様から目を離さないようにしなければ。

こうしていると、勉強する[あの子]の傍らで書物を読みふけっていた日々を思い出す。
私の中には特別知的好奇心のようなものが強くあるらしく、[あの方]を待っている間他にやることがないのもあって読書には熱中していたものだ。