ルーンフォークには帰巣本能があるらしい。冒険者を生業とする主人と共に、依頼の途中にある酒場で小耳に挟んだ話だ。なんでも、自分の死期、つまり活動限界が近づくと自分の生まれた場所に帰り、ひっそりと息を引き取るんだとか。中にはジェネレーターに戻ることで活動時間が記憶と共にリセットされ、次の生を受ける個体がいるなんていう噂もあるようだが、どうせ眉唾であろう。大方、同型のルーンフォークが死後に確認されたことによる誤認の類だ。
ーーーバカバカしい。
その噂を聞いた時に抱いた率直な感想だ。自分もジェネレーターから生まれた身として言わせて貰えるならば、死ぬ直前まで自分が仕える主人を側で支えて倒れろと言いたい。主人を放り出して居なくなるなど、従者としてこれほどの不義はあるまい。長く主人に仕えるものとしてそう思った。
これは、その考えが運に恵まれた者の世間知らずな綺麗事だということを、彼が身をもって知ることになる前の話である。
「どうしたんだよルーク、浮かない顔して」
赤土色の短い髪の毛をくしゃっと纏めた青年は、積み重なった四本足の波消しブロックの上で水平線を眺めていたルークと呼ばれた少年の隣に腰を下ろしながらルークは背中で宴の喧騒を聞きながら、嫌なところを見られたバツの悪さから反射的に口を滑らせる
「なんだ、ヤーコブか。君こそどうしたんだい。いつも賑やかな輪の中心の君が宴を抜け出してくるなんて珍しいじゃないか。」
ーーしまった。少し皮肉っぽくなってしまっただろうか。
しかし隣に座る青年に気にしている様子はなく、海風にその短い髪をなびかせながら同じ水平線の彼方に目をやる。
「討伐作戦のために集まった精鋭たちの顔合わせだ。お前がこういうことに積極的じゃないのは今に始まったことじゃないが、共に戦う仲間たちの顔くらいは見ておいた方がいいんじゃないか?それにーー」
彼は一呼吸おくと、親指でうしろを指差しながら意味深な表情で言った。
「イーリアちゃんが心細そうにしてるぞ」
親指の動きにつられて酔っ払いたちの声のする方を見ると、淡紅色の髪の毛を肘の辺りまで伸ばし、聖印を首から下げたまだ顔立ち幼さの残る少女と目があった。イーリアと呼ばれた少女は完全に出来上がった冒険者たちの話し相手をしながら時折こちらに気遣わしげなような視線を送ってくる。
よく見ると少女は酔っ払いの野卑な言葉遣いの意味がわからず、話し相手など務まっていないのだが、男たちの方に害意はないようなのでひとまず安心する。
(あまり仕える主人を困らせるものではないな)
ルークは心の中に居座るしこりに蓋をして、少女の方に歩き出そうと立ち上がる。
「せっかく『集いの国・リオス』に来てるんだ。ご主人と観光でもしないと損だぞ。それと不安は先に解決しておけよ。迷いは戦場では命取りになるからな」
「そんなにわかりやすい顔をしていたかな、私は」
ーー驚いた。彼は時々こういう核心をついた物言いをしてくるのだ。リアといいヤーコブといい、人間たちには自分とは別のものが見えてるのだろうか。そもそも自分には神も精霊も見えないのだが。
「君にはいつも驚かされるよ。忠告は肝に命じておくことにする」
ルークは今度こそ夜の海と自分のなかのわだかまりに背を向けて、一度この淀んだ感傷を洗い流してから主人のところに戻ろうと水汲み場に向かって歩き出した。
宴は熱気と高揚感に包まれていた。それは討伐作戦への興奮か、強者と肩を並べられることによる快哉か。
テラスティア大陸の最南端、フェイダン地方のさらにその南、世界の果てとも言えるその場所には第二の剣の影響を色濃く残す大陸があった。
流れ込んだら流れ出さない海流から帰らずの地と呼ばれた新大陸。そこでこれから行われることになる討伐作戦。この討伐作戦に大陸全土の国々からこのリオスに精鋭たちが派兵されてきているのだ。
各国とも自国の防衛に必要な戦力を残しての派兵になるためか、傭兵の色が強い顔ぶれだった。自国の防衛との兼ね合いが雑兵の派遣を抑止する形になったのか、残りの兵は遅れての到着になるのか。
とにかく、この日海竜の尾ひれ亭に集まった面々からは、酔っていても所作の端々から隙のなさが窺えた。
ルークはその中からイーリアを見つけ出すと、今度はイーリアは柔らかそうな犬耳を頭の上にちょんと乗せた栗色の毛の少女と話していた。向こうもちょうどこちらを見つけたようで、イーリアが小さい身体をいっぱいに使って手を振ってきた。
「ルーク!大丈夫?元気になった?」
「にーちゃん、この子のホゴシャか??よくわかんないけどリアが嫌そうにしてたからまわりのよわそーなのはモカが追い払っておいたぞー」
なんか新キャラ出して続くよ〜
ーーーバカバカしい。
その噂を聞いた時に抱いた率直な感想だ。自分もジェネレーターから生まれた身として言わせて貰えるならば、死ぬ直前まで自分が仕える主人を側で支えて倒れろと言いたい。主人を放り出して居なくなるなど、従者としてこれほどの不義はあるまい。長く主人に仕えるものとしてそう思った。
これは、その考えが運に恵まれた者の世間知らずな綺麗事だということを、彼が身をもって知ることになる前の話である。
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「どうしたんだよルーク、浮かない顔して」
赤土色の短い髪の毛をくしゃっと纏めた青年は、積み重なった四本足の波消しブロックの上で水平線を眺めていたルークと呼ばれた少年の隣に腰を下ろしながらルークは背中で宴の喧騒を聞きながら、嫌なところを見られたバツの悪さから反射的に口を滑らせる
「なんだ、ヤーコブか。君こそどうしたんだい。いつも賑やかな輪の中心の君が宴を抜け出してくるなんて珍しいじゃないか。」
ーーしまった。少し皮肉っぽくなってしまっただろうか。
しかし隣に座る青年に気にしている様子はなく、海風にその短い髪をなびかせながら同じ水平線の彼方に目をやる。
「討伐作戦のために集まった精鋭たちの顔合わせだ。お前がこういうことに積極的じゃないのは今に始まったことじゃないが、共に戦う仲間たちの顔くらいは見ておいた方がいいんじゃないか?それにーー」
彼は一呼吸おくと、親指でうしろを指差しながら意味深な表情で言った。
「イーリアちゃんが心細そうにしてるぞ」
親指の動きにつられて酔っ払いたちの声のする方を見ると、淡紅色の髪の毛を肘の辺りまで伸ばし、聖印を首から下げたまだ顔立ち幼さの残る少女と目があった。イーリアと呼ばれた少女は完全に出来上がった冒険者たちの話し相手をしながら時折こちらに気遣わしげなような視線を送ってくる。
よく見ると少女は酔っ払いの野卑な言葉遣いの意味がわからず、話し相手など務まっていないのだが、男たちの方に害意はないようなのでひとまず安心する。
(あまり仕える主人を困らせるものではないな)
ルークは心の中に居座るしこりに蓋をして、少女の方に歩き出そうと立ち上がる。
「せっかく『集いの国・リオス』に来てるんだ。ご主人と観光でもしないと損だぞ。それと不安は先に解決しておけよ。迷いは戦場では命取りになるからな」
「そんなにわかりやすい顔をしていたかな、私は」
ーー驚いた。彼は時々こういう核心をついた物言いをしてくるのだ。リアといいヤーコブといい、人間たちには自分とは別のものが見えてるのだろうか。そもそも自分には神も精霊も見えないのだが。
「君にはいつも驚かされるよ。忠告は肝に命じておくことにする」
ルークは今度こそ夜の海と自分のなかのわだかまりに背を向けて、一度この淀んだ感傷を洗い流してから主人のところに戻ろうと水汲み場に向かって歩き出した。
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宴は熱気と高揚感に包まれていた。それは討伐作戦への興奮か、強者と肩を並べられることによる快哉か。
テラスティア大陸の最南端、フェイダン地方のさらにその南、世界の果てとも言えるその場所には第二の剣の影響を色濃く残す大陸があった。
流れ込んだら流れ出さない海流から帰らずの地と呼ばれた新大陸。そこでこれから行われることになる討伐作戦。この討伐作戦に大陸全土の国々からこのリオスに精鋭たちが派兵されてきているのだ。
各国とも自国の防衛に必要な戦力を残しての派兵になるためか、傭兵の色が強い顔ぶれだった。自国の防衛との兼ね合いが雑兵の派遣を抑止する形になったのか、残りの兵は遅れての到着になるのか。
とにかく、この日海竜の尾ひれ亭に集まった面々からは、酔っていても所作の端々から隙のなさが窺えた。
ルークはその中からイーリアを見つけ出すと、今度はイーリアは柔らかそうな犬耳を頭の上にちょんと乗せた栗色の毛の少女と話していた。向こうもちょうどこちらを見つけたようで、イーリアが小さい身体をいっぱいに使って手を振ってきた。
「ルーク!大丈夫?元気になった?」
「にーちゃん、この子のホゴシャか??よくわかんないけどリアが嫌そうにしてたからまわりのよわそーなのはモカが追い払っておいたぞー」
なんか新キャラ出して続くよ〜
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