本サイトは、SW2.5シナリオ準拠の本格冒険活劇ファンタジー「レーヴェス探訪記ーA Tale of Rehvesー」の公式攻略Wikiです。

※過去捏造
※レイ→クア前提のジュンレイです。

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最悪の日だ。
レイカはまとめたゴミを捨てると、そのまま裏階段に座り込んだ。夜明けのひかりが透き通るような空とは裏腹にレイカの心は重く沈んでいる。この職場で働くのは楽しいことばかりの毎日だけれど、たまにこういう日がある。裏でエプロンを握りしめて気持ちを落ち着けてからでないと、ここ〈潮騒のさざめき亭〉の主人に会えない日が。

「はあ……」

エプロンに顔を埋めると大きくため息をついた。一回りどころか二回りほど年も離れ、種族も違う相手を好きになるということがどんなに絶望的かはわかっているつもりだ。けれど、いつもは宙に浮かせて見ないふりをしているその絶望が襲いかかってくる日もある。

──ヤーコブさんとこの若いやつなら安心だなあ

レイカの思い人であるクアレンスは容赦なく自分を娘のように扱ってくる。今日だって、酔っぱらって口説いてきた客に彼が発したのは完全に父親目線の言葉だった。
幼くして父を亡くしたレイカにとっても最初は”お父さんみたいな人”だったのだ。父の親友だったクアレンスは、レイカが寂しくないよう、辛い思いをしないよう、いつでも父代わりを務めてきてくれた。学がなく、将来を迷っていたレイカに潮騒のさざめき亭で働くよう勧めてくれたのもクアレンスだ。
なのに、なぜ私はこんな気持ちを抱いてしまったのだろう。
後悔とも自嘲ともつかない思いがもやもやと胸に広がり、またため息をついた。突然ガタンと戸が軋んで開く音がして、慌てて立ち上がる。

「あっ、テオ君、ごめん! もう終わった……げっ」

そこにいたのはうちのかわいいシェフではなく、レイカを口説いてきた客──ヤーコブさんとこの若いやつ、だった。不意打ちに顔が思わず歪んでしまう。いやな時にいやな人に見つかってしまった。

「あれ? レイカちゃんじゃないっすか?」

「……おはようございます。えっと、ジュンさん、でしたよね」

「もう名前覚えてくれたんすか!? オレ、カンゲキっす!」

名前を覚えるのは職業柄得意なだけなのに、ジュンのもふもふの耳が嬉しそうにぴょこぴょこ動く。正直、レイカはこの類のちゃらちゃらした人が苦手だ。なにを思っているのか知らないが、会って3秒で「かわいい」を連呼するような人など信用できない。そのうえ、クアレンスからあの父親目線発言を引き出したとなれば、少しくらい八つ当たりでもしたくなるというものだ。

「いえ、別に。ジュンさんとは結構お話ししましたから。でも、酔っぱらってたから忘れちゃったのかしら」

「オレ、かわいい子と話したことは絶対忘れないっすよ!」

「はいはい」

レイカの言葉のとげにも気が付かず、ジュンはただ眠たそうに目を細めては能天気に笑っている。まだ酔いが醒めていないのだろう。よくもまあこんなに調子のいい言葉ばかり出てくるものだなぁ、と感心すらおぼえる。

「ジュンさんそれ誰に対しても言ってるでしょ?」

「えー、つれないなあ」

そのまま裏階段に座り込んで長居しようとするジュンに、仕方ないなあとため息をつき、水を持ってこようとドアノブに手をかけた。その手にジュンの一回り大きな手が伸びてきて、レイカの手首に手をかけた。

「うちの商会長もそちらの主人もまだ寝てるっすよー、まだお話しようよ」

「水持ってくるだけですよ、だから離してください」

「つれないなあ」

にへらとゆるんだ笑みを浮かべるのにいらだって、手を振りほどく。人のやさしさを何だと思ってるのだろう。触れた手の温度がやけに冷たくて、それもレイカの怒りに拍車をかけた。手を払われても眉ひとつ動かさないジュンに苛立ちが募る。

「私、ジュンさんみたいな人嫌いです。私には好きな人いるので、遊ぶならほかあたってください!」

「好きな人って、もしかしてマスター?」

「な……っ」

唐突に聞かれて言葉が出なくなる。掠れた声で「なんで」とつぶやくと、ジュンは「やっぱりそうかー」と納得したようにうなずく。表には出していないはずだ。だって、知られてしまった瞬間に私の恋は終わる。そう思って、そんな自分の考えにすら、少し落ち込む。

「別に確信があったわけじゃないんスけど、レイカちゃんの反応見て『あれ?』みたいな」

「……私、そんなわかりやすいですか……?」

「いや、ずーっと見てないとわからないから大丈夫っすよ。うちの商会長とかニブいし」

「そんなずっと見ないでください……」

思わず恥ずかしくなって、ジュンの隣にへたりと座り込んだ。初対面の人に恋心を看破されたことと、ジュンにそんなにも見られていたことが二重に恥ずかしい。ここで働くようになってずっと気を付けてきたのに、こんなチャラチャラした人にバレるなんて。

「絶対、誰にも、言わないでもらえますか……?」

圧をかけるようにジュンのはちみつ色の目を見つめて言うと、彼はちょっと照れたように笑って顔をそむけた。

「ひとつ聞いてもいいっすか?」

「な、なに……?」

「オレが見てただけでもクアレンスさん、しょーじき脈なしというか親って感じなんすけど、それでも好きなんスか?」

からかうような響きもない純粋な疑問に胸を衝かれる。そんなことは誰よりわかっている。そんなことは誰よりわかっていて、それでも私は……。レイカは一度、唇を噛んで泣きそうな気持ちを堪えた。

「ええ、好きですよ。悪い?」

「へえ……。どこがそんなに好きなんスか?」

「もう、ずっと好きだから、きっかけなんて忘れちゃった。クアレンスさんだから、好きなの」

そう言うと堪えていたはずの涙が零れ落ちて、エプロンにちいさくまるい染みをつくった。優しいところとか、頼れるところとか、挙げればたくさんあるんだろうけど、それはすべて「クアレンスさんだから」に収束していく。無理だということを何度思い知っても、好きだから諦められない。

「おねがいだから……言わないで……」

「うーん、約束はできないっす」

「……えっ!?」

予測もしていなかった言葉に涙すら止まって、レイカはジュンの顔をまじまじと見つめた。悪びれる風もなく、飄々と微笑んでいるジュンに呆気にとられる。この人はひとの必死な気持ちがわからないのだろうか。

「だってオレ、レイカちゃん好きなんで。諦めてこっち向いてほしいっすから」

「はあ!?」

やっぱり私はこんな人、大っ嫌いだ。
レイカはその思いを右手に込めて、ジュンのゆるんだ頬に精一杯打ち付けた。


💛 💛 💛



それはたぶん、初めての恋だった。

もともと家族には縁遠く、そんな自分にとってヤーコブス商会は疑似家族のような存在だ。商人は自分の気質にもあっていたし、物事をあまり考えない性質のジュンにとって、他にブレーンがいて、自分は好きなようにできるこの集まりはとても居心地が良かった。商人はひとところにとどまることがないから、きっと自分が属す場所は唯一ここだけなのだろうと思っていた。
だから、何事もつかずはなれず。かわいい女の子は好きだし、仲良くなりたいけど、決して相手に深入りはしない。それがジュンのスタンスだ。
そのスタンスを忠実に守っていたから、彼女のことも最初に会ったときは「にこにこしててかわいい子だなあ」くらいの印象だった。

ジュンが今いるここ、ツェーベにはたくさんの酒場や飯屋がある。港に近いこともあり、おいしい料理が食べられるところが多く、この町についてからジュンはいろいろな店を転々としていた。

「ジュン、今日は商会長に付き合えよ」

今日もどこかいい店を見繕って夕飯を済ませようとしていたところをエイジに呼び止められた。

「エイジさん付き合わないんすか?」

「いや、俺も行くけどよ。お前〈潮騒のさざめき亭〉行ったことないだろ?」

「だってあそこ行くとリリの話しかしないっしょ? ただでさえ最近酔っぱらうと親父、『リリアナ〜、リリアナ〜』ってうるさいのに」

別にリリアナのことが嫌いなわけではないが、ああも延々と話を聞かされると鬱陶しくもなる。ちびの頃から面倒を見ていたリリアナが巣立ち、さみしい気持ちはジュンも一緒だ。けれど、商会長であるヤーコブは娘の結婚式前日のような気持ちなのだろう。ジュン以上にリリアナの話を毎晩聞かされているエイジが苦笑いをした。

「まあ、酒場の主人がリリアナと知り合いだからな。でも、あそこ料理もめちゃくちゃ旨いんだよ。あと……」

「あと?」

「お前がめちゃくちゃ好きそうな子がいるよ」

「じゃあ行くしかないっすね!」

まあ、たまには親孝行しとくか。たしかにリリアナが元気でやってるかも気になるし。そう思ってエイジと一緒に向かったそこにいたのが、レイカだった。
なんとなく嬉しそうなヤーコブとエイジとともに〈潮騒のさざめき亭〉の戸を開けると、軽やかな鈴の音とともに楽しげな喧騒が聞こえる。飯が旨いからか、それとも”ジュンのめちゃくちゃ好きそうな子”がいるからか、繁盛しているようだった。鈴の音に反応して、カウンターからぱたぱたと小麦色の髪の女の子が駆け寄ってくる。

「いらっしゃいませー。あら、ヤーコブさん、エイジさん、と……?」

「ああ、レイカちゃん。こいつ、うちの若手。ジュンっていうんだ」

「よろしくっす! レイカさんめっちゃかわいいっすね!」

にこにこと笑みを湛える頬っぺたは桜色で、照明を受けて輝く瞳は黒曜石のようだ。なるほど、たしかにこれはかわいい。しかし、ジュンが「かわいい」と言ったとたん、レイカの完璧な笑顔がすこしだけ曇ったように見えた。そう思ったのも一瞬のことで、彼女はまた少し目じりを下げてジュンに笑いかける。

「よろしくお願いします。席いま用意しますね!」

またレイカが奥の方に駆けていくと同時にふわりと髪が揺れた。それを思わず目で追ったジュンをエイジが肘で小突く。

「な?」

「いやー、めっちゃかわいいっすね、まじで」

彼女はこの店の看板娘のようで、ほかにもレイカが店の中を動き回る様子を目で追う客は多くいるようだった。みんなのアイドル的な立ち位置であり、そのうちの3,4割は本気。そんな様子をちょっと意外だと思う。決まった人がいたらその熱狂は醒めるものだけど、珍しい。あんなにかわいいのに恋人とかいないのか。なんとなくレイカを目で追っていると、せわしなく動き回っていた彼女はカウンターの前で少し立ち止まって前髪を軽く手で整えた。そして、カウンターの奥に向かって大きな声を張り上げる。

「マスター! ヤーコブさんたちがご来店ですよー」

「おっ! ヤーコブさんいらっしゃい!」

奥から出てきたマスターは両手に大きな酒瓶を抱えて愛想よくこちらに声をかけた。今夜もヤーコブと飲む気でいたらしく、手にしているのはヤーコブの好きな銘柄のエールだ。

「もー、あんまり飲みすぎないでくださいよね。片づけるの私とテオ君なんだから」

「わーったわーった」

レイカが少しあきれたように眉をひそめつつ、でも親しげにマスターに声をかける。その顔が今まで客に向けていたものとはまったくちがう、やさしいものに見えた。

「レイカさん、ほんとにめっちゃタイプっす!」

「……ありがとうございます」

突然かけられた言葉にもレイカは手慣れた風に微笑みとお礼を返す。そんな様子を微笑みを浮かべて見ていたマスターがジュンの肩を大げさにたたいた。

「ヤーコブさんとこの若いやつなら安心だなあ」

「いやいや、こいつはちゃらんぽらんだからなあ」

ヤーコブとマスターが笑いあいながら杯を傾ける傍ら、レイカが思いっきり顔を曇らせたのが見えた。それも一瞬のことで、すぐに微笑みを浮かべてその輪に加わる。けれど、その笑顔はさきほどマスターに向けていたような自然なものではないようにジュンには見えた。
──なるほど。この子はマスターが好きなのか。
少し意外な思いを抱きつつ、ジュンも杯を傾けた。夜は長いし、うちの商会長は酔うと話が長い。そんな時は自分も酔ってしまうに限る。

* * *


ガタンと扉が軋む音が聞こえてきてジュンはまどろみから目を覚ました。窓の外を見るともうすでに空は白みはじめている。酒で頭がぼーっとしたまま水を求めて立ち上がると、ジュンの周りは酔っ払いたちが屍のように眠っていた。レイカかシェフのテオを呼ぼうとカウンターに向かったが二人ともおらず、そのまま裏に続く戸のドアノブに手をかける。

「はあ……」

大きなため息の主を戸をそっと少しだけ開け確認すると、そこにいたのはレイカだった。接客をしているときの明るさと笑顔は一切なく、その後ろ姿には愁いがある。なんだかその後ろ姿がひどく頼りなげでけなげに見えた。思わず見入ってドアノブから手が外れて、ガタンと音を立てる。

「あっ、テオ君、ごめん! もう終わった……げっ」

慌てて立ち上がったレイカがジュンの姿を認めると一瞬思い切り顔をゆがめた。その姿がちょっと面白くて、顔がにやける。最初はにこにこしたかわいい子だと思ってたけど、意外とレイカは感情が顔に出やすくて面白い。軽口をたたきあいながら、レイカの隣に座ろうとすると、レイカが店内に戻ろうとドアノブに手をかけた。もう少し彼女の素の顔を見たくて、それを引き留める。

「うちの商会長もそちらの主人もまだ寝てるっすよー、まだお話しようよ」

あの様子だともう1,2時間は寝たままだろう。その間にマスターについても聞いてみたい。レイカの細い手首は思っていたよりもあたたかくて子供みたいだと思っていると、嫌悪感もあらわに睨んで振りほどかれた。

「私、ジュンさんみたいな人嫌いです。私には好きな人いるので、遊ぶならほかあたってください!」

「好きな人って、もしかしてマスター?」

ここぞとばかりに聞くと、不意打ちを食らってレイカは固まってしまった。「なんで」という言葉に「やっぱりそうかー」とうなずく。自慢ではないが、ジュンはこういうことには結構鋭いほうだ。

「別に確信があったわけじゃないんスけど、レイカちゃんの反応見て『あれ?』みたいな」

「……私、そんなわかりやすいですか……?」

「いや、ずーっと見てないとわからないから大丈夫っすよ。うちの商会長とかニブいし」

「そんなずっと見ないでください……」

恥ずかしそうに赤くなって俯くレイカはとてもかわいかった。こういうところもっと見せたほうがたぶん気持ちは伝わると思うんだけどな。そう思いながらも、あまり見せてほしくないような気持ちがある自分に驚く。

「絶対、誰にも、言わないでもらえますか……?」

うるんだ目で見つめられて、少したじろいだ。叶うことのない恋でも、そんなに必死になれるものなのだろうか。それとも、叶わない恋だからこそ、大切にしているのだろうか。永遠に続かないとわかっているから、真剣になることを避けてきた自分にはわからなくて、ジュンは少し意地悪をしようと決めた。

「オレが見てただけでもクアレンスさん、しょーじき脈なしというか親って感じなんすけど、それでも好きなんスか?」

その言葉にレイカの顔がひどく泣きそうにゆがむ。少しだけ唇をかんでから、あの強い瞳できっとジュンをにらんだ。

「ええ、好きですよ。悪い?」

「へえ……。どこがそんなに好きなんスか?」

「もう、ずっと好きだから、きっかけなんて忘れちゃった。クアレンスさんだから、好きなの」

やさしい声音で誰に言うとなくレイカがつぶやくと、それまで薄く目の表面に張っていた涙がぽつりと落ちた。ジュンはその涙を拭いたい衝動に駆られる。それはまるでレイカの気持ちをぎゅっと固めたみたいに透明で、朝のひかりにきらりと反射した。

「おねがいだから……言わないで……」

絞り出すように俯いたレイカがつぶやく。

「うーん、約束はできないっす」

「……えっ!?」

ジュンが自分の口からとっさに出た言葉に驚いていると、レイカも弾かれたようにこちらを見た。その濡れた黒曜石のような目を見て、あらためて気がつく。自分で言ったくせに、ジュンはレイカにそんな顔をさせたくないと思った。同情や単なる興味とも違う感情が、いつのまにか芽生えていることに気が付いてしまって、ジュンは覚悟を決める。

「だってオレ、レイカちゃん好きなんで。諦めてこっち向いてほしいっすから」

「はあ!?」

今まで誰にも本気で言ったことがない言葉を、いつものように笑って伝える。長期戦になることは予想している。振られることも想定内だ。それでも、レイカのことが好きだと思ってしまった。
人生はじめてのちゃんとした告白の1秒後に平手打ちを食らうことなど、ジュンは予想だにしていなかった。




  つづけ!

このページへのコメント

はあああああ!すきです!すきです!すきですう!
こういうの待ってました〜〜〜〜!!!!

0
Posted by  mizzaaaaa mizzaaaaa 2020年06月08日(月) 01:20:39 返信

二視点描写やばい。良さがやばい。

0
Posted by  hineritai hineritai 2020年06月02日(火) 00:31:25 返信

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