BBSPINKの「甘えんぼうな女の子のエロパロ」スレまとめ@wikiの更新が6スレ目で止まっているので、それ以降のSSをまとめています。


 降り続ける雪。
 日々どんよりした雲が浮かび、外に出ればいつでも吐息が白くなる。
 少年はこの季節が苦手だった。普段なら自転車を使うところを歩かなければならず、
どうしても所要時間が伸びてしまう。
 しかし、代わりに景色を眺めながら進む事ができるのはささやかな長所でもあった。
 日ごとに家々を飾る光が増える。晴天だろうと陽が沈むのも早くなり、雪の日はそも
そも雲が重いので早い時間帯から色とりどりのライトが灯っていた。
 通りかかる度に新鮮な感じがする街並みの、ある一点。少年の視線はそこを通るとき
にだけ、あらゆる景色から外れる。
 もちろん、そこには何もない。……マンションのゴミ置き場なので、週に数回は袋が
山の様に積まれているが。
 雪が降り始めると、この場所にゴミ袋ではない何かがいたことを思い出す。一日、二
日、三日……一週間、二週間と、通学の度にちらりと見ては相変わらずの状態であるこ
とに息を吐く。
 吹きつける風に身を震わせ、少年は凍った道路を歩いていった。

 級友の話を聞いていて、少年はふと去年の同じ日を浮かべた。
 両親とは離れて暮らしているから、こういったイベントを意識していなかった。急な
来客はあったものの、その人とは二十五日に別れを告げている。
 雰囲気だけでも、と放課後に街をぶらつき、イルミネーション豊かな通りを歩いてい
たとき。
「いらっしゃいませー!」
 売り子の声に引き寄せられるように、少年は洋菓子店の付近まで足が動いていた。
 路上にテーブルを置き、風でゆれる幟には『クリスマスケーキ販売中』と、達筆な黒
字で書かれている。既に人だかりができており、売れ行きは好調のようだ。
「いらっしゃいませ。どれにいたしましょう?」
 列はすぐに捌けて、少年の順番が回ってきた。先程まで大きな声で呼び込んでいた女
の子が問いかけてくる。
 目を引く金髪には季節のイベントを再現したような赤い帽子、店のロゴが入れられた
赤いエプロンの姿が、彼をハッとさせる。――以前、会ったことがあるような。懐かし
い雰囲気がしていた。
「……小さい方を一つ」
 しかし、後ろに他の客がいて問うことはできなかった。動揺、焦りともつかない感情
を押さえつけ、必要最低限の言葉で注文する。意識してしまった以上は一人でも楽しも
うかと、隣にハーフサイズのものがあるのに小さいホールを選んだ。
「はい、小さい方ですね――」
 ところが、ケーキの箱を手にした少女が遅れて目を丸くし、動作がいっしゅん止まる。
 視線の先には眼鏡のレンズ越しにブルーの瞳があり、少年は束の間、周辺の音が一切
聞こえなくなった。
「ありがとうございました!」
 あまりにも不自然な応対は会計を済ませた後で元に戻り、代金と引き換えに白い袋を
ぶら下げる。途中なんども振り返ったが、少女の声は客を呼ぶためのフレーズに戻って
いた。
 やがて、朝も通ったマンションが近くなる。ゴミ置き場は綺麗なもので、奥の隙間に
も無断で投棄された様子はない。
 少年はクリスマスケーキの入った箱を眺めた。
 信じがたい話だが、マンションと隣の建物との隙間にうずくまるようにして人が……
女の子がいたのだ。ほとんどが赤色の衣装を身にまとい、金髪に青い瞳。外見上の特徴
としては大雑把すぎるが、それでも少年には『もしや』と思わせる要素が洋菓子店の少
女から感じられた。
 ひとしきり思案して、未だに溶けない歩道の氷に注意しながら帰途につく。傍目には
ゴミ置き場を眺めている人という印象を与えそうだったからだ。


 雲に隠れたままだった太陽が姿を消し、いよいよ空が暗くなる。
 自らクリスマスにちなんだ飾りを用意しなくても、窓を開ければすぐ隣の民家が着飾
っているので困らない。居間の照明を落とすだけで赤、青、緑を含んだ多くの色が入り
込んでくる。
 縦型のハロゲンヒーターを作動させ、暖色に肌を染める少年。絶えず降る雪は光を浴
びて輝きながら落ちていく。
 苺をふんだんに使ったショートケーキを眺めていると、それを売っていた少女の姿が
よぎる。一年前に出会った赤い衣装が当てはまり、八等分した洋菓子に戻る。
 やがて考えても仕方がなくなり、一番尖っている部分を少しだけ切り取った。白と黄
色が交互に並んだまま倒れ、少年はそれを口に運ぶ。
「甘い……」
 すすんで買うことが無いせいか、どこか新鮮だった。一口目にして冬季のイベントを
噛みしめ、続いて放り込んだ苺が喉に染みる。
 空腹も重なってすぐに平らげてしまい、もう一つ食べようと立ち上がった時、来客を
知らせるチャイムが鳴り響いた。
 再び訪れる静寂が懐かしい。しかし、間髪入れずに電子音は現れ、早く出ないかと急
かしている風だった。
 念のため、玄関扉に付けられている小窓から外を伺う。瞬間、少年はひどく驚いた。
「あ、こんばんは」
 ノブを回して生まれた少しの隙間から控えめな挨拶をしてきたのは、洋菓子店で販売
員をしていた少女。帽子とエプロンこそなくなっているが、他の特徴はそのまま残って
いる。荷物らしい大きな鞄を肩にかけていた。
 どちら様ですかと聞くこともなく、少年は扉を大きく開けて彼女を招いた。
「暗くてごめん」
 先程まで静かにイルミネーションを眺めていたため、部屋の電気は何一つ点いていな
かった。少女の足音が増えて騒がしくなるとハロゲンの明かりだけでは足りず、居間の
白色が目にまぶしい。
「急に『前に会った気がする』って聞いてくるから、びっくりしました」
 ソファにテレビにテーブル、最低限の家具が置かれた部屋を見渡しながら、少女は話
す。あのとき少年は口にした覚えはないのだが、やはり届いていたようだ。
 仕切られていないキッチンで彼女の姿を認めながら、薬缶を加熱する少年。コーヒー
を飲んでいたのでほどなくして煙が上がり、沸騰を知らせてくれる。
 粉末が溶ける音が気持ちを落ち着かせる。しかし、まだ手足の先が震えているのは治
まらず、カップを両手で持っているのに安定しない。
「熱いから気を付けて」
「……私、本当に戻ってこれたんですね」
 テーブルに置かれたココアを目にして笑みを浮かべる仕草も以前のまま。ちっとも現
実味を感じていなかった少年に、ようやく理解が追い付く。
「本当に会いたかったです。…………ええと」
「――あ」
 また会えた。
 それを表現できるのはとても嬉しいのに、お互い相手の名前を知らないので言葉が続
かなくなってしまい、乾いた笑いが飛び交った。
「よく考えたら、名前を知りませんでしたね」
 少女は頭を掻きながらはにかむ。
 まったくその通りだった。少年からすれば彼女は――サンタクロースのとしての仕事
をする女の子で、『サンタさん』と呼んでいたので特に何も思わなかったが。
 そのままでは不便なので名前を知ることは重要だろう。
「私の名前、何だと思います?」
 ふと、そんなことを訊いてきた。
 しかし、少年は困ってしまう。異国の名前など簡単に想像できるものではない。
「……うーん。クリス、とか」
 悩んだ末、参考文献に自分が使ってきた英語の教科書を選び、そこから女性の名前を
ひとつ抜き出す。
 クリスマスらしい名前、と我ながら根拠を持った解答をしたが、そんな事では全国の
サンタクロースがクリスを名乗っても良い事になってしまう。

「じゃあ、それで。私はクリス、サンタクロースのクリスです」
 本名と異なることが判明した。それでもサンタの少女はクリスを名乗り、深くお辞儀
する。
「私達はクリスマスに仕事をするので、それにちなんだ名前は滅多に付けないんです。
でも、ここに来たって感じでいいかもしれませんね」
「そ、そう……?」
 違うのなら本名を明かしてほしいものだが、口にする前に少女――クリスが首を左右
に振ったので断念した。
「僕は三田尚樹。よろしくね」次の句に詰まる。「……クリスさん」
「わお! さんたさん?」
 途端に両手を鳴らして驚くクリス。
 これは幼少の頃になるが、尚樹は苗字から『サンタ』と呼ばれがちだった。毎年この
時期になると友人たちにからかわれるので、プレゼントという単語が夜な夜な聞こえて
くる事態に陥ったこともあり、少し嫌な過去を思い出してしまった。
「さんだ、だよ」
「さんたさん、ですね?」
 修正してくれなかった。
 濁音が言えないのか、それとも愛称のつもりなのか……後者であると信じて、それ以
上はやめた。

 それからはクリスの話に終始した。
 去年は日付を間違えてこの世界にやってきたが、仕事ぶりが評価されて一人前になっ
たこと、同じ場所に来る事ができるように頼み込んだこと。
「――それなら、もっと早く会えたかもしれないのか……」
 極め付けは、一週間ほど前からこちらに来ていたということだった。
「一人前になったらお店で働いて、ここでの食い扶持を稼ぐんです。クリスマスケーキ
は美味しいって評判なんですよ」
 ゴミ置き場で凍えていた時は研修生だったらしく、働きの場を与えられていなかった
そうだ。それを聞くと、なおさら救助できて良かったと安堵の思いでいっぱいになる尚
樹。
 それにしても『食いぶち』なんてよく知っているな、と思うのだった。
「店長さんがここに来て長いので、いろいろ知っているんですよ」
 金髪の少女が働いていた洋菓子店の店長も昔は子供たちにプレゼントを配っていたそ
うで、現役を引退してから店を構えたのだという。もちろん、この件は秘密だと念を押
された。
「そうか。クリスさんは『読める』んだよね」
 クリスは頷きを返した。
 疑問に思ったことに対してすぐさま返事が来るのは、少女が他人の心を読めるからだ。
少なくとも、この部屋にいる限りは裡で思ったことが彼女には聞こえてしまう。
 販売員をしていたときも、お客の心情をいろいろ読み取ったのではないだろうか。
「本当、さんたさんは優しいですね」
 この能力のおかげで再会できたと言っても過言ではない。持たざる者からすると便利
そうに聞こえるが、聞こえないふりをするのも大変だという。
「ココア、飲む?」
 またも頷いた少女からマグカップを回収し、シンクまで持っていく尚樹。ひとりでに
笑みが浮かぶ。
 この時期、一人を寂しいと思ったことはない。しかし二人だと楽しいのだ。
「……ふふっ」
 ぐうぜん出会っただけなのに印象強く残るなんて――少年の呟きを耳にして、クリス
は小さく笑んだ。
「はい。こぼしたら大変だからね」
 ココアのお代わりを作る間に、金髪の少女は席を立ってハロゲンヒーターの前に移動
していた。テーブルに置きっぱなしのコースターを手渡し、床に置く。
 出来立てで熱いカップを両手で持ち、息を吹いて冷ます様子が可愛らしい。その末、
ちびちびと口に運ぶのがげっ歯類を髣髴とさせて微笑ましくなる。

「もう少し近くの方が暖かいですよ」
 白いセーターと肌をオレンジに染めた少女に促され、尚樹は距離を詰めて並ぶ。
 居間にはいささか小さな暖房器具が首を振る度、暖色が移動してそれぞれの衣服を照
らす。
「私、このヒーターとココアに助けられたんですよね」
 ほう、と息を吐く少女。
 雪まみれになっていた彼女を温めたのは、このヒーターと粉末のココアだった。あれ
から一年、変わらずに部屋をあたためる器具とも再会、というところだろうか。
「でも、違うんです」
 目が合うと、やはり身構えてしまう。ましてこの近距離ではなおさらで、真っ直ぐな
視線を受けて尚樹の目は泳ぐ。
 だが、小さく唸る声がしばらく聞こえて、首を傾げてしまう。
「向こうに戻ってからココアを飲んでも、何か違う気がして……その」
 尚樹はクリスが味の話をしているのかと思ったが、直後に間違っていることを理解し
た。
 カップを置いた彼女が両手を広げて迫ってきたからだ。
「うわっ!?」
 もし自分が容器を持ったままだったら、間違いなく中身をこぼしてお互いに火傷の恐
れがあった。それでも近距離なので相手の行動に対処しようがなく、尚樹は横から抱き
つかれる格好になる。
「……うん、これです。この感じ……」
「クリスさんっ?」
 熱っぽいクリスの声が耳元で発せられ、おとなしくなっていた心臓がやかましくなる。
ヒーターで温まった分もあり、彼女の手が回っている肩の部分から汗が噴き出した。
 それに、以前は意識しなかった柔らかい感触が二の腕ごしに伝わり、硬直して動けな
くなってしまう。
「人肌恋しい、って気分です。お母さんとは違う誰か。仕事仲間でもなくて」
 いっしゅん引っかかった尚樹だが、すぐさま「女の子ですよ」と付け足されてホッと
する。
「それで、僕?」
「はい」少女は小さな声。「さんたさんの体温、落ち着きます……」
 留守になった両手は膝の上に置いたまま、握り拳になって固まっている。金髪の少女
が身じろぎするたびに二の腕が埋まるような感覚になり、それが緊張を加速させた。
「去年みたいに、してくれませんか?」
 言われて、ふっと思い出す。
 研修生として初めての仕事に臨む不安を抱えた少女に、まるで従妹をあやすように頭
を撫でて、抱きしめた。今、それを要求されている。
 体を離した相手に触られ、まるで氷が解けるように腕の緊張が消えていく。尚樹はい
ちど向き直ってから、おずおずと手を伸ばした。
「んっ」
 頭頂部に手を乗せたとき、クリスがぴくりと反応した。その声でさえ心拍数を加速さ
せて、落ち着かせようとしている方がおちつかない。
 手に絡まない、さらさらとした髪だった。少女はこれが背中まで長く、色々な髪形を
楽しめそうな反面、手入れは大変そう。
 ときどき軽く叩くようにして、間延びした声が聞こえるようになってくると尚樹も全
身を伝う振動に苛まれることは無くなった。
「……っ」
 しかし、要求された事を淡々と実行できるほどではない。少女を撫でていた手を止め
た後、逡巡が割り込んで行動が遅れた。渇きを訴える喉に唾液を送り、軽く呼吸してよ
うやく次に移る。
「あ……」
 肩を引き寄せるようにして密着するふたり。先程は二の腕にあったゴム球が正面から
ぶつかり、気を抜くと潰してしまいそうになる。
 緩く抱いているつもりでも少女の吐息を意識してしまって、力加減が曖昧。ときどき
手を離してやり直す。
 途中、クリスが小さく笑んだのが聞こえた。

「さんたさん。私がここに戻ってきた証拠を残しておきましょうよ」
 再度、体を離す少女。畳んでいる脚の分くらいの微妙な距離で、そう提案する。
 彼女から言う時は、いつも突然だった。
 最初に寄ってきたように顔を近づけたと思うと、そのまま唇を取られる。柔らかいも
のが触れて、離れて、また見たときにははにかんだ表情。
 瞬きするまで一瞬の出来事とさえ思うほどで、なんとなくココア味の余韻があった。
「……クリスさん」
「はい、どうぞ」
 少女へは口に出すよりも裡で思った事の方が早く伝わる。そのくらい、尚樹は思考に
体がついていかなかった。
 先に仕掛けられたように、唇どうしの軽いキス。それだけで済んでもクリスは頬を赤
く染めて、また笑った。
 お互い名前も知らないのに最初の口付けを交わしてしまって、今回のこれは改めての
ファーストキスだったかもしれなかった。唇に相手の感触を残して、同時に彼女の言う
証拠にもなり得る。
「今日は仕事の日でしょう?」
「ええ。もうそろそろですね」
 壁にかけられている時計を確認して、尚樹は少女に訊く。
 子供が寝静まる時間は年々遅くなっているそうだが、さすがに夜の十一時となれば家
族全員が就寝しているところも多い筈だ。
「そうだ。さんたさんに良い物を見せてあげますよ」
 言って、立ち上がるクリス。ハロゲンヒーターから離れ、テーブル付近まで移動する。
「一回しかやりませんからね。……えいっ」
 パチンと指を鳴らすと、思わず目を瞑る程の強烈なフラッシュが尚樹を襲った。
 光が収まってから現れた少女の姿は、ほとんどを赤で占める衣装を身に付けた――い
わゆるサンタ装束。尖った葉を飾る帽子、襟と袖を白で縁取りした長袖、そして膝上の
スカート。変身前は青紫色のロングスカートで隠れていた脚は、腿まで長いソックスが
覆っている。
 そこへ金髪とブルーの瞳は、まさしく尚樹が一年前に出会ったサンタの少女そのもの
だった。
「……すごい」
 それしか口にできなかった。白いセーターとロングスカートの格好から、サンタ服へ。
魔法のような信じがたい出来事だが、見覚えのある衣装になったことで――今更ながら
――再会したことへの実感が湧いた。
「会いたかったです、さんたさん」
「僕の方こそ」
 振り返ると、ゴミ置き場の奥を眺めていたのが馬鹿らしい。話に出てきた洋菓子店の
存在をもっと早くに知っていれば、そのぶん多くの時間を彼女と共有できたはずなのに。
 無言でいる間もクリスは何度か頷いて……その仕草に尚樹はハッとした。
「なんだか嬉しいです。そんなに考えてもらっていると」
 くすくす笑いをしながら歩を進めるサンタの少女。読心能力があると分かっていても、
ヒトはこんなに思案してしまう。あいにく聞こえないふりはしてくれなかった。
「でも、私が突然ここに来たって信じてもらえないでしょう?」
「そんなことないよ」
 なにより、金髪碧眼の知り合いが他にいない。これだけ親しく話してくるのは彼女以
外に考えられず、尚樹は断言した。
「わっ」
 やってきた少女と、今度は立った状態で密着する。姿勢がどうであれ体温と感触は伝
わってきて、またしても手足に緊張が走る。
「私がここに居られるのは、さんたさんのおかげです」
 クリスの小さな声が耳に届けられる。

「去年のプレゼント、覚えてますか?」
 短く返事をする尚樹。
 本来は夢見る子供に対して働く彼女から、特別にプレゼントをもらっていた。その内
容は――
「『また会いたい』。ちゃんと、叶えましたからね」
「うん。受け取ったよ」
 そっと、少女の体を抱く。
 温かい。
 柔らかい。
 確かに、サンタの少女はそこにいた。
 しかし、安心するのも束の間、尚樹の頭には恐ろしい考えがよぎる。
「大丈夫です。またこの街で働けるようにお願いすれば、なんとかなります」
 少年から、いなくなるのは嫌、という思いを汲み取るクリス。
「さんたさんが不安になると、私も同じ気持ちになりそうです」
「あ……ごめん」
 どちらともなく、腰にまわした手に力が入る。密着が強くなり、体の間に挟まってい
る球が形を変える。
「……さあ、十分に温まりましたし、そろそろ仕事に行ってきます」
 それを合図に二人の体は離れる。だが、少女のミニスカートはどうにも寒そうで、こ
れから零下をゆく屋外に出るには不向きに見えた。
「待って、クリスさん」
 鞄を手に玄関へ向かうサンタの少女を呼び止める。背中まで届く金髪が揺れて、未だ
に赤い顔をしたブルーの瞳がこちらを向く。
 振り向き様、尚樹は彼女の唇を奪った。
「行ってらっしゃい」
「も、もうっ! ……そんなことされたら、行きづらくなるじゃないですか」
 あからさまに恥じらう。不意打ちに対する反応はなんだか新鮮で可愛らしくて。
 クリスに読まれることも構わず、尚樹は心の中で喜んだ。
「……んっ」
 それからもう一度口付けをして、今度こそ送り出す。
 静かに閉まったドアの音が、別れのフレーズにも聞こえた。


 再会を喜んだ家のドアから少し離れ、しんしんと降る雪の中を傘もなく歩く少女。
 視覚を楽しませる様々な色の明かりを眺め、鞄から赤色のマントを取り出し、羽織る。
 寒さ対策もそこそこに静寂の中で意識を研ぎ澄ませると、体が軽くなって宙に浮かん
だ。
「年末はまだ仕事が残ってますから、それが終わるまでは大丈夫ですよ。さんたさん」
 呟きは誰にも届かない。クリスは今、綺麗な心の子供へプレゼントを渡す役割を担う、
特別な存在だ。
 この状態であれば、自分を助けてくれた少年のもとへは簡単に行ける。そのことを思
うと体が温かくなって、深夜でもへっちゃらだった。

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