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 クソボケが――っ!
 キットの手から酒瓶はすっぽ抜けた。そして酒瓶は運動エネルギーを保ったまま、後ろに下がっていたアルバスの頭に命中した。
 アルバスは咄嗟の出来事で受け身を取れないまま頭を地面にぶつけた。

「近くで祭りがあるらしい。フェリジットも行くんだが一緒どうだ?」
 シュライグがアルバスたちを誘った。シュライグがそういうイベントに乗り気なのは珍しいとキットは思った。
「えっ、お祭りですかっ。ぜひ、行きたいです。アルバスくんも行きますよねっ」
 エクレシアは乗り気である。出店でいっぱい食べたいですと顔に書いてあるような笑顔だ。
「エクレシアが誘って…」
「私も行きましょう」
 フルルドリスがアルバスの言葉を遮った。お祭りで二人の距離が近くなることを許せない。そんな毅然とした声色である。
「あたしも行こうかな〜」
 キットは当然参加する。出店でコーラとポップコーンを買っていこうとキットは思った。アルエクの甘酸っぱいいちゃつきはキットにとって生の映画だ。眺めるのにこの二つは欠かせない。

「アルバスくん、ごめんなさい。私、どうしてもっ!」
 その次の言葉をアルバスは待たなかった。彼女の気持ちをアルバスは理解している。
「分かっている。エクレシアの気持ちを大事にして欲しい」
「お別れはすみましたね。エクレシア行きますよ」
 フルルドリスは勝ち誇ったような顔をする。エクレシアは心底申し訳なさそうにした。
「出店の端から端までお姉さまが奢ってくれるって言うんです」
「オレは大人の財力に勝てない…」
アルバスは項垂れる。力のなさを噛み締めているようだ。
「ご飯で釣るのって果たして大人なの?」
キットはポップコーンを口に放り込む。
「ふふふっ、大人は汚い生き物なんですよ」
 フルルドリスの悪人顔はなんか似合っていなかった。

「茶番だったわね」
 フェリジットはそう呟いた。残されたシュライグとキットはうんうんと頷いた。
「だからそんなに凹まないの」
 アルバスの尻をフェリジットは叩いた。それなりに落ち込んでいるアルバスには良い薬だ。
「リズ姉とシュライグはいいの? そこら辺の茂みとか?」
 キットはリズ姉にだけ聞こえるように小声で囁いた。姉はキットの頭に拳を振り下ろした。
「そんな思春期真っ盛りみたいなことしないわよ」
「リズ姉、冗談だって…」
「はいはい。コーラとポップコーン持っている妹に言われると説得力あるわ」
 姉はキットの首にかけた容器からポップコーンを奪っていく。
「はいはい。コーラとポップコーン持っている妹に言われると説得力あるわ」
 姉はキットの首にかけた容器からポップコーンを奪っていく。
「フェリジット…」
 シュライグは意を決したように言葉を始めた。
「まるでダブルデートみたいだな」
シュライグは顔がいい。だからこんなよく分からない言葉でもなんとなくいい雰囲気を作り出せる。なぜか告白シーンのような空気になり、イベントスチルになりそうな空間だ。
「えっ、まあ、そうね…」
 フェリジットは意味が分からないが、その空気に乗った。この空気ならいけるという姉の打算を感じた。
「じゃあ、二人で抜け出しちゃおっか…」
 キットはポップコーンをもぐもぐとしながら、思春期真っ盛りみたいな会話だなーなんて思っていた。コーラを一口飲む頃には、シュライグとフェリジットは人混みに紛れていった。
「茶番だったな」
 立ち直ったアルバスはそう呟いた。

 クソボケとは誰だ?
 キットとアルバスは祭りの人混みから離れ、茂みの中に入った。キットは片手に空の酒瓶を持っている。
 キットは自分の顔写真を樹木に貼り付けた。
「アルエクもシュラリズも見届けることが出来ない無能猫。あたしはただの美少女メカニックになってしまうにゃ」
「美少女って自分で言うのか?」
 アルバスはキットの言葉の意味が分かってないようで、理解できる範囲のツッコミを入れる。
 キットは意に介せず、酒瓶を振り上げる。

「イテテ……」
「アルバス、大丈夫。とりあえずこれ飲んで」
 体を起こしたアルバスにキットは駆け寄った。コーラを差し出した。アルバスは少し顔を赤らめてからストローを口にくわえた。
「オレはアルバス。それで君は?」
「キットだよ。シュライグみたいに記憶失くしちゃった?」
「オレは元々記憶がなかった。それでアルバスと名付けられて、鉄獣の元に行った。だいたい合っているか?」
「よしよし、記憶はあるね。じゃあ、大丈夫かなー」
「名付けてくれた人と夏祭りに来ていて…」
 アルバスは周囲を見渡した。人混みから離れた茂み、割れた酒瓶。
「オレはもしかして、取り返しの出来ないことをしたのか?」
「えっ、してないと思うけど?」
「隠さなくていい。オレは最低だ。名付けてくれた君を茂みに連れ込んで…」
 キットの頭に?が浮かぶ。ルガルほどの理解力をキットは持っていなかった。
「君の姉にも謝らなきゃ。オレは二度も殴られたことがある。どっちも痛かった。多分今度殴られた時が一番痛いだろう。でもオレは君を傷つけようとしたんだから罰は受けなきゃな」
「……リズ姉に殴られたこと、あったっけ?」
「あった。とても痛かった。たまに夢に見るほどだ」
(アルバスを名付けたのはエクレシアで、二度殴ったのはフルルドリスのはずだよねー)
エクレシア⇔キット
フルルドリス⇔フェリジット
「入れ替わっているーっ!」
 今度はアルバスの頭の上に?が浮かんだ。

「だからね。アルバスは記憶が飛んじゃったの。エクレシアのことをあたしだと思って、フルルドリスのことをリズ姉だと思っているの」
「そうなのか。にわかには信じられない」
 アルバスはキットに疑いの目を向けた。
「だいたい酒瓶で記憶が飛ぶわけないだろう」
「飛ぶのっ!」
 キットは記憶を戻そうとしたがうまくいかない。アルバスは結構頑固なのだ。
「おやおや〜、こんな茂みで二人は何しているのかしら。お姉ちゃん、妹が積極的だって知らなかったなぁ?」
「リズ姉、酒臭っ!」
 シュライグの肩を借りるフェリジットは酔っ払っていた。シュライグは散らばる酒瓶の破片とキットとアルバスを見た。
「キット、ひょっとしてアルバスは記憶を失くしているのか?」
「シュライグ、助けて」
 クソボケでない時のシュライグはとても頼りになる。そして記憶を飛ばしたことのある先輩だ。
「症状は?」
「役割が入れ替わっているみたい。エクレシアのことをあたしだと勘違いしちゃって」
「そうか」
「ええ〜、アルバス。私のこと忘れちゃったの?」
 酔っ払いの大人が会話に入ってくる。
「いや、覚えている。フェリジットだ。(二度殴られて)忘れる訳ないだろう」
「アルバスは覚えているって。シュライグ〜、それで私をどこに連れて行く気なの?」
「そのダル絡みする酔いが覚めるまでこの茂みにいたい。フェリジット、アルバスは役割を忘れているんだ。多分お前のことをフルルドリスだと思っている」
 シュライグはあまり酒を飲んでいないようだった。頭が冴えきっているとキットは思った。
「ふーん。じゃあ、アルバスは私とシュライグが結婚しているってこと覚えている?」
「そうだったのか。(かつての敵同士が)結ばれるなんて大変だっただろうな」
「そうそう。(シュライグのクソボケのせいで)大変だったわ。役割もちゃんと覚えているみたいよ? ちゃんと会話は通じるし」
 アルバスとフェリジットは正常じゃないかと顔を見合わせた。キットとシュライグだけが頭を悩ませた。
「こんな時ですまない。大事な話がある」
 アルバスは真面目な顔になった。キットは血の気が引いた。アルバスの最初の勘違いはまだ解消されていない。
「お兄さん、お姉さん。妹さんをオレにください。幸せにしてみせます」

「認めるわ。だってアルバスだもの」
 酔っ払って汚い大人であるフェリジットは目に涙を浮かべながらそう答えた。姉のそういう雰囲気を作り出す才能はあるんだなとキットは思った。
「待て、フェリジット。もう喋るな」
シュライグが慌ててフェリジットの口を塞ごうとしたが、酔っ払いのなんだかよくわからない言葉が続いた。
「ちゃんと責任を取らなきゃダメよ。男の子なんだから」
「そうだな。オレは(茂みに連れ込んだ)責任は取る」
「まっ、そんなに心配してなかったけどね」
 姉がうんうんと頷く姿をキットは冷めた目で見ていた。
「ねえ、リズ姉。自分で何を言っているか分かっている?」
「うんうん。エクレシアがキットでキットがエクレシアになっているんでしょ。だからアルバスはキットじゃなくてエクレシアに結婚を申し込んでいて。ん、なんでアルバスは私に許可を求めているの?」
 さっきまでの涙はどこでやら。フェリジットは回らない頭を使って考えているようだった。
「リズ姉、この前の挿絵の件をシュライグにバラされたくなかったらちょっと黙って」
「ええ〜、なにそれ。そんなことあったっけ〜?」
 キットの小声の脅しも今の姉には通用しない。

「ふふふっ」
 木の影から笑い声がした。コーラとポップコーンを用意して生の映画を眺めているようなそんな声だった。
 アルバスがその声を聞いて硬直する。彼にとっての逆らえぬなにかが声を出している。
「ごめんなさい。お姉さまがもう少し様子を見てからがいいって…」
 エクレシアは申し訳なさそうに現れた。両手に食べ切れるほどの大量の出店の食べ物を抱えている。
「エクレシア、オレをアルバスって名付けてくれた」
「はい、そのエクレシアですっ。アルバスくん、大丈夫でしたか?」
「頭を打ったところがジンジンする。なんで痛いのか分からないけど」
 キットは視線をそらしたが、エクレシアは見逃さなかった。
「アルバスくんに、なにをしたんですか?」
「ちょっと、酒瓶が…」
「アルバスくんに謝ってください」
ずいとエクレシアはキットに近づいた。流石に耐久力のあるシュライグとは違うのだ。キットも悪いとは思っている。
「ごめんね。えっと、手が滑って酒瓶が当たったんだ」
「えっと…事故なんだろう。木を殴ろうとして、偶然当たったような気がする」
 フルルドリスは木の陰で酒を一口飲んだ。いいポジションで今回の事件を眺められて、満足した。
「一件落着ですね」
 アルバスがその声を聞いて震え上がったのをフルルドリスは知らない。 


「アルバスくん、祭りを抜けて茂みに入っていく人たちってなにをしているんでしょう?」
 エクレシアはりんご飴をかじりながら、アルバスに聞いた。二人でりんご飴を齧りながらゆっくりと歩いていく。
「そりゃ、その…」
「キットちゃんみたいにお説教とか。フェリジットさんみたい酔っ払い過ぎて介抱されているとか」
 キットは気軽に酒瓶を使うのは良くないとシュライグに説教されている。フェリジットはその横で木にもたれ掛かって眠っていた。
 幸いとばかりにアルバスは話題をそらすことにした。
「キットにもりんご飴買っただろ。流石に祭りを楽しめないのは良くないと思うんだ」
「そうですね。キットちゃんも反省しているようですし」

 アルバスはりんご飴の甘酸っぱい味を忘れられそうにないと思った。

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