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 クソボケが――っ!
 キットは瓶をシュライグの頭に振り下ろした。

 シュライグは鉄獣戦線のメンバーを連れて待ち合わせ場所に向かった。フェリジットがいい店を見つけたとのことだ。
 そこで待っていたのは、オシャレをした最愛のリズ姉だった。化粧とは無縁の女戦士のように振る舞う姉が、ばっちり決めているのである。そして着ている服はかつてキットにデート用の服と言っていたもの。

 キットは察した。鉄獣戦線のみんなも察した。

「ねーシュライグ、今日のリズ姉なんか違うんじゃにゃい?」
「ああ、服が普段と違う。戦いには不向きだな」
キットのパスをシュライグは無視した。リズ姉は泣き出しそうになっている。
 キットは激怒した。
 必ず、クソボケな将を除かなければならぬと決意した。キットにはクソボケが分からぬ。手頃な瓶を握ることにした。

「ここは、どこだ。俺は一体……」
シュライグが目を覚ます。周りには心配そうに見守る鉄獣戦線のみんながいた。
「君たちは誰なんだ?」
シュライグは記憶喪失になっていた。
「俺たちは鉄獣戦線だ。シュライグ、お前は俺たちの仲間だ。わかるか?」
「そうだ……俺はシュライグ。鉄獣戦線も分かる。確か君はルガルだったな」
「その通りだ。察するに記憶に穴があるな。今日はお前はデートする日だったんだ。一人で行くのが恥ずかしいからと俺達を連れてきた。途中で別れる予定だったんだが転んで頭を打った」
ルガルはスラスラと嘘を並べた。シュライグは友の言葉をすべて信じた。
「ほら、恋人さんが待っているぞ。早く安心させろ」
ルガルはフェリジットの方を指差す。流れについて行けないのはフェリジットだけだった
「君は誰だ?」
シュライグは目を丸くした。
「君のような綺麗で可憐な人を俺は知らない」
 デートは続く。フェリジットの耳には小型の無線機をつけさせた。キットお手製のものだ。鉄獣戦線のみんなは周辺から遠眼鏡で監視を続けることとなった。
「君とは何度もここに来ているのか?」
 シュライグは周囲を見渡しながらそういった。少し高級なレストランはカップルで賑わっている。
「あー、いや。初めてかなー?」
 フェリジットはめちゃくちゃ照れている。両手に持っているのは両方ともフォークであることに気がついていない。思わぬ幸運に恵まれた姉が幸せそうで、キットは喜びのあまり小躍りしそうになるのを必死に堪えた。
「そうなのか。んっ……?」
 シュライグは自分の持ち物を漁り始めた。鞄や服のポケットに手を入れる。
「俺はこんな店に来て、プレゼントを用意してないのか?」
周りの客がプレゼントを恋人に渡す姿をシュライグは見逃さなかった。
「えっとねー……それはその……」
キットは言い淀む姉に言葉を告げる。
「きっと、家に忘れてきたんでしょ。後で貰ってあげるわ」
「すまないことをしたな。俺は恋人失格だ」
「良いのよ。別に。ほら、デート前ってソワソワしちゃうし、うっかりすることだってあるでしょ」

 静かに会話を交わす二人はまるで本当の恋人だった。鉄獣戦線―出歯亀のキットは腕を組み肯いている。
 クソボケであるもののシュライグとリズ姉の相性はいいのだ。二人結ばれる未来も遠くないなと思った。そしてキットは敬愛する姉に最後の指示を飛ばした。
「ねぇ。この後、私の部屋に来ない? にゃっ……キット……」
 フェリジットは後半部分を誰にも聞こえないような音量に抑える。
 しかし愛しの姉の甘っぽい誘惑に誰が耐えられようか。必ずやシュライグは答え、二人のゴールは近い。
「ああ、俺たちは恋人同士だからな。行くよ」

 キットは鉄獣戦線のみんなを散らす。これ以上着いていくのは野暮だと分かっているようで、みんなは素直に従った。
 中ではムフフな状態になっているのだろう。キットは安心して家に帰ることにした。姉の健闘を祈った。

 フェリジットの部屋で、フェリジットは膝をついている。シュライグは立ったままこう言った。
「お前は誰だ?」
シュライグはフェリジットに銃を向けていた。

 部屋に入った直後のことだ。
「そう言えば、君の部屋に来るのは何度目だ?」
「えっと……」
 指示と知恵をくれた鉄獣戦線の出歯亀はもういない。ここからはフェリジット自身のアドリブ力がものを言う。
「3回目かな?」
恋人同士という設定なのだ。これぐらい来てほしいという願望もフェリジットは込めた。
「そうか」
シュライグは納得してくれたようだ。何度も肯いている。
「それにしては……俺のものがなにもないんだな」
「シュライグって物を置きたがらないのよ。全部持って帰っちゃうし」
「痕跡も一つ残らずか。我ながら几帳面だ。ところで俺と君の写真はないのか。恋人同士なんだろ?」
「えっと……シュライグって写真撮るとき緊張して変な顔になるからって残したくないのよね」
「記念品らしきものもない。か」
 シュライグは素早く銃を抜いた。安全装置は服の中で外していたようだ。
「膝をつけ。両手を上げろ。お前は誰だ?」

 なんでこんなことになっているのか。フェリジットには分からない。ただデートに誘ったらクソボケが来て、ルガルの機転とキットの甘言に乗せられてこんな状況になっている。
 訳が分からない。確かに騙しているみたいで悪いなーって思っていた。
 今日は落差が激しい。なんでデートに誘ったらみんなを連れてきたのか。レストランでの幸福感は何だったのか。何で好きな人に銃を突きつけられているのか。
 耐えきれずフェリジットは泣いた。ボロボロに泣いた。自分に合うようなメイクもセットに時間が掛かった髪もなにもかもどうなってもいい。めちゃくちゃ泣いた。
「……フェリジットか?」
 シュライグは銃を下ろして安全装置をかけた。
「バカ! もうシュライグのバカ! クソボケ! 無駄に察しがいいバカ!」
「すまない。フェリジットとは思わなかった」
「なんでよ。クソボケ! いつも私の顔見てるでしょ」
「今日はとても綺麗だ」
 シュライグの率直な言葉でフェリジットは喜んだ。

 一緒にアジトに来た二人をキットは目撃した。シュライグが一人になったタイミングでキットは突撃した。
「シュライグ、リズ姉とどうだった?」
「俺はあれからフェリジットに指一本触れていない。安心してくれ。彼女は大切な仲間だ。傷物にはできない」

 クソボケが――っ!
 キットは再び瓶をシュライグの頭に振り下ろした。

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