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「シュライグ、この後ちょっと暇よね。一緒に街歩こ」
「ああ、街の様子を視察するのも大事だな」
 暖簾に腕押し、泥に杭。フェリジットの何度目かのアプローチも虚しくデートなんて雰囲気にはならなかった。
 完全に仕事である。
 商品を見て流通やら考えたり、賑わう店舗を数えたり、ちょっと汚い貧民街やら労働者が集まる酒場になんて入ったりした。

「おい、姉ちゃん。おっぱいでかいじゃねえか。ちょっと揉ませろや」
 店に入った途端に義足の男がそんな冗談を言う。民度などほぼ無い酒場なのだ。こういうのもいると割り切ってスルーした。
「断る。俺の女に変なことを言うな」
 珍しくシュライグは怒っていた。珍しいことだが、こんな場所で争いごとなんてごめんだった。
「へー、いつも私のおっぱい揉んでいる人がよく言うわね」
 酒場で笑いが起こった。

 二人で夜道を歩く。
「酷い酒だったわね。料理も不味かったけど、とても安かったから文句言えなかったわね。あの酒、密造酒じゃないかしら」
「あの店は傷痍軍人が多くいた。店主もそうだったな。働くにも職がないんだろう」
 シュライグの声に覇気がない。なぜか落ち込んでいるようだ。
「すまなかった。あの時なぜか無性に腹が立った」
「別にいいのよ。シュライグは言葉が足りてないこと多いし」
「そうか。そうかもな……」
シュライグは少し黙った。
「悪い酒を飲んで、俺は悪酔いしている。だから聞き流してくれ」
「……愚痴なら聞いてあげる」
「俺はフェリジットと一緒にいるとポカポカする。だからフェリジットが傷つくところを見たくない」
「私のこと、好きって意味かしら」
フェリジットはわざと冗談めかして尋ねた。そうでもないと彼の言葉で傷ついてしまう。
「そうだ。好きだ。好意を寄せている。だが忘れてくれ。組織で色濃い沙汰なんてろくな事にならない。それに大切な友人を失いたくない」
月がまだ昇っている途中の時間だ。
「ねえ、シュライグ。飲み直そ。夕飯安く済んだし、お酒一本ぐらい買ってもいいでしょっ」
「……そうだな」
 シュライグは肩を落とす。完全に告白して振られた男の図であった。一方、フェリジットは予想外な答えが返ってきて仮面を外すタイミングを見失ったのだ。自分が傷つかないように、恋をいつか諦められるように、思っていたのが仇になった。
 ちょっとだけすれ違う二人は、すぐ出来るはずの答え合わせを後回しにしてしまった。

 彼はグラスを掲げた。
「友人に乾杯」
シュライグは捨鉢になっていた。普段なら絶対やらないようなことをする。
「ええ」
「顔が赤いな。飲みすぎているのか?」
「シュライグと同じぐらいしか飲んでないわよ?」
「……そうだったな」
 フェリジットはどうやって自分の想いを伝えていいのか分からずにいた。あの瞬間に戻れたらと思ったが、戻ったとしてもうまくできる自信はない。自分が好きな人に好かれているということがなにより嬉しかった。
 シュライグはフェリジットの複雑な顔を心配そうに眺める。
「平気か?」
「そ、そうでもない……かも?」
「忘れてくれ。酔っぱらいの変な言葉だ」
「忘れないっ!」
フェリジットはムキになる。こんな風に勘違いされたままでは困るのだ。
「友人の痴態なんて……」
「私だってシュライグのこと好き。友人なんかじゃなくて恋人になりたい」
「……」
 フェリジットは言葉を遮った。シュライグは言葉に詰まる。
「そうか。俺も好きだ。フェリジット」
 シュライグは天を見上げた。涙を見せないようにする彼の癖だった。

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