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 シュライグは上半身の服を脱いでうつ伏せでベッドに寝ていた。静かな寝息が口から漏れている。
「へっへっへっ…凶鳥のシュライグほどの人物が無防備な背中を晒しちゃって、おじさんの好きにしちゃっていいカナ?」
 忍び寄る小柄な影が一つ、ベッドの側にすり寄った。
 シュライグの背中には傷が多くあった。それでいてバランスの良い筋肉が美しい。
小柄な人物は彼の背中、肩甲骨付近の羽の根元に顔を埋めた。
「キット」
 シュライグの声で、小柄な彼女の耳がピクリと反応した。
「なにをしている?」
「モブおじごっこかなー」
 キットの照れた声を聞いてシュライグはまた眠り始めた。

 シュライグの機械の羽は定期的にメンテナンスが必要になる。それを担当するのはメカニックのキットの仕事だ。シュライグは上半身裸になって接合部をキットに見せる。
「ねえ、シュライグ…」
「ああ」
 キットが声を掛けても、シュライグはとても眠そうにしていた。椅子に座る彼はまぶたが重いようで、船を漕ぐという表現がぴったりなほど頭が上下していた。
「忙しいのは知ってるけど、仮眠する?」
 キットの研究室には彼女の仮眠用のベッドが置いてある。夜遅くまで開発をして、部屋に戻るのが面倒な時はそこで眠る。
「そうさせてくれ」
 フラフラとした足取りでシュライグはベッドに向かった。倒れ込んでそのまま動かなくなった。
「にゃっ」
 キットは少しまずいと思った。シャワーもせずにいつも寝ているからベッドは少し汗臭いのではないか。
 汗臭いベッドを使わせるのは乙女の尊厳に関わる。枕とかシーツとか替えておけば良かったと後悔した。
「ねぇ、シュライグ。あたしのベッド臭くない?」
 キットに対して返事はなかった。シュライグの寝息が帰ってきた。

「えっ、事案?」
 キットはフェリジットの声で目を覚ました。キットはいつの間にか眠ってしまったようだ。そんなことよりも最愛の姉の顔だ。静かに少し怒気をはらんでいる。
「キット、なにをしているのかしら?」
 リズ姉を怒らせてはいけない。キットはよく知っている。

「暇…」
 シュライグはまだ起きない。メンテナンスはもう終わっているためすることがない。モブおじごっこも反応がなければつまらないのだ。
(作りたいものあるけど、寝ている人の隣で大きな音を立てられないかな)
シュライグの隣に少しだけスペースがあった。キット三人分がすっぽり収まる大きめのベッドなのに彼が寝ると小さく見える。キットはシュライグの左隣に寝転んだ。
(あれ、シュライグの羽毛ってフカフカで気持ちいい?)
気がつくと、眠っていた。

以上がフェリジットに対する弁明である。

「お姉ちゃんね。キットが半裸の男性と同じベッドに入るのはちょっと早いと思うな」
 寝ているシュライグを起こさないように、姉は小声でキットに釘をさす。
「でもね、リズ姉。シュライグの天然羽毛布団はよく眠れるよ?」
「じゃあ、そこを退きなさいよ。お姉ちゃんはシュライグ布団使うから。一時間はこの部屋に戻ってこなくていいわ」
「ここ、あたしの研究室だよっ?」
 姉という生き物は理不尽な要求をする。家族内においてヒエラルキーの下のものには反論すらも許さない。
「だから?」
 その一言でキットはわからされた。ベッドからおりて場所を明け渡す。フェリジットはシュライグの左隣に体を縮めて潜り込んだ。
「へぇ、いいわね。シュライグの天然布団。これなら気持ちよく眠れそうね」
 妹はちゃっかりしている。姉という暴と力の化身がそれを鍛える。
 キットはシュライグの左隣に潜り込む。
「ねえ、キット。お姉ちゃんに譲る心は持ってないの?」
「別にいいでしょ。リズ姉はいい場所使っているんだから」
「そうじゃ…」
 フェリジットはシュライグと目があった。シュライグはもう充分なほど眠っていた。
「起きていいか?」
 困惑した声でシュライグは自分の両隣にいる猫たちに尋ねた。
「ダメよ」
「ダメー」
 猫の姉妹はそれからクスクス笑った。

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