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 烙印芸能世界ではアイドルや歌手のみが入ることができる会員制の居酒屋がある。口の堅い店員と完全予約制の店はさらけ出せない本音を吐く憩いの場になっていた。
「なにがフルルだっ!なにがぱにっしゅ❤だっ!私だって、私だって…」
 フルルこと教導のアイドル―フルルドリスは熱燗を飲み干した。
「そうか」
 シュライグはもつ煮をもぐもぐ噛んでいた。飲み込むタイミングが分からず、口の中で延々と残り続ける。
「聞いているのか、シュライグゥ!」
フルルドリスは体を乗り出し、横に座る彼の肩を揺さぶる。その衝撃でシュライグはもつ煮を飲み込んだ。
「ゴクン。聞いている。事務所に相談したらどうだ?」
「マクシムスPがそんなこと許すはずないだろうがっ!」
「そうか」
「なにか言え!このクソボケがっ!」
 シュライグはおでんの大根を四等分しつつ、言葉を考えていた。
「だが、フルルは一流のアイドルだ。違うか?」
「違わない…でしょうね。フルルは確かに一流のアイドルです」
「才能とやりたいことが噛み合う訳ではない」
 シュライグは大根とちくわをパクパク食べてから焼き鳥を注文した。
「それは俺も同じだ。格好いいと思って作った曲は電波と呼ばれ、フェリジットが歌詞を推敲して、ルガルが編曲する。全くの別物になった曲を俺のものとして歌う」
 シュライグは焼き鳥の肉の刺さり具合に満足してから、五本食べ終えた。そして彼はゆっくりと言葉を続けていく。
「俺とお前に違いはない」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれないかしら」
 フルルドリスが聞いていた言葉を正確に書くと、「それは俺も同じだ。ほう、噂に聞いていた通りいい焼き鳥を作る。この刺し具合、見事な腕だ。それで曲の話だが、俺が格好いいと思って。むっ、うまいぞフルルドリス。作った曲は電波と……」であった。
 フルルドリスの酔った頭では半分も聞き取れていなかった。
「理想と現実のギャップなんて誰にでもある。だが俺は現実も嫌いじゃない」
 フルルドリスにシュライグは酌をする。お前はどうだと彼の眼差しが語っていた。
「嫌い、では…」
 フルルドリスは思い返す。マクシムスPによって厳しく可愛さのトレーニングを続ける日々。バックダンサーたちのキレッキレのダンス。着ぐるみを着て応援に駆けつけたエクレシア。そして野太い声で『フルルたん、可愛い』と叫ぶファンの声。その時に思ったすべてを。
「いや、嫌いですね。こいつらいつかパニッシュメントしてやると思っていました」
「エクレシアにもか?」
「無垢さは時に残酷です。私の心を踏みにじる言葉を掛けてきます」
『お姉さま、とってもとっても可愛いですよっ』
『お姉さま、間違って格好いい衣装が発注されていたので私がキャンセルしておきました』
『お姉さま、その、フルルの良さは違うと思います。お姉さまの衣装はこっちですよ』
 酒を飲み干したフルルドリスはシュライグに酌をさせた。
「前回のコラボ、好評だっただろう。第二弾がマクシムスPに打診されている」
「ほう。詳しく教えてくれませんか?」
「そこで俺は最高に格好いい曲をマクシムスPに見せた。即座にオッケーを出してくれた。次のコラボではフルルがその曲を歌うんだ」
「シュライグが作った曲を私が?」
「ああ、その曲はルガルにもフェリジットにも見せていない。鉄獣戦線の曲じゃない。俺の曲だ。フルルドリスにピッタリなクールでロックな曲だと思ってくれ」
「ふふっ、貴方の方からそう言ってくれるとは、嬉しいものですね。是非歌わせていただきます」
「次のライブ、俺たちで成功させよう」
 二人は酒を酌み交わした。

 結果としてシュライグが作詞作曲したフルルの新曲は大ヒットした。一見まともに歌っているがよく聞くと意味が分からない歌詞が最高にフルルらしいと話題を呼んだ。

「ねぇシュライグ。フルルに提供した歌詞なんだけどさ。この『片方だけ脱いだ靴下』って唐突に二回目のサビ終わりに出てくるんだけど何?」
 フェリジットはシュライグの書いた歌詞を読みながら言う。編集モードの彼女はシュライグに少々手厳しい。
「サビの『両手で剣を握って』に掛かっている部分だ。彼女の戦いの後のだらけた姿をイメージしている」
これぐらいならシュライグは答えられる。
「意味が分からないけどいいわ。問題はその後よ。なんで童謡アレンジしたパートになるのかしら?」
「…?最高だろ。なにがいけないんだ」
「曲の展開が分からないことね。シュライグに求められているのはV系としての格好良さよ。意味が分からないのはいいけれど、もっと格好いい歌詞を作ってよ。いつもはちゃんと言えば直してくれるのに、どうしてコラボの時だけやっちゃうのよ?」
「フルルとのコラボだからだ」
シュライグは自分の心に嘘をついた。その答えにフェリジットは深く肯いた。
「まあ、分からなくはないわね。この曲は彼女の世界観に合っているもの。私だってフルルみたいにフリフリの衣装着てあんなメルヘンな曲歌ってみたいわ」
「そうか」
シュライグはそれ以上余計なことを言わないように努めた。

 鉄獣戦線は血なまぐさい戦いに勝利を収めた。疲れ果てた戦士たちは今日は泥のように眠るだろう。
 目を引く容姿と舞うような戦い方から彼女は徒花と呼ばれていた。フェリジットは服の汚れも自分の汗の気持ち悪さも気にせずベッドに転がる。
「服ぐらい脱いだらどうだ?」
 シュライグが彼女の側で声を掛ける。彼もまた勇敢な空中を舞う戦士で鉄獣戦線の長だ。どこか薄幸そうな整った顔をしている。
「脱ぎたくないわ。とても疲れているもの」
 フェリジットは目をこすった。明日服がシワになって後悔してもいいかと思う。
「明日、八つ当たりされたらたまらん」
「じゃあシュライグ、私の服を脱がしてよ」
 フェリジットは片足をシュライグの方に向けた。履いたままの長いブーツを彼はゆっくりと脱がす。そして太ももまである靴下ゆっくりと丸めていった。彼の指が太ももから爪先まで降りていく。
「濡らした布で拭く。いいな」
 シュライグは彼女の指の間から太ももの付け根まで隅々を拭いた。フェリジットはもどかしい興奮を覚えた。ふと、シュライグの顔を見ると彼もまた同じ気持ちのようだ。
「抱く。優しくはしない」
 彼の興奮なのか彼女の興奮なのか。誰にも分からない。
「私、汗臭いよ」
「俺もだ」
 二人の体が重なった。


「なるほど。そういう意味だったのね」
 ここは烙印芸能世界。さっきのはシュライグが直してきた歌詞を読んだフェリジットの妄想である。
「最初とあまり変わらないと思うが」
「全然違うわよ。でもこれなら童謡の意味もなんとなく分かるわね。ただし童謡の部分はカットするけどね」
 シュンとするシュライグにフェリジットは優しくはしない。この男は誰かが首輪をつけて制御しなくてはいいものを作ることができない。
「そんな顔してもダメよ。シュライグのブランドは守らなきゃいけないんだから」

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