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 フルルドリスは空腹だ。
 地平線を埋め尽くし、生き物を全て飲み込むような砂の中をようやく抜け出した。たどり着いた集落は賑わっている。ここは広大な砂漠の中で数少ないオアシスであった。
 市場ではゴルゴンダ砂漠で生計を立てるトレジャーハンター達が高く宝物を売ろうとしている。反対に宝を都市に運んでいく行商人達は傷がないか目を光らせていた。彼らの喧嘩のような取引が活発に行われている。
(そんなことよりも店を探さなくては。いい加減砂が混じっていない食事をしたい)
 フルルドリスは体についた砂を落とした。お昼過ぎの今ならどこでも空いていた。

 入ることにしたのはこの集落で一番綺麗にしている店だった。
「らっしゃーせー」
 テーブルを拭いていた店員は気怠い声を出す。高身長で筋肉質の男だ。片翼の鳥人で顔が整っている。黒い服の上にサイズがあってない白いエプロンをしていた。
 その顔にフルルドリスは見覚えがあった。
「凶鳥のシュライグ……なぜ、ここにっ!」
「実家だ。飯なら席につけ。風呂なら二階。喧嘩なら外だ」
鉄獣戦線の長はやれやれと肩を竦める。元教導の騎士団長は席に勢いよく座った。
「食事を。メニューはありますか。それとおすすめがあれば」
「キュウリのスープ、ビール、リスの串焼き、キュウリのスープ、腸詰肉、キュウリのスープがおすすめだ」
「……キュウリのスープを推しますね」
「冷蔵庫から出すだけだ」
シュライグは金属製の箱を指差す。猫の獣人のイラストが小さく描かれていた。
「味の方は……?」
「不味いわけないだろう。特に砂漠を越えた人間には」
シュライグはフルルドリスの喉渇きを見透かすように言った。
「それを。それとビールとリスもお願いします」

 フルルドリスは薄緑色のスープを一口飲んだ。
 ミキサーにかけたキュウリにヨーグルト、ヤギの乳とブイヨンを混ぜている。ニンニクがよく効いてタバスコの辛味が隠し味に入れてある。暑い砂漠にピッタリなものだった。
「美味しい」
水分を失った体に染み渡る味だ。気がつくと皿が空になっていた。
「おかわりはありますか?」
「それで終わりだ。昼限定の料理だからな。夜の砂漠は冷える」
 シュライグは厨房で角切りになったリスの肉を串に刺していた。タレにつけてある肉を器用に刺していく、手際の良さは彼が百舌鳥だからだろうかとフルルドリスは思った。
「ビールはリスと一緒でいいな」
「ええ。それよりもここがあなたの実家とは知りませんでしたね。教導国家が調べた限り部族を追放されてからのあなたの足取りは不明でしたので」
「……流石の教導も追えなかったか」
肉の焼ける匂いがフルルドリスの空腹を強くした。
「差し支えなければ、教えてくれませんか? 私はすでに教導国家を抜け出した身。好敵手がどう生きていたのか、私は知りたい」
 少し黙ってシュライグは簡潔に言った。
「部族を追放されて、少年傭兵になった。その後、捕虜になり奴隷としてこの町に来た。この店に買われた」
「奴隷としてではなさそうですね」
「ああ、養子みたいに扱ってくれた。オヤジとお袋には子供がいなかったからな。オヤジに料理を叩き込まれてから家を出てトレジャーハンターをしていた。……焼き上がった。冷めない内に食え」
 ビールとリスの串をシュライグは運ぶ。そして近くの席に座った。
「毎日食べたい味ですね」
肉を一口食べたフルルドリスが言う。
「そうか」
「この肉はパンを挟んでも良さそうな味ですね」
「手で千切れないほど硬いパンならある。柔らかいパンで挟むのは無理だな」
「良ければレシピを置いておきましょうか?」
シュライグは眉を顰めた。彼はフルルドリスのことを知らない。
「私の実家はパン屋なので」
「意外だ」
「よく言われます」
 フルルドリスはビールを飲んだ。四本あった串を全て食べ終えている。
「腸詰肉もお願いしますね」
「分かった」
 シュライグは厨房に戻った。

「凶鳥のシュライグほどの人物が店番をするとは驚きました」
「たまたまだ。近くに用があってついでに実家に寄ったらオヤジが腰を悪くしていた。一日だけ店を任された」
「ふふっ、では珍しいものを見れたということで。あなたの一面を知れてよかった」
「そうだろうな。俺も騎士団長があんなに飯を美味そうに食べるとは知らなかった」

 会計を済ませたフルルドリスは外に出る。日差しはまだ強く、外の暑さに一瞬目眩がした。
 風が町に砂を運んでくる。砂に体を飲み込まれそうな強い風だった。それでも休息を終え満腹になったフルルドリスは歩みを進めた。

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