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「うえーさーまーっ!」

「やかましい、近寄るな小娘!」

ライズハートは抱き着こうとするメイルゥの頭を押さえ、それを阻止する。
巻き戻された世界でかつて吸収されたはずの感情は分裂したまま残り、それぞれの道を歩んでいた。
真のヴィサスになる事を諦めていない彼は、まだ研究を続けている。

「働き詰めだと倒れちゃうよ、ユニコーンさんも何か言ってあげて!」

「ライズハート様、彼女の肩を持つ訳ではありませんが……」

ユニコーンはそう言うと盆の上に乗せられた3色の団子と湯気の立つ茶を差し出す。

「良いだろう……おい待て、2人分あるようだが?」

「はっ、客人用も含めておりますので」

ライズハートがそれを受け取るとユニコーンは返事を待たずに部屋から出て行く。

「客人?」

「貴様の事だろうが」

「あっ、置いていかないでよー!」

疑問を口にするメイルゥを置いて部屋を出るライズハート。慌てて彼女は彼を追いかけた。

「そもそも俺は客など呼んだ覚えはない……!」

「そんなこと言わないで、お団子食べようよ」

縁側に座布団を敷き、外を眺める2人。高台にあるマナドゥムの木が風で揺れているのが見えた。

「良い景色だねぇ」

「ふん……」

ライズハートは茶を飲みながらメイルゥに慕われるようになった日の事を思い出す。
気まぐれで迷子だった彼女をティアラメンツの仲間たちの元に連れて行ったのが始まりだった。

(人魚共の顔も酷かったがライヒハートの表情も中々だったな……俺をなんだと思っているんだ……)

「上様、眉間のシワが酷いよ?」

「誰のせいだと思っている」

「えーと……ヴィサス?」

「今は貴様だ!」

「えっ?」

メイルゥは意味が分からないと言った様子で首を傾げていた。

「俺に付きまとうな、貴様にしてやれる事など何もない」

「そんなことないよ、上様は優しいし……」

「領地にいた迷子を追い返しただけだろうが」

「でも……」

「分かったらさっさと出て行け」

メイルゥは立ち去らず、ライズハートを真剣な眼差しで見つめていた。

(チッ、またこれか……)

この視線が嫌いだった。あの時のヴィサスのような強い意志を持った瞳が彼を見つめる。

「そもそも、俺とお前が共にいて何の利がある?」

「お団子が美味しくなる!」

(なぜ俺はこんな小娘に懐かれてしまったんだ……)

ライズハートは頭痛を覚え、眉間を指で押さえる。
メイルゥは考え込んでいる彼の横に座り、顔を覗いて来る。

「上様?」

「……おい、近いぞ」

「お団子美味しかった!」

「話を聞け」

「上様、あーんして?」

「ふざけるのも大概にしろ!」

ライズハートがそう怒鳴るがメイルゥは団子を彼の口に近づけたままだ。

「あーんして?」

「はぁ……今回だけだぞ」

折れた彼は差し出されたそれを口に含む。その様子に彼女は笑顔を見せる。
団子を1本食べきると、彼女は再び彼に話しかける。

「上様、もう一本どう?」

「……もういい、貴様が食え」

メイルゥは手に持った団子を食べ始める。このまま黙っていて欲しい、とライズハートは思った。

「上様、この団子美味しいね」

「……あぁ、そうだな」

彼は適当に相槌を打ちながら再び茶を啜る。

「お団子なくなっちゃった」

「……貴様が食べたからだ、太るぞ」

「あーっ!女の子にそういう事言う!?」

「事実だろう」

頬を膨らませて怒る彼女にライズハートは呆れたように返す。

「なら一緒に運動しよ!」

「断る、俺には必要ない」

「上様ひどい!鬼!悪魔!」

「知らん……オーガ!この人魚をつまみ出せ!」

彼は喚くメイルゥを置いて立ち上がると、部下を呼ぶ。

「そうは行かないもん!」

ライズハートの背中に飛びつくメイルゥ。

「ええい、離せ!俺に付きまとうなと言っている!」

「嫌ですー!」

2人の声が響き、呼びだされたオーガは困惑して手出しができずにいる。
結局、ライズハートは再び自らの手でメイルゥを送り返す事になるのであった。

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