2chの「軍人や傭兵でエロ」のまとめwikiです


 あのとき、私はどうやって死のうか、それだけを考えていた。偶然拾ったルガー拳銃には、弾が2発。おびえた小鳥のように震えているイレナを撃ち殺して、それから自分の頭に1発。何度計算しても、その答えしかでてこない。

 でも、私は、死にたくなかった。死んではいけなかった。

 あの頃、帝都はただの瓦礫の塊だった。総統は自殺し、イワンどもが我が物顔で街を闊歩している。散発的な抵抗は続いているが、それは例えば誇りを持って死ぬためであり、あるいは敬虔なキリスト者が選びうる範囲での自決を勝ち取るためだ。

 私とイレナは、第12SS装甲師団の生き残りだ。
 ……本当のことを言うと、私たちはあの有名な第12SS装甲師団の正式な一員ではない。わたしたちはブダペストに住んでいた民間人で、難民だった。たまたま第12SS装甲師団の人たちの手伝いをする機会があって、そのとき私たちは、彼らが私たちの家と日常を取り戻してくれると、本気で信じていた。だから、寝る間も惜しんで働いた。
 明日には出発という頃には、師団長様も私たちの顔を覚えてくれていた。名前は聞けなかったけど、あの人は私たちに鉄十字章をこっそり渡して、「フロイライン、君たちは立派な戦友だ。残念ながら部隊章に余裕がないから、かわりといっちゃなんだが、君たちにこいつをあげよう」と言った。私たちはびっくりして、オドオドしながら十字章を受け取った。
「さて、晴れて我が師団の一員となった君たちに、重要な使命を与える」。わたしたちは反射的にきをつけの姿勢になった。
「何があろうと、生き延びるのだ。この戦争は、もう終わりだ。諸君らは、生きねばならない。俺は、年端もいかんガキどもを死地に連れて行く仕事がある。天国にはいけんだろう。俺のためでなく、ましてや総統のためでなく、ただあいつらのために、どうか、諸君らは生き延びてくれ」
 次の日の朝、師団は東に旅立った。見送る私たちの手に、同い年くらいの男の子が、無言でチョコレートを一掴み、握らせていった。



 ゆっくりと、夜の帳が落ちてきた。体の芯を凍らせるような寒さが忍び寄ってくる。火が欲しい。でも焚き火なんてしたらイワンを呼び寄せるも同然だし、そもそも火をつける方法がない。
 そのとき背後で、ガタン、と物音がした。
 反射的にルガー拳銃を構え、物音の方向に撃つ。2発撃って、自分がとんでもないことをしたことに気がついたが、もう遅い。イレナは頭を押さえてうずくまり、私は真っ青な顔でルガーを握り締めていた。
 ガサリ。
 当たらなかったのか。絶望が一気に押し寄せてくる。
 突然、闇の中から影が飛び出してきた。拳銃を構えなおす暇もなく、突き倒される。落ちていく夕日の最後のひとかけらが、ナイフの刃に鈍くきらめく。私はパニックに陥った。
 でも、次の瞬間、私を押さえ込んでいた力が弱まった。
「なあんだ、やっぱり民間人か。ルガーの発砲音だから、そうかな、とは思ったんだけど。弱ったね」
 そこには、戦車兵の制服を着た軍人さんが立っていた。帝国軍にしてはとても珍しい、女性兵士だ。ちょっと野暮ったいツナギを着ていても、スタイルの良さは隠し切れない。
 彼女は私の手をとって立ち上がらせると、埃まみれになっていたブラウスをぱたぱたとはたいた。
「……さて、自己紹介といきたいところだけど、その余裕はないんだ。ボクは、君ら民間人を帝都から安全に避難させろと命令されてる。ただ、残念だけど、現状ではちょっとそれは難しい。この周囲にはイワンが1個大隊くらい展開してて、すぐそこまで1個小隊が来てる」
 その銀髪の戦車兵の淡々とした言葉は、私たちの希望を打ち砕くのに十分だった。
「いいかい、覚悟を決めて。連中と殺しあうのも手だけど、そんなことをすれば確実にボクたちは死ぬだろう。最悪の場合、怪我をしたまま連中の性欲処理の対象にされる。時間のかかる、辛い死に方だ。
 選択肢は2つだ。ひとつめは、とっととこの世からおさらばする。もうひとつは、この世で思いつく限り最低で最悪な時間を過ごしてでも、生き延びる。
 どうする?」
 私たちは顔を見合わせた。
 今なら、わかる。私たちがいなかったら、あのひとは逃げ延びていただろう。あるいはごく普通の責任感の持ち主なら、私たちを見捨てて一人で逃げることもできたに違いない。でもあのときの私たちはあまりにも戦争に夢を見すぎていて、そしてあのひとは馬鹿馬鹿しいくらい責任感が強かった。
 イレナが、ぼそりと呟くように口を開いた。
「わたしたちは、死ぬな、と、命令されています。生き延びろ、と」
「命令? ふーん。誰から?」
「名前は存じ上げていません。第12SS装甲師団の指揮官だった方です」
「第12SSかあ。マイヤーかな。いや、違うか。まあ、いいよ。でもそれがどういう意味か、わかってるね? 君たちと、ボクは、シベリアの農場に生えてた野蛮人に、好き放題に犯されるだろう。恐ろしく辛い時間になる。それでも、生きのびたい? 犯されたあげく殺される可能性があったとしても、それでも?」
 頭の中がぐるぐるとして、何も考えられなかった。走馬灯のように、いろいろな風景を思い出す。勇壮なマーチ。轟音をあげる戦車の行進。党大会の熱気。『この戦争は終わりだ』。悲鳴を上げながらゲシュタポに連行される人たち。手の中に残されたチョコレート。
「……それでも、生きたいです。僅かでも生き残る可能性があるなら、そちらを選びたいです」
 私は喉の奥から声を絞り出した。



 私たちは、瓦礫のなかをできるだけ静かに歩いて、隣の建物に滑り込んだ。なぜそんなことをするのかわからないが、あのひとの命令だから仕方ない。
「確かね、ここの二階にあったはずなんだ。さっきちらりと見た」。呟きながら、足早に階段を駆け上がる。遠くで、たくさんの人がロシア語の歌を歌っているのが聞こえる。心臓が早鐘のように鳴り始めた。
 二階は地獄だった。何発かの手榴弾が中で爆発したのか、あちこち焼け焦げていて――あちこちに人間の体の一部分が散乱している。イレナが吐きそうな顔になり、私も惨状から目をそむけた。ちぎれた手や足、首などには慣れたけれど、上半分しかない顔といった類のものに、慣れられるとは思えない。
 でもあのひとは、明らかにそういった地獄に慣れ親しんでいた。部屋のあちこちを探すと、「あったあった」と死体を掘り起こす。武装SSの制服を着たその死体には、頭頂部がなかった。あのひとは、躊躇なく死体からコートを剥ぎ取り、次々に制服を剥がしていく。制服のポケットから札入れを取り出して中身を改め、高価そうな腕時計をむしりとると左手にはめた。イレナは、もごもごと抗議っぽい言葉を呟いている。
 倫理的な単語を並べるイレナを完璧に無視して死体を裸にすると、あのひとは戦車兵のツナギを脱いだ。そして素早く、死体から剥ぎ取ったばかりの制服を身に着けていく。私もさすがに我慢できなくなって、抗議した。戦友の遺体を辱めた挙句、制服を奪うなんて、それじゃイワンと一緒じゃないですか、と。
 あのひとは、何も言わなかった。奇跡的に生き残っていた鏡の前で自分の姿を確認すると、仕上げとばかりに穴の開いた帽子をかぶる。SS女性士官ができあがった。
「さて。さっき、SSの指揮官からの命令って言ってたね。念のために聞くけど、何かお土産を貰ったりした? 勲章とか、部隊章とか、その手のもの」
 私たちは、もう一度顔を見合わせた。このひとは、何がしたいんだろう。
「その様子だと、貰ってるんだね。出して。今すぐ。時間に余裕がない。少しでもマシな形で生き残りたかったら、出して」
 イレナはもじもじしていた。あの十字章は、私たちの宝物だ。それを……。

 あのひとは、拳銃を抜いて、私たちに突きつけた。「出しなさい。命令だ」。
 カッっと、頭に血が上るのを感じた。悔しかった。私たちは、騙されたのだ。この女は、金目のものを盗んだ挙句、それを――それに加えて私たちも――代金にして、自分の安全を買おうとしているのだ。

 どうせなら、戦って死んでやる。
 こんな敗北主義者の売国奴に利用されてたまるもんか。

 次の瞬間、私の眉間に銃口が突きつけられた。直前まで盛り上がっていた士気が、一発で崩れ落ちる。無理だ。無理なんだ。こいつとは、場数から何から、違いすぎる。
 泣きながら、イレナが騎士十字章を取り出す。女は私の眉間に銃口を押し当てたまま、イレナの手から十字章をひったくった。
「他には?」
 イレナが激しく横に首を振る。
「他にはあるのかと聞いている!」
 僅かに残った勇気を振り絞って、私は声を上げた。「持ってない。あれだけよ。この売国奴。敗北主義者」
「ならばよろしい」
 女は拳銃を床に捨てると、大きくため息をついた。「怖がらせちゃって、ごめんね。説明してあげるだけの時間があればよかったんだけど」
「どうやらタイムアップみたいだね。最後の命令だよ。ここから先、君たちは、何があっても喋っちゃいけない。わかった?
 そうそう、最後に自己紹介だ。ボクは、ええっと」
 あのひとはもういちど札入れを取り出して、よく見分してから、それをコートの内ポケットにしまった。「第33SS武装擲弾兵師団のドミニク大尉だ。よろしく」

 ロシア語の歌声が近づいてくる。あのひとは深呼吸すると、部屋にあったボロボロのテーブルクロスを手に取った。かろうじて、白いといえる布。私は混乱したまま、破滅の時が近づいてくるのを感じていた。



 白旗を掲げるあのひとの姿を認めたイワンたちは、短機関銃を構えて私たちの周囲をとりかこんだ。野卑な顔が、下卑た期待に緩んでいる。
「誰か、ドイツ語ができる人は?」
「少し。だが、喋る、何を? これから、喋ること、必要である、ない」。隊長らしき男が、カタコトのドイツ語を喋った。単語の活用が無茶苦茶で、何が言いたいのかほとんど分からない。
「取引をしたい」
「そこの、娘、2つ、お前の、体、安全か?」
「違う。ボ……私が、君たちの、相手を、する。だから、あの娘たちに、触っては、いけない」
 隊長はうろんな目であのひとを見た。
「俺たちに、少なすぎる儲け」
「私は、兵士だ。今でも、一人は、殺せる。殺せなくても、大怪我は、させる。だが、取引すれば、私は、抵抗しない」
 くく、っと隊長が笑い、短機関銃を彼女につきつけた。
「ファシストの豚め!」
「取引だ。ダーか、ニエットか」
 隊長は油断なく周囲を見渡す。若干の沈黙のあと、彼は銃口を下げた。
「ヤー。気に入った。だが、俺たちも、ある、条件。俺たち、楽しませろ、最高に。バテたら、あの娘2つ、楽しむ」
「イワンめ!」
「ヤーか、ナインか、選ぶ」
「いいだろう。好きにしろ」
 隊長がロシア語で何かをわめいた。部下たちは微妙に不満げだが、それでもその顔は期待に満ちている。私たちはガタガタと震えながら、成り行きを見ていた。見ていることしか、できなかった。
 隊長が、私たちのところにやってくる。イレナは「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、私はおどおどとそいつの顔を見上げた。
「お前ら、ここ、いろ。逃げる、撃つ。逃げる、赤軍、もっと。お前ら、死ぬ」
 頭は恐怖に麻痺していたが、何を言われているのかは分かった。そして今頃になって、あのひとが何をしようとしていたのか、すべてが分かった。SSの尉官を捕虜にしたとなれば、イワンとしてはそれだけで大きな功績だ。しかも、そのファシストが女性で、好き放題できるとなれば――
 だけど、彼女はSSではない。だから、SSに変装したのだ。できるかぎり、私たちから彼らの注意を逸らすために。

 目の前で、あのひとが裸にされていく。乱暴にコートがむしりとられ、ジャケットを剥ぎ取られ、ベルトがナイフで切られた。ついでといわんばかりに、腕時計が奪われる。隊長の腕には、腕時計が5本も6本も巻きつけられていた。
 シャツと下着が裂かれて、豊かな胸があらわになると、男たちが一斉に歓声をあげる。男たちの興奮が限界に達したのか、制服の残骸を体にまとわりつかせたまま、あのひとは地面に押し倒された。四つんばいの姿勢をとらされる。
 隊長が、性急に彼女の体のなかに侵入した。苦痛の声が漏れる。部下たちは、よってたかって胸をなでまわし、乳首をもてあそんだ。やがて一人がズボンを脱ぎ捨てると、あのひとの口にいきりたったイチモツをねじこむ。

 隣では、イレナが私の腕をぎゅっと握って、小刻みに体を震わせていた。あんなことをされたら、私たちは壊れてしまう。

 男たちは、容赦をしなかった。痛みのあまり痙攣すら起こしているあのひとの体を、彼らの器官で刺し貫き、押し広げ、打ちすえた。やがて隊長がひときわ激しく動くと、「おお」と叫んで、その体を硬直させる。そうやってしばらくガクガクと腰を打ちつけていたが、やがて荒い息をつくて、彼自身をあの人の体から引き抜いた。白い粘液が滴っている。
 間髪いれず、次の男が侵入を始めた。同じ頃、口の中に含ませていた男が、低い声を漏らす。あのひとのくぐもった呻きが漏れ、何かを飲み下すように喉が動いた。満足げに、男が離れる。口の端から、だらりと体液がこぼれた。笑い声があがり、すぐさま次の男が口の中に怒張を挿入する。



 1時間ほどして、男たちは一通りあのひとの中を味わった。溜まりに溜まった欲求不満を解消し、かつ憎いという言葉では表しきれない憎悪の一端を晴らした彼らは、タバコに火をつけ、カップにウォトカを注いで飲み始めた。
 ずっと前後を襲われていたあのひとも、いまでは後ろから一人にねちっこく犯されているだけだ。やがてその一人も限界に達したようで、精を吐き出したイチモツを引き抜く。ドロリと、大量の体液があふれ出た。がっくりとあの人の腰が落ちる。
 タバコをくゆらせていた男が一人、わたしたちのところにやってくる。男性の器官をむき出しにしたそいつは、天を向いてそそりたったそれを指差し、私たちに何かを言った。ロシア語はわからない。

 だがそのとき、荒い息をついていたあの人が、きっと隊長のほうを睨んだ。
「イワン、ボクは、まだ、満足してないぞ、このインポ野郎」。ウォトカを飲んでいた隊長は、始めは低く、やがて大声で笑うと、ロシア語で何かをまくしたてた。部下の雰囲気ががらりと変わる。
 隊長はあのひとの腹を思い切り蹴飛ばすと、仰向けにして両足を肩にかけ、再び激しく挿入を始めた。ぐじゃっ、ぐじゃっと粘った音が響き、「あうっ」と、低いうめき声が上がる。周囲を取り囲んでいた男たちが、一斉に歓声をあげた。
 その口に、ウォトカのボトルが押し込まれた。突然のことにあのひとは頭を振ったが、男たちに押さえつけられ、大量のウォトカが流し込まれる。あのひとが激しくむせかえった。
 隊長が残忍な笑みを浮かべる。「咳をする、よく締まる」。
 男の体液とアルコールでぐしゃぐしゃになった顔が、自分を犯す男をきっと睨みつけた。そこを再び激しく突き上げられ、顎がのけぞる。隊長がロシア語で何かを叫んだ。部下が火のついたタバコを彼に差し出す。隊長はタバコをくゆらしながら、さらにピストンを続けた。
「締まる、強くする、方法は多い」
 彼はタバコを手に取ると、あのひとのお腹の上で灰を落とした。あのひとは無言で体をのけぞらせ、痛みに耐える。隊長はゆっくりと脇腹にタバコを近づけ、その白い肌にぎゅっと押し付けた。もう一度、あのひとの体が跳ねる。男たちはやんやの喝采を送った。この蛆虫どもは、他人の痛みや苦しみを食って生きているのだ。吐き気がした。
「帝国、軍人を、舐めるなッ」。切れ切れの息のなか、あのひとの声が聞こえる。
「痛み、耐えられる。だが、体、素直だ。よく締まった」。ぷい、とあのひとが顔を背ける。「まだ、壊さない。部下、言っている、男、示したい、ファシストに」。



 男は、あのひとから一度自身を引き抜くと、倒れていたカウンターテーブルを置きなおし、そこに手をつくように言った。あのひとはのろのろとそれに従う。地面にしゃがみこんで震えている私たちと、目が合った。立ち上がった彼女の股間からは、信じられないくらいの量の白い体液が零れ落ちている。
「股、開け。もっとだ」
 言われるがままに両足を開いたあのひとを、隊長はもういちど背後から貫いた。テーブルがガタガタッと振動する。手が、小刻みに震えていた。
「お前ら、嫌っている。俺たち、憎んでいる」
 腰をゆっくりとグラインドさせながら、男は私たちに声をかけた。
「この女、犯す、俺たち、憎んでいる。しかし、忘れるな。これは、お前たちファシスト、やったこと、俺たちの国で。お前たち、自分の国、壊されたと考える。馬鹿め。この瓦礫の街、俺たち、宝の山、見える。こんないい机、ひとつ、俺たちの故郷、ない。
 お前たち、言う、伍長悪い。馬鹿め。お前たち、伍長を、ボスに選んだ。戦争は、伍長のもの、違う。お前たちファシストのもの、この戦争。
 なぜだ? なぜ、戦争した? なぜ、殺した? なぜ、犯した? なぜ、奪った? お前たちファシスト、すべて、持っている。なぜだ? なぜ、俺の妹、殺した? お前たち、言った、妹、パルチザン。嘘だ。犯した。殺した。なぜだ? 何が、望み、だった?」
 何を言われているのか、半分もわからなかった。でも、何が言いたいのかは、わかった。
 それは、あのころの私たちには、とても答えられない問いだった。戦争は、気がつけば始まっていたのだ。賛成するとか、反対するとか、そんなものではなかった。立派な政治家さん、かっこいい軍人さん、ピカピカの戦車と飛行機、盛大なオリンピック。

 そうして、気がついたら、そこに戦争があった。

 隊長はあのひとを激しく突きたてると、中で果てた。あのひとは歯を食いしばって屈辱と痛みに耐えている。その口が、「見るな、頑張れ」と動いたように思う。イレナは私の胸に頭をうずめて、両手で耳をふさいだ。私は泥と灰で汚れた床に目を落として、それでもやっぱり目を上げてあのひとを見た。
 何が正しいかなんて、わからない。
 だから、せめて、見なくてはいけない。本当のことを。
 戦争の、本当の顔を。
 目の前で、あのひとをまた別の男が刺し貫いた。あのひとの肘が、テーブルに落ちる。体力の限界に近づいているのだ。
「ファシスト、頑張れ。俺たちを、満足させる、言ったな?」
 あのひとは、全身を痙攣させながら、もういちど両手だけで体を支えた。いったい、何があのひとに、ここまでのことをさせるのだろう? 意地? 誇り?
 責任?
「よく聞け。お前が、膝を地面につく、俺たち、あの娘2つ、犯す。さあ、ファシスト、守れ、祖国を」

 5人目が行為を終えたとき、あのひとの肘がまた机に落ちた。もう、立て直せなかった。顔を机につっぷしたまま、ゼイゼイと喘いでいる。
 なのに、あいつらは容赦しなかった。ニヤニヤしながら6人目が挿入し、ビクンとあのひとの背中が震える。激しいピストンを受けて、ゆっくりと、肘がテーブルを滑っていく。大きくて綺麗な形をした胸が、テーブルの上で押しつぶされた。膝が笑っている。
 私たちの近くに、男が集まり始めた。イレナが私のブラウスをぎゅっと握り締める。
 あのひとは、それでも、崩れなかった。6人目が果て、7人目を受け入れてもなお、ひたすらに続く苦痛を肩で受け止めていた。テーブルの端をぎゅっと握る指からは、すっかり血の気が引いている。あらん限りの力で、踏みとどまろうとしているのだ。



 10人目が行為を終えて、もういちど隊長があのひとの後ろに立った。隊長はあのひとの体のなかに指を突きたて、溜まった精液を掻きだすと、挿入を開始する。太ももを滴る体液に、僅かだが鮮血が混じった。こんな無茶をされ続けたのだ、どこかに裂傷ができていても不思議ではない。

 ところが、あいつは2・3回ピストンをしたところで、体を離した。精も根も尽きたのは、あいつらも同じなのだろうか?
 あまやかな期待は、一瞬で裏切られた。男の巨大な器官は、ギンギンに膨張している。あいつはもういちど、ゆっくりとあのひとの中に侵入を始めた。
「痛いッ!」あの人が、はじめて弱音らしい言葉を漏らした。何をされているのだろう。
「痛いッ、そ、そこは、ダメだッ、痛いッ、痛い、やめ、やめろッ」
 ゆっくりと、しかし確実に、男は侵入を続けた。あのひとは引きつった声で
「痛い」を繰り返している。やがて、男の腰が、あのひとのおしりにぶつかった。彼女はもう声も出ないようで、ただ大きく目を見開いていた。整った口の端からよだれが垂れている。
 隊長は、はじめは慎重に、やがて激しく、ピストン運動を開始した。貫かれるたびに、小さな悲鳴があがる。白い太ももの上を、血が滴っていった。量が多い。殺すつもりなんだろうか。あのひとの目が、虚ろになっていく。
 しばらくして、隊長が体を離した。あのひとが地面に膝をつかなかったのは、奇跡といっていいだろう。

 人間らしい感覚を失い始めている彼女に、男たちは次々と襲い掛かった。あの膝が崩れれば、私たちも味見できるという思いが、男たちを野蛮なけだものに変える。遠慮も同情も、そこには欠片もなかった。むしろ、あのひとは「軍事的な攻略対象」でしかなかったのだ。
 さらに7人を受け入れて、あのひとの片膝がゆっくりと崩れはじめた。男たちが歓声をあげる。けれど、あと少しで倒れるというところで、姿勢を立て直した。下卑た笑いと、拍手。
 思わず、私は叫んでいた。「もう、いいです、やめてください、大尉どの! 死んでしまいます! それ以上は、死んでしまいます!」
 19人目が侵入を開始する。息を詰まらせながら、あのひとは私を見て、そして、にやりと不敵に微笑んだ。どこにもそんな余裕はないはずなのに。
 それからさらに10人以上を、あのひとは受け入れ続けた。もう体は痙攣すらしていない。たぶん、意識もほとんどないのだろう。それでもときおり、目の焦点が戻ってきて、私たちの姿を確認し、そして苦痛に打ちのめされる。それが繰り返された。

 だけど。

 人間には、限界がある。超人的な精神力も、尽きる瞬間は、来る。
 東の空が白み始める頃、突然、あのひとは両手を机につき、上体を起こした。奇跡でも出くわしたかのように男たちはざわめいたが、私には、それが奇跡でも何でもないことがわかっていた。もう、その目は何も見ていない。
 蝋燭が燃え尽きる最後の一瞬のように、あのひとは大きく体をのけぞらせ――ゆっくりと机に倒れこんだ。その手が必死で机の端をつかもうとする。細い指先が、虚空を引っかくように伸び、そして、ずるりと滑った。
 かすかに、あのひとの唇が動いた。声にはならない、声。
「ごめん」。あのひとは、そう言ったのだ。この期に及んで。
 どさり、と、両膝が地面に落ちた。机を押し倒すように、地面に倒れる。あのひとは、完全に意識を失っていた。

 男たちは喝采をあげ、そして、待ちわびたと言わんばかりにわたしたちに掴みかかった。あっというまに服が破かれ、まだ何も知らない体を肉の塊が引き裂いていった。イレナの悲鳴を聞きながら、私の意識は闇に沈んだ。



 目が覚めると、私は素っ裸に剥かれたまま、床に投げ出されていた。体が全部痛い。とはいえ、想像していたよりは全然マシだ。痛みは、私の心を挫くよりも、むしろ私の怒りをかきたてる材料になった。大丈夫、この怒りがあれば、私は立てる。
 おそらく、あのひとを屈服させるために体力のほとんどを使った男たちは、私たちを味見する程度で満足したのだ。私はイレナとあのひとの姿を探した。
 二人は、足の間から血を流しながら、気を失って床に倒れていた。呼吸はしっかりしている。ならば、いまは無理をさせず、眠らせておいたほうがいいだろう。

 私が床を這いずり始めたのに気がついたのか、男たちが私のほうに近寄ってきた。今度は、わたしがあのひとを守る番だ。わたしは気力を振り絞って立ち上がると、男たちを睨みつけた。

 そのとき、唐突に甲高い銃声が響いた。男たちは一斉に地面に伏せる。

 銃声がした先には、赤軍の制服を着た将校らしい人間が立っていた。武装した何人かの兵士とともに、赤十字マークの入ったバッグを持った女性兵士も連れている。彼はロシア語で何かを叫び、今頃になってのそのそと起き出してきた隊長は将校に敬礼すると、さかんにジェスチャーをしながら何かを訴えた。

 将校は、もういいとばかりに手をふると、女性兵士を連れて私たちのところに来た。彼は流暢なドイツ語を喋った。
「私は赤軍第1機械化軍団の、キェシロフスキー中佐だ。申し訳ない、フロイライン、赤軍の面汚しどもが、貴女がたに酷いことをした。彼らには厳罰をもって処する。だが、まずは私たちに貴女方の傷を手当てさせてはくれまいか。
衣服も提供したい。受け入れてくれるだろうか?」
 私はあまりに紳士的な態度に戸惑い、勢いに飲まれるように頷いた。女性兵士たちは、私たちの裂傷を消毒し、私は痛みに呻いたけれど、敵に弱みを見せまいと必死に堪えた。
 中佐は、私たちを輪姦した小隊長と、ロシア語で激しく言い争っていた。それを聞いて、私たちを治療していた女性兵士が、露骨な嫌悪感をあらわにする。やがて、中佐は小隊長を殴りつけると、もう一度わたしたちのところに戻ってきた。
「フロイライン――。貴女方の尊厳をもう一度踏みにじるようなことを頼んでしまうことは大変に心苦しいのだが……あの蛆虫は、貴女方はただここに全裸で倒れていただけで、自分たちは貴女方を救助しようと今ここに来たばかりだと言っている。
 私は、そんないい加減な嘘を信じるつもりは、一切ない。しかし、申し立ては申し立てとして、聞かねばならん。あいつらに正しい処分を下すには、君たちの証言が必要だ。証言してくれるか?」
 そのころには、私たちは新しい服を着て、暖かいミルクを飲んでいた。女性兵士が、ぽん、と私の肩に手を添える。わたしは証言しようと思ったが、その権利を最も大きく持っているのは、あのひとだ。わたしは復讐の剣を譲ることにした。
 なのに、あのひとは一瞬口を開きかけ、そして、黙った。わけが分からない。気まずい沈黙が落ちた。私は我慢しきれなくなって、立ち上がる。



 そのとき、イレナが勢い良く立ち上がった。彼女は泣きながら、私の知らない言葉で中佐に向かって何かを訴えた。中佐も、似たような言葉で彼女に何事かを語りかける。イレナは首を横に振り、中佐は深いため息をついた。
「こちらのお嬢さんは、事実はあったかもしれないが、告発はしない、と言っている。もうこれ以上、血が流れるのを見たくない、これ以上、人が死ぬところを見たくない、と。
 いいのか、本当に。君たちが告発しないなら、この犯罪は裁かれない。それで本当にいいのか」
 私は、強い衝撃を受けていた。
 そして、あのひとが告発を躊躇った理由を、唐突に悟った。
 もう、戦争は終わったのだ。あまりにもたくさんの人が死んだ。敵も、味方も。私が告発すれば、あいつらは死ぬ。そしてそれはきっと、次の戦争の、小さな、小さな、でも確実な種火になるだろう。私は、誇りある敗者でなくてはならない。次の敗者を生み出さない、ちゃんとした敗者でなくてはならない。そしてどんな犠牲を払ってでも、どれほどの時間をかけてでも、この敗北の意味を知るまでは、敗北をちゃんと抱きしめなくてはならない。

 私は、イレナをみくびっていた自分が、恥ずかしくなった。世間知らずでお嬢様育ちのイレナのことは、ずっと私が守ってきたと思っていた。とんでもない。世の中の本当のことを、もっとしっかりと分かっていたのは、彼女だった。

 中佐は、私が座りなおすのを見て、もう一度大きなため息をついた。そして、何かを諦めたかのように、「わかった」と呟く。
「では、あまり気の進まない仕事をさせてもらう。貴女は、軍人ですね?」
 中佐は、あのひとに呼びかけた。
「そうだ」
「所属と階級を」
「ボクは、第33SS武装擲弾兵師団のドミニク大尉」
「SSか。身分証は?」
「そこらへんに落ちているコートに入っているんじゃないかな。あいつらが着服したのでなければ」
 私は、びっくりして、もう一度立ち上がった。このひとはSSじゃない。たぶん、ドミニクっていう名前でもない。そのことを、慌てて中佐に訴えた。
「さてさて! 身分詐称は困ります。正しい所属と階級を言ってくれませんか」
「第33SS武装擲弾兵師団のドミニク大尉だ。身分証が見つからないなら、あいつが持っている腕時計を調べてくれ。わたしの名前が入っている」
「婚約者なり配偶者なりの名前が刻印された、誰のものとも知れぬ腕時計を証拠にされるおつもりですか。私に対して自分が武装SSであると言うことが、どういう意味をもつか、おわかりの上なんですね?」
「もちろん。お土産に騎士十字章をつけてあげてもいい。それもたぶん、彼らが持っているか、コートのどこかにあるはずだ」
「もう一度だけ、伺います。所属と階級は? 第36SS武装擲弾兵師団でしたか?」
「Drei。第33SS武装擲弾兵師団のドミニク大尉だ」
 中佐は天を仰いだ。
「わかりました。私としては、大手柄だ。占領地義勇兵によって編成されたと喧伝されている部隊が、実際には帝国軍によって構成されていたという証拠を持ち帰れば、指導部は大喜びだろう。
 ……このお嬢さんたちの安全は、私の全力を持って保証します。彼女たちがいずれかの故郷に帰るまで、私の部隊にいる女性兵士を同行させましょう。取引は、それでよろしいですか」
「ありがとう」
「では、第33SS武装擲弾兵師団のドミニク大尉、あなたを拘束します」
 そうして、私たちは中佐の部下に手をひかれ、彼らの司令部に向かった。
『ドミニク大尉』は手錠をかけられ、司令部の奥に連れて行かれた。私は、命の恩人の本当の名前すら、知ることができなかった。



 イレナは、帝国軍が最初に武力で併合した国に帰った。彼女はもともとそちらの出身で、たくさんの紆余曲折があった末に、私と行動を共にしていたのだ。
 わたしは、母方の親戚が住む、カルパチア山脈に抱かれた国に帰ることになった。大戦中は帝国軍にとって重要な原油供給国だったので、必然的に激戦地にもなったが、親戚はなんとか無事に生き延びていた。
 平和になってからも、イレナと私は文通を続けた。私たちの国は、忌々しくもコミュニズムに飲み込まれ、イワンの手先になった。貴族の血を引くイレナはとても苦労をしたらしいけれど、同郷のよしみかキェシロフスキー中佐がなにくれと手をかしてくれたらしく、しまいには隣国に移住して中佐と結婚した。数年後に娘が生まれ、その子にはドミニクと名づけたという手紙をもらった。

 私は、軍人の道を選んだ。戦争と戦うならペンか剣かと考えたとき、この国ではペンはあまりにも弱すぎた。だから剣を取って、偉い軍人になり、無駄な戦争を抑止できる立場を得ようと考えた。
 私は努力を積み重ね、国防軍において異例の速度で昇進を果たした。最近になって政府高官と結婚し、これによって私の政治的基盤はかなり強化されている。この閨閥に入り込まないことには、たぶん今後、この国ではやっていけない。愛情などまったく感じられない、形ばかりの夫だが、相手が私に求めているのは一夜の快楽と軍における影響力だけだ。悪くない取引。

 今でも、帝都のあの夜のことを、ときどき思い出す。100%確実な死から生還したあの小隊長が、なぜ自分が助かったのかを知った瞬間に浮かべた表情を、思い出す。生き延びたという喜びではなく、純粋な自己嫌悪に歪んだあの顔は、人間の顔だった。そこに、戦争の顔はなかった。

 そしていま、名も知らぬ『ドミニク大尉』の――いや、気の遠くなるほど無数の『ドミニク大尉』たちの献身によって生きている自分が、ここにいる。それは同時に無数の『ドミニク大尉』が私たちのために殺した『あちら側のドミニク大尉』の、広大な墓所の上で立っているということでもある。
 その命の意味を、私は、ちゃんと成し遂げねばならない。
 私の戦いは、困難なものになるだろう。それでも、負けてはいけない。
 あの夜を、もう一度繰り返さないために。



  ――1965年6月14日、イオネラ・フロレスクが記す



(了)






□note

・第12SS装甲師団
 1943年6月1日、第12SS装甲師団ヒトラー・ユーゲントが編成された。まず選抜された18歳の青年10000人に対し、ガチョウ足行進訓練などは省いた実戦向けの訓練が行われた。7月には早くも国防軍D軍集団配下となったが実戦には投入されず、ベルギーやフランスにおいて訓練が続けられた。
 なお未成年の兵士が大半を占めるため、タバコの代わりに戦時には貴重品であるチョコレートやキャンディーなどが支給されている。
 同師団の編成情報を入手した連合国軍は、哺乳瓶を師団マークにした宣伝ビラを撒くなど、完全な二線級部隊と決め付けていたが、やがてそれが大きな間違いであることを身をもって知らされることとなる。
(wikipedia: 第12SS装甲師団より)

・第33SS武装擲弾兵師団
 第33SS所属武装擲弾兵師団 「シャルルマーニュ」(フランス第1)(独33. Waffen-Grenadier-Division der SS "Charlemagne"(franzosische Nr. 1)仏33e division SS de grenadiers volontaires Charlemagne)は、第二次世界大戦中のナチスドイツ武装親衛隊の師団。ドイツ国防軍のフランス人義勇部隊であるLVFや武装親衛隊のフランスSS突撃旅団を基幹として編成されたこの師団の将兵の多くはフランス人義勇兵であり、1945年2月以来東部戦線で戦った。(中略)
 その後、フランスSS突撃大隊は総統地下壕最後の防衛部隊となり、ソビエト赤軍が5月1日のメーデーまでに地下壕を占領することを防ぐため、5月2日まで地下壕の燃料室に残っていた。1945年5月2日のベルリン降伏時点において、フランスSS突撃大隊の生存者は約30名を数えるのみであった。
(wikipedia: 第33SS武装擲弾兵師団より)

・ルーマニア革命におけるルーマニア国防軍
 1989年12月21日、首都ブカレストで発生したルーマニア大統領のニコラエ・チャウシェスクによる独裁を非難するデモに対し、秘密警察(セクリタテア)が群集に向けて発砲する一方で、国防軍は武装兵と戦車等を出動させ集会を解散させた。
 ミリャはチャウシェスクから民衆への発砲を命令されたが「国防軍は人民を守るための軍隊であり、人民に発砲はできない」と述べこれを拒否した。翌日、ミリャの死体は発見された。銃弾が動脈を貫き、ほぼ即死状態であった。
 国営ルーマニア放送では「国防相が自殺した」と報じられたが、チャウシェスクに処刑されたとの噂が知れ渡り国防軍が大統領から離反する契機になる。ルーマニア共産党本部前の広場で群集と対峙していた国防軍が反体制派となったことでルーマニア革命が事実上勃発した。
 2005年の報告書ではミリャが拳銃自殺を図ったとしているが、自殺の原因が明らかにされておらずチャウシェスクによる処刑説を主張するものも多い。
(wikipedia: ワシーリ・ミリャより)



参考文献
「戦争は女の顔をしていない」 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

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