2chの「軍人や傭兵でエロ」のまとめwikiです

■第6章 ―― イリーヤ

 私はなぜか、姉のことを思い出していた。

「だからね、イズミ、あんたは全然わかってないのよ。何も分かってない。あたしたちは聖典を覚えたら、もうそれでいいの。それ以上は、女の幸せには不要なものよ」

 耐えられる限界まで、私は耐えたと思う。乳首とクリトリスをねちっこく責め立てられ、ローションを秘所に注入され、そこに異物を挿入されても、私は快楽に負けないよう、必死に戦った。

「イズミ、イズミ、あんたって子は、本当に……。男なんて馬鹿なことしか言わないんだから、うんうんって頷いておけばいいの。そしたら連中はそれで満足するんだから。なんでそんな簡単なことがわかんないの? そこまで頭が悪いの?」

 そもそも、そんなに難しい戦いではない。力づくで拉致され、いずことも知れぬ小屋に監禁され、そこで何人もの男から陵辱を受けるなんていう状況に、快感などありようがないのだから。
 でも、彼らは準備も周到だった。
 バイブレーターをクリトリスにあてがわれると、嫌悪感の奥底に、わずかな快楽の兆しが立ち上がってくるのを感じる。私は首を振って、不自然な感覚を振り払おうとした。すぐに全身が縛り上げられ、私は身動きがとれぬまま、怪しく振動する器具で秘所をいたぶられ続けた。

「あのさあ。泣いたってなにも解決しないでしょ? 泣くんだったら、最初から泣きなさいよ。なんで問題をこじらせまくって、無茶苦茶にして、どうしようもなくしてから泣き出すの? 勘弁してよ、ほんとに。泣きたいのはこっちだわ」

 ああ、姉は正しい。姉はいつも正しかった。
 私よりもほんの少し早くこの世に生まれたというだけで姉という肩書きを背負うことになった彼女は、でも、その肩書きに恥じない才能と能力を持っていた。私はいまだに、着想の鋭さや事態の解釈能力において、姉に勝てるとは思えない。私はただ、姉がとっとと捨て去った「学問」とやらに未練がましくしがみついた結果、ちょっとばかり多めに知識を仕入れたというだけのことだ。

 今頃、姉はどうしているのだろう。
 この時代、この国において、人の生死は能力と無関係だ。
 あの姉をして、わずかな不運がすべてを奪っていった可能性はある。

 縛られた手と手の間に、強引に私の両膝が押し込まれた。両足首を縛った縄に、首から伸ばした縄が結わえられる。息苦しさもさることながら、男たちはもう私の穴にしか興味を抱いていないということを思い知らされて、心がひしゃげそうになる。
 バイブレーターが引き抜かれ、かわりに、もっと周波数の高い音を立てる何かが秘裂に近づいてくる。まさか。噂に聞いたことはあるけど、それは、まさか――

 強烈な振動がクリトリスを揺さぶった。思わずうめき声が漏れる。
 私は理性をかき集めて、何が起こっているかを考える。これは、ほぼ間違いなく、電動式のマッサージ器具だ。変態プレイを好む連中には、それで女を弄ぶのが好きだというのがいると聞いたことがあるし、独特の刺激がたまらないという感想をかつての同僚から漏れ聞いた覚えもある。
 秘所を嘗め回すように、マッサージ器具が動いていく。理性にガタがきはじめる。声帯が勝手に「イヤ」と「やめて」を繰り返していた。自分でも、分かる。私は落ちる寸前だ。

「ほら、ちゃんと立って。もう泣かないの。あんたがこれでもまだ学問をやりたいってんなら、もうあたしは止めない。でも、あたしだって、あんたのことをずっと守ってはあげられない。約束して。せめて、自分のことは、自分でできるようになる、って」

 ごめん、お姉ちゃん。
 ごめん。

 どこか遠くのほうで、自分が卑猥な叫びを上げているのが聞こえた。
 熱い塊が、秘所へ、あるいは口の中へと押し入ってくる。

 ごめん。

 もう、ダメみたい。

 何人もの男に全身を蹂躙されるうち、私は自ら意識のスイッチを切っていた。これは全部悪い夢で、目が覚めたら平凡な毎日が戻ってくる。そんな詮無いことを念じるうち、視界は闇へと溶けていった。

 寒気と息苦しさで、私は自分を取り戻す。身体がずぶぬれになっている。数秒の時間をかけて、水をかけられたのだと思い至る。
 視界が真っ暗で微妙に焦るが、目隠しをされている感触がある――視力を奪われたというわけではなさそうだ。自分の奇妙な冷静さに、自分でもちょっとどうかしていると思う。

「ご加減はいかがですかな、イズミ博士。いや、カタギリ少尉とお呼びしたほうがよろしいか」
 初めて聞く声だ。強い北部訛り。いや、しかしこのイントネーションにはどこか聞き覚えが。私は必死で頭を上げようとするが、ブーツが私の頭を地面に貼り付ける。
「おっと、私の姿を見ないほうがいい。生きていたいならね」

 どこにでもある、くだらない脅し文句。

 でも――

 でも、その刹那――

 私は全身が震えるような、神経のざわめきを感じた。
 さっきまでとはまったく違う、それでいてどこか似たような、高揚感。

 自分の意思とは無関係に、すべての仮説が収まるべきところに収まっていき、根拠という杭を打ち込まれていく。スローモーションのように、幾何学的な構造物は見るも彩な繊細さで世界を織り上げる。
 そして誰のものでもない手が、燃える文字を空中に書き上げた。

 Q.E.D.

 男はなおも何かを言っている。だが、私には関係のないことだ。まったく、関係がない。そこはもう、数秒前に到達し終えた場所だ。私の時計は彼の時計の先を進んでいて、期待値的にその差はこれからどんどん広がっていく。
つまり彼には何の価値もない。
 そんなことより、私はこの段階においてなお、根源的な謎がより一層深まったことに、全身をおののかせていた。

 身体を震えさせている私を、男は恐怖に怯えていると解釈したのだろう。なにやら提案らしき言葉がずらずらと並べられる。私はそれをすべて無視して、呟いた。口に出して、自分に問わざるを得なかった。

「では、なぜカレンは死んだのだろう?」

 男が黙り込んだ。私の頭からブーツがどかされ、棒のようなもので眉間を殴りつけられる。意識が遠くなるが、それすらも私にはどうでもいいことだ。今は、自分の身体の機能になど注意を払っていられない。私に残された時間には限りがあるのだ。
 頬に生暖かい液体が落ちてきた。唾を吐きかけられたのか。迂闊な男だ。もしこのまま私の死体が発見されたら、この唾液が彼の罪を示す証拠になるというのに。
「ならば、死ね。その利口なおつむが焼け付くほど苦しみ抜いてから、死ぬがいい」
 男はそう吐き捨てると、去っていった。当然だろう。彼がここから先の拷問と処刑に参加する可能性は皆無だ。算術的正確さで、否定できる。

 靴音が去っていき、やがて聞こえなくなった。
 目隠しが取り払われると、何人もの男たちの期待と好奇に満ちた目が、私を見ていた。

 部屋の中にカメラと照明が運び込まれた。まばゆい光が目を刺す。大げさな、と思ったが、考えてみればこれは彼らの本業のひとつだ。ハードコア・ポルノと、おそらくはスナッフ・ビデオ。呆れるくらい単純で、暗澹とした未来。

 ガリガリに痩せた男が、椅子に縛り付けられた私を検分している。彼は私の胸を鷲づかみにし、腰を撫で回したが、そこにはなんら情欲が感じられず、そのことにむしろ寒気がした。
「オッケー、5日くらいでいこう。おい、BとDの衣装一式、用意しとけ。
あとは、そうだな、アレも一応、準備しとけ。水色のやつでいこう」
「使用人の服と、ニホンの学生服っスね。それから、アレって、アレっすよね、監督。倉庫探しゃあ見つかると思いますけど、だいぶ古くなってるかもっス」
「文句言うな、持って来いっつたら持ってくるんだよ、タコ! 俺だってあんな古いネタをいつまでも引きずりたかぁねえんだ! だがよ、カネになるなら何でも撮る、いまさらいちいち説教させんな!」
「ういっす、申し訳なかったっス。準備するっス」
「おう。そんなに急がなくていい。だが明日には揃えとけ」
「了解っス。女優さんの洗浄しとかなくていいっスか?」
「わかってねーなタコ。この、ここに来る前に既にマワされましたって風情がぐっとくるんだろ?」
「おっす、勉強になるっす。じゃ、準備してくるっス」
「おうよ。そっちは任せた。
 さて。おーし――んじゃ、始めっかな。
 兵隊さんたち、この女優さんの縄を解いてくれや。それから、こいつを着せてくれ。お嬢さん、それとも自分で着るか? 他人に無理やり着せられるよりは、自分で着た方が痛くないぜ、たぶん。肩とか、結構簡単に脱臼するからな」
 私の足元に、情報軍の女性用制服一式が投げ出された。タイトスカートの、礼装だ。思わず「監督」と呼ばれた男の顔をまじまじと見てしまう。
「ああ、そうそう、脱臼しようが骨折しようが、そのまま撮影すっからね。どっちがいいか、自分で考えな」

 縄を解かれた私は、のろのろとベージュ色の制服を着はじめた。カメラがスタートする。
 感じたことのない種類の羞恥がこみ上げてきたが、今はそういう場合じゃない。考えるべきことは、あまりにも多い。とにかく、ほんの少しでも長く、生き延びなくては。その先にあるのが、最悪の死であるとしても。
 それに、石がパンに変わるくらいの確率でしかないとはいえ、情報軍の突入部隊が救助に来てくれる可能性だって残されている。彼は5日、と言った。それだけの時間があれば、もしかしたら彼らなら、砂漠に落ちた砂粒を探し出すかもしれない。
 ご丁寧に、黒のブラジャーとショーツ、ストッキングまで用意されていた。
サイズがいまひとつ合わないが、そんなことを言っても仕方がない。下着を身に着け、ワイシャツに袖を通す。じわり、じわりと絶望と無力感が忍び寄ってきて、思考を妨害する。

 助けて。

 唐突に、そんなフレーズが頭に浮かんだ。いけない。いまはそんな夢想に浸っている場合じゃあない。私はシャツのボタンをとめ、スカートを穿く。ローヒールの靴を履き、ネクタイを締める。訓練期間中、毎日のように着た服。こっちにきてからは一度も着たことはなかった。まさか、こんな場面で最初の一回を経験するとは。
 ジャケットを着て、ボタンをとめた。鏡を確認することはできないが、情報軍の女性士官ができあがる。
「監督」は私の姿をしげしげと見てから、大きく頷いた。
「いいね、いいね、さすがは本物だ。よし、と。メガネは――いらんな。Bセットのときにメガネッ娘にしよう。今回はこのままでいい。
 じゃあ、まずは軽く和んでもらおうか」

 とたんに、後ろから男に羽交い絞めにされた。つかつかと別の男が歩み寄ってきて、腹部に鋭いパンチをもらう。息がつまり、吐き気がこみ上げた。すかさずもう一発。ほんの僅かに残っていた、抵抗する気力を、根こそぎ持っていかれた。両手がだらりと垂れ、足から力が抜ける。
「ハハッ、まるで根性ねぇな、メス猫」
 かなりちゃんとした英語だ。最初から輸出版を考えているということか。いや、当たり前だ。この国では、ヘンタイな映像を手に入れるよりも、同じことを実際にやったほうがずっと安上がりなのだから――たとえ、それが最終的にスナッフで終わるとしても、なお。
 羽交い絞めが解かれ、私は地面に崩れ落ちた。前半戦の疲労と消耗が残っているというだけではない。もう、指一本、動かせない。

 ジッパーをおろす音がして、目の前に巨大な怒張が突きつけられた。弱弱しく首を振って拒絶するが、男は両手で私の頭をつかんで跪かせると、無理やり口の中に押し込んでいく。すぐさまイラマチオが始まり、窒息しそうになる。
「おら、ちゃんと舌を使え! 軍隊で何を習った! どうせ毎晩毎晩、何人もくわえ込んでたんだろうが!」
 何を言われても、何もできない。またしても、無気力が押し寄せてくる。

 イラマチオは突然終わり、唾液とカウパーでテラテラと光る巨根が引き抜かれた。まだまだ、爆発するそぶりすら見えない。呆然と肉塊を見ていると、頬を強く張られた。衝撃で地面に倒れる。
「だらしねぇなぁ。お口でご奉仕ひとつできねぇのかよ。こいつは、ちゃんとキョーイクしてやらにゃいかんよなぁ」
 周囲で笑い声が上がった。セッティングとしては、堅物で世慣れていない女性士官を調教する、そんな筋書きなのだろう。監督、それって配役に若干問題ないっスかね。馬鹿馬鹿しいことを、ちょっとだけ思う。
 後ろ手に両手を縛られてから、椅子に座らせられる。タイトスカートのホックが外され、ずり上げられた。両膝を椅子の肘掛にひっかけられると、股のあいだをカメラの前に晒す姿になる。カメラを意識してしまうと、今更この程度のことで恥ずかしさがこみ上げてきて、なんとか膝を寄せようとしたが、男たちに両膝を掴まれ阻止された。そも、膝を閉じたくらいでどうにかなる姿勢でもない。
 ことの成り行きに呆然としていると、ふたたび電動式マッサージ機が秘所に押し当てられた。今度はストッキングとショーツの上からだが、それでも腰が抜けそうになるような快感が走る。

 このまま虚脱してしまおう。そう思った。
 身体は身体で、勝手に嬌声を上げ、勝手に跳ね回るだろう。
 だから、もう、心を閉ざしてしまえばいいじゃないか。あのときのように。
 さっきはそれで切り抜けたじゃないか。あのときのように。

 でも、自分の心の内側に引きこもる直前、思いとどまる。ダメだ。それをしてしまえば、思考も理性も停止する。それは死と変わらない。さっきは、それでも許された。なぜなら「彼」が私と会うまでは、私を殺すわけには行かなかったのだから。
 今はもう、いつ、どんな風に殺すか、それだけの問題でしかない。心を失った肉人形になれば、死は瞬く間に私の元へと到達するだろう。それはそれで幸せなのだろうけれど、私は――そう、真理にたどり着ける可能性を、ほんの少しでも残したい。たとえこの先、支離滅裂な思考しかできない時間が待ち構えているとしても。良い「役者」であれば、あと3日は生きていられる。7日だったか?

「おー、すげー、おもらしでちゅかー?」
「ぐっしょりでちゅねー。セックスだいすきでちゅかー?」
 マッサージ器をあやつる男が、耳元で囁く。男の胸元には、マイクが見える。この声も拾っているのだろう。やがてマッサージ器は秘所からどけられ、男たちは力なく椅子に沈み込む私をあざ笑いながら、ストッキングを力任せに引きちぎっていった。布の裂ける甲高い音が、照明と人いきれでむんむんとした室内に響く。
 ストッキングを破き終わると、彼らはローターをショーツの上からあてがった。新しい、より鋭角的な快感に身をよじる。別の男たちは私のジャケットをはだけさせると、シャツの上から胸を揉み始めた。カメラはぐっしょりと濡れたショーツから、貧しい胸を撮影し、快楽と恥辱に歪む顔を舐めるように撮影していく。

 胸を攻めていた男たちは、シャツのボタンを外してブラジャーを露出させると、カメラの前でその中央に鋏を入れた。鉄の感触が、ひやりと胸にあたる。鋏はゆっくりと閉じられていき、パチンと小さな音をたててブラジャーが断裁される。
「さて、おっぱいのご登場ですよ」
「うわ、こりゃまたかわいらしいおっぱいだ」
「ちっちゃいねー。たくさん揉んで、大きくしてあげなきゃいけないねー」
 言葉とは裏腹に、男たちはローターを2つ取り出し、それぞれ私の乳首にあてがう。乳首はもう痛いくらいにしこっていて、ローターのもたらす振動が突き抜けるような悦楽を運んできた。
 下腹部では、ローターがショーツの内側に押し込まれ、秘裂の中へと侵入していく。ショーツを思い切り引き上げられて、裂け目にローターと布が強く食い込むと、思わず声が漏れた。
「気持ちいいね。いいね。感じてるねー」
「もっと気持ちよくなろうよ」
「すごいねぇ、たくさん輪姦されて、また今から強姦されるっていうのに、感じてるんだねえ。エッチだねえ」

 男たちは私をさんざん言葉で辱めながら、執拗に、執拗にローターでの責めを続ける――そして唐突に、私は自分がコントロールできなくなった。何の前触れもなく言葉にならない絶叫が上がり、激しく全身が痙攣する。
「お、突然ですがイキそうです」
「イっちゃいな。ほら、イクって言うんだよ。言えよ、ほら」
 私は何度も何度も「イク」「イっちゃう」を繰り返す。その一言ごとに、快楽が深まっていく。歯止めが利かない。全身が細かく痺れて、縛られた腕がつりそうになる。
 そして、絶頂の波が訪れたときと同様、忘我の瞬間も予期せぬタイミングで訪れた。急激な落下感覚が襲い掛かってくる。
「や、や、やだ、イク、いああぁぁぁ、ぁ、ああっ、まだ、やだぁぁぁあああっあああああっ!」
 目の前で何度も光が瞬き、気がつくと私は絶頂を極めていた。

 呆然とする私を、カメラが撮影している。男たちはショーツに鋏を入れ、小さな布着れになったそれを下腹部から抜き取った。ひくひくと痙攣する陰部は、まだローターを咥え込んでいる。
 ローターが引き抜かれると、愛液と精液が混じった液体がどろりと椅子の上に零れ落ちた。男の一人が大笑いしながらその液体を手に取り、わたしの頬になすりつける。形容しがたい異臭が、鼻を突いた。

 朦朧としている私は、上半身を縄で縛られ、机の上に仰向けに転がされた。
自然に両足が開いて秘所があらわになるが、それをどうにかするだけの気力も、体力もなかった。ときおり、下腹部が勝手に痙攣し、そのたびにごぼっという音をたてて体液と精液が流れ落ちていく。
 男が一人、私の耳元に口を寄せた。
「さて、本日は全部で20人の健康な若い男性が集まっています。士官どのは、この全員を満足させられますか?」
 弱弱しく、首を横に振る。振りながら、今から20人に犯されて、それでもなお生きている自分を想像しようとして、そのあまりの困難さに慄然とした。でも彼らは、今日で終わりにするつもりはないし、私だってここで終わりになるつもりはない。ということは、これがまだ何度かある、そういうことになる。
「無理ですか! これは困った。では、作業効率を上げるために、ちょっとした準備をしましょう」

 ひやりと冷たい何かが、アナルの入り口にあてがわれた。私ははっとして、全力で首を振る。どこにそんな体力が残っていたのかと自分でも不思議に思うが、「イヤ」と何度も叫びながら、首を振り続けた。
 男たちが、私の肩を押さえつける。
 何かの液体が、私の腸の中に入ってきた。違和感と圧迫感が下腹部全体を支配する。それと同時に、強い便意が沸き上がってきた。医学的にはまっとうな反応だが、それとこれとは別だ。だがしかし、ここで無理に我慢すると――でもそんな――
 ぐちゃぐちゃな思考を右往左往させていると、秘所に指が侵入してきた。ぴくん、と体が震えて、その勢いで排泄しそうになってしまう。いや、奴らにせめて一矢報いるなら、ここですぐに出してしまったほうがいい。今なら、おそらくはグリセリン液が体外に放出されるだけだ。もちろん多少は大腸内の老廃物が溶け込んでいるだろうが、我慢した先に起こる惨状に比べれば……。
 けれど、カメラが私を見ていた。無理だ。それは無理だ。カメラの前で犯されるのは、ある程度まで耐えられるかもしれない。でも、カメラのまえで排泄だなんて、そんな、そんな、それくらいなら、たぶん、死んだほうがマシだ。

 言うまでもなく、愚かな判断だった。ぐだぐだと悩んでいるうちに数分が経過し、腹部を襲う激痛は耐えがたくなってきた。額に冷たい汗が滲み、唇がわなわなと震える。でも。でも。
「さあ、どうしたいんでちゅかー?」
「何がしたいのか、大きな声でいってみましょうねぇー」
 耳元で男の声が聞こえた。呼吸するのも精一杯だ。男の指が陰部をかき回し、私は引きつるような腹痛に身悶える。いやだ。だめ。いやだ。

 ふと、子供のころのことを思い出した。
 私は、いじめられっ子だった。日本人の血が強く混じった外見もさることながら、小さいころの私はあまり体が強くなく、本が一番の友達だったのだ。自然と私は引きこもりがちになり、人付き合いも苦手になっていった。
 いじめっ子は、そういう格好の標的を見逃さない。
 その日、私は掃除用具入れに閉じ込められていた。よくあることだ。ただ一つ違ったのは、閉じ込められた途端、トイレに行きたくなったということ。私は半べそをかきながら、ロッカーの中で救いの手を待った。助けを求めて叫べば、次の日にもっと酷くいじめられることを知っていたから。
 でもその日は運悪く、姉は聖典暗唱会に出席していた。私たちが住んでいた地域では、一番若く(幼くと言ったほうがいい)して聖典の全編を暗記した姉は、あちこちの暗唱会にひっぱりだこだった。
 私が発見されたのは、半日以上たってからだった。ロッカーから異臭がすることに気がついた先生が、私を暗闇から連れ出したのだ。

「お願いです……お手洗いに……お手洗いに行かせて……」
 意識しないうちに、そう訴えていた。10余年をかけて、私はほんのわずか、前進していたらしい。あのときの私は、黙って自分のし尿と便にまみれていくことしかできなかった。
 でも、助けを求めればどうなるかという論点については、何も変わらない。
「お手洗いぃ? 手ならいくらでも洗わせてあげまちゅよー」
「何がしたいのか、ちゃんと分かるようにいってくだちゃいねー」
 こんなものだ。そんなことは、わかっていた。でも、食らいつかなくては。死なないために。考え続けるために。
「お、おトイレに、行かせて、ください」
「だから、おトイレで何がしたいんでちゅかー」
「おトイレでエッチしたいんですね、わかりますよー」
 歯を食いしばる。あの惨めさをもう一度味わうくらいなら、何だってやってやる。
「……トイレで、う、うん、ち、を、出したい、です」
 周囲が爆笑に包まれた。消え入りたくなるような気持ちに、押しつぶされそうになる。
「いいでちゅよー、ほんとうに赤ちゃんでちゅねー」
「赤ちゃんには、赤ちゃん用のトイレがありまちゅからねー」
 私の顔の横に、青いポリバケツが置かれた。これは、つまり。
「はい、おトイレでちゅよー」
 つまり。
 いや、いい。もう四の五の言っていられない。
 私は芋虫がのたうつように机の上で立ち上がると、大急ぎでバケツの上に腰を下ろした。倒してしまったら大変なことになると思いなおし、最後の最後で慎重に腰掛ける。
 そのとたん、腸が爆発するような痛みに襲われた。異音がして、どっと排泄物がバケツのなかに噴出する。鼻を突く匂いが立ち込めたが、私はバケツの中に大量の老廃物を吐き出していくほかなかった。
「おー、上手でちゅねー!」
「くっさー! マジでくせぇ!」
 悲鳴と笑いが飛び交うなか、排泄は続いた。カメラのレンズと目があったが、もう――もう、そんなことはどうでもよかった。今更、何を恥と思えというのか。

 バケツが運び出され、私は机の上でうずくまっていた。とりあえず、生きてる。今のところは。これを生きていると言ってよければ。いや、でも今はそのことが最も大切なのだ。私はナターシャの求めた綺麗な解に、心を寄せるわけにはいかない。まだ。今は。
 また、男の声が聞こえた。でも、もう何を言っているのかわからない。だがすぐに、またしてもアナルに何かが押し込まれ始めた。ペニスでは、ない。なにか、ぐにゃっとした、ゴムチューブのような――
 そう考えていると、アナルの内側で急にゴムチューブが膨らみ始めた。私は「うーっ」と低いうなり声を上げながら、身をよじる。徐々にゴムチューブは太くなっていき、違和感は痛みに変わった。痛い。本気で痛い。
 ふっと、ゴムチューブから空気が抜けていく。痛みで張り詰めていた身体が緩み、私はぜいぜいと息を吸った。荒い息を吐く私に、今度はヴァギナへとバイブレーターが挿入される。背中がぴんとつっぱった。ローター責めで敏感になっていた身体に、これはきつい。
 男がバイブを激しく前後させる。身体の奥を突かれると、それだけで達しそうになる。
 そしてまた、アナルの中でチューブが膨張し始めた。バイブからの快感と、肛門が押し広げられていく痛みが入り混じって、頭が蕩けそうになる。
 さらに、目の前にペニスがつきつけられた。
「しゃぶれよ」
 無理だ。下半身の穴二つから這い上がってくる激痛と快楽に、身体がまるで言うことを効かない。でも。
 男は私の口を無理やり開かせると、イラマチオが始まった。ヴァギナに挿入されたバイブはさらに太いものに交換され、アナルのチューブは一回ごとに太さを増す。苦痛と官能が、呼吸困難に陥った脳の中でゆったりとシェイクされ、渾然とした別の何かに変貌していく。
 口の中で男がはじけたとき、私は完全に気を失った。

「……ら、おら、おら、イケ、おら!」
 どこかに旅立っていた意識が、現実世界に戻ってくる。机の上で、私は前後から激しく犯されていた。身体が重い。よく見ると、私はまだ制服のジャケットを着たままで、どうやらタイトスカートも腰のあたりにまとわりついているようだ。
 むやみに息苦しいのは、ネクタイが無理に締まってきたからか。胸の辺りで何か布がこすれる感触があるのは、おそらくは切断されたブラジャーが肩紐で引っかかっているのだろう。
 膣の中で、男が精液を吐き出した。ピストンの速度が緩み、その隙に私は呼吸を整えようとする。だがそれを察したように、口の中の男根が私の喉を突いた。思わず吐きそうになる。
 次の男は、四つんばいになった私の下にもぐりこむと、腰を抱え込んでピストンを始めた。長くて、太い。私の中に、完全には納まりきっていない。そのせいか、突き上げられる一撃ごとに、身体の奥が木っ端微塵になるかのような衝撃が走る。
 私の身体は、ズタボロだった。陰唇はひきつけるような痛みを訴えているし、喉の奥にはべっとりと何かがこびりついていて呼吸を妨げている。
 でも、彼らはお構いなしに私を犯し続けた。

 そのとき、白衣を着た男が、拘束されていた手を取った。
 ぷつり、と注射器の感触。

 何か、音がした。

 カキン、という硬質な音。

 首筋のあたりを、すうっと清涼感が駆け抜ける。清涼感? そんな単純なものではない。もっと別の――氷河期の頃から溶けることなくたゆたっていた永久氷河を、冷たい太陽の光で溶かして作った熱いシャワーを浴びたような、そんな、ゾクりとする爽快感。

 あらゆるものが、はっきりと見える。古ぼけた机の木目ひとつひとつ、そこに刻み込まれたたくさんの傷跡。ピシっとすべてにエッジがたったように明瞭になり、あらゆるものが綺麗に整理されて輝いている。

 今なら。今なら何でもわかる。何でもできる。

 筆舌に尽くしがたい幸福感と、絶対的な自信が沸きあがった。正義と、真理と、確信がビシビシと立ち上がっていく。すごい。すごくすごい。私は本当にすごいのがすごくすごくてすごい。

 私は自分から腰を振り、膣の中で蠢く貧弱なペニスをぎゅっと絞り上げた。身体の下で男がうめき声をあげる。ハッ、情けない。膣の内側の、微細な襞のひとつひとつが、くっきりと分かる。そのひとつひとつを、自分の思うがままに動かせる気がする。だってほら、こうやって、こいつのエラをなでてやると、ほら。
 男は情けない声をあげて、私の内側に精液を吐き出した。何この早漏。
 同時に、口の中の貧相なブツに舌を絡め、きゅっと吸い上げる。男の顔がだらしなくゆるんだ。いや、緩んだのが見える。見えてないけど。分かる。今なら。舌と唇、歯を駆使して短小包茎な物体を責め立てると、こっちもすぐに噴射した。だっらしない。

 次の男が、また下からの突き上げを始めた。ふん、ちょっと
はやるんじゃない。撮影用の証明がキラキラしてる。私みたい
だ。キラキラ。パキパキ。目の前にペニスが聳え立つ。キラキ
ラ。私はフーッ、フーッと威嚇するように呼吸しながら、ぱっ
くりとそれを口に含む。アナルがぐいっと押し広げられ、ペニ
スが侵入してきた。すごい。これヤバイ。イケてる。いま私は
全部だ。フーッ。すごいキラキラ。すごくしたい。フーッ。無
茶苦茶なピストンが前後左右で暴れまわって、ビシバシっと景
色が煌いている。くぱあって感じだ。もう、何もかもパッキン
パッキン。アナルのなかのペニスがぎゅっとなった。ずずんと
溶けていく。ペニス溶けちゃった。うわあ。スゲー。次いくっ
しょ。次。フーッ。もっといくっしょ。フーッ。こんなのすご
い。地球に生まれてよかった。マジで。そう思わない、宇宙戦
士? すごくすごい。キラキラ。フーッ。フーッ。



 このあたりから、記憶が断片的になる。悪夢と現実を足して2を掛けたような感じ。



「ニホンとえば、イケバナとケンドーです。そういうことで、ニホンの血を引いた彼女に実演してもらいますよ」
「ハーイ、やっちゃうわよおおおお」



 視界が逆さになって、私は自分が天井から吊るされていることを知る。ヴァギナとアナルに重たい痛みがある。無理やり上を見ると、ヴァギナからは竹刀が、アナルからは花が生えている。
 何コレ。チョー受ける。
 ケンドー。きゃはははは。フーッ。フーッ。イケバナ。きゃははははははは。フーッ。フーッ。



「だめぇっ、花瓶、太すぎ、あ、ああ、だめえええっ」



「良い子のみなさーん。これが尿道カテーテルなのよおおおおイエーーーイ。ちんこまんこイェーーーーイ!
 みんなも大変な病気になったら、これのお世話になるんだからねえええ」



 そして、何もかもが真っ暗になって。



 制服のジャケットを、私はまだ着ていて。わかる? ジャケットよ? 信じられる? 殺す気なんだ。うんそんなことは分かってる。だって殺す気なんだから。でもほらみてみてみてみてみて這ってくるんだってああああああだめやめてやめてやめてえええええええぇぇっ! やだ、やめないでえええっ! 殺して、殺して、殺してええええええええええええええっ!!



「だからね、イズミ、あんたは全然わかってないのよ。何も分かってない。あたしたちは聖典を覚えたら、もうそれでいいの。それ以上は、女の幸せには不要なものよ」



そう。姉さん、本当にそうだった。姉さんが正しかった。お願い。だから殺さないで。死にたくない。死にたくない。殺さないで。イヤ。やめて。ブンブンがガンガンしてる。やめて。お願い。殺さないで。



「イズミ、イズミ、あんたって子は、本当に……。男なんて馬鹿なことしか言わないんだから、うんうんって頷いておけばいいの。そしたら連中はそれで満足するんだから。なんでそんな簡単なことがわかんないの? そこまで頭が悪いの?」



ごめん。頭悪くてごめん。でも、どうしようもないの。私は姉さんみたいにはなれない。ごめん。頭悪くてごめん。やめて。お願い。死にたくない。ごめん。姉さんみたいじゃなくてごめん。ごめん。痛い。ブンブンする。ごめん。ごめん。痛い。



「あのさあ。泣いたってなにも解決しないでしょ? 泣くんだったら、最初から泣きなさいよ。なんで問題をこじらせまくって、無茶苦茶にして、どうしようもなくしてから泣き出すの? 勘弁してよ、ほんとに。泣きたいのはこっちだわ」



ごめん。本当にごめん。だから許して。許して。もうやめて。許して。助けて。お願い。もうイヤ。死んじゃう。お願い。もうダメ。もうやめて。痛い。痛いからやめて。お願い。死んじゃう。許して。ごめん。許して。助けて。助けて。助けて! 助けて、助けて、助けて!



 ドロドロに溶解していた私の意識の片隅で、コ・コンという小さな金属音が鳴った。次は何をされるのだろう。私の心臓はどうしてまだ頑張っているんだろう。そんなことを漠然と思う。

 けれど次の瞬間、男たちの絶叫が上がる。

「――グラナーデ!!」

 パシッっと鋭い音が鳴って、視界が真っ白になった。一瞬送れて、鼓膜を聾する大音響が鳴り響く。私はほとんど条件反射のようにパニックを起こしていた。人間は急な大音響や閃光から反射的に身を守ろうとする性質があって、これは訓練したところでほとんど克服できない。もちろん、私は訓練すらされていない。
 騒音と悲鳴、銃声が交錯するが、私にはほとんど聞き取れない。鼓膜がジンジンと痛み、視界は不規則に瞬いている。時間にすると数秒程度で銃声は収まったが、私はひどいパニックで過呼吸を起こしつつあった。にも関わらず、私の内側に棲んでいる何かが、私をこちら側に引き戻す。

「クリア!」
「クリア!」

 訛りの強い英語が飛び交う。ゆっくりと、思考がつながり始めた。情報軍が、愚かなミスを犯した隊員を救助に来てくれたのだろうか? それにしては英語が訛りすぎだ。ターニャだってもっと綺麗な英語を使う。
 気がつくと、私は誰かに抱え起こされていた。口元に水筒があてがわれている。私はむさぼるように水を飲み、激しく咳き込む。
「イズミ、ゆっくりだ。落ち着いて、ゆっくり飲め」
 この場に似つかわしくない、クイーンズ・イングリッシュ。混濁した私の脳の中に、一つの名前が浮かぶ。
「イリューシャ……?」
 詰問するつもりで言ったその言葉は、弱弱しい囁きにしかならなかった。
「そうだ。もう大丈夫だ。だが、すぐ動くぞ。治安維持軍にかぎつけられると、いろいろと面倒だ」
「たす……違う、どう、して、ここ……に?」
「今から君に会うと、ナターシャから電話があった。それで一人、張り付かせておいた。歓楽街は、『俺たち』の庭だ。ちょっとばかり苦労したが、君がどこに連れ去られたのか掴むことができた」
「コマンダンテ、一名が負傷しましたが、軽傷です。作戦続行に支障なし」
「よし、撤収する。テルミットを仕掛けろ」
「アイ・アイ・サー」
 イリーヤは私に毛布をかぶせると、負傷兵を搬送するときの要領で肩の上に担ぎ上げた。
「また軽くなったな、イズミ。ちゃんと食ってるか? タバコとコーヒーだけじゃ生きていけんぞ」
「余計な……お世話……」
 外には幌つきのトラックと大型のジープが止まっていた。私は後部座席に横たえられる。ようやく、全身に鈍い痛みを感じ始めた。頭が万力で締め上げられるように軋む。イリーヤは助手席に乗り込むと、振り返って私に錠剤を差し出した。
「飲めるか? 安心しろ、ごく弱い睡眠薬だ。ブドウ糖とも言う。
だが、飲んでもらえないとなると、目隠ししなくてはいけない」
「飲む――し、目隠しも……すれば」
「そのほうが君の安全のためになる、か」
 彼は私が錠剤を口に含んだのを見ると、ポケットから大判のバンダナを取り出して私の目の周りに巻きつけた。こんな体調で移動経路を覚えていられるとは思えないが、彼の部下や上司は気にするだろう。エンジンがかかって、車が振動を始めると、私はあっというまに眠りの淵へと沈んでいった。

(第7章「マクシム導師」に続く)






追記
・しゃぶ☆すたを、大いに参考にさせていただきました。参考ってかむしろパク(ry

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