いわゆる慰安婦(日本軍性奴隷)について知り、考えるためのFAQです。

否定派の主張

朝日新聞はかつて自分たちが報道した吉田清治氏の証言について「誤報」だったと認めた。朝日新聞による吉田証言報道により、「慰安婦は強制連行された、日本は酷い国だ」という誤った認識が世界中に広まり、日本の名誉は著しく傷つけられた。日本の名誉を回復するためにも、吉田証言が捏造であったことを世界に知らせなければならない。

反論

吉田証言が否定されても、慰安婦問題の本質は全く揺るがない

2014年8月5日、朝日新聞は「慰安婦問題を考える」と題した特集を組み、その中で、吉田清治氏が「済州島で女性たちを強制連行し、慰安婦にした」とする、いわゆる「吉田証言」について「虚偽だと判断し、記事を取り消」す、と発表しました。

「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断 - 朝日新聞デジタル

この記事は大きな反響を呼び、「朝日が強制連行が捏造だったことを認めた」という否定派の主張が沸き上がります。産経新聞は「吉田の虚言を朝日新聞などメディアが無批判に内外で拡散し、国際社会で「性奴隷の国、日本」という誤った認識が定着していった」と報じ、安倍晋三首相もラジオ番組で「慰安婦問題の誤報で多くの人が苦しみ、国際社会で日本の名誉が傷つけられたことは事実といってもいい。一般論として申し上げれば、報道は国内外に大きな影響を与え、わが国の名誉を傷つけることがある」

【慰安婦偽証「吉田証言」とは何か】朝日新聞はどう報じたか 初登場昭和55年3月7日付横浜版、女性強制連行の言及なし
安倍首相、朝日報道に苦言 「慰安婦問題の誤報で日本の名誉が傷つけられた」

こうした主張は以前から否定論のひとつとして主張されてきました。しかしこうした認識は何重にも誤っています。

①吉田証言が否定されても慰安婦問題を否定することはできない


こちらでも触れているように、慰安婦問題研究において、吉田証言は証拠として採用されていません。吉見義明氏が1995年に出版した「従軍慰安婦」においても吉田証言には一切触れられていませんし、川田文子氏との共著『『従軍慰安婦』をめぐる30のウソと真実』(1997年)でも検証が充分になされない吉田証言が証拠として採用できないことが記されています(※注1)


②吉田証言の否定=強制連行の否定=慰安婦問題の否定 とはならない


また、これも別の項で指摘済みですが、吉田証言が否定されても強制連行の証拠は存在します(スマラン事件ほか)し、そもそも慰安婦問題の本質は強制連行の有無にあるのではありません。そう信じている(信じたがっている)のは日本の否定論者およびその信奉者だけです。

③吉田証言(を取り上げた)朝日新聞が慰安婦問題を広めたのではない


そもそも産経新聞や安倍首相の言う「国際社会で「性奴隷の国、日本」という誤った認識が定着していった
」「国際社会で日本の名誉が傷つけられた」のが朝日新聞による吉田証言報道というのは事実でしょうか。

吉田清治氏の著書『私の戦争犯罪』が出版されたのは1983年のことですが、それほど大きな反響はありませんでした。慰安婦問題が国内外で注目を集めたのは1991年、金学順さんが元慰安婦として名乗り出たのがきっかけです。日本の国会で政府が「慰安婦は民間業者が連れ歩いたもの」と答弁したのを知ったためで、吉田証言と直接の因果関係はありません。その後慰安婦問題への関心が高まるにつれ、吉田証言についての記事が掲載されるようになりましたが、朝日新聞の検証記事にもあるように、産経新聞も含めた他紙でも吉田証言は取り上げられています。

その後1993年、慰安婦問題について日本政府の関与を認め、謝罪・反省の意を表した「河野談話」が発表されましたが、談話作成に関しても吉田証言は関係していません(※注2)

④なぜ今なお日本が批判・非難されるのか?


1995年には元慰安婦に対する「償い」を目的としたアジア女性基金が設立されます。河野談話やアジア女性基金については不充分という批判もありますが、一部の被害者が精神的・経済的に救済されたのは事実であり、一定の評価はされています。

ではなぜ、いまだに日本は慰安婦問題について諸外国から批判されるのでしょうか。ここで2007年という年を振り返ってみます。アメリカ下院・オランダ下院・カナダ下院・EU議会で慰安婦問題について日本を非難し、問題解決を求める決議がなされた年です。

当時、安倍首相(第一次安倍内閣)は「狭義の強制連行はなかった」という趣旨の発言をし、国際的な非難を浴びました。4月に安倍首相はこうした発言について(なぜか)ブッシュ大統領に謝罪します。しかしその後、日本の文化人や国会議員らによる慰安婦問題否定広告、通称“THE FACTS”が掲載されました。これは「日本の名誉回復」を目的としたものでしたが、その意図とは裏腹に欧米議会から立て続けに非難決議を出されるという「不名誉」な結果をもたらします(※注3)。日米友好の観点から慰安婦謝罪決議案を見送っていたある米議会議員は、THE FACTを見て「ここまで歴史の事実を否定する日本の状況で、決議に賛同しなかったら自分の人権感覚を疑われてしまう」と思ったそうです(※注4)

もうお分かりだと思いますが、「日本の名誉を傷つけ」ているのは吉田証言でもそれを報じた朝日新聞でもなく、安倍晋三氏や産経新聞を含め、慰安婦問題を否定しようとする勢力です。彼らが朝日叩きに躍起になっているのは、自分たちの責任を誤魔化そうとしているだけに過ぎません。


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(※注1)1996年に国連人権委員会に提出されたクマラスワミ報告で吉田証言が取り上げられていますが、同時に吉田証言の信憑性に疑義を呈する秦郁彦氏の主張にも触れられています。


(※注2)2014年10月3日の衆議院予算委員会において、菅義偉官房長官は辻元清美議員の質問に対し、「吉田証言は河野談話に反映されていない」と答弁しています。

(※注3)このことは、オランダ下院決議文に「日本政府と日本の国会議員が数回にわたって、後に撤回された昨年3月の当時の安部首相の発言の並びに同じトピックについて今年の初めに衆議院議員が出したワシントンポストの広告(引用者注・THE FACTのこと)によって示されたように、この談話(引用者注・河野談話のこと)から離れた立場を表明したことを記録し
…」とあることからも明らかです。

(※注4)
林博史・俵義文・渡辺美奈『「村山・河野談話」見直しの錯誤 歴史認識と「慰安婦」問題をめぐって』(かもがわ出版、2013)

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