The Japan Association for Transnational Studies

 国際総合開発学会の第45回(2009年度第4回)研究会は、2010年3月14日(日)午後2時から桜美林大学淵野辺PFCキャンパス304号教室において開催されました。
 大陸から張り出した高気圧に覆われた穏やかな好天に恵まれ、計16名の学会員が論究の輪に参加し、談藪を楽しみました。ご発表のお三方はいずれもアカデミアからの方でしたが、院生として研究者の第一歩を踏み出した人、学位を取得されたばかりの新進の研究者、産業界からアカデミアに転進された円熟の教育者というお立場、経歴の違いがご発表にも反映された内容豊富な3時間でした。ご研究の対象地域もたまたま中国、モンゴルとユーラシア大陸の東端を広くカバーする国際的なものでした。

 第一報告は周恩来元中国首相所縁の北京第二外国語学院から桜美林大学大学院博士後期課程1年次に留学中の楊wenwen氏による「中国における中小企業の発展と資金調達方式」と題するご報告でした。報告者は、中国の企業4,200万社の99%は中小企業、GDPの60%を貢献していると述べ、温家宝現首相も「中小企業が中国の国民経済と社会発展において重要な役割を担っている」と指摘しています。ところがすでに中小企業の40%以上が倒産しており、資金繰りに行き詰まり、経営危機に陥っているケースが多い。報告者は資金調達の困難さがその原因であるとの仮説を立て、先行研究の分析や事例研究を通して問題点を炙り出しました。フロアからは質問、提案に加え、効果的プレゼンのコツの伝授もあり、発表者はこれを今後の研究展開に役立たせていただきたい。

 第二報告は博士号を授与され近く故郷に錦を飾る日本大学人文科学研究所研究員のバヤスガラン・オユンツェツェグ氏が「モンゴルの道徳教育の改善に向けて」と題して発表されました。報告者は2年前にも当学会でモンゴルにおける道徳教育の変遷について斬新な切り口で分析されましたが、今回は日本留学というメリットを最大限に生かして東京都内の公立小学校で授業参観を行ったり、外国人ボランティアとして中学校で授業参加するなど日本における教育現場の実像に触れるという得難い体験をされており、これが今回のご発表に一段と深みを与えたことは間違いありません。今後はこれまでの研究成果を具体化するためモンゴルにおいて新しい道徳教育の教材開発や教師用解説書を考えるなど研究と実践を視座に入れた将来展望にフロアから大きい声援が飛びました。

 第三報告は長野県から遠路ご出講くださった諏訪東京理科大学経営情報学部五味嗣夫教授の「中国現地法人の経営事例」と題するご発表でした。日本型経営システムが中国でどう活かされたかの体験的分析で、新しい観点からの示唆に満ちていました。司会者からも博士論文並みの豊富な事実とデータに基づく稀有な報告との賛辞が呈され、実務経験者にして初めて可能な臨場感溢れるご発表でした。蘇州愛普生有限公司(蘇州エプソン)経営責任者として在任された9年間、経営の針路を明確に示したことが同社に着実な成長をもたらした実態が秀逸なプレゼン技術に助けられてフロアからの共感を呼び、またガバナンスと人材育成に重点を置き、国際経営において日本企業はどんな視座をもち、どこに軸足を置くべきかという問題への指針が明示されたご報告でした。


関連ページ:第46回(2010年度第1回)研究会ニュースレター

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