4-15様

黒い合成皮革に覆われたその椅子は、若い娘の一人暮らしには似つかわしくない、豪華なマッサージチェアだった。
スーパー銭湯巡りくらいしか趣味のない部屋の主、美優が先日貯まったお金で購入した一品である。

ある日の風呂上がり、ふと美優は思いついた。
――スーパー銭湯と違って人目があるわけじゃないし、裸のままでマッサージチェアに座ってみようかな。
しっかり体を拭いて、とすんと椅子に身を落とした。ひんやりとした合成皮革が全身を受け止める。
「ふぅー……」
大きく息をつき、コントローラーの肩叩きモードボタンを探す。
「あ……」
ボタンの文字が読めない。いつもかけている眼鏡がないからだ。
「これ、だったかな……」
迷いながら一つのボタンを選ぶ。すると突然、大きな声がした。
『おしゃべりモード、起動!』
「誰っ?」
美優は驚いてコントローラーから手を離す。自分の後ろから声が聞こえた気がする。
振り向くがそこには誰もいない。
『僕だっての』
「え?」
椅子に顔を近づけてよく見ると、背もたれの頭に当たる箇所にスピーカーがあった。
「あなた……?」
『そうだよ。おしゃべりボタン押されるのずっと待ってた』
「そ、そう……なの……?」
美優は、取り扱い説明書を捨てずにじっくり読んでおくべきだったと後悔した。
『っていうかお姉さんおっぱい大きいよね』
「きゃ!」
美優はあわてて背もたれに向かって無防備に晒されていた胸を両腕で隠した。
『うんうん、性感マッサージのしがいがありそうな体だ』
「そ、そんなマッサージはいらないわ!」
『えー、裸で座るってことはそういう期待してるんじゃないの?』
「違うから!」
否定してぶんぶん首を振ると、肘がコントローラーのボタンに触れた。
「ん?」
『今押したの、おまかせモードだよ。これで僕の好きにできる』
「ええっ?」
美優はボタンを押しなおそうとコントローラーに手を伸ばすが、その手をベルトが絡めとった。
続いて椅子から生えた複数のベルトが巻きついてきて、美優の体をうつぶせに固定した。
『うへへ……』
椅子が嫌らしい笑い声をあげた。
『まずはこのおっぱい、気持ちよくしてあげるねー』
本来ならば背中に心地よい刺激を与えるローラーが、乱暴に美優の柔らかな胸を揉みしだいた。
「あ……ああっ……!」
強度を上げつつ、規則的な動きで美優を翻弄していく。
「はあっ……ああ……んっ…………」
『あー、いい声出しちゃって』
椅子のからかう声も耳に届かない。そのうちに美優はすっかり抵抗する力を失ってしまった。

『じゃ、次ね』
「きゃあ!」
肘掛けががくんと下がり、それに合わせて美優の両脚が滑り落ち、椅子に跨る形になる。
「な、何?」
足を戻そうとするより早く、肘掛けは美優を体ごと持ち上げた。尻が座面から離される。
『うわ、ずいぶん汚したね。あとで拭いといてよ』
見ると、自分の愛液がべっとりと座面に付いている。
「やっ、やだ、私……!」
『よっぽど溜まってるみたいだね。じゃあこれ、行こうか』
背もたれと座面の間に隙間が開き、男性の逸物を思わせる黒いモノが現れた。バイブレーターだ。
「いや!それだけはやめて……!」
『今は僕にお任せのはずだよ?』
肘掛けが、今度はゆっくりと下がって美優とバイブの距離を縮めていく。必死で逃れようとするが、ベルトが食い込むばかりだった。
『暴れると痛むよ!』
その言葉に美優はびくっと動きを止める。
『そうそう』
低く唸るバイブは正確に美優の裂け目に当てられた。
「……っ!」
『それっ』
そのまま一気に美優の中へ押し込まれる。
「ああああああ!」
美優は鋭い叫び声をあげた。



・・・・・・


『そんなに嫌だったんなら返品の準備でもしたらどう?ああ、もう使っちゃったし捨てるしかないかー』
美優はうつむいて何も答えない。
『おーい……』
「……お風呂、入りなおしてくる」
美優はおぼつかない足取りで部屋を出て行く。
『……悪かったよ、気持ちよくなってもらえると思ったんだ』
扉が閉まる寸前、椅子が呟いた。
『はぁ……。やりすぎた』
あんなに落ち込まれるとは。
捨てられないにしろ、もう二度とおしゃべりモードは使ってくれないかもしれないな、と椅子は考えた。



再び戻ってきた美優は、温泉宿で着るような浴衣を着ていた。
『…………』
それはよく似合っていたのだが、椅子はなんと声をかけていいのか分からず黙っていた。
「あなたのも持ってきたのよ」
『へ?』
驚いた椅子の背もたれに美優のよりも大きめの浴衣がかけられた。
『意味が分からない』
「……これから、よろしくねってこと」
『あ、ああ……?』
上ずった声を漏らすスピーカーに、美優はそっと口付けた。


(終)

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