6-680 ◆P3TAxd3EJBpB様

淫魔の触手が少女の関節に優しく巻きつき、まるでお姫様が抱きかかえられるような姿勢をさせて、しっかりと支えてくれている。
少女の薄桃色の唇と紅潮した頬、そしてすらりとした首筋が、触手によって繰り返し繰り返し愛撫される。

肌に触れるか触れないかの、繊細な感触と性感。
少女はくすぐったそうに、きゃっきゃと幼子のような声を上げる。
淫魔の前なら、自分を作らなくてもいい。
そのことがたまらなく嬉しくて、ついつい淫魔に甘え、はしゃいでしまう。

普段、少女はしっかり者を装っている。家事も花売りも自ら進んで始めた。
神父様の妻が3年前に急逝してからは、その傾向が特に強くなった。
本来の甘えん坊で、泣き虫な自分を封印して、気丈に生きてきた。
それが孤児である自分の宿命であり、運命であると、少女自身に言い聞かせてきた。

しかし、淫魔によって自らの性の扉が開かれたとき、少女はその快楽と同時に、長い間閉ざされていた、本来の心の扉をも開かれてしまった。
淫魔の前では、か弱く、泣き虫で甘えん坊な一人の女の子に戻ってしまう。

淫魔もまるでそのことを理解しているかのように、細やかに応えてくれた。
少女が涙を流せば拭い、寒さを感じれば暖め、そして――

そして、少女の性欲が高まれば、膣に触手を挿入してくれる。


長くて、太さを自在に変える触手で少女の膣の内壁にぴったりと張り付き、腰が痙攣するほどに抽送して、激しく射精してくれる。
挿入のたびに、淫魔に淫らな姿を晒して少女からお願いしなければならないのが少し恥ずかしかったが、いつもの自分からは想像もできないほど乖離した少女自身の行動の、その開放感ゆえに、自らも膣口から熱い蜜を流してしまっていた。

淫魔の触手は全部で17本。
その殆どが生殖機能を持つために、性交だけで淫魔を満足させるのは容易なことではない。
体力溢れる若い身体と敏感な肌、淫魔を満足させられるだけの弾力性に富んだ女性器、そして女性自身に、底なしの性欲が要求される。
まさか自分にその全てが備わってしまっていることなど、性知識に未熟な少女が知る由もない。
彼女は、ただただ淫魔に抱かれて、愛撫されて、そして性器を絡め、互いに快感を得ることができればそれで幸せだった。

淫魔が次に、どんな淫らな事を要求してくるのだろう。
そして自分がそれに懸命に応えた時、交尾というご褒美と同時に、熱く優しく抱擁してくれる瞬間が待っている。

早く、次の行為を要求して。
早く、はやく――。

少女は、夢から目が覚めた。




少女は一人ベッドの上で、毛布を抱きしめて、腰をくねらせるような動きをしていたらしい。
パンティがぐっしょりと湿り、少女の性器が濡れているのがはっきりと分かる。

昨晩もかなりの時間自慰に耽ったのに、その上夢まで見て下着を濡らすなんて。
少女は恥ずかしさで真っ赤に火照った頬を冷やすように、洗面器の水で顔を洗う。
その後、恥ずかしげにパンティを脱いでネグリジェをまくり上げると、残りの水で女性器を洗い、タオルを使って、そこを丁寧に拭いた。
ごく薄い陰毛、小陰唇、膣口、クリトリスの周りまで念入りに拭く。

淫夢を見てしまった朝の、少女の日課である。

一度それを怠って街角に立ったとき、下半身から漂う自身の性臭が気になって、花売りどころではなかった。
目の前にある噴水に飛び込んで、裸になって行水したいほどの気持ちで、一日中、恥辱に耐えねばならなかった。
自慰に、淫夢に、性器の洗浄。淫らな秘密が、少女の日常にどんどん加えられていった。


花売りの一日は長く、そして過酷である。

仕入れは早朝。
まだ日も昇らぬ暗いうちに、近所の農場から花を選び、仕入れる。
切った花の鮮度を落とさぬように、切り口を湿らせながら急ぎ足で街へと赴く。
そして噴水のある広場の隅で、仕入れた花の水揚げをしながら人々に声を掛け、花を売る。
慶事などで花束の予約が入れば多少は楽になるが、それでも一日のリズムに変わりはない。

淫魔にぶたれたあの日から数日。
あれ以来、まだ淫魔の姿を見ていない。
呆然と家に帰ったものの、沸き立つ性欲に負けて激しい自慰に乱れたあの夜。
泣き疲れて眠ったその次の日から、少女は自らを叱咤するように鼓舞し、街角に立って、必死になって花を売った。
一人孤独に、過酷な花売りに全身全霊をかけて打ち込んだ。




花売りに前にも増して力を入れるようになったのは、淫魔を忘れるためではない。
早く花を裁いて時間を浮かせるためだ。
淫魔と激しく性交した森のあの場所で、淫魔が現れないか、少しでも長く待っていたいからだ。
もちろん、往く道すがら周囲の森に目配りしては草木の動きを観察し、淫魔を探す事も忘れなかった。

初めて自分から淫魔に会いに行ったときには、驚くほど簡単に遭遇できたのに、今はそれが全く叶わない。
時がたって冬が近づけば、農場の温室でも花は育たなくなり、花売りは春先まで一旦休業となる。
冬は生糸の糸巻きで生計を立てるから、一日中部屋に篭らねばならない。
淫魔と会うための時間は、そう長く残されているわけではないのだ。
少女の頭がめまぐるしく回転し、淫魔に会うための手段を逆算して求め、ひたすらそれを実行した。

皮肉なことに、その努力は、花売りの成果にだけ抜群にあらわれた。
恥ずかしがり屋の少女は、それまではどちらかというと花の手入れのほうに一生懸命で、売り子としてはいま一つ引っ込み思案なところがあった。
売れ残った花をかわいそうに思って買ってくれる客がいるほど、売り上げが伸びない日もあった。

それがどうだろう。
淫魔に会って全てが吹っ切れたのか、弾けるような自然な笑顔で客寄せが出来るようになった。
早い日には昼前に花が売り切れてしまうほどにまで、売り子としての才能が開花したのだ。
手持ちの花がなくなれば店じまいが出来る。
店じまいが出来れば、森に行く事ができる――。

淫魔にぶたれたときにバスケットとワンピースを忘れてしまったので、今少女が手に持っているものは、新しく買いなおした花売り用の篭である。
その空になった籠を持って、駆け出さんばかりに森へと急ぐ少女の表情は、傍目から見ると、滑稽なぐらいに真剣そのものだった。


そわそわとした気分であの小岩に腰掛けて、少女は物音に耳をすませる。
秋の虫が昼間から恋の羽音を競って、求愛を続けている気配だけが感じられる。

ああ、求愛されている雌の虫達がうらやましくて仕方がない。
きっと愛する雄を見つけては何度も何度も交尾をして、この秋を淫らに謳歌しているに違いない。

その一方で、自分はこんなにも切ない気持ちで淫魔を待っているのに、淫魔は求愛どころか、姿さえ見せてくれない。

今すぐにでも服を脱がせて、身体の隅々まで愛撫して欲しいのに。
ちょっと恥ずかしさは残るが、自分の指で陰唇を広げて、少女の濡れた膣を見て欲しいのに。
それなのに、淫魔は現れてくれない。




少女は、淫魔を思ってめそめそと泣き出すような事は無くなった。
その代わりに、夜の自慰が一段と激しさを増していた。
隣の部屋で神父様が眠っているというのに、少女はベッドの上で、夢中になって快楽を追い求める。
小さな口で木綿のタオルを噛んで声を抑えながら、右手の中指でクリトリスを擦り上げる。
左手は人差し指から薬指まで、3本を同時に膣に挿入するようになった。

そして、内壁をかき混ぜながら、へその裏側の感じやすい部分を中心にゆっくりと摩擦して、刺激を与える。
少女の乳房の上では乳首もツンと立ち上がり、吸って欲しそうに屹立してじんじんと痺れる。

このもどかしさが、またたまらない。
両手がふさがったままなので、時々うつぶせになっては小さな乳首をシーツで擦り、ひたすら絶頂を求めて、指を動かす。
膣から流れ出す蜜が止まらない。

最後は仰向けになって、腰を高々と浮かせて両手の指を激しく動かし、神父様に聞かれてしまうかも、という恐怖感さえをも快感にすり替えながら、ううっ、とくぐもった声を上げて絶頂する。
今はそれで果てるのが一番気持ちがいい。

タオルを口から外して荒い息を鎮め、目を閉じて鼓動が収まるのを静かに待つ。
体中を包み込む触手の感触を思い出して、毛布にくるまり、うっとりとしながら自分の体温で温もりを感じる。

一休みしてはまた自慰を始め、3回絶頂に達して、ようやく眠りにつく。
少女も自慰に手馴れてしまって、絶頂の上り詰め方や、敢えて絶頂を我慢をして、快感を増幅させた時の味を覚えてしまった。

月のものがある日は不快感もあってさすがに控えたが、夜の自慰行為は、どんどん巧みに、そして淫らになっていった。


そうして更に1週間が過ぎ、2週間が過ぎたある日。
少女はいつものように手早く花を売り切った。
そして曇り空の下、急ぎ足で森の道を歩くと、いつもの小岩に腰かけ、淫魔を待っていた。

少女はグレーのインナーワンピースとベージュのショートワンピースを重ね着し、さらにその上にカーディガンを羽織っている。
それでもまだ肌寒いほどだ。

3週間前とはいえ、前回なぜ素足にワンピース1枚でこんなところに座っていられたのか、自分でも全く理解が出来ず、思わず吹き出してしまう。

慌しい商売事から解放され、ほっと一息つけるこの時間。
決して居心地の良い環境ではないが、少女にとっては大切な思い出の場所でもある。
少女は温かなキャメルのムートンブーツを履き、心持ち足をぶらぶらさせながら、いつあらわれるとも知れない淫魔を、待ち続けた。




秋が深まっていく。
季節が移ろうにつれ、少女の憂いもまた強く深く心に疼く。
淫魔は未だ、その姿さえも見せない。
もうこの森には、淫魔はいないのかもしれない。
新しい獲物を探して、どこかに移動していったのかもしれない――。

気丈な少女ではあったが、自分が捨てられたという想像が頭をよぎるときだけは、さすがにこたえた。
俯きながら口をへの字に曲げ、泣きたい気持ちになる。
それはかつて、自分自身が捨て子として神父夫妻に拾われ、育てられた経歴を持っているからだ。

少女は今でも、淫魔にお願い事をしたのが間違いだとは思っていない。
でも、そのお願い事の何かが淫魔を怒らせて、それでぶたれた事は厳然たる事実だ。
理解できない自分を詫びて、とにかくもうその事には触れないでおこうと思っている。
それすらも叶わぬ事が、なんとも歯がゆく、そして悲しい。


ぽたり、と少女の手に水滴が落ちた。
少女の涙ではない。
確かに泣きそうな気持ちにはなったが、涙は流さないことに決めている。
少女は、はっとして空を見上げた。

雨だ。
雨が降ろうとしている。

しまった――。

夏の夕立とは違い、秋の雨は弱く、長く降る傾向がある。
そして、なにより冷たい。
長雨が服にしみ込んで体温と体力を奪い、最悪の場合凍死の可能性もある。
だから雨の降りそうな日は、撥水性の高い、フードつきのコートを持って出ることにしている。

少女は今日、雨具を持たずに出てしまったのだ。
秋の雨は比較的予想し易いので、雨具の携帯を怠る事はないのに、この日に限って、少女は雲行きの読みを誤った。

雨が本降りになるまでに出来るだけ村へと急ぎ、後は岩場で雨をやり過ごすしかない。
急いで花売り用の籠を持ち、帰り道を急ごうとしたそのとき。
少女は視線の先に、大きな塊を見た。

見覚えのある、異形の生命体――。
少女が待ち焦がれ続けた、淫魔の姿がそこにあった。

(了)



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