非エロで大したことはないですがエグいシーンあります。
5-490様

いつどの時代、どの場所にあったのかも定かではないが、ある所に広大な森が広がっていた。
そこは豊かな自然があふれ、動植物達はみな自らの生を謳歌していた。
ある所は、美しい花々や色とりどりの小鳥たちが自らの美しさを競い合い、またある所は鬱蒼と木々が茂りまたある種グロテスクな花や生き物たちが渦を巻いており、豊かな生態系が維持されていた。
やがて、いつしか人々はそんな森のことをこう呼んだ。
“キロロの森”、と―。

森の西のはずれ、比較的都市部に近いユタ川の下流に、カラスの群れがいた。十数羽のカラスが川の上を飛び回り、何十羽というカラスがそれを見下ろしていた。
狂ったように飛び回るカラス達の中に、一羽だけ毛色の違うものが混じっていた。黒…と言うよりは青みがかった灰色の背中に、腹全体に広がる斑模様。体は周りのカラスより一回り程大きく、赤褐色の大きな目が鋭い眼光を放っている。
そう、その姿はまさにオオタカのものだった。
カラスに目を付けられたのだろう、オオタカはカラスに追われていた。一羽や二羽ならばオオタカがカラスなどに追われるはずもないが、こうも相手が多くては流石のオオタカも為すすべがない。
「いけー!殺っちまえー!」
「おいおい逃げるだけかよー!?」
逃げ回るオオタカを見て周りのカラス達は面白がって野次を飛ばす。
追い回すカラス達もなかなか手を出さずに、オオタカの体力を削ぐように飛び回る。
だがそのうちの一羽が、我慢しきれなくなったのかいよいよオオタカに飛びかかった。
「手柄もーら…いっ!?」
だが彼の攻撃はあっさりとかわされる。ぎゅん、と急上昇したオオタカは一瞬で彼の背後に回った。
「なっ…!」
その時、彼は見てしまった。
オオタカの嘴の端に深く刻まれた傷跡を。
「その傷ッ…まさかッ…!」
と、言った時にはすでに遅かった。オオタカの鋭い鉤爪が、彼の喉と左肩に、ぶつり、と食い込んでいた。

「はッ…ようやく気づいたか?てめえが、誰に喧嘩売ってたかをよォッ!!」
オオタカはそう叫ぶと、体をぐりん、と勢い良くひねった。掴まれたカラスは、その反動で真下の川に思い切り叩き込まれた。
「げはぁッ!」
無様な声を出してカラスは水面に顔を出した。
「かはッ…ち、ちくしょッ…!」
カラスはすぐさま水面から飛び上がろうと翼を広げた。ちょうど、すぐ背後に迫った大きな影と同じように。
彼がその気配に気づいたと同時に、彼の頭は再び水中に沈められていた。
彼の頭に、背中にオオタカがのしかかっていたからだ。
「がッ…ばっだれッ…助ッ…!!」
カラスは死に物狂いで暴れて水中から抜け出そうとするが、彼よりも大きいオオタカの全体重が掛けられているのでそれもかなわず、助けを求めようと嘴を開けば川の水が喉を塞いだ。
始めは狂ったように足の下で暴れていたカラスだったが、やがて振り回す翼からは力が抜け、水面に嘴から零れる気泡だけがコポコポと音を立てた。そして、それもやがては止まった。
一部始終を見終わった、それまで調子の良かった他のカラス達の様相がざわりと一変した。

「…や、やべえ…ガルスだ…“傷嘴(しょうし)”のガルスだあッ!!」
野次カラス達はその名を口々に叫ぶとその場から一目散に逃げ出した。
一瞬で騒然となるカラスたちを尻目に、オオタカは捕らえた獲物を泳いで岸まで運んだ。
追いかけていたカラス達が上空で旋回を続ける中、オオタカはさっそくご馳走にかぶりついた。
「あ…あーあっ!あぁーあっ!殺っちゃった殺っちゃった!お前知らないだろけどさぁそいつ俺らの“ボス”の一番のお気に入りだよっ!?お前ぶっ殺されちゃうんじゃねーの!?ぶっ殺されるだろーねッ!!あーあ俺知ーらねぇ!!」
その内の一羽が、捨て台詞を吐いて遠くに飛んでいった。
オオタカはその赤褐色の眼でカラス達を睨みつけると、くわえていた肉をぶちりと噛みちぎった。

“傷嘴”のガルス。オオタカはそう呼ばれていた。


第一話 ガルスとアリク


それから数日後。ガルスは再び獲物を探して森の西南を飛んでいた。
ふと、彼の目に一羽のムクドリが映った。何か虫でもくわえているのか飛び方がゆったりしている。
ガルスはそのムクドリに照準を定めると一気に加速した。
ムクドリはよほど大きな獲物なのか、飛び方がよろよろとおぼつかない。これなら、仕留めるのは簡単だろう。ガルスはムクドリの背後から一気に飛びかかった。
ムクドリもガルスの羽音で気がついたが、既に体はその鉤爪に捕らわれていた。
「ぎゃっ!?」
ムクドリは短い悲鳴をあげて、くわえていた虫を落とした。ガルスは餌を手に入れた喜びでニヤリと笑った。油断したのだ。それがいけなかった。
「くそっ!!」
ムクドリは落とした虫を見やると、
「喰らえッ!!」
と叫んだ。その瞬間、まばゆい光が閃いた。
「!?なッ!」
ガルスはひるみ、足からムクドリを離してしまった。
目が眩んだガルスはそのまま真っ逆さまに森へと墜落した。


気がつけば、太陽がちょうど真昼の高さにあった。どうやら気絶していたらしい。青草の匂いが鼻をついた。
「…ッつぅ…」
目を覚ましたガルスの体を痛みが襲った。
墜落した時の衝撃で体全体が鈍く痛む。心なしか頭もぼやけてハッキリしない。
ガルスはゆっくりと辺りを見渡した。さっきの光…あれは何だろう。あのムクドリがやったには違いないだろうが、光を出すムクドリなどきいたことがない。
考えていると、ぼやけていた視界が徐々に鮮明になってきた。と同時に、何か異様なものが見えてきた。

「?…あれは…」
草の上に横たわる小さな生き物。おそらくさっきのムクドリがくわえていた虫だろうが、異様なのはその見た目だった。
恐ろしいほど『人間』に酷似している。だが…人間と言えば、ガルスも昔一度だけ本物を見たことがあるが、こんなに小さい生き物ではなかった。ガルスの体の何倍もあったはずだ。
だが今ガルスの目の前にいるそれはまさに虫けらのような大きさだ。
ガルスは痛む体を起こしてその人間に近づき、まじまじと見た。
黒に近い茶色の毛は肩あたりまであり、これまた茶色の体毛(?)を身に纏っている。が、顔と手足は白っぽい肌が露出している。
ガルスには雌雄の判別が付かなかったが、間違いなく、これは人間だった。
と、その時、目の前の小さな人間がぴくりと指先を動かした。
「…ん…」
気がついたらしい。ゆっくりと目を開くと、目の前のガルスと目があい、両者とも目を丸くした。
「わっ…ひぁあっ!!」
「うわっ!?動いた!!」
ガルスが目の前の小人の悲鳴に驚いて飛び退くと、小人は慌てて逃げ出した。…だが。
「ぎゃんっ!?」
ちょうど後ろに石があったため、体全体でぶつかってしまった。
「うお痛そ…だ、大丈夫か」
「こ、こなひでっ!!げほっ…あっ、あっちいってっ!!」
小人は一生懸命腕を振ってガルスを追い払おうとする。
「わ、私なんか食べても美味しくないよっ!骨ばっかりだよ喉に刺さるよーっ!!」
そう言って小人は地面にうずくまった。こちらとしては全くその気は無いのだが、小人の方はすっかり勘違いしているようだ。
何だかその様がひどく滑稽で、ガルスは柄にもなく笑ってしまった。

「…あ…な、なんか笑われてる?」
小人は自分が笑われてるのかと、少し顔を赤らめてむくれた。しかしそれもまた余計におかしかった。
「べ…別にお前なんざぁとって喰いやしねえよ」
「ほ…ホントに?…あぁ良かったぁ〜」
そう言うと小人は安堵のため息をついてへたり込んだ。
その瞬間だった。
「痛っ!?」
小人が顔をしかめて頭を抱え込んだ。次の瞬間一気に、蟻のような触角がその小さな頭から飛び出した。
「ひゃっ…!な、なにこれ」
「あっ…お前やっぱり虫だったか!いやー最近の虫は人間にまで擬態出来るようになったか」
「はぁ…?ち、違う!私人間だよ!いや今はこんな姿だけど…!」
「嘘付け、じゃあその頭から出てるぴょろっとしたのは何だ」
「こ…これは…その」
そこまで言うと小人は押し黙って考え込んだ。そして頼りなさげに、
「呪いのせい…かな?たぶんだけど」
と言った。
突然出た突拍子もない“呪い”の言葉に、ガルスは呆れた。
「はぁ?呪い?お前な、つくんだったらもうちょいマシな嘘を…」
「う、嘘じゃないよ!…嘘…じゃないよ…」
小人の言葉に力が無くなってゆく。小人自身にとってもあやふやなようだ。
「へぇ?じゃあその呪いはなんつー呪いなんだ」
「ええと…何だったかな、えー…ピコ、だったかな」
「違う、“ミコ”の呪いだ」
突然、聞き覚えの無い声が二人の間に割って入った。
ガルスが驚いて振り向くと、ちょうど背後の木の枝に、先ほどのムクドリがちょこんと止まっていた。
「“ミコ”とは、この森の古い言葉で虫に魅入られる事を意味する。ミコの呪いとはかけられた者がやがて虫にその身を変える呪いだ」
「あっ!さっきの奴じゃねえか!!」
ムクドリはガルスを無視すると小人の頭に生えた小さな触角に目をやった。
「ほう、触角が生えたか、呪いは順調に進んでいるようだな」
「っ…」
小人はガルスの後ろに少し隠れた。その表情は怯えきっている。ガルスは小人がムクドリに対して恐怖心を抱いていることを察知した。

「やあ貴様、さっきはよくも私の邪魔をしてくれたな。本来なら私の力で八つ裂きにしてくれる所だが、そいつを渡すというなら先ほどのことは水に流そう。どうだ?」
そう言うとムクドリはその小さな翼で小人を指した。
だが、ムクドリのやけに高圧的な態度に怒りを感じたガルスが、素直に首を縦に振るはずもなかった。
「てめえ、鳥(ひと)にモノを頼むってんなら相応の態度ってもんがあるだろう」
「ふん、貴様こそ誰に向かってクチをきいているのかわかってるのか?」
「知らん、誰だ」
「チッ…これだから無知は困る。私はランドット。“金色の魔女”が一番の弟子のランドット様だ!」
ムクドリ、ランドットはそう声高らかに名乗りを上げたが、ガルスにはそのどちらもが聞き覚えの無い名前だった。
「どっちも知らねえな。んで、そのカンジキの魔女の弟子のペリドットがどうしたって」
「金色の魔女だ!!それにペリドットじゃないランドットだ!!二度と間違えるな!!さぁ、私の名は名乗ったし、これでいいだろう!さっさとそいつを渡せ!そいつは我が師、金色の魔女のものなのだ!」
そう言われ、ガルスは今一度小人を見やる。小人は不安げな表情でガルスを見上げている。しばらく見つめていたが、やがて意を決しランドットを見上げ、
「断る」
と言い放った。

「…馬鹿を言うのも大概にしたまえ。貴様わかってるのか?私に逆らうということは金色の魔女に逆らうということなのだぞ!?」
「別に構わねえよ。その金色なんたらがどうなのか別に知ったこっちゃねえ」
「…わからん、わからんわからん!なぜそこまでその人間を庇うのだ!さっき出会ったばかりの人間を!?」
「理由か?そうだな、まず“コイツに興味が湧いた”。次に、てめえのその“態度”が気に入らねえ。そんで最後が」
ガルスは力強く両翼をはためかせ、
「コイツを今ここで見捨てたら、“物凄く後味が悪くなりそう”だからだ。俺は後味の悪いのが大っ嫌いでな」
ランドットをその赤い眼で睨みつけながらそう言った。
小人は安堵と驚きの入り混じった表情でガルスを見つめ、ランドットは呆れ蔑む眼差しをガルスに送った。
「…馬鹿もここまでくると素晴らしいな。仕方がない、貴様ごときには使いたくなかったのだが」
ランドットの羽が徐々に逆立ってゆく。
「私の魔法でなぶり殺してからそいつを連れて行くことにしよう!!光栄に思いたまえ!私の魔法で死ねることを!!」
ランドットの目が黄緑色に妖しく光った。と同時に、その小さな体がむくむくと膨れ上がっていく。やがてその体は周りの木々を追い越し、へし倒し、押しつぶしてゆき、そしてついには…。
「ふっはははは!どうだ!私の魔法は!?」
ド派手な色をした、巨大な怪鳥へと成り変わっていた。
「なっ…!?」
流石のガルスも目を丸くして驚く。
「驚いたか!?今更後悔しても遅いぞ!!」
遥か上空から降り注ぐランドットの声。と同時に、ランドットがその片足を振り回した。突風が起きて、そばにあった木がべきりと折れ、驚いた周りの鳥達が次々と飛び立った。

「きゃっ!?」
小人が突風に吹き飛ばされそうになり、足元の草にしがみついた。
「おい、大丈夫かっ…!」
ガルスが小人の方を振り向いたその瞬間、辺りが暗く影になった。
「!!」
気づいたその瞬間、巨大な足が大地を揺るがした。
「うおっ!?」
ガルスはちょうど足の指と指の間に入って難を逃れたが、足は再び踏み潰そうと持ち上がってゆく。
このまま地上に居てはマズいと判断したガルスは小人のもとに急いで跳ね寄った。
「おい、このままここにいちゃマズい!飛ぶから上に乗れ!」
「う、うん!」
ガルスが頭を下ろし背を低くすると小人はガルスの背によじ登った。
ガルスは大きな翼を羽ばたかせ力強く大地を蹴った。
「わっ…」
一気に木々を飛び越え森の上空に出る。
だが。
「逃がすかぁッ!!」
ランドットが巨大な翼を広げ、そのまま打ち下ろした。
「がっ!?」
ガルスはランドットの翼に強かに弾かれた。一瞬意識が吹っ飛ぶ。そして気づいた時には既に、小人の甲高い悲鳴と共に、空が猛スピードで遠のいていった。
だが、ガルスの体が大地とぶつかりそうになったその時だった。ガルスの体が一瞬ビタッと止まった。いや、止まったと言うよりは、反対方向に体が強く引っ張られた。
「なっ!?」
一番驚いたのがガルスだった。ガルスは戸惑いつつも急いで体勢を整える。
「な…なんだ今のは…!?」
何が起こったのかわからず思わず辺りを見回す。
だが辺りには折れた木々以外何も無い。まるで魔法のようだったが、まさかランドットが助けてくれたわけでもあるまい。
当のランドットはと言うと、弾き飛ばした際に見失ったのか明後日の方向を攻撃している。

「なんかわからんが助かった…しっかしまあ、よくもあれだけでっかくなれたもんだ」
ガルスはランドットを見上げて呟いた。地上ではあの足に踏みつぶされるが、空ではあの翼によって近づくことすらかなわない。さて、どうしたものか…。
ガルスがランドットを見上げて居ると、ふと眩しさを感じた。先ほどから、真昼の太陽が暑いほどの日差しを森に注いでいる。その瞬間、ガルスにある考えが浮かぶ。
ガルスが不敵に笑うと、
「はっ!体が相手よりデカけりゃ勝てるってか?いかにも三流の考えそうなことだぜ!!」
と、勢い良く羽ばたいた。

「ほらほらどこ行った!?さっさと出てこないと踏みつぶされるぞ!!」
凄みながら辺りの木々を足で払い、ガルスを探し続けるランドット。まさか自分が探している相手が自分より遥か上空に居ることなど思いもよらないであろう。
ガルスは遥か下のランドットを見下ろし、叫んだ。
「どこ探してやがるッ!!こっちだランドットッ!!」
ランドットは突然上空から名前を呼ばれ、ハッと振り返る。そのランドットの瞳を、鋭い太陽光線が貫いた。ガルスはちょうど太陽の中にいたのだ。
「うッ!?」
ランドットは眩しさに思わず目を背けた。
「しっかり掴まってろ!」
「うん!」
小人に呼びかけると、ガルスは一気に急降下した。
時速130キロものスピードでランドットのもとへ。狙うは真正面に捉えた、ランドットの大きな目。
ガルスの鋭い鉤爪が、ランドットの左目に突き刺さった。

「ぎあぁあああッ!!」
直後に響くランドットの悲鳴。
ガルスは爪を引き抜くとすかさずランドットの瞼に止まり、さらに嘴で再び目玉をつつく。
「ぎぁっ!!がっ!!」
目をつつく度に零れる悲鳴。ランドットは狂ったように頭を振ってガルスを振り払おうとするが、ガルスは鉤爪で瞼をがっちりと掴んで抵抗する。
やがてランドットの体から力が抜け、みるみるうちにしぼんでいった。もとのムクドリの姿に戻ると、ガルスはその体を爪で捕らえた。
「ちくしょう…まさか…私の魔法が敗れるとは…!」
ランドットは力なく呟く。
「き…貴様の名など興味も無かったが…聞いておこうか」
「ガルスだ。冥土の土産に教えてやるよ」
「ガルスか…忘れぬぞその名…だが…私はまだ死ぬわけにはいかん…!」
ランドットはそういうと、不敵に微笑んだ。
「覚えてろ…金色の魔女に喧嘩を売って、この森にただで居られると思うなよッ!!」
そう叫ぶと、ランドットの体が一瞬で砂に変わる。砂は指の間から流れ落ち、風に乗ってどこかに飛んでいった。

「やれやれ、何だったんだありゃあ」
ガルスは折れて無惨に横たわる木の上に止まり、羽を伸ばした。
「あのー…」
小人がガルスの頭の上から声をかける。
「ん?ああ、ほらよ」
ガルスは頭を下げて小人を木の上に下ろした。
「あ、ありがとございます…。す、スゴいね。あんな大きな相手倒すなんて」
「何なんだあいつは」
「私もよくわかんない。なんか知らない間にさらわれちゃってて」
「なんだそりゃ?…それにしても、どうしたもんかな、これから」
ガルスが溜め息混じりに倒れた木々を見回す。何だかマズい相手に喧嘩を売ったようだが、自分が選んだことだ。今更悔いたって後の祭りだ。そんなガルスの心中を察知してか小人が申し訳なさそうにいう。

「あの…本当に良かったの?私なんか助けて」
「別にお前の為じゃねえよ。さっきも言ったろ、あのままだと俺が後味悪いからやったの」
「そ、そう…?…でも、やっぱりそれでも嬉しかったよ。ありがとう」
小人はそう言うと満面の笑みを浮かべた。
「そういえば、まだお前の名前聞いてなかったな」
「あ…私、アリク。アリクよ。えと…ガルス」
「アリクか、変な名前だな。あ、それとお前、雄か?雌か?」
「え…め…雌?かな、一応」
「雌か!いやあ人間の雄雌はよくわからん」
ガルスがそう言うと小人、アリクは複雑そうに首を傾げた。
とりあえずこれからどうするかは追って考えよう。ガルスにとってそれよりも今は、喰い損ねて空っぽな腹をどうやって満たすかが先決だった。


所変わって、森の西北。おびただしい数のカラス達が群れを成して騒いでいる。その中央に、一際大きな一羽のカラスがいた。
「何だと、あのガルスが!?」
そう部下のカラスに怒鳴りつけたのは、この森一帯のカラス達を束ねているボス。

「黒き爪」ことクロウクロウだった。

「あの野郎ッ…今まであの態度だけでも目を瞑ってやってたが、とうとう俺の部下にまで羽(て)上げやがったかッ…!!」
クロウクロウはそう言うとぎりり、と嘴を鳴らした。
そして周りの部下達を見やると
「てめえら何やってる!!今すぐガルスを見つけてこい!!見つけたら俺に報せろ!!わかったか!!」
と怒鳴り散らした。
カラス達は一斉に飛び立った。
「クソッ!!覚えてろよガルスッ…!!」
クロウクロウの黒い目に、鋭い眼光がたぎっていた。


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