最終更新: jingai_2ch 2011年12月12日(月) 12:54:53履歴
3-470様
もう、五分も経ったぜ。
収納ケースの中でゆらゆらと揺れながら、再び玄関の方へ視線を向けた。
彼女が入ってくる様子はない。
溜め息の変わりに、身体の一部をちゃぷんと小さく跳ねさせた。やることもなく、揺れの余韻を感じつつ、静かに彼女の帰宅を待つ。
やっと気配が動くのを感じると、スライムは人を象りつつ、玄関の方から顔を逸らした。以前一時間も部屋の前で逡巡していた彼女からすると、随分と進歩したものだ。
「帰った」
玄関の前で随分逡巡していた割には、素っ気ない挨拶である。
しかし、それは投げ遣りな訳ではないと知っているそれは、やれやれ、と内心で溜め息を吐きつつ、今気付いたかの様に振り返った。
「おう、お帰りユキ。今日は早かったな」
プラスチック製の大きな収納ケースに入る、アクアブルーの人形【ひとがた】は、いやに上手に口元だけ動かすと、綺麗に笑ってみせる。
が、透明なそれの顔は凹凸が分かるだけで、正直笑った程度の変化は見つけられない。それはイケメンだと言い張るその顔も、ユキに対して、あまり成果を成していない程だ。
「まあな。早く入った分、早く出させてくれたよ」
両肘を淵にかけ、ふんぞり返っている姿を見ると、どうしても、収納ケースは実はバスタブではないかと錯覚してしまう時がある。
何だか溜め息が出て、一先ず台所へ足を向けると、ユキは冷蔵庫の前でしゃがみ込んで、中の物と睨み合う。
もう一度溜め息を吐くと、サイドポケットのペットボトルを一つ取り出した。
「やっぱり、ないもんはないよなあ」
「なんだ、まだこだわってんのかよ。単なる水じゃん」
うるさい。
ユキは小さく威嚇して、ペットボトルを煽って中身を開けると、直ぐに水道から水を入れて冷蔵庫へ戻した。
ペットボトルにはミネラルウォーターのロゴが張り付いていたが、随分と前から中身は水道水なのである。
ユキの生活は別段苦しい訳でもないが、毎日お気に入りのミネラルウォーターで生活出来る程、豊かでもない。
節約してこの状況なのだから、貧乏と言えば貧乏なのだろう。
「おいおい、また溜め息だぜ。こりゃ行き先暗いぞ」
「ミズ! あんた水道に流すぞ」
「いいのかよ。大事だろ? 俺」
言われてしまえばぐうの音も出ない。
「大事大事。私入るから、さっさと準備ね」
ミズがにたにたと笑っているのを感じて、ユキはわざと素っ気なく寝室へ消えた。
このアパートは異種族が共同で使用する為に、共同風呂は徴収制となっている。
様々な種族が共同するのである。まれに、やむなく浴場を汚す種族がいるのだ。そう言った種族の場合、掃除していく傍から汚れていくため、肉体労働で返還ということは出来ない。
その為、管理人が掃除の手数料を徴収して行くのである。それも、不平のでない様に、使用者に一律に。
ユキは節約の為に、共同浴場を利用していなかった。
しかし、値段に大差ない銭湯にも行っていない。
だからといって、ユキは風呂に入っていない訳ではなかった。いや、正確には風呂には入っていないが、重要なのは清潔であるかどうかである。
彼女は、毎晩きちんと清潔にしてから、布団に入るのだ。
「温度加減どうだ?」
「ああ、ちょうどいい。大丈夫だ」
少々綻んだ顔をミズに向けてやると、ミズは得意げに笑っている様だ。
褒める様に水面を撫でていると、少々気泡を含んでいる海色の透明なジェルが、一部濁っている様に見えた。
「なあ、なんかミズ濁ってるとこないか?」
「えっちょ、マジで!?」
驚いた声とあからさまに嫌そうな声が、肌を伝って耳に届く。
少々のくすぐったさに身をすくませると、集められた気泡が溜め息の様に吐き出された。
「ま、あとで見たげんから、ちゃっちゃと洗ってくれ」
温かいミズの中で腕を伸ばすと、ミズの一部が肌を這う様に蠢く。
時折啄まれる様な感触を感じながら、肌から、皮脂の張り付く不快感が消えていくのを感じる。
ミズはユキの指先から、徐々に這い上がりつつ、皮脂を取り除いていく。
「んん、今日もよく働いたみてえだな。美味い美味い」
毎度のことながら、皮脂の何が美味いんだ、とユキは苦笑した。
「ま、ユキは皮脂なんかなくても、十分美味いけどな?」
褒めているのであろうが、ちっとも嬉しくない。どころかむしろ気恥ずかしいばかりである。
「ああもう、あんま嬉しくないからな」
「照れんなって。一皮剥いた後のユキ、めっちゃ甘いんだぜ?」
デザート食いたくもなんだろ。囁きながら、胸を這う。
ミズは一気に彼女の皮脂を食い尽くすと、出てきた柔肌に口付ける様に這いつつ、その甘みを楽しんだ。
「っあ、こら!」
急いで立ち上がろうとするユキの下唇に、先程濁っていると指摘された部分を流し込み、絶妙な硬さへ調整する。
ミズがそれを先端は丸い筒状に形を整えると、突然中に現れたモノに、ユキは立ち上がりきれない。
足を滑らせて、浮かしかけた腰をプラスチックケースの底に叩き付けてしまった。
「あ、ぁああッッ!」
痛みを感じるよりも早く、快楽が駆け抜ける。
思わず中を収縮させると、ミズの塊は形を失い、どろりと溶けて中から出て行ってしまった。
「ま、ユキも疲れてんだろうからさ。今日は我慢しとくよ」
ミズの青い波がにっこりと笑顔を浮かべている気がして、ユキはその言葉に甘んじることした。
何より、少し残念に思っているとはいえ、自分から行為を強請ることなど、出来る筈が無い。
お腹の奥に残されたミズの濁りが、媚薬であるとは知らずに、ユキは再び腕を差し出した。
おわり
タグ
コメントをかく