2-111様

【 2 】

 話し合いの席にされていた角材のテーブルとイスも運び出されると、室内はバスティアが充分に体を横たわらせるほどの広さとなった。
 改めてその中を見渡せば石畳を組んで造られた室内は天井も充分に高い。そして壁面の一角へ移動するよう命じられると、バスティアはそこに設えてあった黒鉄の鎖で両前足をそれぞれに括られて、天井から吊るされるようにその身を拘束されるのであった。
 室内の設備と男達の手際を考えるに、彼らが人攫いまがいの行為もまたしているであろうことが窺えた。
誘拐してきた人間や獣人をここで囲い、調教やはたまたリンチを施していたのであろう。
「へへへ、俺達にも運が向いてきやがった」
 そんなバスティアの前に先の話し合いの時の男が立つ。年の頃は四〇代も始め、痩せた体と艶を失って野放図に伸びた髪に土気ばんだ肌の面相は、彼の荒んだ生活を物語るかのよう不健康極まりない。そしてこれまでの言動を見るにどうやらこの男が、ここのメンバー達のボスと見て間違いはなさそうだった。
「鱗も毛並みもキラキラだぁ。これだけの上玉なら鱗だけで一財産になりやすぜ?」
「それだけじゃねぇさ。竜は肉や血、内臓だって薬に売れる。本当に宝の山だ」
 品定めして感嘆する犬獣人の言葉にボスも応え、場は大いに活気づく。
 斯様な俗物達を前にただただバスティアは沈黙を保ったまま、己へと罪の執行が行われるのを待つばかりであった。
 そんなステアへと、
「おい、メス。そういやさっきは、ずいぶんと生意気なことぬかしてくれたよなぁ?」
 ボスが言葉を投げかける。
 それに対してバスティが反応することは無い。
「俺達じゃ、てめぇを殺すことは出来ねェとか何とか言ってたか?」
『………』
「竜だからって人間様をなめんなよ? てめぇはたっぷり苦しめて殺してやるからな」
 生臭い鼻息が感じられるほどに顔を近づけてそう脅してくるボスにもしかし、バスティは微動だにしない。
そんな彼女の落ち着きはらった態度が、なおさらボスの小さな自尊心を逆撫でた。
「なに知らねぇって顔してんだ、動物が!! 舐めくさりやがって!!」
 一瞬にして激情して沸騰し、リーダーは声の限りに罵声を怒鳴り散らす。
「おい! ベドン、ビジー! 少しばかり痛めつけてやれ! まずはコイツに悲鳴を上げさせろ!!」
 そしてリーダーの命令(こえ)に応じ、二人の獣人がその前に歩み出てくる。
 一人はくすんだ短毛の豚の獣人。そしてもう一人は見上げるほどの巨躯を持ったベース不明の獣人(キメラ)。
それぞれの手には末広がりの木棍棒と鉄鎚とが握られている。
「まずはてめぇから行け、ベドン! 間違って殺すんじゃねぇぞ!」
「んお、お、おうッ! い、いくぜ!」
 どもりながらに棍棒を振り上げた豚獣人がベドン。棍棒の重量によたつきながらバスティアの前に歩み出ると、ベドンはうなだれた彼女の脳天へとその棍棒を振り落とした。
 そうしてベドンの一撃が頭部を直撃するもしかし――両腕に返ってくる振動に痺れて、ベドンはたまらずに棍棒を握りこぼす。
「何やってやがる、ベドン!」
「お、お、おッ?」
 掛けられる怒号を背にベドンは痺れた両手をさすり合わせながら、今しがた打ちすえたバスティアを凝視する。
「こ、こ、コイツ、堅ぇよお。ボ、ぼ、ボスぅ」
 そして振り返ってそう伝えてくるベドンに声を裏返らせて首をひねるボス。

(スレが容量オーバーのdat落ちしたため投下中断)



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