関連 → ヤンマとアカネ
859 ◆93FwBoL6s.様

 夕暮れに染まる街を越え、古びたトタン屋根に足を下ろした。
 下両足の黒い爪でトタンを掴むと、砂っぽい感触が伝わった。透き通った四枚の羽を下げてから、街並みを見渡した。駅前に立ち並ぶビルは半身を朱色に染め、周辺の民家は濃い影に埋まり、家路を急ぐ子供達の姿が複眼に映る。今日も特に異変が起きなかったことを安堵する傍ら、少々不満に思いつつ、ヤンマはアパートの屋根に腰を下ろした。
 茜と共にこの街に来たばかりの頃は、排気ガスと人いきれで息が詰まりそうだったが、今ではそれにも慣れてしまった。ヤンマは茜と同じ地方都市の出身だ。中途半端に発展した中心部から離れれば、すぐに田んぼや山が現れる場所だ。人間や昆虫人間の密度が低いので飛ぶのはかなり楽だったが、この街は違う。どこもかしこも、物や人が詰まっている。当然ながら昆虫人間の数もかなり多く、本能的に縄張りを決めてしまうオニヤンマにとっては、それは許し難いことだった。
 茜には荒事を起こすなと言われているが、DNAに刻まれた本能だけはどうにもならず、ついつい昆虫人間と戦ってしまう。害のない性格の相手だったら一言脅して見逃すが、自分のように血の気の多い相手だったら、戦わなければ気が済まない。勝った回数も多いが、同時に返り討ちにされたことも少なくない。けれど、戦わずにいると、体の奥底がむず痒くなってくる。それを我慢出来ればいいのだが、何をどうやっても堪えきれない。その結果、傷だらけになって茜にこっぴどく怒られてしまう。
 言ってしまえば、戦わなければ落ち着かないのだ。昆虫人間は人間と共生しているが、人間のようには生きられない種族だ。だから、茜と一緒に暮らしていても訳もなく不安になる。そういった鬱屈した感情を晴らすためにも、暴れずにはいられない。

「お帰りなさい、ヤンマさん」

 下から声を掛けられたので、ヤンマは身を乗り出し、アパートの正面を見下ろした。

「よう、アビー」

 声の主、リビングメイルのアビゲイルは、白いエプロン姿で両手鍋を抱えていた。

「街の様子、どうだった?」
「大して変わりゃしねぇよ。だが、これから気温が上がると、変な連中が沸いて出てくるだろうな」

 よっ、とヤンマはアパートの屋根から飛び降りると、アビゲイルの目の前に着地した。

「そういえば、昨日の夜、祐介さんのお部屋にもゴキブリが出たわ。そういう季節になったのねぇ」

 アビゲイルが苦笑すると、ヤンマはがちがちと顎を鳴らした。

「ああいうのは喰っちまうしかないな。あいつらも役に立たないわけじゃねぇが、多すぎて鬱陶しいんだよ」
「だったら、今度出たら捕まえておくわね。殺虫剤は使わないように気を付けるわ」
「あ、おう…」

 アビゲイルの言葉に、ヤンマは曖昧に答えた。肉食であるヤンマはゴキブリも捕食出来るが、大して好きではない虫だ。生臭く、べとべとして味が悪い。そして、そういった害虫を喰っていると、茜は思い切り嫌な顔をしてヤンマから離れてしまう。それが嫌だから、ゴキブリはあまり食べたくない。だが、隣室でむやみに殺虫剤を使われないためには仕方ないことなのだ。

「それでね、ヤンマさん」

 アビゲイルは抱えていた両手鍋を差し出し、ヤンマに持たせた。

「ちょっと作り過ぎちゃったから、またお裾分けするわね」
「そりゃどうも。んで、今日は何なんだ?」
「おでんよ。鍋は後で洗って返してくれればいいから」

 茜ちゃんによろしくね、と手を振ってから、アビゲイルはがちゃがちゃと金属製の足を鳴らしながら階段を昇っていった。その背を見送ってから、ヤンマは重たい鍋を見下ろした。まだ温もりが残っていて、蓋の隙間からは良い匂いが零れていた。

「あ、ヤンマ! 帰ってたの?」

 弾んだ声に振り向くと、食料品の詰まったスーパーの袋を下げた茜が駆け寄ってきた。

「お帰り、茜。アビーからまたもらったぜ」

 ほれ、とヤンマが鍋を茜に見せると、茜はスーパーの袋をヤンマの中左足に引っ掛けてから、鍋の蓋を取った。

「わあ、おでんだね! でも、なんか…妙じゃない?」
「何が?」
「だって、ほら」

 茜は湯気による水滴が滴る鍋の蓋で、鍋の中を示した。醤油色の透き通った煮汁には、大根や卵や練り物が浸っている。中でも、圧倒的に多いのがこんにゃくだった。白と黒が同じ比率で詰め込まれていて、どれもこれも妙な切り方をされている。料理上手なアビゲイルらしくない、いびつなものばかりだ。茜の手を引いて蓋を閉めさせたヤンマは、隣室の扉を見上げた。

「今夜は騒がしくなるかもしれねぇな」
「なんで?」

 茜はきょとんとしたが、スーパーの袋を中左足にぶら下げて鍋を抱えたヤンマは、足早に階段を昇った。

「今に解る」
「えー、何ー、教えてよぉー」

 茜の声を背に受けながら、ヤンマは合い鍵で鍵を開け、先に部屋に入った。靴を履かないので、まずは下両足を拭いた。茜から押し付けられた買い物袋を冷蔵庫の前に置いてから、アビゲイルから受け取ったおでんの鍋をガスコンロに載せた。ただいまー、と明るく言いながら部屋に入ってきた茜を複眼の端で捉えつつ、ヤンマは隣室に面した日焼けした壁を見やった。
 安普請の中の安普請であるこのアパートは、防音性が皆無だ。部屋を仕切っている壁は薄く、拳一つで簡単に破れそうだ。だが、他の行くところがないので、それを承知の上で住むしかない。立地条件も悪くないし、何より家賃が格段に安いのだ。しかし、それ故の弊害も大きい。どうなることやら、と思いつつ、ヤンマはセーラー服から私服に着替える茜から目を逸らした。
 どうせ、後で存分に見ることになるのだから。

 勉強に一区切りを付けた祐介は、風呂に向かおうとした。
 ジャージの上下と下着とタオルを抱え、勉強部屋を兼ねた寝室と居間を繋ぐふすまを開けたが、祐介はその手を止めた。食卓用のテーブルが壁際に立てかけられていて、寝室と同じく畳敷きの六畳間の中心では、アビゲイルが正座していた。それだけならまだいいのだが、三つ指を付いている。そして、どこで手に入れたのかよく解らない短いスリップを着ていた。エプロン同様新婚臭い、フリルたっぷりのスケスケだ。淡いピンクの薄い布地越しに見えるのは、肌ではなく銀色の甲冑だ。
 アビゲイルは恥ずかしげに祐介を見上げたが、可愛らしく小首を傾げた。途端に、祐介は半開きのふすまを全力で閉めた。だが、締まり切る前にアビゲイルのガントレットが挟まれ、祐介の力に勝るほどの力でアビゲイルはふすまを開けようとした。

「せめてリアクションしてぇ、祐介さぁん!」
「出来るかっ!」

 ふすまを閉めることを諦めた祐介は、ふすまを全開にし、アビゲイルを罵倒した。

「いい加減に自分の外見を自覚しろ! でもって自重しろ!」
「祐介さんったら、つれない人ね」
「変な格好の甲冑につれる方がどうかしている。俺は風呂に入りたいだけだ」
「ああん、待ってぇ、せっかく準備したのにぃ」

 祐介はアビゲイルを押し退けて風呂に向かおうとするが、アビゲイルは祐介の足に縋り付いた。

「何をだよ!」
「そりゃもちろん、アレよ、ア・レ」
「具体的に言え」
「いやぁん、女の子の口から言わせる気?」

 アビゲイルは祐介の足を離さないまま、スリップの裾を持ち上げて金属製の太股を見せた。

「頑張って作ったんだから、祐介さんが楽しんでくれないと困るのよ」

 太股の内側からは粘り気を持った水滴が垂れ、畳の上に落ちていた。

「まさか」

 次第に状況を理解してきた祐介は、アビゲイルの腕の中から足を抜き、呆れた。

「お前、股間にこんにゃくを仕込んだのか?」
「うふふ、素敵でしょ?」
「道理でこんにゃくだらけの夕飯だと思った…」

 となると、先程食べたものは失敗作の成れの果てだったのか。祐介は今夜の献立を思い出し、げんなりしてしまった。こんにゃくだらけのおでんを始め、炒め物や和え物が並んでいた。その時は、特売だったのだろう、としか思わなかった。だが、そうではなかった。確かに、世間にはこんにゃくに逸物を突っ込んで快感を得る輩がいるとは聞いたことがある。けれど、祐介にはそこまで快楽を求める嗜好はなく、間違っても中身が空っぽの甲冑にそれを仕込もうなどとは思わない。

「風呂に入る!」

 こうなったら、風呂に逃げる他はない。祐介は意地で足を進めようとするが、アビゲイルも意地になっていた。

「お願い、祐介さん。こんにゃくだって人肌に暖めてあるんだから、冷めちゃったら気持ち良くなくなっちゃうわ」
「いい加減にしろ! 生身の女ならともかく、こんにゃくに突っ込んだって面白くもなんともない!」
「私だって、祐介さんに楽しんでもらいたいのよ? ただ吸収するだけじゃ面白くないんだもの」
「そういう問題か!」
「一緒に気持ち良くなりましょう、祐介さん? ね?」
「突っ込んだところで、お前は何も感じないだろうが!」
「それは気持ちの問題よ。感じたいって思えば、感じたことになるんだから」

 祐介のジーンズのベルトを握ったアビゲイルは、身を乗り出し、艶っぽく囁いた。

「私達が始めれば、茜ちゃんだって始めちゃうかもしれないわよ?」
「…おいおい」

 祐介は顔を歪めたが、本心は違った。ヤンマと茜が一線を越えている関係であることは、隣人の特権で知っている。どうやって異種族の昆虫人間と事を致すのかは解らないが、時折、茜の可愛らしい喘ぎ声や悩ましい呻きが漏れてくる。アビゲイルが迫ってこない時は、それで処理していたほどだ。悪くないかもな、と思っているとアビゲイルが抱き付いてきた。

「ね、祐介さん?」
「今回だけだからな」

 アビゲイルの言う通りになる保証はないが、なったら嬉しい。そう思った祐介は、着替え一式を風呂場に置いてきた。居間に戻ると、アビゲイルは祐介を座らせた。膝を崩して銀色の指先を入れると、溢れるほど潤っている股間に触れた。

「大丈夫ね、まだ冷めてないわ」

 アビゲイルは股間からちゅぷんと指先を抜くと、背を伸ばして身を乗り出してきた。キスをしろ、ということなのだろう。キスでも生命力を吸収出来るが、射精の方が効率が良いので回数は少ない。祐介は少々躊躇ったが、兜を掴んだ。手に広がる感触はやはり金属で、ヘルムの隙間から見えるのは薄暗い闇だ。どこに魂があるのか、未だによく解らない。彼女の顔の下半分を形作るマスクに顔を寄せ、唇と思しき部分に唇を当てるが、鉄臭さと冷たさしか感じられなかった。だが、アビゲイルは別らしく、床に付いた両手を握っている。祐介が顔を離すと、彼女はため息を吐くように肩を落とした。

「なんだか、どきどきしちゃうわ」

 アビゲイルは祐介の唇が触れていたマスクを押さえていたが、スリップの肩紐を片方だけ外した。

「ねえ、祐介さん。一杯触って、一杯感じさせて」
「その代わり、隣に聞こえるぐらい声出せよな」
「うふふ、言われなくても出ちゃうわよ。だって、祐介さんが触ってくれるんだもの」

 照れ臭そうに微笑んだアビゲイルの言葉に、祐介は少しぐらついたが、目に映る彼女の姿は相変わらずの甲冑だ。一瞬で素に戻ってしまったが、続けなければ意味がない。祐介はアビゲイルを横たわらせ、その上に覆い被さった。女性型の甲冑とはいえ、身長は祐介とそれほど変わらず、体の厚みは女性的な曲線を抜きにしても祐介よりもある。両肩も装甲が付いているために大きく、上腕も太い。抱き締めたところで、手応えもなければ温もりも得られない体だ。
 薄い生地の下から現れた硬いだけの乳房に触れてやると、アビゲイルはぎちっと関節を軋ませ、身を強張らせた。普段は攻めるばかりだから、攻められるのに慣れていないらしい。揉むことは出来ないので、撫で回すことに専念した。生身なら先端があるであろう部分に触れると、アビゲイルの反応は一気に増し、祐介の腕を掴む手に力が込められた。

「あん、そこはぁ」
「だったらもっと触るまでだ」

 彼女が反応するのが楽しくなってきた祐介は、スリップのもう一方の肩紐も外させて、上半分をずり下げてやった。薄っぺらい布でも剥がされてしまうと羞恥心を感じるのか、アビゲイルは顔を背け、肩を縮めて悩ましげな声を漏らした。
 本物の胸とは違って柔らかさは欠片もないが、胸は胸だ。そう思った祐介は、アビゲイルの銀色の乳房に唇を付けた。ありもしない乳首を含むようにしてやると、アビゲイルはびくっと小さく震え、金気臭い肌を舐めてやると喘ぎが高まった。

「ふあぁんっ、あ、あぁ、ああっ」

 思いの外色気のある喘ぎ声を聞かされたことで、祐介の下半身は素直に反応し、茜の痴態を想像するまでもなかった。自分の若さを痛感しながら、祐介はアビゲイルの乳房を舐める傍ら、生温い雫が伝い落ちる太股の間にも手を差し込んだ。躊躇うように閉じていた太股を開かせ、彼女自身が備えたものから零れた潤いを使ってなぞると、アビゲイルは喉を逸らした。

「ひあんっ!」
「なんだ、そっちの方が弱いのか」

 祐介が顔を上げると、アビゲイルは肩を縮めた。

「それもそうなんだけど、恥ずかしいから…」
「自分でここまでやっといて、今更何を言ってんだよ」
「でも、やっぱり恥ずかしいわ。祐介さんに全部見られちゃうんだもの」
「どうせこんにゃくしか入ってないんだ、見られたところでどうってことないだろ。でもって、お前は常に全裸だろうが」
「それを言わないでちょうだい」

 それなりに気にしていたらしく、アビゲイルは畳にヘルムを埋めた。表情が出ていれば、頬を張って膨れていたのだろう。妙な状況だが、微笑ましいと思った。祐介は段々調子に乗ってきたこともあり、体を下げてアビゲイルの両足を開かせた。いやあんっ、と拒絶とは言い難い甘ったるい声が上がったが、奥に仕込まれたものを直視しては興醒めするのは間違いない。物凄く気になるが出来るだけ目を向けないように気を付けて、祐介はアビゲイルの太股に唇を当て、わざとらしく音を立てた。

「あ、あぁ、あぁあっ」

 アビゲイルは思わずマスクを押さえるが、声は押さえらない。それどころか、自分の発する声が兜に反響し、尚更高ぶる。祐介はアビゲイルの太股から顔を外すと、内側を緩やかに撫で上げた。本当に弱いらしく、胸を上げて仰け反ってしまった。

「あひゃあんっ!」

 一際高い声を放ったアビゲイルは、力を抜くように細く息を吐いた。

「私ばっかりじゃ、いけないものね」

 身を起こしたアビゲイルは祐介のベルトを外し、脱がせてしまうと、股間から滴る潤いをマスクになすり付けた。

「うふふふ、もうこんなにしちゃって…」

 硬く張り詰めた性器を掴んだアビゲイルは、マスクを押し当てて下から上に向けて擦り上げ、先端にマスクを押し付けた。双方の水分が混じり合い、僅かばかりの異音を作る。口に含めないまでも、舐めるような気持ちで何度も何度も擦り上げる。しどけなく体を伏せて両足を投げ出しているアビゲイルは、夢中になって祐介の性器を弄び、陶酔し切った声を漏らしていた。それがまた、欲情を煽ってくる。欲情させた相手に欲情されるというのは悪くない。それどころか、征服感すら感じてしまいそうだ。

「もう、いいだろ」

 自身の強張りを確かめた祐介がアビゲイルの顔を離させると、アビゲイルはシワの寄ったスリップを脱ぎ、横たわった。

「早く入れて、祐介さん。祐介さんが欲しいの」
「どこでそんなの覚えるんだよ、お前は」
「うふふふふ、秘密」
「だろうと思ったよ」

 祐介はアビゲイルの作った生温い陰部にあてがい、腰を前に進めた。生身のそれよりは冷たいが、感触は近いものがある。

「どうだ、感じるか?」
「ええ…凄く…」

 アビゲイルは祐介の背に両手を回し、服を掴んだ。背筋を這い上がる独特の感覚に、おのずと声が上擦った。

「出来るだけ意識を向けて、鎧だけじゃなくてアレにも感覚が生まれるようにしてみたけど、やれば出来るものなのねぇ」
「だったら、もっと感じろ、アビー。その方が面白いからな」
「言われなくても、もう感じちゃってるわよっ…」

 祐介にしがみつくアビゲイルの手には、最早余裕はない。そのおかげで、中身が何であるか知っていても冷めずに済んだ。生身のそれよりも若干狭い作り物の陰部は、腰を動かすに連れてぐちゅぐちゅと生々しい音を発し、潤滑液が溢れてきた。どうやら、アビゲイルが仕込んでおいたものらしい。これまたどこで手に入れてきたのかは解らないが、凝りすぎている気もする。

「祐介さあんっ、もっと、もっとぉ!」

 祐介の腰にも足を巻き付けたアビゲイルは、堪えきれずに首を左右に振った。

「アビー、お前、どこまで淫乱なんだよ!」
「だってぇ、祐介さんが欲しいんだものぉっ、祐介さんじゃなきゃダメなのよぉっ!」
「ああ、そうかい! だったら、いくらでもくれてやるよ!」

 普通の女性ではまず言ってくれないであろう言葉の数々に、祐介はとてつもない優越感が生じ、思い切り彼女を突いた。

「あ、ああ、あぁ、あ、あぁああっ!」

 祐介の精液が放たれると、アビゲイルは喘ぎと言うよりも悲鳴に近い声を上げて、上体を反らした。

「好きよぉ…祐介さぁん…」

 熱い吐息混じりの弛緩した声で名を呼ばれ、祐介は多少心が動きかけたが、彼女から自分のものを引き抜いて我に返った。熱中している間は忘れていたが、やはり、こんにゃくはこんにゃくだ。どうやって固定しているかと思ったら、瓶詰めになっている。精液とローションと思しきものが混ざった液体が糸を引き、とろりと流れ落ちている。畳に染みたら困るので、早々に拭き取った。

「人として大事なものを失った気がする…」

 こんにゃくを装備した鎧を犯すとは、変態にも程がある。祐介は猛烈な自己嫌悪に陥り、項垂れずにはいられなかった。

「あらぁ、とっても良かったわよ。またしましょうね、祐介さん」

 アビゲイルは祐介の背にしなだれかかってきたので、祐介は乱暴に彼女を振り払い、浴室に向かった。

「二度目はない。今度こそ風呂に入る」
「背中、流してあげてもいいわよ?」
「余計なお世話だ!」

 強く言い切った祐介は、脱衣所に入って扉を閉めた。アビゲイルの残念そうな声が聞こえてきたが、無視することにした。服を脱ぎながら盛大にため息を吐いた祐介は、結果としてアビゲイルで達してしまった自分に気付き、ますます落ち込んだ。感じやすさは普通の女性以上だったし、反応も素晴らしかった。増して、あそこまで自分を求めてくれるような女性は初めてだ。
 高校時代に付き合った最初の彼女は至って普通の女の子で、最後まで行ったものの、自然消滅する形で別れてしまった。若さと好奇心に任せて体を重ねたが、どちらも至らなさが目立ち、相手を満足させれば自分が満足出来ず、逆も然りだった。だから、セックスとはそういうものなのだろうと変な諦観をしていたが、あそこまで感じてもらえると鎧が相手でも嬉しくなる。けれど、やはり我に返ってしまう。我に返るべきか否かを本気で悩みながら、祐介は冷め気味の湯船に熱の残る体を浸した。
 隣室からは、耳に馴染んだ声が漏れていた。

 どうやら、あちらは一段落したらしい。
 だが、こちらはまだそうもいかない。ナツメ球が放つ弱いオレンジ色だけが光源の寝室で、ヤンマは茜に縋られていた。普段は茜しか使わない布団の上にヤンマも座っているが、茜はヤンマの胡座を掻いた屈強な下両足の上に跨っていた。長い腹部の先端から伸ばした生殖器で、茜の暖かな体内を深く抉ってやると、茜はヤンマの黒い外骨格に爪を立ててきた。
 案の定、こういう展開になった。薄暗い中でも解るほど頬を紅潮させた茜は、ヤンマの胸にしがみつき、懸命に声を殺していた。声を出させるのも良いが、声を殺している様を見るのも楽しい。上右足を伸ばして爪を横たえ、控えめな乳房を握ってやる。

「ふ、くぁっ」

 殺しきれなかった声を漏らし、茜は涙の滲む目をきつく閉じた。下半身は全て脱がされているが、上半身は着たままだ。前のボタンは全て外されて肌着もめくられているので、着ているとは言い難い状態なので、脱がされていないだけとも言える。

「あっちは終わったみたいだぜ。何、遠慮することはねぇよ」

 細長い舌を伸ばして茜の目元を舐めたヤンマは、低く囁いた。茜は眉を下げ、俯く。

「でも…」
「それとも何か、お返しにこっちの一部始終も聞かせてやるか?」
「だ、ダメぇっ、そんなのダメぇ!」

 茜は慌てるが、ヤンマの生殖器がぐいっと奥を突き、それ以上は続けられなかった。

「あうぅっ!」
「よく言うぜ。どうにもならなくなって、自分から俺を呼んだくせに」
「や、ヤンマだって、充分その気だったくせにぃ」

 むくれた茜が睨んできたが、目が潤んでいるのと声が上擦っているので迫力は欠片もなく、むしろ可愛らしかった。たまらなくなったヤンマは茜を抱き締め、茜が最も良く反応する部分に生殖器の先端を抉り込ませ、声を上げさせてやった。後で怒られるかもしれないが、それはそれで楽しい。太い針のような生殖器を伝い落ちた熱い体液が、シーツに染み込む。ヤンマの肩に力一杯爪を立てた茜は、掠れた声でヤンマの名を呼びながら達してしまい、脱力して体を預けてきた。息を荒げる少女を支えてやりながら、ヤンマはなんともいえない嬉しさを噛み締めるように、ぎちぎちぎちと顎を鳴らした。自分から茜に迫るのも良いが、茜から迫られるのは格別だ。茜をその気にさせてくれたアビゲイルには、感謝しなくては。
 今ばかりは、安普請が素晴らしく思えた。


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