6-130様

 自らの重さと、化け物の生殖器の間で板挟みにされていたわたしの膣口は、とうとう限界を超えてしまったようだ。
 ブツンと言う音が聞こえるかのようだった。一番太いカリ首が、ぬるり、とわたしの中に押し入ってくる。そこからは、あっけなかった。

 「ふ、ふぁぁぁぁぁぁ……ンッ!」

 わたしの身体はゆっくりと降下していき、代わりに肉柱が容赦なく私を串刺しにする。
 その状態になってからようやく、触手から足が解放されて、つま先がベッドに届いた。
 生体の部品としてはやけに鋭く張り出した傘の部分に、ゴリゴリと膣壁を削られて、わたしは瞼の裏にチカチカと瞬くフラッシュの幻影を見た。
 ミチミチとわたしの内臓を押し広げながら侵入してきた化け物の亀頭(あくまでも、そうとしか見えない、感じられない部品)は、わたしの子宮口まで到達し、ぎゅうと押し上げるようにしてようやく停止した。

 わたしの一番大事な部分の天井が、化け物の傘に密着、いや、膣全体が化け物そのものに圧着している。
 自分の体温よりも、熱くたぎった肉棒の感触がリアルに伝わってきて、わたしは思わず、腹筋を伸縮させてしまった。
 それにつられた女性器も、一緒に動く。いとおしい人のペニスを絞りあげる時と同じ、あの動き。まるで、子宮口が、相手の尿道口にキスしているかのような。
 「ん……」
 押し広げてくる圧倒的な体積に、充足感を感じてしまってでもいるかのような。
 触手の肉棒が、みちり、と体積を増やした気がした。

 今の私の体勢は、例えるなら、少し空気の抜けたバランスボールにディルドをはやしたもので、オナニーしている人のようだ。
 膝は、ギリギリのところで地面に届かないので、つま先でバランスを取らざるを得ない。また、微妙にお尻をのせている部分が前掲しているせいで、自然と背中が弓なりになってしまう。
 胸を押し出して、腰を思いっきり引いた、もしポルノモデルがしたならたまらなく扇情的であろうポーズ
 腕で支えようにも、まだ肩から手首にかけて、らせん状に巻きついた触手に拘束されており、難しい。
 きっと、傍から見れば最高に恥ずかしい体勢だと思う。

 いつまででもこんな姿勢を取り続けるわけにもいくまい。常識で考えれば、わたしのするべきことは、自ずとわかる。
 つま先がついたのだし、わざわざ化け物とのセックスというリスクを冒すこと無く、さっさと立ち上がって逃げてしまえばいいだけの話だ。
 ああ、なんてお利口さんなわたしの脳みそ。ここまでちゃんと考えられたのだから、わたしはすぐにでも抵抗を始め、逃げなければいけない。
 逃げなければいけないはずなのに……。
 絶望と緊張と、ほんの少しの興奮のせいで酸欠気味の頭では、もはや正しい判断を下すことすら難しいのかもしれない。

 「っ……はあ、はぁっ、はあぁ、あん、んんっ!!」
 、立ち上がろうと足に力を込めると、同時にあの凶悪なカリ首がわたしの内壁をずるり、と滑り落ちる。
 快感が這い上がってくるのをこらえながらも、さらに膝に力を込め体を起こすと、今度は自らの腹筋の動きが子宮をも動かしてしまう。
 自分で締め付けながらだと、より一層快感が高まって、わたしは思わず腰を抜かした。わたしから肉の棒が抜けそうで抜けないあの瞬間の、何とも言えない感覚が一転して、あっという間に天井を突かれた。背骨がぞくぞくと震えるようだ。
 ずぷ、と空気の混じった愛液の音と一緒に、貫かれる。十分、被害者ぶっていいはずなのに……。
 わたしは、目の前が、白く輝いて見えるほど興奮してしまっていた。なんて気持ちがいいんだろう。

 (も、もう一回)
 (もう一回)
 (もう、一回だけ……)

 触手に絡まれた腕に力を入れ、腰を上げる。引き抜かれる。後ちょっとで抜けそうになる瞬間、たまらなくなって腰を落とす。こすれあう粘膜から電流が走る。それが気持ちよくて、わたしはいつしか、必死で腰を振り続けていた。
 頬や背中を、汗のしずくが伝う。頭がジンジンとして、涙と鼻水が止まらない。
 ベッドがきしむ。めくれた布団がゆさゆさと揺れる。もしかしたら、隣の部屋にまで、聞こえてしまっているのかもしれない。
 お構いなしに声を上げた。
 今までに見たどのアダルトビデオの女優さんより、高い声で。今のリアルな快感と釣り合うくらい、誰よりも大きな声で。
 「あん、あん、あっ、ふあ、あ、あんっ!」
 太ももが突っ張りそうになっても、構わず動き続ける。


 ふと、遠くでガシャンという音がした。大方、さっきまで不安定な場所に置いておいたノートパソコンが、落ちてしまったのだろう。
 お給料をためて買った、素敵なデザインのPC。あの中には、大切なデータがたくさん入っている。
 仕事で使っていた企画書やプレゼンの資料。高校時代から撮りためていた思いで深い写真たち。音楽。友達の連絡先。
 わたしがこれまで生きて来た人生の記録たちといってもいいかもしれない。
 斜めになったパソコンのディスプレイが、一瞬明るい光をともし、すうっと暗くなった。まるで物言わぬ機械の断末魔を聞いているかのようだ。前のパソコンが駄目になった時も、こんな感じだったように思う。
 わたしはその光景を確かに見たのだけれど、なぜか少しも現実感が湧いてこなかった。
 それよりも、今こうやって熱いものに膣壁を擦られ、子宮口の周りをぴったりと埋めてもらえる気持ちよさの方が、ずっとずっと大切なものに思えた。

 わたしは躍起になって腰を動かした。ぐぷ、ぐぷっ、ぬちゅっ、ぬちゅぬちゅ……。いよいよ激しくなる水音。
 きっとわたしの膣口の周りの愛液は、今までなったことが無いくらい泡立っているのだろう。
 股の間から見える、あの生き物の表面を、わたしの愛液が、いくつか筋を描きながら伝っていた。
 やばい、やばい、きもちいい。
 脈打つ熱に、身体を穿たれて、わたしは浮遊しているような気持ちになる。
 首に力を入れられず、頭を揺らす。髪が振り乱れる。たまに乳房も揺れる。
 じわじわと、押し上げられる感覚が近づいて来た。
 痺れた脳の奥で、いくつもの波が生まれ、きらめきながら全身に広がっていく。揺れては返す波が反響を繰り返し、うねりながらだんだんと大きくなって帰ってくる。
 もう、この未確認生命体の体熱なんて気にならないくらい、私自身も熱い。子宮の周りにじんわりと熟れた熱が広がっていく。

 あと少し、という時に、かりっ。
 「ふぁぁ……んっ!」
 乳首のあたりにかわいらしい快感を覚えた。
 見ると、先の細くなった触手が、肌を傷つけないギリギリの力加減で、わたしの突起をいじりに来ている。器用な、だけどわたしを快感に押し上げるため、手伝ってくれているのがわかる、健気な動き。

 そう、そうだったんだ。何で気がつかなかったんだろう。
 この生物は、見た目こそグロテスクかもしれないが、本当はこんなにもかわいらしいんだ。
 わたしは、明確な意思をもって、腕に絡みついた触手を、握った。少しでも愛が伝わるように。
 最後の瞬間まで、一緒に来てほしいと伝えるために。
 わたしの気持ちを知ってか知らずか、さらにもうひと巻き、指に触手が絡みついて来た。
 やや性急な動きに、いとおしさを覚え、わたしは顔の近くに来ていた触手に、キスをした。

 この触手のかたまりを信じて、ひときわ、強く腰を打ちつける。
 びくん、と、肉根も反応を返してくれる。いや、これは、今までの動きとは違う。
 びく、びくびくと、今にもはち切れてしまいそうな動作から、わたしは本能的に、相手の快感を読みとっていた。
 (感じて、くれてるんだ、わたしで……)

 充足感でいっぱいになる。脳内ではきっとエンドルフィンがバンバン出ている。頭の先から、手足の末端までが、強烈な快感に酔いしれている。呼吸もできないくらいの深い快感。
 クリトリスをこするだけでは到底味わえない、身体のすべての細胞が喜んでいるかのような、じりじりと痺れるオーガズム。
 深い、ふかい所に落ちていくかのような充ち足りた気持ち……。
 「ふぁぁぁぁぁ……」
 力は抜けていく。意識も手放してしまいそうになる。なのに、こんなにも気持ちいいんだ。

 わたしは、膣の中で、肉棒が収縮を繰り返し、射精を始めたのを感じ取っていた。
 「あっ、ああ……」
 子宮口にぴったりとつけられた尿道口から、ビュービューと音を立てそうな勢いで、何度も何度も、精液であろう液体が、子宮内にながれ込んでくる。
 その、緩急をつけた水圧だけでも、気持ちがいい。
 わたしはゆっくりと目を閉じ、有り余る快感の余韻に浸っていた。

 やがて、わたしたちのつなぎ目から、こぷり、と音を立てながら、白い液体が伝わり落ちた。
 片や人間。片やよくわからない未知の生命体。
 自分たちは、全く違う生き物のはずなのに、こうして注ぎ込まれる精液の色は変わらないのだ。
 その事実が、わたしには、この上なく快いと思えた。


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