6-290様

地球の皆さま、はじめましてこんにちは。
私はモンゴロイド系地球人のシュウジ・エイリアと申します。
両親が連絡員であり生まれが火星の所為か成人男性としては小柄ですが、染色体も表現もしっかりとしたオスです。
仕事は浄化システム等の修理業をしています。しがない代理店経営で、親会社に指定されるまま星から星へと渡り鳥のように生活しています。
よってこのSY式の古びた宇宙船が僕の足でありかけがえのない家でもあるのです。
根なし草の生活ですがさみしくはありません。なぜなら仕事においてかけがえのないパートナーがいるからです。
彼女の名はイーヴァッサ・パイス。イス人のエンジニアは少なくないですが彼女は相棒としての贔屓目を抜いてもアポロニア銀河系においてはトップクラスの技術を持った人物です。
そんな彼女がなぜ、所詮代理店経営の私とパートナーとして仕事を組んでいるかというと、彼女と私は人生においてもパートナーであるからです。

「……イヴ、今何時?」
『プロトン時間で6時10分』
「じゃあ、後30分こうしていようよ」
『何いってんの、7時には通信会議始まるのよ。朝食は?』
「いらない」
『食え。なんなら直腸から栄養液流し込みましょうか』
「……わかった。起きる」
よろしい、のイーヴァッサの一言で毛布がはぎとられる。無防備になった寝起きの肌にぺたぺたと触れるモノがくすぐったい。
その大元はシュウジが抱きかかえている円錐形の軟体生物の頂点から無数に伸びた触手だ。
触手のうち、先端がハサミ状になっているものが一対あるが、これはイーヴァッサの意思とは無関係にシュウジにまとわりついては引っかき傷をつけて回るので現在はシュウジお手製のミトンをカバーにしてその飾りレースを揺らしている。
シュウジの胴とほぼ同じ大きさの、巨大なイソギンチャクとでもいうべきその容姿は典型的なイス人のそれである。
この触手生命体がシュウジの花嫁だ。ずいぶんと甘さの無い会話だがこれでも新婚一週間目の朝だ。
なにせ仕事のパートナーとしての期間が長かった為かイーヴァッサのシュウジへの扱いは良く言えば熟年夫婦、悪く言えばぞんざいである。
イーヴァッサはずるりとシュウジの腕から抜け出ると、そのまま夫の身体を寝台から見事な押切りで床に落とした。
こうでもしなければイス人の身体よりもはるかに緩みっぱなしな性質のシュウジは起きないのだ。

「いてて」
『毎日毎日、全く』
シュウジが上半身だけを起こすと二人の高さは等しくなる。
あくびをするシュウジの喉元に遠慮なしに薄桃色の触手が巻き付いた。
「……イヴ、君の方こそ毎日毎日飽きないね」
『毎朝起こしてあげてるんだから、これぐらい役得でしょ?』
イーヴァッサから伸びる触手は本数を増やし、すっかりシュウジの肩口から呼吸を妨げない様に鼻の下までを覆った。
どれもぴったりと巻き付き密着しているが二、三本はシュウジの喉仏を先端でくすぐるように波打っていた。
傍から見れば捕食シーンでしかないが、これが二人のモーニングというわけではない。
『シュウジ、いいよ』
イーヴァッサに急かされ、シュウジは深呼吸をひとつ吐いて口を開いた。
「……おはよう、イーヴァッサ」
肺の動き、声帯の震え、唇から逃げていく呼気。その全てをイーヴァッサの皮膚感覚が愛として認識する。
二人の身体にはチップが埋め込まれており、それが翻訳機の役割をしているので出会ったときから二人に言葉の壁などと言う古臭い障害は無かった。
しかし愛を深めて行くうちにイーヴァッサは翻訳機の存在が忌まわしく思うようになった。
もっと直接的に、機械などを通さずに恋人と触れあいたいと。それは自然な願いである。
しかし地球人は音声で意思伝達を図るが、イス人は声そのものが無く、念話のようなテレパスを用いてコミュニケーションをとる。
イーヴァッサのテレパスは地球人の脳構造では感知できず、シュウジの声もイス人にはわからない。
するとたどり着いたのが二人の種族でも共通の感覚として共有できる振動、触覚だ。
シュウジの喉に直接触れて感じる言葉は、翻訳機が示すどんな甘い語句よりもイーヴァッサをとろけさせた。
『私も、……おはよ』
イーヴァッサは満足げに触手をうねらせた後でするすると解かせた。
薄桃色からすっかり濃いピンク色になった触手は、白色のまま色の変化しない円錐形のボディと対比になってますます美しさを増した。
この色の変化はイーヴァッサの機嫌がいい証拠でもある。
「うーん、僕のお嫁さんはつくづくキレイだなぁ」
『当たり前でしょ』
触手を一振りして一蹴するイーヴァッサだが、シュウジにはそれが少しだけ面白くなかった。
だがシュウジはパ、となにか閃いたらしく、から立ち上がると同時にイーヴァッサを抱き上げた。
突然の行動に戸惑うイーヴァッサには構わず、シュウジはその柔らかな身体に自分の喉を出来るだけ押しつけて囁いた。
「もう少し赤いほうがもっと好みだけどね」
途端にイーヴァッサの触手は深紅に染まり(なおイス人が深紅の体色を示しているのは激昂時、あるいは発情時なので交流をする際には要注意である)、シュウジの頬には鞭の跡がきれいに咲いた。



そんなこんなでただ今は6時45分である。通信会議に間に合うかは神のみぞ知る。
地球人とイス人。ホモ・ホモと触手の奇妙なパートナーはこうして一日を始めるのだった。

このページへのコメント

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Posted by stunning seo guys 2014年01月21日(火) 17:33:38 返信

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