・人狼男と人間女
 狼が進化した一族で、知性は人間と同じ。頭部は狼、
 身体は、人間の骨格が狼の体毛に覆われた生き物だと
 思ってください。人間より一回り大きいくらいか。
・とにかく長い。しかも、濡れ場までがやたら長い。
・ちょっと日本昔話的な舞台。
6-783様

狼を祖先とする人狼、猿を祖先とする人間。

犬猿の仲ともいうべきか、その二つの種族は、
永い間憎み合ってきたのだという。
だが、とある禍を機に双方は手を取り合って助け合うようになり、
それ以来、大きな禍が起きた折には、双方の一族から選ばれた
若き男女を夫婦にする慣わしが出来たのだと言う。

その物語は、自分とは縁の無い御伽噺だと思っていた。
人狼の自分が、本当に人間の娘を娶ることになるその時までは・・・

一日の仕事を終え、疲労困憊の身体を半ば引き摺るように
人狼が家に入ると、美味そうな夕餉の匂いが鼻をくすぐった。

台所から、笑みを浮かべた花嫁が顔を出して、出迎えた。
「おかえりなさい、疲れたでしょう。
 御飯までもう少し掛かるから、先にお風呂に入ってきて。」
「ああ。」
短く返事をして、風呂場に向かった。
すでに籠の中には、着替え一式が用意してあり、
自分は何もしなくても良い。花嫁の支度の良さに頭が下がる思いだった。
後に花嫁が控えていることを考えると湯船は汚せない。
そう思い、全身の毛皮を念入りに洗ってから湯に浸かる。

「はあ・・・」

首まで浸かると、人狼は疲れを癒した
喜びとは遠くかけ離れたため息をついた。

人狼が嘆息したのには訳がある。
人狼と人間の娘は確かに婚礼を終え、夫婦として暮らしている。
しかし、正しくはまだ夫婦と呼べる仲ではない。

元々、人狼たちと人間たちは、近くの川の下流にそれぞれの国を作って暮らしていた。
水利を巡って何度も小競り合いを起こしており、その仲は決して良好と言えなかった。
だが、ここ数年の長雨による水害と凶作、飢饉・・・
豊作だった年の蓄えがあったからこそ、一昨年、今年と
凌いでこれたものの、人々は明くる年に大きな不安を抱いた。

今度こそ何とかできないか、と双方の長は縋りつくような気持ちで、
この地に伝わる慣わしを決行することにした。

「禍生ずれば、人間と人狼を夫婦とするべし。」
この黴が生えたような古い言い伝えが、自分たちの馴れ初めである。

人狼が思うに「そういった危機にこそ、結束せよ。」
という単なる教訓だと思うのだが、年嵩の連中にとってはそうではないらしい。

与り知らぬところで、長老を中心に
話はどんどん進んでおり、その噂だけは耳にしていた。
まさか、その役目が自分であると露にも思わず、
正式に聞いた時には、既に結納前日、婚礼の三日前だった。
そこからは慌ただしさに追われ、ゆっくりと相手のことを
考える余裕も無かった。婚礼の事もほとんど記憶にない。

・・・ただひとつ。覚えているのは、初夜に花嫁を抱こうとした時。

自分の腕の中で震えるうら若き娘だった。

飢饉や水害への周囲の不安、期待を一身に背負い、
心の準備も出来ぬまま家族と別れ、
そして憎い一族の末裔、異形の男に純潔と一生を捧げる。

そんな娘の心中は如何ほどか。人狼は、憐憫の情を禁じえなかった。

その夜、結局、人狼は娘を抱かなかった。
「お前が『夫婦になっても良い。』そう思えるその時まで、私は待つ。」
と一言告げて。


夕餉を口に運びながら、人狼は目の前の花嫁をちらと盗み見る。

花嫁は人狼の視線に気づいたのか、顔を上げると、
人狼の顔を見て、くす、と笑った。
「だから、人狼ってお米をあまり好まないのね。」
そう言うと、すっと手を伸ばし、自分の頬についていた米粒をつまんだ。
柔らかく、粘度の高い米は、人狼の毛によくくっついて、べたついてしまうのだ。
「・・・私も初めて知った。」

最初は怯えていた花嫁も、徐々に人狼と打ち解け、
近頃はささやかな冗談を言い合ったり、笑顔を見せたり、
そして先ほどのように少しだけ人狼に触れたりするようになってきた。

人狼は、その事がとても嬉しい。義務とは言え、
自分と添い遂げることに、僅かでも希望を見出してくれたのなら。
契りを交わすのは、まだかなり先の事になるだろうが、
少しずつ彼女の心を解していきたい。
そう思う。

しかし、人狼の人としての理性とは別に、
狼・・・獣の部分は決して満足していなかった。

花嫁が距離を置いていた当初でこそ、自分の情欲を
抑えることが出来ていた。しかし・・・先ほどあの細く
柔らかい指に触れられた部分は、いじらしい程にこそばゆい。

花嫁が自分の寝癖をそっと解いてくれている時。
呼ばれているのに気づかない自分の肩を花嫁が優しく叩いた時。
ぼんやり月を眺めていたら不意に寄りかかって来た時。

花嫁のあの白く透き通った柔肌に触れる度、自分の獣が、
言葉とは裏腹に彼女を切に求めているのを思い知らされる。
そして、その都度花嫁を裏切ったような気持ちになり、
酷い自己嫌悪に陥るのだった。

夜更け・・・子の刻あたりだろうか。
不意にむず痒いような感触に、人狼は目を覚ました。
覚ました、とは言え目は閉じたまま、まどろんでいる。

滑らかで柔らかい何かに、耳のあたりを撫でられており、
人狼は、夢現に、隣の布団にいる花嫁が、自分の耳を触っているのだと気づく。
耳を一通り堪能した後、今度は顎の下を猫にするのと同じように、優しく
指先でかりかりと掻く。時々口元に、むに、と指を押しこみ、中の牙に触れる。

人狼にはそれがとても心地よかった。眠っている自分に
悪戯をするなんて案外幼いところもあるのだな、と微笑ましく思う。

そして。
最後に自分の両頬に花嫁の両手が添えられた。
じっと添えられた手に、先ほどの悪戯とは気色の違うものを感じる。
突然、両手とはまた別の、形容しがたいほど
柔らかい何かが、人狼の口元にそっと触れた。

弛んでいた人狼の意識が、どきりと覚醒する。
しかし、花嫁は人狼が起きているのに気づいていないので、
目を開ける訳にもいかず、そのまま待った。

やがて、四半刻も経った頃か。隣から穏やかな寝息が
聞こえるようになってから、やっと人狼は目を開けた。
花嫁の口づけで、心の中は喜びと戸惑いが綯交ぜになっている。


口づけなど、初夜以来だった。自分からした、たった一度だけ。
花嫁の、自分への伴侶としての好意を初めて確かに感じ、歓喜に震える。
同時に、自分の中の獣が苦しそうに喘いでいることに気がついた。

『抱きたい。
 もういっそ、彼女を抱いてしまいたい。』

自分の中の人が、言い聞かせる。

「しかし、彼女は自分の言葉を信じているからこそ、
 ゆっくりと異形の自分に心を開いてきてくれたはずなのだ。
 此処で、裏切って彼女を失望させてはならない。」

だが、獣も治まらない。

『だが、どうだ?
 彼女の行為、好意こそ、もう自分に
 身体を委ねても良いという合図ではないのか?
 いいじゃないか、もう抱いてしまえ。
 そうすれば、楽になれる。』

「馬鹿な。私が眠っていて、気づかれないからこそ、
 安心して出来た振る舞いだろうに。まだ先が怖いのだ。」

『いい加減、手前を誤魔化すのは止めろ!!
 あの娘が、遠回しにお前を誘っているんだ!気づいてやれ!』

「そんなことをすれば、あの言葉は、所詮自分を懐柔するための
 口先だけだと思われ、彼女を傷つけてしまう!!
 やっと彼女が少しずつ自分を許し始めたというのに!!」

『そんな建前を述べたって、自分を見てみろ!
 あの女を抱きたくて、抱きたくて、堪らないくせに!!」

頭の中で、自分の・・・人狼の人と獣が終わらない争いを続ける。
人狼は結局、まんじりともしないまま朝を迎えた。

それから、人狼は少しずつ花嫁を避けるようになった。
元々口数の少ない人狼は益々無口になり、
花嫁が触れようとすれば、さりげなくかわす。

彼女が悲しそうに唇をきゅっと結ぶ姿には心が痛んだが、
自分の理性を保つ方が先だった。

そして、昼の寂しさを紛らわすかのように反比例して、
夜、花嫁が自分に触れる時間は長引いていく。

触れるだけだった口づけは、啄ばむようなそれに変わり、
花嫁は口づけをひとしきり終えた後、眠りに着く。
人狼はその度に目が覚め、一睡も出来ない夜が続いた。

一週間も経つ頃には、人狼の毛並みは以前のような艶が消えうせ、
澄んだ琥珀の様な瞳は、疲労に濁るようになっていた。

「大丈夫・・・?」

心配した花嫁は、人狼に寄り添う。
花嫁の芳しい香りが、人狼の鼻を撫ぜる。
人間より優れた人狼の嗅覚では、雌の匂いは大層強烈だ。
抱きたくて堪らない女の匂いなら、尚更である。
花嫁は手の平や甲を、人狼の額や首元に押し当てて体温を計ろうとするが、
人とは違う、赤みがかった灰色の毛に覆われた肌は、よくわからない。
人狼は本人の無自覚な愛撫に我慢できず、声を上げた。

「もう止めてくれ・・・!」

口にした後、自分が思っていたよりも刺々しい声色だった事に気づく。
花嫁は、固まって人狼を見つめていた。
「すまない、ここ最近眠れなくて。少し休みたいんだ・・・」
見え透いた嘘だ、と自分でも思う。
「・・・じゃあ、お布団を。」
耐えきれないように、寝室へ駆けようとする花嫁を人狼は手で制した。
「悪いが、自分で敷く。暫く寝床も別にしてもらえないか・・・」
花嫁の顔から、瞬く間にに血の気が引いた。
「どうして?」
「・・・・・・すまん。」
長い沈黙が降りた後、絞り出すような声で花嫁が呟く。
「・・・て。」
「・・・?」
「・・・抱いて。」
人狼は、脳天をかち割られたような衝撃を受けた。


何故彼女がそんなことを口走ったのか、自分の提言をもう一度反芻する。
・・・ああ。そうか。花嫁は身体を許さなかったばかりに
嫌われたと思っているのだろう。
そして、何とか自分を繋ぎとめようと、あの言葉を洩らしたのだ。
花嫁は泣き声混じりに繰り返す。
「もう抱いていいから・・・お願いだから・・・嫌いにならないで。」

人狼の中の人が叫んだ。
「・・・違う、違う、違う。違うんだ。
 こんな・・・こんな形で、彼女の言葉を聞きたかったんじゃない。
 これでは、まるで彼女の好意を逆手に取った脅迫だ。」
誤解を解こうと、口を開きかけると
花嫁が自分に抱きついてきた。
あの初夜の時のように、彼女の身体は震えている。

抱きついた時に乱れた衣の隙間から、
彼女の滑らかな白い肌が目に入った。
夏の衣は生地が薄く、花嫁のしなやかな身体と
柔らかい胸の感触が、人狼に伝わり、気が狂いそうだった。
「抱いていいから、嫌いにならないで・・・お願い。」
みるみる内に、自分の下腹部が屹立し、花嫁のくびれた腹に当たるのがわかる。

その刹那、獣が囁いた。
『良かったな。やっとお許しの言葉が出たぞ。
 これで、この女を抱けるんだ。』

人狼は、獲物に襲い掛かるように花嫁を床の上に押し倒すと、
悲鳴を上げる隙も与えず、噛みつくように口づけを交わした。
脱がすのもまどろっこしいと言わんばかりに、
その手の先にある鉤爪で衣と下着を裂き、剥いでしまう。
露わになった乳白色の肌は瑞々しく、
つんと上を向いた双丘の先端は、淡い薄紅色をしていた。
抑えてきた色欲が一気に燃え上がる。

口から頬、頬から耳、耳から首、首から肩、肩から胸・・・

激しく、食むように愛撫するその姿は、
まるで飢えた人狼が、花嫁を捕食しているようだった。
柔らかい舌が肌を撫で、硬い牙がくすぐるように肌を引っ掻く。

「あっ、・・・やっ、だ、だめ・・・」

花嫁が初めての肉感に非難を訴えるが、人狼には届かない。
これが、あの寡黙で、不器用で、優しい、人狼なのだろうか・・・

胸から臍、臍から腿へ来ると・・・
人狼は、雌の香りを嗅ぎ当て、十分に潤ったそこを執拗に舐め上げる。
「やっ、あっ・・・」
敏感な部分を、人狼特有の薄く柔らかい舌に嬲られ、毛皮にくすぐられ・・・
花嫁は体験したことない何処かへ押し上げられていくのを感じた。
「あんっ、あっ、はあっ・・・」
快楽の波を受け止められずに、蹂躙され、
息が止まり、肩が強張り、がくがくと身体が震える。
「きゃあっ、ひゃっ・・・ああああああっ!」
花嫁は何とか気を失うまいと目をきつく閉じ、必死に耐えた。
快楽の波が引き、ぜえぜえと喘ぎながら、目を開けると、
人狼が屹立した雄を、男を未だ知らぬ場所へあてがうところだった。
「ま、待って・・・待って!あの・・・ちょっとまだ・・・」
人狼は聞こえていないのか、それとも敢えて聞こえていない振りをしているのか。
花嫁の言葉を余所に、猛りきったそれを挿入してきた。
「あああっ!!いっ・・・痛いっ!!」
潤っているとは言え、人間より一回りも身体の大きい人狼のものを
処女の中に収めるのは、容易ではなく、花嫁の眦には先ほどとは別の涙が浮かぶ。

きゅうきゅうと締め付ける、若さ故まだまだ固くきつい肉の間を
押し分ける人狼のこめかみには、じっとりと汗が浮かんでいた。

最奥まで到達し、人狼の動きが止まる。痛みが少し収まり、
花嫁は息を整えようとしたが、目の前の獣は爪を喰いこませながら、
花嫁の細い腰を掴むとお構いなく乱暴に動き始める。
花嫁もか弱い力で、人狼の毛皮にしがみつき、
長い間痛みの拷問に耐えていたが、いつしか
それに快感が入り混じるようになっていた。

「んっ、んうっ、ああっ、いっ・・・ひゃんっ!あん!」

花嫁の悲鳴が段々と嬌声へと変わるのと同時に、
湿りが潤滑油となり、人狼の抽送が激しくなっていく。
締め付けるような享楽だけでは足らんとばかりに、
白い乳房を血が滲まんばかりに掴み、揉みしだき、
人狼は花嫁の首元や頬へ口づけを再開した。
花嫁の上気した肌が更に自分の情欲を駆り立てる。

「あんっ、あっ、あっ、あっ・・・あああああああっ!!」

激しい穿ちと愛撫に負け、花嫁は二度目の絶頂に達した。
そして、人狼もやっと腰の動きを止め、深くため息をつく。
終わった、やっと・・・花嫁は消え入りそうな
意識の中で安堵に胸を撫で下ろした。

だが、それは彼女の浅はかな早合点だった。
人狼はまだ一度も達してはいない。
抱えられていた身体の向きが変えられ、
人狼に背中と尻を向け、四つん這いの形になる。
花嫁は人狼と繋がった部分に違和感を感じ、
濁りかけた意識が冷や水を掛けられたかのようになった。
人狼の根元の部分が段々太く・・・否、太くという言葉では生易しい。
彼女の中ではち切れんばかりに膨らんできているのだ。

雄犬というものは根元を膨ませ、こぼれないようにした状態で
長時間雌犬に精を注ぎ、孕ませる。
嫌な予感は当たり、人狼は、人間ではあり得ない量の精を
花嫁の中に吐き出し始めた。
幾度も幾度も弾けるように精を吐き出される度、
花嫁は快感の頂に押し上げられる。その最後の拷問めいた
快楽は半刻にも及び、人狼によって、身体の中も頭の中も、
真っ白に染め上げられた花嫁は、やがて意識を手放した。

薄暗い部屋の中で、人狼は変わり果てた姿の花嫁を見つめていた。
艶やかな黒髪は床の上に乱れ、菖蒲の模様をあしらった衣は無残に破れ、
陶器のような肌には所々に、噛みつかれたり掴まれたりした跡が赤く残る。
太ももには純潔が奪われたことを表す破瓜の血と、
その奪った主が誰かを表す白い精がべったりとついていた。
血と精が混じって桃色になっており、
悩ましげな寝息と合わさって淫靡な雰囲気を醸し出していた。
恐ろしく、独りよがりで、官能的で、絶望に満ちたまぐわいだった。

「こんなつもりじゃなかった。」

『でも、気持ち良かったのだろう?』

「いつか、彼女が本当に自分に心を開き切ってくれたその時に。」

『気持ちが良くて、止められなかったのだろう?』

「痛くないように。
 怖くないように。
 儚く脆い花を大切に抱えるように。
 優しく抱くつもりだったのに。」

『今更、何を述べたところで言い訳だ。』

花嫁をそっと抱き上げ、適当に見つくろった竜胆色の寝巻を
着せると、押入れから寝具を出し、その上に彼女を横たえた。

人狼は声を押し殺して、泣いた。種族や禍の事など関係無い。
ただ、自分の肉欲に負け、共に愛を育もうと誓った女性を
裏切ってしまった事実が辛かった。

自分は、ただの獣だ。もう、彼女と一緒にいない方が良いかもしれない。
彼女の気持ちを、婚礼からひと月の間でさえ待ち切れなかったのだ。
いずれ、自分は獣を抑えきれず、再び狂ったように彼女を抱くだろう。

静かに零していた涙が、彼女の頬に落ち、花嫁が目を開ける。
じっと人狼を見て、彼女は尋ねる。

「泣いているの・・・?」
「すまない・・・」

人狼をじっと見つめ、花嫁は呟いた。
「・・・ごめんね。」

人狼は問うた。
「何故、お前が謝るんだ。」

静かに、花嫁が答える。
「・・・だって、貴方がここまで苦しんでいるのに
 気が付かなかった。貴方は怖がる私を受け入れてくれたのに。
 私は貴方に甘えてるだけで、自分から勇気を出して、
 貴方を受け入れようとしなかったんだもの。」

人狼は絞り出すように言った。
「・・・全ての責は私が負う。
 嫌いになったのなら、別れてくれ。」

花嫁は頭を振った。
「私、貴方のことが好きよ。一言も相談出来ないくらい
 無口で不器用で、こんなになるまで一人で抱え込む優しい貴方が。」
花嫁は、起き上がると、そっと人狼に口づけた。
一瞬、人狼はまた自分がどうにかなってしまうのでは、と
びくりと肩を震わせたが、やがて花嫁に答えるように口づける。

先刻の燃え滾るような肉欲とは違う、
湧水のような静かな愛情が満ちて胸を締め付け、
人狼は正直に告げた。
「もう一度抱きたい。今度は優しくする。」
「うん・・・」
花嫁は、人狼の想いを受け止めると、その首に両腕を回した。
口づけは、啄ばみから、互いを絡め合わせるそれへと変わり、
同時に二人の影も再び絡み合う。

先刻の怯えていたのとは違う、人狼に身を任せ、安心しきった
甘い嬌声を耳にしながら、人狼は頭の中で独り言ちた。

抗えない獣も、周りの柵も、・・・どんなことも、
腕の中にいるこの花嫁と乗り越えていこう。と。


終わり

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