関連 → ヤンマとアカネ
859 ◆93FwBoL6s.様

 ただひたすらに、緩やかな時間だった。
 膝の上には真夜が座っているため、人間椅子と化したアーサーは真夜の頭越しに意味もなくテレビを見ていた。風呂上がりなので真夜の肌は全体的にほんのりと上気していて、艶やかな黒髪は整えられて背に流されていた。全身鎧の膝の上では尻が痛まないのだろうか、といつも思うが、当の真夜は平然とした顔で雑誌をめくっている。胸には真夜の背が預けられており、時折、長い黒髪の毛先が金色の装甲に触れてかすかな摩擦音を立てていた。CMばかりが騒がしいテレビを見ているふりをしつつ、アーサーは真夜の変化を一つも逃さぬように気を向けていた。というより、真夜が気になって他に気が向けられないのだ。この時ばかりは、聖剣エクスカリバーも手元にはない。

「真夜」

 アーサーが呟くと、真夜はティーンズ向けのファッション雑誌から顔を上げた。

「なあに?」
「明日も早いのだろう。眠らなくて良いのか」
「眠くないのよ」

 真夜はまた雑誌に目を戻し、ページをめくった。

「それとも何、私に早く寝てほしいの?」
「そういうわけではない。だが、いつぞやのように、寝過ごしてしまっては困ると思ってだな」
「あの時は、魔術師試験に必要な召喚獣を召喚するのに手間取っちゃったのよ。だから、魔力も体力も消費して疲れちゃったから寝過ごしたの」
「だが、真夜が寝過ごしたのはその時だけではないぞ。このような慢性的な夜更かしが原因ではないのか?」
「夜を楽しまない魔女なんて、魔女じゃないのよ」

 真夜はぱちんと指先を弾いて一塊の炎を作り出し、すぐに吹き消した。

「それに、ちょっとは私の気持ちも考えなさいよね」

 雑誌を閉じてテーブルに放り投げた真夜は、アーサーに体重を掛けて寄り掛かり、上目に見上げてきた。

「そうだな」

 アーサーは少し笑い、金色の指先で真夜の頬をなぞった。

「我が聖女よ」
「もう、その呼び方はやめてって言ったでしょ」

 真夜は気恥ずかしげに眉を下げたが、本気で嫌がっているわけではなかった。

「今宵もまた、その麗しき肌に触れさせておくれ」

 アーサーは真夜の首筋にマスクを当て、口付けを落とすかのように押し付けると、真夜は僅かに声を漏らした。少し目線を上げると、真下にはパジャマの襟元から覗く胸元が見え、真夜の早めの呼吸に合わせて上下していた。その襟元に右手を差し込み、魔法金属製の手で片方の乳房を握ると、真夜は顔を背けてアーサーの腕を握り締めた。

「ん…」
「最後に君を慰めたのは、五日も前のことであったか」

 アーサーは手のひらに少し余る大きさの乳房を優しく掴みながら囁くと、真夜は頬を染めた。
「べ、別に溜まってるってわけじゃなくて…。眠りたくなかったのも、ただ、アーサーと一緒にいたかったからで…」
「それにしては、抗わぬな」
「だ、だって、嫌じゃないし…」

 真夜は次第に言葉を上擦らせ、アーサーの上腕に額を当てた。

「あぁ、うぁ…。ちょっと、それは…」
「強すぎたかね」
「ううん、違う、そうじゃなくて」

 真夜が首を横に振ると、アーサーはパジャマの上から真夜の陰部をなぞった。

「では、もう良いということか?」
「んぁっ!」

 予期せぬ刺激に真夜が驚くと、アーサーは左手の人差し指で布越しに真夜の裂け目を抉った。

「答えずとも良い、我が聖女よ。私自身で確かめてくれるとも」
「あ、やぁん、アーサーぁ…」

 真夜はアーサーに縋り、太股を閉じかけたが、アーサーの左腕によって遮られた。

「して、今宵はどちらを望む? 我が指か、それとも我が剣か?」
「う、えっと…」

 真夜は答えられず、唇を結んだ。どちらにすべきか大分迷っているらしく、真夜は声を殺しながら俯いた。その様が愛らしく、アーサーはパジャマのズボンを下ろさせて下半身を下着一枚にさせると、クロッチをずらした。控えめながら確かな水音が聞こえたので、アーサーは躊躇いもなく中指を没し、体温よりも高い胎内を混ぜた。

「くぁあ、あ、あ、あ」

 真夜は強張らせていた太股を緩め、アーサーの首に手を回してきた。

「あっちのは、アーサーも気持ちいいの? 私だけじゃなくて?」
「無論だとも。我が剣は生身にはあらずとも、真夜の全てを感じ取ることが出来る」
「じゃ、また作ってあげる」

 真夜はアーサーのマスクにキスしてから、上と下を責めていた両手を外させ、アーサーの足元に膝立ちになった。真夜はアーサーの股間付近に落ちた自身の体液を見、赤面したが、髪を掻き上げてから股間に顔を埋めてきた。最初にキスをし、次に魔法を成すための呪文を紡いでから、真夜は股間部に魔力を注ぐために舌を這わせ始めた。施術対象への魔力の充填は手でも良いのだが、雰囲気が出るので、アーサーも真夜もこちらの方が好きだった。
 初めてアーサーが剣を得た時はどちらも興味本位で、その時は真夜も体を交えることに不慣れで痛いだけだった。体の下に組み敷いた真夜は、甘い声どころか悲鳴にも似た声を上げ、脂汗を滲ませていて、哀れでならなかった。魔法の産物とはいえ、自分自身の男根で真夜を貫けたことは嬉しかったが、それ以上に罪悪感に駆られてしまった。だから、その後は今まで以上に時間を掛けて真夜をとろかせ、アーサーを楽に受け入れられるように慣らしてやった。おかげで、今では苦もなく繋がることが出来る。金属製で簡単には萎れないので、長く頑張れるからというのもあるが。

「これで良いかな」

 真夜は唾液に濡れた口元を拭ってから、アーサーの股間から屹立した金色の男根を撫でた。
「これ、本当の大きさよね? 理想の大きさってわけじゃないわよね?」
「私は聖騎士だ。そのような稚拙な嘘を」
「はいはい、解りました。それじゃ、行くわね」

 真夜は立ち上がると、汗と体液が染みたショーツを脱ぎ捨て、アーサーの上に跨った。

「くぅ、あっ、はあああっ」

 一息で根本まで飲み込んだ真夜は、アーサーのヘルムに唇を当てた。

「ね、私が動いていい?」
「好きにしたまえ。私は、君が満たされてくれればそれで良いのだから」
「プライド高いんだから」

 真夜はくすりと笑い、アーサーの両肩に手を添えると、ゆっくりと腰を上下させ始めた。

「そう、これぇっ…」

 悩ましげに眉根を顰めて唇の端を緩めた真夜は、一心にアーサーの男根と自身の柔らかく熱い性器を擦り合わせた。次第に分泌される愛液が増え、じゅぶじゅぶと艶めかしい異音が零れ出し、真夜の汗に混じった数滴が滴り落ちた。細身だが女性らしく肉が付いた体が揺れるたびにアーサーの関節もぎしぎしと軋んで、真夜の重みを感じさせてくれた。
 生前にこの鎧に包まれたまま絶命し、リビングメイルとして蘇ってからは、アーサーは魔剣に対する感覚以外は鈍った。視覚と聴覚は聖剣エクスカリバーの加護のおかげでかなり鋭敏だが、触覚と嗅覚が弱まり、感じられるものは少ない。だから、今、体の上でアーサーを貪っている真夜の濃厚な女の匂いや、その白い肌の柔らかさが上手く感じ取れない。けれど、疑似生殖器だけは、真夜の魔法によって感覚を補助されているのか真夜の体温やぬめりを強く感じ取っていた。おかげで、空虚な体の内から熱いものが迫り上がってくるが、出すものも出せる穴もないので消化不良気味ではあったが。

「あっ、ん、あぁっ!」

 真夜の喘ぎが高まり、疑似生殖器を締め付ける力が増しそうになったので、アーサーは彼女の腰を浮かせ、抜いた。

「え、あ、何するの…?」

 良いところで止められたので真夜が不満を示すと、アーサーは真夜を俯せに寝かせた。

「君が満たされる姿は実に美しい。だが、真夜、私は君を制したくもあるのだ」
「あん、いやぁっ」

 いきなり腰を高く持ち上げられ、真夜は恥じらったが、アーサーは白濁した愛液を滴らせる陰部を力強く貫いた。

「ああああああぁっ!?」

 中途半端だった快感が一気に押し寄せ、真夜は仰け反るほど喘いだ。

「君は私の聖女だ。だが、魔女には違いない」

 真夜の体重だけでは届かなかった最深部を責め立てながら、アーサーは真夜の背に覆い被さり、その顎を持ち上げた。

「死するその時まで神に心身を捧げていた私を穢し、このような堕落へと誘ったのだからな」
「アーサー、もうダメぇっ、止めないでぇえっ」
 ソファーの肘掛けに爪を立てながら真夜が首を振ると、アーサーは微笑んだ。

「無論だ」
「あ、ああ、ああああんっ!」

 絶叫と共に手足を突っ張った真夜は、声が弱ると同時に力を抜き、涙混じりの顔をクッションに埋めた。

「あ、はぁ…」
「真夜。一旦抜くか」

 アーサーが声を掛けると、真夜は体を起こし、快感のあまりに滲んだ涙を拭った。

「もうちょっと、このままがいい。でも、あんまり動かないでね」
「何故に」
「…知ってるくせに」

 真夜はアーサーと繋がったまま起き上がり、アーサーに寄り掛かった。

「私として、気持ちいい?」
「良くなければ、私は真夜に溺れぬ」

 アーサーは満足げに笑んだ真夜を抱き締め、内心で笑みを返した。精液は出ないが、それでも満たされるものはある。だが、出てほしいと思ってしまうことはある。しかしそれは、魔剣との戦いで国ごと滅びた一族の再興を願ってのことではない。あくまでも、一人の男として真夜を孕ませたい。愛する少女との間に自分の血を次ぐ者が生まれれば、どれほど幸せか。けれど、それは叶わぬ願いだ。アーサーは潤んだ瞳で見上げてきた真夜を引き寄せ、その薄い唇とマスクを重ね合わせた。唇を離すと、真夜は今し方までの乱れようからは懸け離れた恥じらいを見せ、パジャマの裾を引っ張って足を隠そうとした。その様がやたらと可愛らしく思えたアーサーは真夜を抱き締める腕に力を込めると、叶わぬが故に強い願いを振り払った。
 子は成せずとも、真夜さえいれば充分なのだから。



 いつものように、二人で友人達の元に向かった。
 時代の流れに取り残されたかのような古びたアパートを訪れ、二階の一室のアラームを鳴らすと、すぐさま返事があった。ドアを開けたのは、真夜のクラスメイトである茜だった。余程待ちかねていたらしく、ドアを開けた瞬間から明るい笑顔だった。茜の背後に見える居間では、茜の恋人であり同棲相手である昆虫人間、ヤンマが少々面倒臭そうに首を回して振り向いた。

「いらっしゃーい!」

 茜に元気よく出迎えられ、真夜は笑みを返しつつケーキ箱を差し出した。

「これ、お土産。ザッハトルテよ」
「おおー! さすがは真夜ちゃん、ヤンマの次に愛してるぅ!」

 茜は目を輝かせて喜び、受け取ったケーキ箱を手狭な台所に運んだ。

「大きいケーキだから、祐介兄ちゃんとほづみさんにもお裾分けしようかな。いいよね、真夜ちゃん?」
「もちろんよ。そのつもりで一番大きいのを買ってきたんだから」
 真夜はヤンマに小さく会釈して挨拶してから、ザッハトルテを切り分けるべく包丁を取り出した茜の傍に向かった。アーサーは玄関マットで入念に足の裏を拭ってから部屋に上がり、居間に入ると、ヤンマがぞんざいに上右足を上げた。

「おう」
「少しは歓迎してくれぬか、ヤンマ。そう浅い付き合いではないのだから」

 ヤンマの傍でアーサーが胡座を掻くと、ヤンマは触覚を曲げた。

「気が向いたらな。しかし、お前、風呂に入った方が良いぞ」
「何故に」

 アーサーが訝ると、ヤンマはアーサーの首根っこを掴んで引き寄せ、胸郭から小さな声を発した。

「女の匂いが凄ぇんだよ。お前さ、真夜と頑張るのはいいが、せめて匂いぐらいは落とせよ」
「無礼な! 私は抜かりなく…」
「ちょっと拭いただけじゃ、匂いまでは落ちねぇんだよ。人間の嗅覚じゃ解らないだろうが、俺みたいなのには丸解りなんだよ。おかげでやりづらくってどうしようもねぇ」

 眉を下げるかのように触覚を下げたヤンマに、アーサーは少し身を離した。

「そうだったのか…」
「アビーはちょいちょい風呂に入ってるみてぇだから感じないけどな。次からはちゃんとしろよ、聖騎士どの」

 ヤンマは複眼の端で、真夜と一緒にザッハトルテを切り分けている茜を捉え、ぎちりと顎を鳴らした。

「じゃねぇと、色々と困るんだよ」
「改善に努めよう」

 さすがに居たたまれなくなったアーサーが謝ると、当たり前だ馬鹿野郎、とヤンマが小声ながら痛烈に罵倒してきた。自分では気付かないどころか、気にも留めなかった。風呂に入れば鎧の体が錆びてしまう、とばかり思っていたからだ。それ以前に、生前はあまり風呂に入る習慣がなかった。疫病が蔓延した影響で、水に触れることが恐れられたせいだ。だが、これからは考えを改めよう。真夜のように毎日ではないにしても、二三日に一度は洗って埃も匂いも落とさねば。
 真夜は持参した紅茶の葉をブレンドし、湯を沸かす傍ら、茜と他愛もない話題がさも重要であるかのように会話していた。表情が多彩な茜はリアクションがやたらと良いので、傍目に見ていると真夜の話が余程面白いかのように見えてしまう。アーサーに見せる笑みとは違った笑みを見せる真夜を眺めていると、ヤンマも同じように茜を複眼の全てに映していた。揃って全く同じ行動を取っていることに気付いた二人は、顔を見合わせてしまったが、またすぐに己の思い人に向いた。
 今日もまた、楽しい休日になることだろう。

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